長期レビュー

日沼諭史の「お父さんと家族のCX-3」

第5回 蹴られるレザーシート、こぼれる食べかす。車内の手入れの仕方をマツダに聞いた

レザーシートのお手入れの方法を習ってみる

 上の子供が4歳を迎え、おとなしくクルマに乗ってくれるようになったと安心したのもつかの間、今度は下の子が2歳半を過ぎて生来の飽きっぽさをいかんなく発揮し始め、少しのドライブでも騒ぎ出すようになってしまった今日このごろ。運転席を後ろから靴をはいたまま容赦なくガンガン蹴ってくるのは本当にやめてほしい。

 そんな飽きっぽい子供たちには、スマートフォンやタブレットの動画、または小粋なお菓子なんかがキラーアイテムとなる。“クルマに乗ったら必ずコレ”という感じにクセがついてしまうのも考えものだけれど、子供たちが騒ぎ出すと運転にも支障が出てしまうので、背に腹は代えられない。車内をできるだけ平穏に保つために、子供には極上のエンターテイメント、ホスピタリティを用意せざるを得ないのだ。

 しかし、目的地に着いて子供たちをクルマから降ろそうとしたとき、筆者は高確率で後部座席の惨状を目の当たりにするのである。蹴られたレザーシートの背面が白っぽく汚れているのは当然として、食べ散らかしたビスケットやせんべいの破片が、チャイルドシートやジュニアシートだけならまだしも、その周辺にまで吹きだまりのように積もっている。それらのシートを外してみれば、さらに濃厚な“トレジャー”を発見したりも……。

蹴られて薄汚れた運転席のレザーシート背面
何かが散らばっている後部座席

 粉状のものだけではない。後部座席に埋め込まれたベルトのバックルの隙間に「何カ月前からそこにあったんだ」と問い詰めたくなるような、グミが“粘着質ななにか”に化けているものを見つけたりしたこともある。いや、子供だけのせいにするのはフェアじゃないだろう。運転席や助手席にも白い粉末状のものが残っていることから考えると、筆者自身や妻もなにかしら汚している。

ジュニアシートを外すと、そこにあったのは濃厚な食べかす。きっとメッシュ穴に入り込んでいる

 シートには吸音、通気のためにパンチングメッシュが施されていることもあって、そのメッシュ穴にも食べかすが入り込んでいるのではないかという恐れもある。いずれにしても、これではCX-3が装備するせっかくの本革シートが台無しだ。

 汚れてしまったレザーシートをきれいにしたいとき、一体どうやって手入れすればいいのだろう。本革のメンテナンスといえばオイルを塗る、というイメージもあるけれど、レザーシートの「正しいクリーニング方法」みたいなものがあったりするのだろうか。詳しいところをマツダの担当者からお話をうかがって、実践してみることにした。

簡単にレザーシートの輝きを取り戻せる純正「レザークリーナー」

画面の左からマツダ株式会社 カスタマーサービス本部 リージョン商品推進部の井田氏、上岡氏、多々納氏。東京と広島の本社をテレビ会議システムでつないで質問した

「マイCX-3がお菓子の食べかすで腐海に沈みそう!助けて!」という唐突なSOSに快く応じてくれたのは、マツダでケミカルや油脂類をはじめ、車両のさまざまなアクセサリー商品開発やサポートを担当するカスタマーサービス本部の上岡氏、多々納氏、井田氏の3人だ。

 ズバリ、レザーシートの清掃に最適なアイテムは?と聞いたところ、当然といえば当然だけれど、真っ先に挙がったのは純正の「レザークリーナー」(3240円。部品番号:K230 W0 362)。レザーシートの開発段階から、このシートに合った原料の配合などの検討を進めてきたという一品。落ちにくい油汚れにも対応し、まさにCX-3をはじめとするマツダのレザーシート採用車に最適なアイテムだ。柑橘系の天然成分配合ということもあり、使用後は爽やかな車内空間を演出してくれそう。

マツダ純正の「レザークリーナー」。準備するのはウエスだけ

 ということで、実際に純正レザークリーナーを使ってみた。クリーニング作業に必要なのはウエスかスポンジだけ。レザークリーナーのボトルをよく振り、ウエスなどに適量を含ませたら、あとはレザーシートの汚れたところを拭き取るだけ。準備も使い方も簡単だ。

 ざっと拭き上げると、確かに柑橘系の香りが鼻をくすぐってくる。臭いがきつすぎたり、いつまでもしつこく残るというようなものではないので、締め切った車内でも気兼ねなく使えるだろう。拭いたあとは、もちろん本来の効果として汚れも取れることに加え、レザーシートにクリーナーの成分がわずかに残る感じになるせいか、仕上がりに少しツヤが出るようで、なんとなく新車の雰囲気を取り戻した気分になる。

今回は汚れが目立ったシートバックをターゲットに使ってみた
ウエスにクリーナーを含ませ
ささっと拭き上げる
施工完了。新車のレザーシートのような輝き!? ちなみにこの部分は合成皮革で、本来はサイドや座面にレザークリーナーを使用するのが最も効果が高い
コンパクトなボトルタイプなので、ドアポケットに入れて常備して、汚れが気になったときにいつでも使えるようにしておくのもよさそう。ただし、高温になる場所での保管は避ける必要があるので、とくに夏場は室内保管が安全だ

