インプレッション

マツダ「CX-3(2015年12月改良モデル)」

“大幅改良”と“商品改良”の違い

 発売から約1年で“商品改良”が行なわれた「CX-3」。思わず「新車効果1年持たずか……」と嘆いてしまいそうだが、それはまったくのお門違い。

 マツダはCX-3を市場に導入した直後からユーザーを筆頭に各方面から車両に対する評価の声を吸い上げてきた。今回の商品改良は、可能な限り早いタイミングで改良し、商品力を高めていこうとする前向きなアクションだ。こうした取り組みは2014年12月に“大幅改良”(プレスリリース原文)を行なった「アテンザ」と「CX-5」からスタートした。まともに考えたら開発コストがその都度掛かるわけで無駄がありそうだが、そこはマツダ。「一括企画・コモンアーキテクチャー構想・フレキシブル生産構想」という盤石なプランのもと、商品改良や大幅改良が行なわれているのだ。

 この「一括企画〜」、簡単に説明するとマツダの新世代商品群と呼ばれるCX-5/アテンザ/アクセラ/デミオ/CX-3/ロードスターの6車種について、「商品導入時期や改良時期」と「テクノロジーの進化」を軸に設計構想や生産にいたる過程を共通化するというもの。これにより、市場の声に対して敏感に対応することが可能になるという。つまり、改良という形でユーザーに還元されるというわけ。もちろん、設計段階では共通化を前提とした相似設計が主体となっているので無駄はなく、結果コスト的にも有利な状況に。ちなみに、大幅な商品力向上と原価低減を同時に達成することを目的とした、トヨタ自動車の「TNGA(Toyota New Global Architecture)」も同じ理論。もっとも、TNGAはレクサス(トヨタ自動車)まで含めた開発であり規模は比べものにならないほど大きいが……。

 とはいえ、そうなると気になるのが“大幅改良”と“商品改良”の違いだろう。これは単なる言葉遊びではなく、明確な線引きがあると筆者は考えている。分かりやすいところでは、外観から内装、そして駆動系(足まわりや電動パーキングブレーキの採用など)に至るまでの大きな変更があったアテンザとCX-5は“大幅改良”。対して、CX-3はご覧の通り外観はまったく変更がなく、内装についてもブラックの本革インテリア仕様である「黒革内装仕様」の追加に留まるため“商品改良”という具合だ。

2015年2月に発売されたばかりの「CX-3」だが、2015年12月に早くも商品改良を実施。エンジンのトルク応答を緻密にコントロールする「DE精密過給制御」の採用をはじめ、これまで6速AT車に搭載していたディーゼルエンジンのノック音を抑制する「ナチュラル・サウンド・スムーザー」の全車標準装備、サスペンションセッティングの変更、ガラス板厚アップによる静粛性の向上などが行なわれた。撮影したXD Touring L Package(4WD/6速MT)のボディサイズは4275×1765×1550mm、ホイールベース2570mm。価格は302万4000円

 しかし、2015年のフランクフルトショーでは新型クロスオーバーのコンセプトモデル「越 KOERU」を、そして東京モーターショーではスポーツコンセプトモデルで新世代ロータリーエンジン搭載を前提とした「RX-VISION」のお披露目と、立て続けにユーザーの心をつかんできたマツダ。グローバル市場で販売されているCX-3ならではの秘策があるはずだ。

 試乗に先立って、CX-3の開発主査である冨山道雄氏から商品改良の概要説明が行なわれた。そこでは、@「静粛性の向上」を目的に、「ナチュラル・サウンド・スムーザー」が全車標準装備になったこと。フロントドアガラスを従来の3.5mmから4.0mmへと厚くなったこと。A「人馬一体感の向上」を目的に、前後ダンパーの内部構造と前スタビライザーの径を若干細くしたこと。EPS(Electric Power Steering/電動パワーステアリング)の特性を変更したこと。「DE精密過給制御」を採用したこと。B「ユーザーの選択肢増加」を目的に、黒革内装が追加されたことが告げられた。いずれもCX-3の魅力を増すには十分なものだが、上質な走りと人馬一体の両立を謳うマツダだけに、@とAの変更には大いに興味を抱かせる。

