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【インタビュー】日産「ノート」を題材にしたカラーリングコンテストについて聞く

3月17日までグローバル本社ギャラリーで受賞車両を展示中

お話を伺ったグローバルデザイン本部でアソシエートチーフデザイナーを務める谷中譲治氏(左)と、グローバルコンバージョン&アクセサリー事業本部の吉沢賢樹氏

 日産自動車のグローバルコンパクトカー「ノート」の販売が好調だ。

 ノートは昨年9月の発売以降、自販連(日本自動車販売協会連合会)が毎月発表する新車乗用車販売台数ランキングで3位をキープし続けている。1位、2位のトヨタ「アクア」「プリウス」というハイブリッド車を除けば、発売以降ガソリン車でもっとも売れているモデルということになる。

 すでにご存知の方も多いかと思うが、昨年9月にデビューしたノートは、新開発となる直列3気筒 DOHC 1.2リッター直噴ミラーサイクルエンジンにスーパーチャージャーを組み合わせた「HR12DDR」エンジン搭載モデルをラインアップする、5ナンバーサイズのコンパクトカーだ。同エンジンを搭載するS-DIG Sグレードは、JC08モード燃費25.2km/Lを達成しており、ガソリン車トップクラスの燃費性能を誇る。

 それに加え、エンジンルームのスペース最小化や燃料タンクの形状を変更などにより、「ティアナ」と同等の有効室内長と後席ニールームを実現するとともに、長距離移動でも疲れにくい厚めのシートを採用するといった居住性のよさや、ボディーサイドに「スカッシュライン」と呼ばれるクルマをダイナミックに見せる処理が施されるといったデザイン性のよさも兼ね備えており、誰でも使いやすく、乗りやすく、かつ燃費性能にも優れるというのが好評を博しているのだろう。

 そんなノートを題材に、カラーリングデザインを競う「NOTE COLORING GP」が昨年行われ、今年の東京オートサロンで最優秀賞と審査員特別賞が発表された。この2作品のデザインを実際に施したノートが現在、横浜のグローバル本社ギャラリーに展示されている。

 そもそもこのカラーリングコンテストは、「お客さまと共にクルマを作り上げていきたい」という同社の想いが発端となって企画されたもの。このカラーリングコンテストについて、グローバルデザイン本部でアソシエートチーフデザイナーを務める谷中譲治氏と、グローバルコンバージョン&アクセサリー事業本部の吉沢賢樹氏にお話を伺ってきた。

カラーリングコンテストで最優秀賞と審査員特別賞を受賞した人のデザインが車体の左右に施されるノート。正面向かって右側が最優秀賞、左側が審査員特別賞の受賞者のデザインとなる
最優秀賞を受賞したM.Tさんのデザイン。制作意図は「スカッシュラインの大胆なキャラクターラインを使って、車名の意味でもある『音』を表現しました。色とりどりの音符と、流れるような軽やかな楽譜のデザインは、見る人をワクワクする気持ちにさせ、ノートが本来持っている魅力を更に引き出します」
審査員特別賞を受賞したT.Aさんのデザイン。制作意図は「星に願いを込めて幸せになれるように、このデザインの星を見て乗っている人も外で見かけた人達も幸せな気持ちになってほしいと思いました。車が走っているときは流れ星のように見えれば素敵だと思います。夜になったら星の部分を黄色い部分(細かい星のところ)は光ってみえるように、蛍光塗料を使用したいです。最近では流れ星が見られなくなってしまったので、このデザインの車がたくさん走っていっぱい流星が見られたらどんな願い事も叶えてくれそうです」
実際の車両にデザインを落とし込んでいく作業は厚木のグローバルデザインセンターで実施。実際にデザインのプレゼンで使用する、車両を1/1スケールで表示できる巨大スクリーンを使って作業が行われたと言う

──NOTE COLORING GPとはどういったコンテストなのでしょうか。
吉沢氏:NOTE COLORING GPは、ノートのスカッシュラインを活かしたカラーリングを募集するカラーリングコンテストです。昨年11月から1カ月間募集を行ってそこからトップ10を決め、そのトップ10に対してオートサロンまでの期間、Facebook上で投票を行いました。もともとは最優秀賞だけを決める予定だったのですが、予想以上に応募が多かったこと、応募者の方のデザイン意図に数多く共感を得たこともあり、最優秀賞とともに審査員特別賞を設定しました。

 そこから、この2賞の受賞者を厚木のグローバルデザインセンターにお招きし、受賞者が描いた絵をどのように車両へを落とし込んでいくかを話し合いながらデータを作成し、ラッピングをノートに施しました。

──そもそもNOTE COLORING GPをなぜ開催しようと思ったのですか?
谷中氏:オートサロンのテーマである「カスタマイズ」には、お客様と一緒にクルマを作っていきたいという想いがあると思うのですが、我々もお客様と一緒にものづくりができないかと考えていました。

