インプレッション
マツダ「デミオ」(2015年12月改良モデル)
Text by 真鍋裕行(2016/2/16 00:00)
ショールームコンディションとは?
2012年2月に発売した「CX-5」からスタートしたマツダの快進撃。CX-5以降に発売された現行ラインアップの6台は“新世代商品群”と呼ばれ、マツダが提唱するデザインテーマ「魂動(こどう)」や、革新的な技術となる「SKYACTIV TECHNOLOGY」が導入されている。
これらのブランドを磨き上げるテーマや技術のほかに、マツダが大切にしていることの1つが「ショールームコンディション」になる。これはショールームに並ぶモデルが常に新鮮で目新しいモノでないといけないというもので、セレクトショップで例えるならば、セール品は一切置かずに新着アイテムだけを常に取りそろえているという状態を指す。シーズンごとに商品が入れ替わる洋服ならば新着を常に取りそろえることはできるが、1モデルの販売期間が長い自動車で難しいことは想像に容易い。だが、今のマツダでは新しい技術やデザインが完成したら常にラインアップ車種に横展開を行ない、フレッシュさを維持することになっている。それが、毎年行なわれている商品改良で実現されるというわけだ。
「デミオ」のプラットフォームや同様のディーゼルエンジンを搭載し、2015年2月に販売が始まった「CX-3」では、1年も経たずにエンジン制御が見直され、ショックアブソーバーも改良。加えて静粛性を向上させた。発売から僅かな期間での改良については賛否両論があり、購入後すぐに自分のクルマがアップデートされることについて快く思わないオーナーもいることだろう。ただ、ショールームコンディションを常に新鮮にすることは今後も実践していくようで、よい技術が生まれれば他車種にも展開される。
ショールームコンディションを保つ方法の1つとして、デミオで実施されているのが特別仕様車「Style Collection(スタイルコレクション)」の設定が挙げられる。マツダのエントリーモデルとなるデミオは、他のラインアップよりも多様性が求められ、幅広い年齢層のオーナーに向けて販売している。コンパクトカーとしては異例の高級感のあるレザー内装やディーゼルエンジンのSKYACTIV-Dを搭載することで、ライバル車種よりも多くの層から支持されているが、さらに幅を広げていく施策でもある。
2015年4月にはStyle Collectionの第1弾として「Mid Century」と「Urban Stylish Mode」の2台が導入された。赤内装が斬新なMid Centuryとスタイリッシュなカラーリングが特徴のUrban Stylish Modeは、新たなファン層を獲得することに成功した。
そして2016年1月に発売されたのが、ベースモデルの商品改良と特別仕様車「ブラック レザー リミテッド」の追加になる。ブラック レザー リミテッドはStyle Collectionの3モデル目で、これまでのラインアップになかった落ち着いたブラック内装を用いた。
商品改良前にも、Lパッケージと呼ばれるグレードにはホワイトレザーを使用したモデルが用意されていたが、新たに追加されたブラック レザー リミテッドは、高級感の王道となる黒革で仕立てられている。ターゲットとなるのは輸入車からの乗り替えやダウンサイジングを求めるユーザーで、コンパクトカーでも上質感が欲しいという要望に応える仕様となる。
デミオのチーフデザイナーを務める柳沢亮氏は、「服や靴、カバンなどは自分なりの好みやスタイルがあるはずです。クルマも同様で、1人ひとりに合ったデザインやスタイルを求めていると思います。オーナーの自分らしいクルマを選びたいという希望にマッチしたのがStyle Collectionです。3モデル目のブラック レザー リミテッドでは、シックで大人のスタイルを表現しました」と新作について語っている。
商品改良については変更点が多岐に渡り、ダイナミクスや静的質感の向上を求めている。ダイナミクスの向上でもっとも大きな変更点は「DE精密過給制御」の採用だ。アクセル操作に対する応答性を改善したのがポイントで、ドライバビリティの向上に繋がっている。また、電動パワーステアリングの制御も見直されていて、よりスムーズさを求めた。
そして静的質感の向上については、ガソリンモデルで遮音性の高いガラスの使用とトノカバーを採用した。ディーゼルエンジンモデルには、オプション設定だった「ナチュラル・サウンド・スムーザー」と呼ばれるディーゼルエンジン特有のガラガラ音を抑制する機能が標準装備されている。
期待どおりの加速感が得られるようになった
2014年9月に発売が開始された新型デミオにとって商品改良は初めてのことで、乗ってみるとその差は即座に体感できるものだった。
新型デミオで初搭載された1.5リッターのSKYACTIV-Dは、小排気量ながらも豊かなトルクでコンパクトなボディをグイグイと押し出していくが、低回転域での細かなアクセル操作に対して反応が鈍い不感域があった。
これまでは極僅かなアクセル開度でクルマを走らせていて、そこからアクセルを踏み込んでいっても思ったような加速感が得られなかった。このアクセル操作に対する応答性を改善したのがDE精密過給制御になる。制御を変更したことで、どの領域からアクセルを踏み込んでも期待通りの加速感が得られるようになった。その加速感は過敏なものではなく、アクセル操作にリニアという表現がマッチしている。なので、ドライバーが求めた操作に対してしっかりとエンジンが反応するようになった。
加えて、ステアリングの切り始めを中心にセッティングを変更した電動パワーステアリングの特性も狙い通りの感覚を得られた。ステアリングを操舵し始めたときの反応がはっきりして、よりクルマの動きとの一体感が高まった。改良前のモデルでも不満を感じる点ではなかったが、よりよいものを生み出したいというエンジニアの熱意によって変更されたのだ。
CX-3ほどの短期間ではないが、デミオも発売から1年数カ月で改良が加えられた。今後も新しい技術や機能、デザインが完成したら即座に展開され、ショールームには常に新鮮なモデルが並ぶことになる。