 今回試乗したのは「XD Touring L Package」の6速MTモデル。それに比較用として商品改良前の同グレード/同ミッションモデルも試乗に同行。また、通常開催される郊外での試乗会とは違い、神奈川県横浜市の都市部で開催されたため、ディーゼルエンジンが得意とする長距離走行でのフィーリングは試すことはできなかったが、その分、市街地での日常的な発進加速フィールや、加減速が繰り返される交通量の多い都市高速では新旧モデルの違いをはっきりと感じ取ることができた。ありがたいことに、筆者はこれまでCX-3の試乗機会に恵まれ、高速道路での長距離テスト/都市部での燃費テスト/ライバルとの比較取材のほか、北海道でのロングランなど複数のシチュエーションでステアリングを握ってきた。その感覚をもとに、まずは新CX-3に乗り込み走り出した。

今回の商品改良で、最上級グレードであるXD Touring L Packageにかねてから要望の高かった黒革内装仕様を追加。新CX-3発売以降のグレード別販売比率は「XD」が11%(従来は16%)、「XD Touring」が54%(同64%)、「XD Touring L Package」が35%(同20%)となっており、そのうち黒革内装仕様を選択するユーザーは76%に上るという。そのほかにも、車内の快適性を高めるためフロントドアガラスの板厚アップを行なっている

「ナチュラル・サウンド・スムーザー」「DE精密過給制御」採用のメリット

 エンジンをスタートさせ、1速でクラッチミートさせた瞬間から大きな違いを実感。これこそ前述した@のハイライトでもあるナチュラル・サウンド・スムーザーの効果だ。旧CX-3の6速ATモデルに搭載されていたナチュラル・サウンド・スムーザーだが、今回から6速MTモデルにも装着が可能となり全車標準装備となったのは前述の通り。では、その機能について簡単におさらいしたい。

 ナチュラル・サウンド・スムーザーは、いわゆるエンジン音量全体を下げるものではない。“ガラガラ”と表現されることの多いディーゼルノック音(燃焼音)のうち、その最大ノイズである3500Hz付近の音を消す(硬質の“ガラガラ”といった音質でこれを最大10dB低下させる)のが狙いだ。音の発生源を追求していくと、ピストンとコンロッドが上下に伸縮運動する際に発生する振動音であることが分かったため、対策として通常は空洞のピストンピン内部にナチュラル・サウンド・スムーザーと呼ばれるバネの役割を持たせた「部品」を挿入し、振動音を吸収したのだ。これはダイナミックダンパー効果とも呼ばれ、停止状態からゆっくりアクセルを踏み込んだ時(故に渋滞中にも体感できる)や、走行中に同じくゆっくりアクセルを踏む込むといった一般的に遭遇することが多いシチュエーションで、もっとも大きく消音効果が現れる。

 ちなみに燃焼音であることから、この3500Hz付近の音はアクセルをジワッと踏んだ時だけでなく、ジワッと戻した際にも現れるが、車内にいると踏む/戻すの両方で硬質な3500Hz付近の音が変化して、角の丸くなったノック音として優しく耳に届くようになる。さらにフロントドアガラスを厚くしたことでエンジン音だけでなく、旧CX-3で課題とされていたドアミラー付近からの風切り音も軽減されたことが確認できた。

CX-3が搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ディーゼルターボ「SKYACTIV-D 1.5」。最高出力は77kW(105PS)/4000rpm、最大トルクは270Nm(27.5kgm)/1600-2500rpm。新たにナチュラル・サウンド・スムーザーを全車に標準装備するとともに、エンジンのトルク応答を緻密にコントロールする「DE精密過給制御」を新採用。試乗車のXD Touring L Package(2WD/6速MT)のJC08モード燃費は23.4km/L

 AのEPSの変更。こちらも大きな効果があった。マツダは冒頭の6車種の開発にあたり、商品性向上のため「意味的価値」という新しい概念を走りで表現することにこだわっている。そして、その具体的な手法として人馬一体感を強調する自然な”ため”と、アクセル操作に対する“構え”の2アクションでの表現を試みた。

 “ため”とは、クルマの挙動をより滑らかにするための前準備と言い換えることができる。たとえば、カーブに差し掛かる前に減速すると車体には前のめりになる力が発生し、その後のステアリング操作によって遠心力とともに横方向へ引っ張られる。つまり、前のめり力が横方向への力へと変化するわけだ。“ため”とは、この力(加速度)のつながりをシームレスにするために計算された“間”である。マツダではこれを「スタンバイ状態」と表現しているが、こうした“ため”の作り込みによって、カーブでの修正舵(ステアリングを戻すこと)を必要としない一体感あるハンドリングが実現している。

