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日立オートモティブシステムズ、自動運転など最先端技術を公開した「十勝メディアデー2015」リポート

自動運転、360°検知システム、前方ロングレンジレーダー、自動駐車システムなどを体感

2015年11月 開催

「十勝メディアデー2015」では日立オートモティブシステムズの技術者が同社の最先端技術について紹介してくれた
日立オートモティブシステムズ 取締役 CTO兼技術開発本部長 川端敦氏から各技術についての説明が行なわれた

 日立オートモティブシステムズは2015年11月、北海道帯広市にある同社の十勝テストコースにおいて、自動運転など同社の最先端技術を公開する「十勝メディアデー2015」を開催した。

 十勝メディアデー2015は、同社が持つ新技術の一端を実際に体感できるイベントで、報道陣に向けては2014年から行なわれている。今回は自立走行システム(自動運転レベル2)を実現する「センサーフュージョン(360°検知システム)」「前方ロングレンジレーダー」「スーパーARヘッドアップディスプレイ」「自動駐車システム」「プレビューセーリングストップ」という5項目とともに、全技術を盛り込んだ自立走行システム(自動運転レベル2)搭載車による「自動車線変更」「先導車追従&レーンキープ」「車車間通信による注意喚起通知」を実際に体感することができたので、それぞれの項目で紹介したい。

 自動運転レベルについては、内閣府と官民が一体となって取り組んでいるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の1つに「自動走行システム(SIP-adus)」があり、そのなかで自動化レベルを4段階に定義。レベル1を「加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行なう状態」、レベル2を「加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行なう状態」、レベル3を「加速・操舵・制動をすべてシステムが行ない、システムが要請したときはドライバーが対応する状態」、レベル4を「加速・操舵・制動をすべてドライバー以外が行ない、ドライバーがまったく関与しない状態」とし、2017年までに信号情報や渋滞情報等のインフラ情報を活用した準自動走行システム(レベル2)の市場化を、さらに2020年代前半を目途に準自動走行システム(レベル3)を市場化し、2020年代後半以降には完全自動走行システム(レベル4)の市場化を目指している。

 今回、日立オートモティブシステムズのすべてを盛り込んだという「自立走行システム」は、レベル2に必要な機能を量産に近いプロトタイプで実現しており、小型ステレオカメラや単眼カメラで構成する「SurroundEye(サラウンド アイ)」、24GHzのミリ波レーダー、自動運転ECU、高精度地図などを活用して自動車線変更や先行車追従走行を実現している。

「前方ロングレンジレーダー」
「スーパーARヘッドアップディスプレイ」
「自動駐車システム」
「プレビューセーリングストップ」
「センサーフュージョン(360°検知システム)」
「自立走行システム(自動運転レベル2)」

前方ロングレンジレーダー

「前方ロングレンジレーダー」は、前遠方の危険検知支援を目的に開発されたもので、77GHzミリ波レーダー(検知範囲18°)を用いて200m以上の前方を検知することが可能なレーダーシステム。約100mの検知距離であるステレオカメラの検知範囲を補完する目的で開発されている。

 デモでは、停車するスバル(富士重工業)「レガシィ」のフロントグリルに搭載されたレーダーが、レガシィから遠方へ走行していく車両をおよそ200m先まで検知し続ける様子が車内のモニターで確認できた。

フロントグリルに77GHzミリ波レーダーを搭載するレガシィ
レガシィから遠方へ走行していく車両をおよそ200m先まで検知し続ける様子が車内のモニターで確認できた。画面上の緑色の四角が離れていく車両を表している

スーパーARヘッドアップディスプレイ

「スーパーARヘッドアップディスプレイ」を搭載したスバル「インプレッサ」

 日立マクセルの自由曲面光学技術を用いた「スーパーARヘッドアップディスプレイ」は、40m先の虚像映像をフロントウィンドウに表示する次世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)。

 一般的なヘッドアップディスプレイでは、例えば50m先の道路を見たあとにディスプレイの表示を見ようと思うと目の焦点を合わせ直さなければならないが、スーパーARヘッドアップディスプレイでは奥行き感のある情報表示によって焦点を合わせ直さなくてよいメリットがあり、ドライバーは焦点移動が少なくなることでより安全運転に集中することが可能になる。

 デモでは近傍から遠方の実景に合わせた虚像映像を、フロントガラスに重ね合わせて投影。実際に14m、20m、30m、40mと遠近距離の異なる位置に赤いコーンを置き、そのコーンに虚像映像の輪っかを重ね合わせるとともに、その距離を数値で表示。実際、奥行き感のある情報表示によって遠くを見てからスーパーARヘッドアップディスプレイの表示を確認しても、焦点を合わせ直す必要がなく、より安全運転に集中できることを実感できた。

実際に14m、20m、30m、40mと遠近距離の異なる位置に赤いコーンが置かれ、そのコーンに虚像映像の輪っかを重ね合わせるとともに、その距離を数値で表示

自動駐車システム

 自動駐車システムは4つのカメラを用いるクラリオンのSurroundEyeにより実現している。2014年の十勝メディアデーでもデモを行なっているが、このときからカメラの性能を高めることで認識性能が向上。これにより、買い物のカートが置いてあるといった立体障害物を認識したうえで自動駐車することが可能になっている。

