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年次改良で大きな進化。1年足らずで「CX-3」の完成度をさらに高めたマツダの狙い
静粛性やアクセルレスポンスの改善などについてCX-3開発主査の冨山氏に聞く
(2016/1/29 14:54)
2015年12月24日、マツダは静粛性やアクセルレスポンス、ステアリングフィールなどを向上させる年次改良を施したコンパクトSUV「CX-3」を発表した。
CX-3が初めて登場したのが2015年2月27日だから、わずか10カ月ほどで小規模とはいえリニューアルを遂げたことになる。マツダでは、その時点で提供が可能な最大限のアップデートを行なう年次改良を車種に限らず実施していくことを従来から表明しているが、それにしてもこのハイペースには舌を巻く。
年が明けて1月12日、同社は報道陣向けに従来型のCX-3と改良したCX-3を比較試乗できる場を設け、変更点や詳細な技術要素について解説した。ここではそのプレゼンの内容を交えつつ、CX-3の開発を担当した商品本部 CX-3開発主査である冨山道雄氏へのインタビューを通して、なぜこのタイミングでの年次改良となったのか、そこにマツダとしてどのような狙いがあるのか探ってみたい。
ユーザーからの「乗り心地」の指摘を即座に反映させた改良型CX-3
CX-3は2015年2月27日に発売されたコンパクトSUVだ。近年マツダがコンセプトとして掲げている、「魂動(こどう)-Soul of Motion」デザインをモチーフにした洗練されたデザインを持ち、高出力・低燃費・低環境負荷を実現するSKYACTIV-D技術採用のディーゼルエンジンを搭載。主にヤングファミリー層に向けたモデルとして高い人気を誇っている。
そのCX-3が12月24日に年次改良を行なって“対策車”として登場した。改良点は主に静粛性と操安性など乗り心地に関わる部分で、例えばディーゼルエンジン特有のノック音を低減する独自の技術「ナチュラル・サウンド・スムーザー」を6速MT車も含め全車標準装備とし、フロントドアガラスの厚みを3.5mmから4mmへと変更。さらに前後ダンパーの特性変更やパワーステアリングの制御変更、「DE精密過給制御」によるアクセルレスポンスの向上などがポイント。これらの変更により「人馬一体」感をさらに高めたと強調する。
また、白の本革内装のみをラインアップしていた最上位の「XD Touring L Package」グレードに、黒の本革内装を新たに追加している。変更点としては少なくないが、それでも車両本体価格は据え置き、エミッションランクや重量ランクについても従来通りとしている。
このような変更を、前倒しにも見える年次未満のタイミングで行なったのにはいくつかの理由がある。CX-3開発主査 冨山氏によれば、「常に最新の技術、考え方で、最新の状態にアップデートしていこう」といった昨今の同社の基本的なポリシーに加え、実際に購入したユーザーや、メディア、ジャーナリストらからの厳しい指摘も発売直後からあったためだ。
とりわけ多かったのが、乗り心地に関わる「リアの突き上げ」。同社は「リア下がり」によるネガティブさの解消を狙ってリアダンパーを調整していたが、さらなる乗り心地のよさを求めるユーザーにとっては裏目に出る格好となってしまった。改良項目における「前後ダンパー特性の変更」は、この声に応じて対策したものとなる。
具体的には、従来型がリアのダンパーに入力される衝撃をさほど吸収せずに受け止めていたところ、新型ではより吸収する形とし、合わせてフロント側では反対にやや吸収しない方向に調整した。これにより、従来型にあったBピラーを軸とした後ろから前へのピッチ挙動を抑え、代わりに全体的な上下動へと変化させることに成功。さらに、乗員の身体の各部で異なるとされる「不快な振動周波数」に着目して独自に解析し、ダンピング特性を最適化することで不快さの解消と長時間運転時の疲労の軽減も図った。
大きな空気量を確保し、緻密にコントロールする「DE精密過給制御」
CX-3ユーザーから寄せられていたもう1つの大きな声は「出足の鈍さ」だ。CX-3が搭載するSKYACTIV-D技術採用の1.5リッターディーゼル直噴ターボエンジンは、低回転域から270Nmという分厚いトルクを生み出す。しかし、それに反してドライバーの意識は「アクセルを踏んでいるのに、思ったほど加速感が得られない」というものだった。
同社では今回、この課題の解決を「DE精密過給制御」という新たな手法で試みた。DE精密過給制御は、プラットフォームを同じくし、しかもまったく同じ12月24日のタイミングで改良が発表されたデミオのSKYACTIV-D搭載車にも適用されているものだが、これは主にドライバーのアクセル操作の速さに着目した技術だ。踏み込みの度合いを検知して、ドライバーが素早く加速したいのか、ゆっくり加速したいのかを推測し、それに応じた空気量を確保して過給器に送り込むことで、結果的に適量の燃料が噴射されるようにする。パワートレイン開発本部の三藤氏いわく、「大きく加速しようとすればトルクが出て、ますますターボが回転して空気が入る。そういう好循環を起こすもの」だという。