 新CX-3のEPS特性を端的に表現すれば、この“ため”領域が時間軸にして長くなったといえる。もっとも、長くなったといっても時間にすればコンマ1秒以下の世界。鈍感になったわけでは決してない。「ステアリングをジワッと切り込みたいなぁ」とドライバーが思い曲がりたい先に視線を送ると、無意識のうちに僅かな力が掌を通じてステアリングに伝わるが、新CX-3では旧CX-3よりもわずかな時間だけ“ため”を増やし、ドライバーに加速度の変化を意識させている。そして、掌の力が徐々に強まるに従ってスムーズにボディが反応する量を増やし、コンパクトSUVにふさわしい人馬一体感を手に入れたのだ。

CX-3ユーザーの評価を調査したところ、「後席の突き上げ感がある」との改善要求の声が多かったことから、新たに後ダンパーの減衰特性の変更を実施。そのうえで前ダンパーの特性変更および前スタビライザーの小径化を実施して乗り心地を改善。足下には切削加工を施した18インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:215/50 R18)

 次に前後ダンパーや前スタビライザーの変更だが、主たる目的は市場から改善要求の声が多かった後席での突き上げ感の軽減。そのため、まず後ダンパーの減衰特性を微速域から積極的に動いて衝撃を吸収する方向に変更し、それに合わせて前ダンパーの特性を変更しつつ、より自然なロール量となるように前スタビライザーを小径化した。筆者には、この変更によって荒れた路面でのピッチング(ボディが前後方向に揺れること)が旧CX-3よりも抑制されたため、前述の“ため”にもよい結果をもたらしていると感じられた。

 一方の“構え”とは、ドライバーが身構えることに着眼した手法。ドライバーの期待(予想)する加速度に対して、身体が応答する時間のズレを常に考慮することで、どんなアクセル操作に対しても思い通りであると感じられるよう加速フィールに演出を施している。一般的にドライバーは、踏み込んだアクセル量に対する加速の強さ、つまり速度の変化量を予測しながら頭部を支える首筋に緊張感を与え、身体が反り返らないよう無意識に身構えている。その身構えにかかる時間はわずか0.2〜0.3秒。興味深いのは、ゆっくり/素早く、どちらのアクセル操作に対しても、ドライバーには同じ時間が構えとして必要になる。

「DE精密過給制御」はこの“構え”に対しても効果的な存在だ。燃料噴射量/EGR量/空気量/タービン過給圧の4項目を再度見直したことで、アクセルを踏み込んだ際の“構え”がどんな速度域でも一定となり、さらにその先の加速度の変化量(加速度を微分した数値)もアクセル操作量にリンクするようになった。

 実のところ、旧CX-3が搭載するSKYACTIV-D 1.5の唯一にして最大の弱点であると筆者が捉えていたのが、この加速度の変化だった。ちょっと強めの加速度を望んでいる際、それをイメージしてアクセル操作を行なうと、ほぼそれにリンクして反応は始まるのだが、旧CX-3では踏み込みから約1秒を経過したあたりまでもっさりした加速度しか生み出すことができず、その後の変化量も穏やかなまま。速度にして20km/hを過ぎたあたりの出来事だ。よって、ドライバーはさらにアクセルを踏み込むのだが、今度はイメージした以上に加速度が立ち上がってしまう印象で、加速度の変化量が極端な二次曲線、いわゆる段付加速となるため意図した加速度の変化量に落ち着かせるために、わざわざアクセルを戻すといった操作が必要だった。

 新CX-3ではDE精密過給制御によって段付加速が完全に解消されたほか、先のナチュラル・サウンド・スムーザーとの相乗効果もあって、「静かでイメージ通りのトルクフルな走り」を堪能できる運転環境が整った。ちなみにこのDE精密過給制御は、同時期に商品改良を行なった「デミオ」のSKYACTIV-D 1.5搭載車にも採用(ナチュラル・サウンド・スムーザーは一部のグレードに採用)された。

 今回の商品改良は、動的性能の進化だけでなく、運転環境の改善によって意味的価値までも向上させることに成功した。また、ここまでの進化を目の当たりにして、近い将来実施されるであろうND型ロードスターの商品改良にも期待が持てると確信。正直、ND型ロードスターオーナーの1人としては複雑な心境だが、新たなるロードスターファンの獲得に向けた策として大いに歓迎したい!

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:安田 剛