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ホンダ、新技術を搭載した先進安全運転システム「Honda SENSING」発表会

「ドライバーの五感によるセンシング能力を、先進技術で強力にサポートするパッケージ」とアピール

2014年10月24日開催

先進安全運転システム「Honda SENSING」

 本田技研工業は10月24日、同社の自動車に搭載する先進安全運転システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を発表し、その詳細を明らかにした。Honda SENSINGでは、ミリ波レーダーと単眼カメラの2つを組み合わせ、対車両だけでなく対歩行者にも有効となる高度な自動操舵で、リスク回避行動を可能にする。

 同技術は年内に国内発売を予定している新型「レジェンド」に搭載予定。他の国内モデルや海外向けモデルにも順次搭載車種を広げていくとしている。

 同日、このHonda SENSINGについての発表会を行った。

Honda SENSINGで「ドライバーの五感を強力にサポート」

本田技術研究所 第12技術開発室 林部直樹氏

 発表会に出席した本田技術研究所 第12技術開発室の林部氏は、Honda SENSINGの開発背景を説明。同氏によると、2013年の交通事故のうち歩行者の交通死亡事故件数が全体の36%と過去からほとんど変わらない高い水準にあり、さらに歩行中の死亡事故件数のうち7割超が65歳以上の高齢者とのことで、「歩行者を守ること」が急務であると指摘。

 また、4輪車による死亡事故件数は年々減少傾向にあるものの、やはり全体の32%と依然として高く、そのうち単独事故によるものが46%、正面衝突が30%となっている。いずれの事故においても原因の8~9割以上が路外逸脱であり、「路外逸脱を防ぐこと」も死亡事故件数削減に効果的であると述べた。

交通死亡事故件数は年々減少しているが、歩行者の死亡者数の変化は少ない
歩行中の死亡者は圧倒的に高齢者
4輪車の死亡事故の多くを占める単独・正面衝突は、路外逸脱が原因のほとんどを占める

 これらのことから、ホンダは2002年に高速道路におけるコーナーの操舵をサポートする「LKAS(Lane Keep Assist System:車線維持支援システム)」を、2003年には世界で初めて「CMBS(Collision Mitigation Brake System:衝突軽減ブレーキシステム)」を開発。今回のHonda SENSINGはそれらの技術を大きくアップデート、進化させたもので、「ドライバーの五感によるセンシング能力を、先進技術によるセンシング機能で強力にサポートする」パッケージになるとアピールした。

重大事故を防止する6種類の新技術

 Honda SENSINGでは、フロントグリル内に設置された高精度なミリ波レーダーと、フロントウインドー内の上部に設けられた120万画素/視野角50度の単眼カメラによって、従来の4倍の認識精度を実現。これまで同社が一部車種に搭載していた安全技術の性能を向上させるとともに、新たに6種類の新技術を加えた。

Honda SENSINGに含まれる技術

 1つ目の新技術は対歩行者のCMBS。ミリ波レーダーと単眼カメラで60m先までの歩行者を検知し、衝突の可能性がある場合に音とマルチインフォメーションディスプレイなどへの表示で警告。さらに接近した場合に自動ブレーキを軽く作動させ、より接近すると自動で急制動を行う。また、従来からある対クルマのCMBSについては、前走車だけでなく対向車も対象とし、音と表示、ステアリングの振動で警告したうえで、衝突を回避できないと判断した場合は自動ブレーキで被害を軽減する。

 2つ目は、世界初となる「歩行者事故低減ステアリング」。ミリ波レーダーとカメラによって歩行者と路面の白線を検知し、車線を逸脱して歩行者と衝突しそうな場合に、音と表示の警告、自動操舵によって衝突回避操作を支援する。

 3つ目は「路外逸脱抑制機能」。カメラで走行車線を検知し、車線を逸脱しそうになった際に表示とステアリングの振動で警告したうえで、車線内へ戻す方向へ自動でステアリングをコントロールする。大きく逸脱しそうになった場合は自動ブレーキも作動するようになっている。

 4つ目は「渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール」。前走車と適切な車間距離を保つようアクセル・ブレーキを自動制御するだけでなく、作動する範囲を0km/hからとしたことで、発進時から利用できるようになった。

 5つ目は「標識認識機能」。速度制限、一時停止、はみ出し通行禁止、車両進入禁止という4つの交通標識をカメラで捉え、車内でその標識をアイコン表示することで、ドライバーに注意を促す。

 最後の6つ目は「先行車発進お知らせ機能」。停車時に前方車両が発進した際、音と表示でドライバーに知らせ、発進の遅れを防ぐ。

 これら6つのほかに、従来からあったLKASにステアリングの振動機能などを加えた進化版と、一時停止からの発進時に前方車両を検知した際、加速を抑える「誤発進抑制機能」も搭載。大まかに計8種類の先進安全技術がHonda SENSINGという呼称で提供されることになる。

