日産、新型「ノート」搭載のエコスーパーチャージャーエンジン「HR12DDR」説明会
直噴ミラーサイクル採用でJC08燃費は25.2km/L、最高出力72kW(98PS)

直列3気筒1.2リッター+スーパーチャージャーの新型「HR12DDR」エンジン

2012年7月16日発表



 日産自動車は、9月発売予定の新型「ノート」に採用するエコスーパーチャージャーエンジン「HR12DDR」の説明会を開催した。

 新型ノートのHR12DDRエンジン搭載車は、JC08モード燃費が従来の18.0km/L(2WD/CVT)から25.2km/Lへと大幅に改善されており、同社のパワートレイン開発本部 パワートレイン主管の岸一昭氏が、その主要技術について語った。

スーパーチャージャーは電動クラッチを備え、実用領域の運転シーンではスーパーチャージャーを切り離し、加速意図に応じてクラッチをつなげる
耐ノック性を高めるため、燃焼室から熱を取り除くことを目的にピストンクーリングチャンネルや高熱伝導率ピストンリングなどを採用したポート形状をストレートとすることで筒内流動を強化し、混合気の均質度をさらに向上させた

直噴ミラーサイクルにスーパーチャージャーを搭載
 従来のノートは、直列4気筒1.5リッターの「HR15DE」および直列4気筒1.6リッターの「HR16DE」エンジンを搭載していたが、新型ノートでは現行マーチが搭載する直列3気筒1.2リッターの「HR12DE」搭載モデルのほか、直噴ミラーサイクルにスーパーチャージャーを組み合わせた、新開発の直列3気筒1.2リッター「HR12DDR」を採用、いわゆるダウンサイジング化が行われた。

 いずれのエンジンも、トランスミッションは副変速機付きのCVTを組み合わせ、JC08モード燃費はHR12DE搭載車が22.6km/L、HR12DDR搭載車が25.2km/Lをマーク。ダウンサイジング化で大幅な燃費向上を達成しつつ、最高出力72kW(98PS)、最大トルク142Nmを実現しており、「排気量は小さいが、スーパーチャージャーを付けて過給をすることで従来型のノート以上に走る」と、岸氏はHR12DDRの特徴を語る。

 具体的な燃費改善技術についてだが、現在の内燃機関では燃料エネルギー(ガソリン)の力を100%とすると、熱損失(排気損失/冷却損失)、吸排気時の損失(ポンピングロス)、機械損失(フリクション)などにより、パワートレーンに出力される力はわずか20%に留まる。そのため、HR12DDRエンジンでは特に「熱効率の向上」「ポンピングロスの低減」「フリクションの低減」の3点にスポットを当てて改善が図られた。

新型ノートは現行マーチが搭載する直列3気筒1.2リッターの「HR12DE」搭載モデルと、スーパーチャージャー付き直列3気筒1.2リッター「HR12DDR」搭載モデルをラインアップする従来のノートとの燃費比較。HR12DDR搭載車はJC08モード燃費で25.2km/Lをマーク新エンジン、新型CVT、新プラットフォームなどの採用で優れた燃費を実現した
HR12DDRのポジションニング燃費改善のためのアプローチ。HR12DDRエンジンでは「熱効率の向上」「ポンピングロスの低減」「フリクションの低減」の3点にスポットを当てて改善が図られた

熱効率の向上
 まず熱効率を高めるために、圧縮比を上げた。従来のHR15DEの圧縮比が10.5なのに対し、HR12DDRは12.0とし、「過給エンジンでありながら、圧縮比を従来の自然吸気エンジンよりも高めたことがポイント」(岸氏)。しかし圧縮比を上げると自己着火(ノッキング)が発生し、異常な燃焼が起こることで最悪エンジンブローを招きかねない。そこで耐ノック性を高めるため、燃焼室から熱を取り除くことを目的にピストンクーリングチャンネルや高熱伝導率ピストンリング、Na封入排気バルブ、真鍮バルブガイドなどを採用した。燃料はレギュラー仕様となる。

 また、HR12DDRエンジンは燃料をシリンダー内に直接噴射する直噴システムを採用するが、混合気の均一度を維持するために、高燃圧システム(15MPa)のほかマルチホール6噴孔インジェクターを採用する。マルチホール6噴孔インジェクターの採用については、「通常は(燃料の)噴霧の角度を広げればきれいに均一になるが、あまり広げすぎるとシリンダーのボア部に燃料がつき、それをリングがかき下げるとオイルが希釈されてしまう」(岸氏)。それを防ぐためインジェクターの噴射口を6つとし、噴射角の最適化を図っている。

