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パナソニック、車載関連事業を2018年度に2兆1000億円へ

「Panasonic IR Day 2015」で、年率17%増の急成長を見込む計画を示す

2015年5月20日開催

「Panasonic IR Day 2015」を開催

 パナソニックは、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社の事業方針について説明。2015年度に1兆3000億円の車載関連事業を、2018年度には2兆1000億円へと、年率17%増の急成長を見込む計画を示しながら、「米テスラモーターズとの密連携によるリチウムイオン電池事業の拡大、スペインのフィコサとの資本提携による電子ミラーの共同開発および事業化に力を注ぐ。また、車載用電池は40車種への採用に加えて、23車種での受注活動を展開。14社の自動車メーカーで採用されることになる。社内だけでなく、社外を含めたクロスバリューによって、快適、安全、環境の3つの領域において、事業領域を拡大していく」などと述べた。

 5月20日に証券アナリストを対象に開催したPanasonic IR Day 2015において、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長が言及した。

 パナソニックで車載関連事業などを担当するオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、2014年度実績で、売上高が前年比2%増の2兆7825億円、営業利益は53%増の1057億円となった。

2014年度実績
プレゼンテーション資料

 伊藤社長は「不採算事業からの撤退などがある一方で、車載関連事業は好調。為替の追い風もあり、売上高、営業利益ともに前年実績および計画値を上回った。構造改革効果も刈り取ることができた」と総括。その一方で、「2014年度は、構造改革における大きな手を打ち終え、反転攻勢への布石を打つ年となった。車載分野、産業分野を成長エンジンと位置づけ、この1年で大きな投資決断を行ってきた」と振り返った。

 構造改革においては、半導体事業のアセットライト化、回路基板事業の終息、光デバイス事業の転地推進、一般電源事業の合弁化などを挙げる一方、成長への布石として、2014年10月に、米テスラモーターズのギガファクトリー建設にあわせて、リチウムイオン電池の生産子会社を設立したこと、スペインの自動車部品メーカーであるフィコサと資本業務提携し、49%を出資。電子ミラーの共同開発に向けた準備を進めており、事業化を加速する体制を整えたことに触れた。

「テスラモーターズとは、密連携を行い、需要を精査しながら段階的な投資を進める。また、フィコサはすでに関係当局の承認は完了しており、資本提携に関するクロージングを近々行える」と進捗を語った。

 また、柴田雅久上席副社長は「フィコサはドルフィンアンテナでも実績を持っている。クラウドコネクテッドディスプレイオーディオでの連携も可能であるほか、フィアット、プジョー、ルノーといったパナソニックで納入実績がない、南欧の自動車メーカーへの販売拡大の足がかりになる」と述べた。

 なお、パナソニックでは、49%の出資比率を当面維持する姿勢をみせ、「フィコサの経営を尊重した上で、資本提携、業務提携を図っていくことになる」(柴田上席副社長)と語った。

 また、2014年10月に欧州における車載事業の強化を狙い、欧州4販社を統合。中国では統括会社を設立して、パナソニック全体のBtoB事業を推進する体制を整えたという。

 さらに、2015年4月からパナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の組織体制を、従来の16事業部から11事業部へと再編。伊藤社長は、「車載分野と産業分野において、高度で、複雑になるエレクトロニクス化、システム化に対応し、顧客基点でのモジュール、システムでの提案力を強化するために、リソースや技術を統合した」とし、「これまでの単品、単体、単機能、売り切り中心から、モジュール、システム、ソリューション中心のビジネスへとレイヤーアップし、顧客価値のさらなる向上に貢献する」と述べた。

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社新組織体制

 再編によって2つの事業部で構成されるオートモーティブ事業では、スピーカーや超音波センサー、車載カメラを一体化した展開を加速。3事業部で構成されるエナジー事業では、技術プラットフォームの観点から組織を統合し、車載蓄電分野を強化する。5つの事業部が含まれるインダストリアル事業では、商品レイヤーをあげることで顧客対応強化に向けた組織再編を実施。ファクトリーソリューション事業では工場全体を対象としたスマートファクトリー事業に参入する体制を整えた。

 パナソニックでは、2015年度の全社事業方針のなかで、3000億円以上の事業規模を持ちながら、5%以下の営業利益率に留まっている6つの事業部を「重点事業」と位置づけ、重点的に強化する姿勢を示しているが、その重点事業に位置づけられた事業部が、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社のなかに2つある。インフォテインメントシステム事業部、二次電池事業部である。

インフォテインメントシステム事業部の取り組み
二次電池事業部の取り組み

 インフォテインメントシステム事業部では、2011年の東日本大震災やタイ洪水被害が発生した当時、サプライチェーンの再構築を優先したために、積極的な受注活動が行えなかったという背景があった。足の長い同事業では、その影響が2015年度に顕在化するという。そのため、2015年度のインフォテインメントシステム事業部の売上高は前年比2%増の5400億円と小幅な成長に留まる見込み。