 なお、以上のうちステアリングの振動を伴う警告については、回避方向にステアリングが振動する仕組みになっており、感覚的に操舵の判断がしやすいようになっているという。

 折しも、前日の10月23日にはNASVA(自動車事故対策機構)および国土交通省から予防安全性能アセスメントの結果が公表され、ホンダ車は他社のモデルと比べ軒並み低評価となっていたが、Honda SENSINGによって「満点に近い評価になるはず」(同社担当者)と自信をのぞかせた。

DSRCを用いた安全システムと自動運転システムも披露

 合わせて、9月に米デトロイトで開催された「ITS World Congress」に出展した「全方位安全システム」と「高速道路自動運転システム」の詳細についても披露した。

 「全方位安全システム」は、DSRC(Dedicated Short Range Communication:専用狭域通信)車載機やGPS、ミリ波レーダー、カメラ、各種センサー、スマートフォンなどを活用し、クルマ対クルマ、クルマ対歩行者、クルマ対自転車、クルマ対バイクといった2者間通信による情報交換を行い、安心、安全な交通の実現を目指したもの。

全方位安全システムの構成

 たとえばクルマ対クルマでは、先行車両が緊急停車した際に車載カメラで前方を自動撮影し、その画像データを後続車と共有。突然発生した渋滞の原因を即座に知ることができるだけでなく、場合によっては後続車側で追い越ししてやり過ごすことを提示するなど、スムーズな通行を支援する。

 また、クルマ対歩行者やクルマ対自転車では、歩行者・サイクリストが持つスマートフォンの画面に車両が近づいていることを警告表示。同時にクルマ側でも表示や自動ブレーキによって衝突回避を支援する。クルマ対バイクでも、同様にクルマ側では回避支援を行い、バイク側では専用端末上の表示などでクルマの接近を気付かせるといったデモが紹介された。これらの例は、ITS World Congressの会期中に市街地において試乗デモという形で実施している。

 歩行者・サイクリスト側でDSRCを実現する方法については、DSRC専用チップを搭載した専用端末を利用する手段と、多くの端末が採用しているクアルコムのチップセットにわずかなカスタマイズを加えてDSRCに対応する手段があるとしている。現実的には、歩行者やサイクリストにおいては専用チップを用いた専用端末ではなく、後者のAndroidスマートフォンを利用する形になるだろうとした。

対歩行者との例
対自転車では、自転車の搭載端末でも警告表示
先行車両が急停車した際には画像を後続車両と共有する
対バイクでは、バイク側の専用端末上で警告表示
ドライバーが急病になった際、ボタン操作によって後続車両などにSOSを発信。無線通信でバーチャル牽引してその場から移動し、急病人に対処できる

 一方の「高速道路自動運転システム」は、3次元レンジファインダ、2次元レンジファインダ、ステレオカメラ、ミリ波レーダー、DGPS(Differential GPS)、ジャイロセンサーなど、多数の機器類を搭載した自動車によって自動走行を実現するもの。ITS World Congressでは、実際に米国内の高速道路において自動運転を成功させたことを発表している。

高速道路自動運転システムで用いられた試験車両の装備

 高速道路の自動運転では、主に「合流」「分岐」「車線維持」「車線変更」という4つのポイントがあり、このうち他車との交差が多く発生しがちな「合流」がもっとも難易度の高いケースになるという。単に自動運転をするだけでなく、ドライバーが危機感を覚えないよう他車との距離を保つようにするなど、微妙な調整も行ったという。

 自動運転は、あらかじめ走行コースを正確に3次元データ化し、実走時に3次元レンジファインダなどで得たデータと比較しながら走行する仕組みになっている。しかし、実走直前に何度も道路工事が行われるなど、大きなデータの齟齬が発生する状態になったことから、そのたびに3次元データを取り直す必要に迫られたと説明。自動運転には何よりも「データの新鮮さ」が重要になるとのことだった。

高速道路の自動運転においては合流、分岐、車線維持、車線変更がポイントとなる
実際のデモ走行の映像

 今後の自動運転の発展に向けては、そういった「データの新鮮さ」をいかにして維持するかといった点や、標識上の最高速度とは異なる実勢速度への対応をどうするか、たとえば都内のような交通量の多い場所での挙動をどのようにするかなど、課題は山積み。「事故にあわない社会の実現に向け、自動運転システムの早期実現を目指す」としているが、同社が目標としている2020年までの実現は「かなり頑張らないと難しい」という認識を示した。

(日沼諭史)