 さらに、「吸気ポートから入ってくる空気の流れをより強くすることで、より噴射した燃料が均一に混ざる」(岸氏)ことからポート形状をストレートとすることで筒内流動を強化し、混合気の均質度をさらに向上させている。

過給エンジンでありながら12.0という高い圧縮比を実現燃焼室から熱を取り除くことを目的にピストンクーリングチャンネルや高熱伝導率ピストンリング、Na封入排気バルブ、真鍮バルブガイドなどを採用
混合気の均一度を維持するために、高燃圧システム(15MPa)のほかマルチホール6噴孔インジェクターを採用強タンブルポートとすることで筒内流動を強化、混合気の均質度をさらに向上させた

ポンピングロスの低減
 ポンピングロスの低減を図るため、HR12DDRエンジンではCVTC(連続可変バルブタイミングコントロール)によって吸気バルブの閉じるタイミングを遅くすることで、実質的な圧縮行程を短縮して膨張行程を長くし、熱エネルギーを有効に運動エネルギーに換えるミラーサイクルとともに、外部EGR(排出ガス再循環)を採用した。

 ポンピングロスを減らすためにミラーサイクル化しているわけだが、「燃料のミキシングのために強いタンブル(吸気行程でシリンダー内に発生する混合気の縦渦)をつけているが、ミラーサイクルでは圧縮して火を点けにいく段階になると、(遅閉じの吸気バルブにより)強いタンブルが消えていってしまう」問題が起こる。

 そこで、スワール(混合気の横渦)コントロールバルブを採用し、乱流を維持する構造を取っており、「(混合気を)均一にするためにタンブルを使い、火付き性や燃焼期間を短くするという意味でスワールを用いる。この2つを使うことで、燃費性能を高くしている」と岸氏は説明する。

ミラーサイクルと外部EGRでポンピングロスを低減させた
ミラーサイクルでは圧縮行程で吸気が押し出され、タンブルが減衰してしまうそこでスワールコントロールバルブを採用し、乱流を維持する構造とした

フリクションの低減
 フリクションを低減させるため、同社初となる「水素フリーDLCコーティングピストンリング」のほか、高圧縮に加えスーパーチャージャーを採用することでエンジンの回転変動が大きくなることから、回転変動が発生してもベルトに変動を伝えないことによってベルトの張力を下げる役目を果たす「回転変動吸収クランクプーリー」、回転数に応じて必要な容量を調整する「可変容量オイルポンプ」を採用した。

 さらに水素フリーDLCコーティングバルブリフター、ビーハイブスプリング、鏡面加工カムシャフト&クランクシャフト、真円ボアなども採用し、HR12DEに対してメカニカルフリクションを10%低減させることに成功している。

フリクションを低減させるため、同社初となる水素フリーDLCコーティングピストンリングや回転変動吸収クランクプーリー、可変容量オイルポンプなどを採用したHR12DEに対してメカニカルフリクションを10%低減させることに成功

スーパーチャージャー
 スーパーチャージャーは、「1.5リッターエンジン相当の動力性能を発揮し、きびきびした気持ちのよい走りを実現」するため、ハウジングの中で2つのローターがかみ合いながら回転し、空気を押し出す「ルーツ式」(4葉タイプ)を採用した。

 このスーパーチャージャーは電動クラッチを備え、「おそらく街中を走ったり少し高速を走るにしても、かなりの領域をスーパーチャージャーOFFで走る。そこからより力強い加速をしたい場合はクラッチをつないで過給し、全体のトルクを上げる」と、岸氏はスーパーチャージャーの制御について語った。

スーパーチャージャーについて
スーパーチャージャーは電動クラッチを備えるまとめ。新型ノートは9月に発売される

 なお、HR12DDRエンジンの重量は4気筒のHR15DEと比べ、「スーパーチャージャーを搭載するため約10kg前後重くなる」としている。

 また、同社は内燃機関を進化させたエコカーを「PURE DRIVE(ピュア・ドライブ)」と呼ぶが、HR12DDRエンジンを搭載する新型ノートには、新たなPURE DRIVEシリーズ「エコスーパーチャージャー(DIG-S)」の名称が与えられる。

(編集部:小林 隆)
2012年 7月 16日