 だが、「2014年度は、将来につながる大型案件や新規案件において、目標を上回る形で受注。これらの受注案件は、2017年度以降の販売増に寄与することになる」(伊藤社長)とする一方、「しかし、2015年度から2016年度に向けては、受注した案件に対応するため、開発のボリュームが増加することになる。開発の増加に対しては、AVCネットワークス社が持つ開発資産を活用しつつ、車載マルチメディア機器の標準プラットフォームの横展開や、インドおよび中国でのオフショア開発に注力することで効率化を図る。これにより、営業利益は253億円とし、営業利益率は4.7%へと高める」と語った。開発投資が増加するなかで、売り上げ成長よりも、利益成長を重視する考えだ。

「このまま開発費用を増やし続けることはない。販売額における開発費用のウエイトは2016年度がピークになると考えており、具体的な数字はいえないが、ピークから2ポイント程度下げていくことになる。パナソニックが持つ映像技術、通信技術を活用することで、外注比率を下げることも開発費の削減につながる。現在3桁の件数がある外注先を効率化するためにかなり絞りたい」(柴田上席副社長)とした。

 二次電池事業部は、小型二次電池事業部と車載電池事業部を統合し、技術プラットフォームを一元化。車載および産業向けの事業を拡大することで、セルの販売だけでなく、モジュール、システムへと、レイヤーをあげて付加価値販売に取り組み、成長性と収益性を確保するという。2015年度の売上高は前年比7%増の4060億円を計画。営業利益は227億円。営業利益率は前年度の2.0%から、5.6%へと一気に引き上げる。蓄電事業では海外の協業パートナーと組んで、中期的には大型蓄電池への展開も図る計画だ。

 一方、2015年度におけるオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社全体の業績見通しは、売上高が1%増の2兆8350億円、営業利益は22%増の1425億円としており、営業利益率で5.0%を目指す。

「車載電池や車載エレクトロニクス、FA、蓄電池システムなどの車載、産業向けを中心とした販売増に加え、為替効果も見込まれる。車載事業を中心とした増販による利益拡大、不採算事業の撤退などによる固定費削減効果も増益に貢献する」と語った。

 さらに、伊藤社長は、「2015年度は、成長に向けた投資を実行に移していく年と位置づけ、積極果敢に打って出る。2015年度には、戦略投資を含めて1650億円の投資を計画している。これは2014年度実績の1.5倍、中期経営計画で見込んだ2015年度計画の2.2倍にあたる。反転攻勢のために必要な投資は、機を逃さずに行っていく。戦略投資には、テスラモーターズのギガファクトリー内に建設するリチウムイオン電池工場への投資も含まれている。オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社全体における59%が車載分野への投資になる」とした。

 伊藤社長は、車載機器事業の市場性と、パナソニックの市場ターゲットについても説明した。

「自動車市場は、全世界で年率4%程度の安定成長が見込まれているが、そのなかでも安全運転への意識の高まりや、電気自動車やハイブリッド車などの環境対応車の需要拡大により、自動車の電子化、電動化が進展しており、パナソニックがターゲットとする車載電子機器需要は、自動車市場全体の成長を上回り、年率8%の成長が見込まれている。この成長市場において、パナソニックは2018年度に2兆1000億円の売上高を目指す。これは年率17%という、さらに高い成長になる。パナソニックのHMI(ヒューマンマシンインターフェース)技術や、モバイル通信技術、車載用電池技術が自動車メーカーから高く評価されており、国内外での大型案件の受注に結びついている。すでに、2018年度の売上高の7割程度は見えており、2兆1000億円は実現可能な数字である」と、高い成長に自信をみせた。逆算すると1兆4000億円規模の売上高がすでに獲得できている計算になるが、「そのうち新規受注が5000億円強になる」と説明した。

 さらに、売上高2兆1000億円の全体像に関して、快適、安全、環境という3つの分野から説明した。

 快適領域においては、2015年度の売上高6000億円を、2018年度には9300億円に拡大。「パナソニックのDNAである家電、AV、モバイル技術を車載に応用し、コックピット事業を強化する」という。

ナンバーワンを目指すというインフォテインメント事業

 コックピットシステムを含めたインフォテインメント事業でナンバーワンを目指すと宣言。「既存のカーナビやカーオーディオは、コモディティ化が進み、金額成長が見込めないが、パナソニックが得意とするHMI表示技術を核に、AVCが保有する光学技術を活用し、投資効率の高いヘッドアップディスプレイや、電子ミラーなどの新事業領域の拡大を図る。また、ネットワークディスプレイオーディオでは、プラットフォームを標準化し、横展開することで販売拡大を図る。2014年度に大型案件を受注しており、これらが増販に寄与する」と語った。