 レザークリーナーのボトル自体はコンパクトなので、ウエスと一緒にドアポケットに入れて、汚れに気付いたらすぐに取り出して使えるようにしておくのもよいのではないだろうか。後述するが、レザークリーナーを使わないクリーニング方法だと(汎用性は高いけれど)準備も扱い方もやっぱり手間がかかるので、いつでも気軽に使える純正品はさすがだな、と思った次第。

身近なアイテムでレザーシートをクリーニングできる

 しかしである。レザークリーナーはすでに書いたように、通常価格が3240円となかなかいいお値段。いくら使い勝手がよく、新車のレザーシートっぽい雰囲気を取り戻せるとは言っても、容量が200mLであることを考えると若干お高めではある。

 もう少し安価に、手っ取り早く済ませたいなあという人も多いはずで、ほかにもクリーニング方法がないのか聞いてみると、実は家庭用の「中性洗剤」を使うこともできるのだという。買ってきたそのままの原液を使うのではなく、「水で5%程度に薄めて使う」のがミソのようだ。濃度が高すぎると反対にレザーシートを傷める可能性があるので注意したい。

 また、汚れているところをいきなりゴシゴシ拭くのは間違い。具体的には、以下の手順でクリーニングするといいそうだ。

(1)シート表面のホコリや砂などを取り除く
(2)5%程度に薄めた中性洗剤を柔らかい布に含ませて絞り、汚れを拭き取る
(3)別の柔らかい布に水を含ませ、固く絞って拭く
(4)乾いた柔らかい布で水分を拭き取る

マイCX-3の内装をクリーニングするために用意したアイテム。水で満たしたバケツ×2、柔らかい布×4(1枚は予備)、充電式掃除機、狭い場所を掃除するための布を巻いた棒。今回のクリーニングのために新たに購入したのは数百円の中性洗剤だけだ

 最初のホコリや砂などは、家庭用の掃除機やハンディタイプのクリーナーで吸ってしまうのが効率的だ。掃除機を使うのはよくある車内清掃の方法だけれど、細かい食べかすもこれでほとんど取り除くことができる。ついでに車内にまんべんなく掃除機をかけて、知らず知らずのうちにフロアマットの下などに入り込んだゴミなどもきれいに取り除いてしまおう。

最初に掃除機でレザーシート上のホコリなどを吸い取っていく
ついでにフロアマットを外し、下に隠れていたドングリやシロツメクサなども取り除いていく

 ホコリなどがなくなったら、水で5%に薄めた中性洗剤の溶液に柔らかい布を浸し、絞ったうえでレザーシートを拭く。洗剤の成分が残らないよう、次に水を絞った柔らかい布で同じように拭く。暖かい日なら水分は自然とすぐに乾くだろうけれど、できるだけ間をおかず、最後に仕上げとして乾いた布で拭けば完了だ。

中性洗剤を計量カップで50ccだけ取る
50ccの洗剤を1Lの水を入れたバケツに注いで軽く混ぜる。これで約5%の中性洗剤溶液の完成

 準備はそこそこ手間取るが、お金はほとんどかからない。シンプルな手順ながら、確かな汚れ落ちを実感できるのもうれしい。マイCX-3はシートがブラックなので、蹴られたところ以外は汚れがさほど目立たないように感じていたのだけれど、拭き取った布をバケツですすぐとみるみる濁っていく。なので、洗剤用も水拭き用も、途中で何回かきれいな水に交換しながら進めたいところ。また、柔らかすぎる布だと、シートに布の繊維が残りがちになる。筆者の場合は最後にもう1回掃除機をかけるはめになってしまった。

中性洗剤を含ませた柔らかい布で拭く
水拭きして……
最後に乾いた布で拭けば完了

 レザーシートをクリーニングするときに絶対に使ってはいけないものがあることにも注意したい。それが「シンナー、ベンジン、ガソリンなどの有機溶剤と、塩素系漂白剤、アルコール」だ。変色やシミの原因になるこれらは、レザーシート以外でも使用厳禁なものの筆頭とも言える。それと、しつこい汚れだからといって、柔らかい布ではなくブラシで強くこすったりするのもNGとなる。革に傷がついて劣化が進む可能性があるからだ。

 なお、シートには敢えて硬めのレザーを使用していることと、十分に長く使用することを見越した作りになっているため、革製品を柔らかくしたり、“使用感”を演出する目的のオイルを塗り込む必要はないとのことだ。

隙間に入り込んだカスは取り出せる? 天井の掃除は?