 デザインに関してはお客様にお願いをして、最後の詰めは一緒にやらせていただきました。とにかく直接お客様とアイデアを出し合うようなプロセスをやってみたいなと考えていたので、今回のカラーリングコンテストはそれを具現化したものになりますね。

──普段デザインセンターにいらっしゃると、なかなかお客さんとのコミュニケーションを図る場がないのではないでしょうか?
谷中氏:そうなんです、私は次の次の世代あたりのモデルのデザインをどうしようかと考えているグループに属するので、今世の中に出ている新車(および新車を購入するユーザー)との距離が生まれてしまっているのです。先行開発に属していても、お客様との距離は近くなければならないと思っていて、こうしたことが社内でも課題になっていますね。

 今回のカラーリングコンテストの募集を行ったのはFacebookですが、コミュニケーションの仕方がどんどん変化していますよね。コミュニケーションの方法は色々とあるとおもうのですが、こういうことを探っていくのも私たちのタスクだと考えています。

──受賞者の方は厚木のテクニカルセンターに入られたのですよね? あそこは普段中々立ち入ることができないと思うのですが
谷中氏:本当は我々がPCを持ってお客様のところへ行こうと思っていたのですが、最優秀賞に選ばれたM.Tさんがぜひテクニカルセンターを見てみたいとのことでしたので、そうした形を取らせていただきました。

──具体的にどのようにデザインを詰めていったのでしょうか。
谷中氏:作業は実際の車両デザインのプレゼンを行うホールでやりました。このホールには車両を1/1スケールで表示できる巨大スクリーンがあって、データ上のデザインをスクリーン内でクルクル回して見てみたり、走っている絵を見たりして詰めていきました。このプロジェクトのため、というと大げさですが、2Dで描いている絵を3Dで表示できる仕掛けも用意してみました。

 画面上で見ているとあまり感じないのですが、3Dにしてみないと分からないことが色々あって、例えば審査員特別賞を受賞したT.Aさんのデザインには鉛筆が使われていて、フルサイズにしたときにこの鉛筆の線がどのように見えるのか、そんなことを徹底的に検証しましたね。実は入選作品を我々がモディファイしたデータも用意していたのですが、意見交換だけで「これにしましょう」とピックアップだけで終わってしまうとつまらないので、実際にどの個所にこだわって作品を描いたのかといったことを聞きながら詰めました。

 実のところ、我々が一方的に提案するだけで終わってしまうのではないかと危惧していたのですが、いざやってみると受賞者の方からも忌憚のない意見をたくさんいただくことができて、作業には半日かけたのですがあっという間に時間が過ぎてしまいました。

──作業中にデザインするのに苦労した点はありましたか?
谷中氏:本当は受賞作品は1つだけの予定だったので、このコンテスト用のノートは1台しか用意していなかったのです。それで、今回受賞作品が2つになったことで車体の左右半分ずつにそれぞれのデザインを描くしかないなということになりました。

 最優秀作品の方は明るいイメージで、審査員特別賞の方は流れ星がきれいな夜空というイメージだったので、だったら昼と夜をくっつけるようなイメージで作ることはできないかという話になり、グラデーションで両作品をつなげることになりました。最終的にうちのデザイナーが仕上げをしたのですが、グラデーションを調整するのにちょっと大変だったようです(笑)。

 最近は女性も多くいるのですが我々の職場は男臭いところがあって、クルマを考えるときにどうしても「カッコいい」「速そう」「パワフル」という路線に行きがちなのですが、例えば審査員特別賞の方のデザインはこのクルマを街で見かけた人が幸せになるように流れ星を描いたそうです。また、四つ葉のクローバーを細かな星のなかに隠しておくと、探すのが楽しいのではないかという発想も盛り込まれています。目からウロコと言いますか、そういう発想が我々にも多くの刺激を与えてくれましたね。このコンテストを開催して本当によかったです。

受賞者と谷中氏、吉沢氏らが一体となってデザインの詳細を詰めた(上段がM.Tさん、下段がT.Aさん

 話を伺っていて谷中氏、吉沢氏ともに言っていたのは受賞者から多くの刺激を受けたということだ。「作り手側が一方的に製品を提案するのは時代遅れ」という谷中氏のコメントもあったが、同社にはユーザーとともにクルマを作り上げていきたいという想いがある。そのコミュニケーション方法はさまざまだが、今回のカラーリングコンテストはそのコミュニケーション方法の1つということなのだろう。

 ちなみに今回のコンテストには賞金・賞品の設定はなかったものの、応募総数は350件あったと言う。次回同様のカラーリングコンテストが行われるかどうかはまだ決まっていないが、開催された際はぜひ参加してみてはいかがだろうか。

(編集部:小林 隆)