 安全領域では、2015年度の売上高3100億円を、2018年度には4700億円に高め、「センシング技術、画像処理技術により、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems=先進運転支援システム)の拡大を図る」とした。

ADAS(Advanced Driver Assistance Systems=先進運転支援システム)事業の強化策

 業界ナンバーワンシェアとなる車載カメラモジュールや、超音波センサーなどのセンシングデバイス、AVCが保有する画像処理技術を融合し、ADAS事業の強化を図るという。

「不足する技術については自動車メーカーを含めて、他社協業も視野に事業化を含める」という。この領域では協業やM&Aを積極化し、非連続性の成長を見込むが、「M&Aはそれほど大きくなく、協業による成長が大きくなるだろう」(柴田上席副社長)とした。

 ADASでは自動車の周辺を検知するセンサー、情報を判断するECU、ドライバーに見やすく表示するコックピットで構成。「表示技術に強みを持つことが成長につながる」(伊藤社長)と述べた。

 ADASは、日本ではシステムとして販売するが、欧米ではリコールなどの動きが多いことから、リスクを勘案してデバイスのビジネスを主体とする。また、ADASを進化させると自動運転の領域に踏み込むことになるが、「ADASのレベル4になると自動運転になる。だが、これは2025年頃まで自動車メーカー各社も苦戦するだろう。パナソニックはまずは2020年を目指して、ADASでどこまで力をつけるかが大切であり、ステップを踏んでやっていく。まずは、レベル3の運転支援の領域に取り組む。ここではパナソニックの活躍する場が出てくる。自動運転や運転支援ではパナソニックは大手自動車メーカーに比べて遅れている。中堅の自動車メーカーと手を組み、カメラやミリ波レーダーなどを中心としたセンシング技術を運転支援に活用していきたい。低速時の運転支援においてはパナソニックが長けている部分がある。ここをやり切れればレベル4の領域でも追随でき、大手自動車メーカーとの協業にも入っていけるだろう」(柴田上席副社長)と語った。

 環境領域では、2015年度の4200億円の売上高を2018年度には7000億円へと拡大。「全種類の電池技術を保有する強みと、電源デバイス技術によって、車載電池と電源システム事業の両面から飛躍を図る」と述べた。

 リチウムイオン電池では高容量、高信頼性の特徴が評価され、採用する自動車メーカーが増加。円筒型では国内での量産体制を維持しながら、ギガファクトリー内に設立した新工場で2016年度に量産を開始するという。「ギガファクトリー内での生産は、大阪・住之江などの日本国内の生産体制に影響しない形で生産することをテスラモーターズとの基本契約のなかで担保しており、足らないものをギガファクトリーで展開する。ギガファクトリーでリチウムイオン電池の量産を開始しても、国内での生産量が減ることはない」(坂本真治上席副社長)という。

 さらに、ギガファクトリーでは蓄電用電池の生産も行うことになるが、「テスラはカリフォリニア地域では一定量のシェアを持つ蓄電メーカーであり、事業所向けの蓄電池事業を展開している。パナソニックは以前からそこに向けた納入を行ってきた。テスラでは最大で生産量の3割程度を蓄電用としてギガファクトリーで生産するとしているが、これは折り込み済みのものであり、用途によって異なる電池特性の違いについても対応していくことになる」(坂本上席副社長)と語った。

 また、円筒型のほか、角型リチウムイオン電池やニッケル水素電池を含めた車載電池全体では、これまで40車種に納入した実績を公表。「新たに23車種に向けて受注活動を展開しており、このうち9車種の受注をすでに獲得した。車載電池を中心に納入先の拡大を図る」(伊藤社長)とした。

 2014年度には20%だった車載電池のシェアは、2018年度には34%へと拡大させる計画で、「電気自動車やハイブリッド車などにおいて、安定した顧客を持つことができている。現在14社の自動車メーカーに受注活動を行っており、今後は増産を行う必要性について検討を開始している」(柴田上席副社長)という。

 なお、地域別では、日本は2015年度の6000億円を2018年度には9000億円に拡大。欧米では5000億円を9000億円に、戦略地域では2000億円を3000億円にそれぞれ拡大する計画だという。

「具体的にはなにも組み立てられているわけではないが、2018年度の2兆1000億円の次には、2020年度に2兆5000億円という数字が目安になるだろう」(柴田上席副社長)とし、継続的な成長戦略を描いていることを示した。

 なお、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社全体では、2018年度に売上高3兆6000億円を目指しており、そのうち車載関連事業で58%を占めることになる。「車載事業は成長エンジンであるとともに収益ドライバーでもある。収益を生み出す事業に積極的に投資、持続的な増収増益を実現する」(伊藤社長)と語った。

2018年度に目指す姿

(大河原克行)