絶対に、細かい食べかすがメッシュ穴に入っていると思うのだが……

 これでレザーシートを外見上はきれいにすることができたが、さて、パンチングメッシュの穴から奥に入り込んでいるかもしれないカスについてはどうすればよいのだろうか。

 上岡氏らによると、残念ながら現状ではシート内に入り込んでしまったものを取り出すことは、ユーザーの手による掃除では不可能だという。どうしても穴に入り込んだゴミの行方が気になるときは、シート表皮を外すという手もある。ただし、シート表皮は特殊な金具で固定されていることもあって、いずれにしてもディーラーに相談するのが基本だ。

 ディーラーでお願いすれば、シート表皮を外してもらい、内部をクリーニングするという方法をとれる場合がある。しかし、本来はシート表皮を取り外すのは、表皮が破れて交換する必要があるなど、大きく劣化したシートのリペアを目的としたオプションサービスとして用意されているもの。単純な掃除(とシートの取り外し、取り付け)を引き受けてもらえるかどうかはディーラー次第のところもあるので、対応の可否をあらかじめ確認しておくとよいだろう。

 シートの穴といえば、後部座席に埋め込まれているシートベルトのバックル付近の隙間も掃除したい。筆者としては、先述のようにここでグミだったらしいねっちょりした物体を発見していたこともあり、このような狭く深い部分を上手に掃除する方法も模索したいところ。すっかりきれいにするのはさすがに難しそうな箇所ではあるけれど、井田氏からは、布を巻き付けるなどした細長い棒を使うアイデアを教えていただいた。

狭く、深い隙間は細い棒に布を巻いた「ナントカ棒」で掃除するのも手だ
赤い点々が、この写真の上半分に見えるだろうか

 もう1つ、マイCX-3で気になっているのが、天井(ルーフトリム)の汚れだ。おそらく子供が紙パックの野菜ジュースあたりをぎゅっと握って中身が噴き出したのだろう。いつの間にか赤いなにかの染みが天井に点々と張り付いている。

 この天井に使われている素材は合成繊維の不織布とのことだが、掃除に使うのはレザーと同じく5%に薄めた中性洗剤。洗剤を含ませた柔らかい布を使って、叩くようにして汚れを薄めて消していく。ただ、ずいぶん時間が経っていたマイCX-3のその汚れは、叩くやり方ではなかなか消えてくれなかったので、かわりに布を押さえつけるように処理することで、ほとんど目立たない状態になった。

シートと同じく、5%に薄めた中性洗剤で叩くか、押しつけるようにして処理する
赤い点々はほとんど目に見えなくなった

 この天井の素材は、CX-3に限らず幅広いマツダ車で同じ不織布が使われている。5%濃度の中性洗剤で叩くようにして汚れを落とす方法はあらゆる車種に応用できるので、ぜひ試してみてほしい。

ステアリングもレザーなので、とりあえずシートと同じように拭いておいた
まるで新車のよう……とは言い過ぎだが、クリーニングで美しさを取り戻した(と思う)マイCX-3

いずれはマツダディーラーが“おしゃれ美容室”風に!?

 クルマの外観については、汚れが気になりやすいこともあって頻繁に洗車する人も多いだろうし、洗車方法もよく知られている。ところが、クルマの内装となると、はっきりとは汚れの度合いが分かりにくいせいか、具体的で適切なクリーニングの方法についてはあまり注目されていないように思う。

「魂動」デザインによる洗練された外観を持つ最近のマツダ車だが、内装の質感に関しても評価が高いと聞いているし、筆者も個人的に満足度が高いと感じている。その質感を長く美しく保つためにも、正しいクリーニング方法を知っておくことは大切ではないだろうか。

 そんなこともあり、マツダでは現在、こうした内装のクリーニングに使うアクセサリーのラインアップを拡充する計画が持ち上がっているそうだ。また、美容室に置かれているおしゃれなヘアケア商品のイメージで、マツダ車用のメンテナンス用品をディーラー店頭で展示販売するといった考えもあるという。もしかすると将来、ディーラーで洗車をお願いするときに、マイカーと自分の好みに合ったカーシャンプーや内装クリーナーを選んで、毎回違った仕上がりを楽しめるようになったりするかもしれない。

 最後に上岡氏は、「クルマを大切に乗っていただけるようにするメンテナンス商品は拡充していきたい。メンテナンスについては販売店で気軽にいろいろな相談をしてもらって、要望があればアクセサリー商品に随時反映していくつもり」とコメント。

 多々納氏は、「クルマに乗ることは楽しいこと。乗り続けることで汚れることもあるけれど、そういった(自分になじんでいくような)出来事も含めてわくわくする楽しみだと思う。そのわくわくが続くカスタマーケア商品を提供できるよう検討を続けたい」と話し、井田氏は、「お客様にとっては、新車時が気持ちとしてはピークで、その後はだんだんテンションが下がっていくもの。でも、そこが下がることなく、維持していけるようなカーライフサポート商品を提供していきたい」と話していた。

 ちなみに、今回は子供たちに手伝ってもらいながら2時間かけて内装クリーニングをこなしたあと、さっそく家族サービスでマイCX-3に乗ってお出かけしたら、子供たちがすぐさまソフトサラダを食べ始めて元の木阿弥になったというオチがあったのはここだけの話。もう1回掃除すればいいだけなんだけれど、釈然としない気持ちはなんとなくある。

さらにラゲッジスペースに仮置きしていた中性洗剤をひっくり返すというアクシデントまで発生した。こうならないためにも、使い終わったものは速やかに片付けるのが吉だ

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。