 デモでは日産自動車「フーガ ハイブリッド」を用い、駐車できる空間を認識したうえで自動で縦列駐車するようすと、買い物のカートを避けて並列駐車するようすを見学。並列駐車は白線が引かれた一般的な駐車スペースに停めたわけだが、輪止めも判断して輪止めにあてることなくスムーズに駐車するようすが確認でき、これもきめ細やかな制御ができていることの現れとのことだった。

フーガ ハイブリッドが自動で縦列駐車するようす。入庫~出庫をスムーズにこなした
買い物のカートを避けて並列駐車するようす。輪止めにあてることなく駐車できるのも技術の現れという

プレビューセーリングストップ

 ACC(アダプティブクルーズコントロール)利用時での使用を想定した技術で、エンジン停止が可能なシーンを予測し、エンジンを適切に停止することで燃料消費を抑制するというもの。

 ステレオカメラによる先行車位置情報、坂やカーブといった地図情報から得られる前方の道路情報を組み合わせた先読み(プレビュー)情報をベースに必要な制駆動力を予測し、走行中に最適な場面で自動でエンジンをストップ。必要に応じて再始動も自動で行なう。

エクストレイルに搭載されたステレオカメラ

 デモではプレビューセーリングストップ機能を有した日産「エクストレイル」に試乗し、速度制限、勾配、カーブといった道路情報を読み取ってエンジンを自動停止したり、前方を走行する車両を捉え、「これ以上接近する必要がない」と判断したときにエンジンを自動停止するようすを見学することができた。

ACCで前方車両に追従しているところ
必要に応じてエンジンがかかる

センサーフュージョン(360°検知システム)

 自立走行システム(自動運転レベル2)搭載車で実際に使われるセンサーフュージョン(360°検知システム)のデモ。具体的には4つのカメラと4つのミリ波レーダーにより車両360°をシームレスに検知できるシステムで、カメラを前方用としてフロントグリルに1つ、側方用としてサイドミラーに2つ、後方用としてトランクに1つを設置。ミリ波レーダーは前側方用としてフロントバンパー内に2つ、後側方用としてリアバンパー内に2つを設置している。後方用のミリ波レーダーは、自動車線変更の際に後方から高速で追いついてくる車両との衝突を避けるためのもので、衝突の危険性がある場合は車線変更を行なわないギミックを持つ。

センサーフュージョン(360°検知システム)を搭載したフーガ
各個所にカメラを設置
フロントバンパー内とリアバンパー内にミリ波レーダーが配置される

 デモでは、後方から接近して追い越しを行なう車両をセンサーフュージョンが検知しているようすを、「フーガ」に搭載した車載モニターで確認。後方から接近して追い越すまでをスムーズに検知したわけだが、ときに前方用と後方用のミリ波レーダーの間(自車の真横を走る併走車など)には監視し切れない“すき間”が生まれるという。そこを広画角な側方カメラによって死角を補っていることが紹介された。

 30~40km/hで走行する自車は3車線のうち一番左側の走行車線を走行し、追い越しをする車両は50~80km/hで真後ろから接近して中央車線に移動、さらに追い越し車線を走りながら自車の真横を走り、その後追い越していくという流れだったが、いずれの動きもセンサーフュージョンが連続検知しており、実用性の高いシステムであることを体感することができた。

ヘッドレストに埋め込まれているのが後方を映し出すモニター。その右側と下側のモニターで後方から接近して追い越しを行なう車両を検知するようすが確認できた
後方から接近して追い越すまでをスムーズに検知。自車位置の横にある青色のマークが検知していることを意味している

自立走行システム(自動運転レベル2)搭載車

自立走行システム(自動運転レベル2)を搭載するインプレッサ

 ステレオカメラ、SurroundEye、24GHzのミリ波レーダー、自動運転ECU、高精度地図など、日立オートモティブシステムズやクラリオンの持つ技術で実現する自立走行システム(自動運転レベル2)を搭載した「インプレッサ」でのデモ。

 デモでは、先導車追従やレーンキープするようすとともに、ドライバーが車線変更をしたい意思(ウインカーを出す)を示すことで「自動車線変更」を行なうことが確認できた。さらに車車間通信(C2X:Car-to-X)と呼ばれる自動車と自動車、または自動車と信号機や道路標識などの道路インフラが、ITインフラを介さずに直接無線通信して情報を交換し、安全運転や環境に配慮した運転を支援することを目的とする仕組みを用い、「工事車両あり」との注意喚起通知するデモも確認できた。

センサーフュージョン(360°検知システム)を搭載したフーガと同様の技術が盛り込まれる
先導車追従のデモ
手放しでの自動運転開始を示す画面
ドライバーが車線変更をしたい意思(ウインカーを出す)を示すことで「自動車線変更」を行なうことができる。写真左は後方に車両がいることを認識して「自動車線変更」はせず。写真右は追い越されたことを確認して「自動車線変更」ができることを表している
手放しでの自動運転のようす

(編集部:小林 隆)