同氏は、「これまでは(アクセルを踏んでいる)時間に対してリニアリティを上げることはやっていたが、アクセル操作(の程度)に対してリニアリティを持たせるところには目が行っていなかった。今回はそこまで領域を広げた」と話す。さらに、アクセル全閉から再びアクセルが踏み込まれた瞬間に発生する“チップインショック”についても、「目標トルクになましをつけ、そのなまし量と燃料噴射のタイミングを再チューニングする」ことで防止し、アクセルレスポンスを「より理想に近づけることができた」と胸を張る。
ディーゼル特有のノック音を軽減するナチュラル・サウンド・スムーザーが、MT車も含め全車標準装備になったことも大きな変更点と言えるだろう。従来型はXD TouringとXD Touring L PackageのAT車に用意される減速エネルギー回生システムである「i-ELOOP」とのセットオプションになっていたが、今回から分離され、i-ELOOPは単独オプションに、ナチュラル・サウンド・スムーザーのみ標準装備となっている。
なぜナチュラル・サウンド・スムーザーがMT車にも適用されることになったのか。これは可能になったというより、MT車ではさほど必要とされなかったためだ。「MTにもナチュラル・サウンド・スムーザーは元から適用できた。ただ、エンジン回転数が2000rpmまで上がって、落ちて、また上がって、というところがノック音の出やすい部分。そこはAT車が使いがちな部分で、MT車はその回転数より上でシフトをつなぐことが多い」(冨山氏)。つまり、装備しても効果は限定的になると判断していたため導入が見送られていたわけだが、「高価格帯のコンパクトSUVに見合う品質の底上げのため全車標準装備にした」という。
年次改良は「次のジェネレーション」を考慮した取り組み
こうしたさまざまな変更により、CX-3の乗り味は明らかに変わった。詳しくは交通コメンテーターであり自動車ジャーナリストである西村直人氏のリポートをお読みいただきたいが、改良後のCX-3を2015年末に購入し、今回、従来型をディーラーでの試乗以来初めて運転した筆者も、エンジンの静粛性の向上、高速域での風切り音の低下、加速時のトルク感、安心感のある操安性など、どれも大きく進化していると感じた。個人的には、従来型の軽快感のあるエンジンサウンドと、市街地走行に多く必要とされるであろう抑え気味の滑らかな加速特性も捨てがたいと思ったが、しかし実際に購入するとなれば、やはり改良型を選ぶに違いないと改めて思う。
それほどまでに大きく進化したとなれば、気になるのはこの1年の間に購入した従来型ユーザーへのエクスキューズをどのように考えているかだ。冨山氏は、従来型について「あの当時できる最善のクルマを提供したと今でも思っている」とし、当然ながらそのユーザーに対して改良型への買い替えを促すものではないと語る。「しかし、その中で改良すべき点があるとご指摘いただいたので、現在可能な範囲で即座に対応した。(数年後も同じように)CX-3はどんどん進化するということをご理解いただき、次の購入機会の検討材料にしてほしい」と同氏。
同社にとっては、全車種で技術を水平展開し、年次改良で常に最新の状態を保つことにより、ラインアップ間の不均衡や陳腐化を避けるという狙いもある。ただ、ここまで改良を急いでいるのにはもう1つ理由がある。それは次世代モデルとのバランスだ。「次のジェネレーションの開発が進んでいて、そこの目標と今の世代との差が非常に大きいので、(改良しないと)一緒に並んだ時にものすごく古いものに感じられてしまう。ショールームで1世代後の車種と並んでも遜色ないようなものにしなければならない」(冨山氏)。
したがって、CX-3は今後も宣言どおり年次改良が施されていくことになる。現在のところ、2016年と2017年のアップデートが計画されており、「少なくとも安全運転支援技術のi-ACTIVESENSEはずっと進化していく。これから上級車種に入っていく技術を、CX-3にもクラス概念の区別なく入れていき、安全性を高めるのは既定路線」と述べ、しかしその一方で、すでに評価も完成度も高いエクステリアデザインについては「十分な商品力があるので、ほとんど変えることはない」としている。
さらに、挙動の面でユーザーから不安の声も上がっている「マツダコネクト」についても継続的にバージョンアップしていく計画だ。「初のチャレンジでやってきて数年経ったが、まだまだ我々として手の届かないところがあると認識している。いろいろなご指摘を精査し、バージョンアップを続けて完成度を高める。バグ的なところは早急に直して、安心してお使いいただけるよう改良していきたい」と力を込める。
「人馬一体」に見られる走りへのこだわりと、それを可能にする技術開発を続けてきた同社。冨山氏が最後に口にした「マツダは既存ユーザーや新しいユーザーとの深いつながりの中で進化していく会社だと考えている」との言葉にあるように、改善やサポートにつなげるためのユーザーとの積極的なコミュニケーションも重視していることが伝わってきた。CX-3に限らず、マツダの今後の年次改良や「次のジェネレーション」のクルマについても期待が高まる。