インプレッション

スバル「WRX STI」(2017年大幅改良モデル)

新型「WRX STI」

 今回の試乗はクローズドコースで行なわれた。それ自体は珍しいことではないものの、エスケープエリア(待避場所)の設けられた完全なサーキットでないところがミソ。縁石があり極端に道幅の狭いコーナーや、出口が見えづらいブラインドコーナー、さらには3~8%ほどの上り/下りの勾配(標高差は約110m)が各所に設けられており、いわゆる公道でのワインディングロードに近い道路環境だ。唯一、公道と異なるのが舗装状態で、路面の摩擦係数が高いことからタイヤそのものの食いつきがいいという点。もっとも、このクローズドコースも経年変化が相応に進んでいるため、部分的な道路補修(補修部位により舗装状態が異なる)や路面の凹凸も激しくなってきている。よって、トータルで考えれば公道に近い試乗フィーリングであるとお考えいただきたい。

 試乗したのはスバルが誇るSTIの2台。“大幅改良”と銘打たれた年次改良モデルである「WRX STI Type S」とその旧型だ。新旧2台のWRX STIについて比較試乗を行ないたい。

新型WRX STI type Sを味わうべき2つの理由

 これまでWRX STI Type Sでは様々な道路環境で試乗を行なっており、雪上での全開走行を試す機会もいただいてきた。また、筆者は編集部員時代から「レガシィ(BD5)」「レガシィ ツーリングワゴン(BG5)」が搭載していたEJ20型ツインターボ仕様を発売当時から体感しており、加えて2代目「インプレッサ(GDB)」で限定販売されていた「S203」オーナーの1人でもあった。それだけに、「WRX(インプレッサ)」やEJ20型エンジンに対する想いは愛情に近い(?)ものがある。今回は、「新型WRX STI Type Sを味わうべき2つの理由」を交えながら、その詳細に迫っていきたい。

 従来型とはいえ、その限界性能はこうしたクローズドコースでなければ試せないほど高い。相変わらずガチッとしたシフトフィールに、丁寧なクラッチワークとアクセルワークを連携させなければギクシャク感を伴う発進加速性能を確認しながらスタートする。まずはパイロンスラローム(パイロン間隔は7~8m)から肩慣らし。ここでは敢えて20km/hでのステアフィールを改めて確認したのだが、市販のスポーツモデルの多くがそうであるように、しっかりとした操舵力や保持する力が必要だ。また、ステアリングがセンターを通過する際に、若干の重さの変化を感じる点も再確認できた。

 同じ状況で乗り比べると、新型はシフトフィールが劇的に向上したことが分かる。これは1速と2速のシンクロ機構が従来型のダブルコーンから新型ではトリプルコーンへと変更されたことが大きく、これによりシフト操作時に必要な操作力が低減された。同時にステアフィールもよりスムーズなものへと変化している。ステアリングギヤボックスの構造を見直し、ECUとモーターを一体化することで1.5kgの軽量化を達成しつつ、ドライバーのステアリング操作に対して、さらに忠実な反応をみせるよう操舵特性に変化を加えたことが大きい。従来型の装着タイヤ(245/40 R18)から新型では245/35 R19へと大径化(スバル初の純正19インチ採用)されたにも関わらず、終始一定した操舵力でステアリングさばきが行なえる。乗り出した直後の動きはそのクルマの印象を決める大切な部分だが、その意味で新型は「上質な走りになってきたな」と感じられる。

 パイロンスラロームを終えると道路幅の広い直線路に移る。ここでは50km/hまで加速して、車体を上から見ると大きな正弦曲線(サインカーブ)を描いているように、ゆったりと右、そして左と操舵しながら車体のロール特性をチェックする。従来型はジワッと前輪に荷重を掛けていっても沈み込みが少なく、そしてロールもしっかり抑えられている。こうした特性に起因して雪上での荷重移動には手を焼いたことを思い出した。対して新型では、前輪がより食い付く傾向だ。装着タイヤが横浜ゴムの「アドバン スポーツ V105」である点もそれを助長する。筆者の愛車であるND「ロードスター」もV105を装着しているが、ステアリング操作に対する初期応答性のよさとグリップ力の高さには定評がある。もっとも、スバル 第一実験本部 廣田光一氏によれば、「専用スペックを開発しました」というから、ロードスターとは全くの別ものだが……。いずれにしろ、ゆっくりとしたステアリング操作でも荷重の変化を相応に生み出せるため、車体の動きを瞬間的に読み取りやすく、さらにはその後の動きまでを予測しやすい。これには前輪バネ定数を若干ながら弱めたことも効いている。同時に後述するマルチモードDCCDのフル電子制御化に合わせて、前輪のストラットやダンパーの特性を変更したことも乗りやすさを高めた理由だ。

 さて、いよいよワインディングロードへ。コース序盤は下りながら橋を渡り、そのあと右に大きく曲がり込む状況で、路面にはところどころ補修した跡が残る。また、橋を渡る際には大きな凹みを伴うジョイントを通過しなければならない。下り勾配ということもありブレーキングからのターンインでは前輪へと荷重が乗りやすく、車体はキレイにコーナーの先を向きながら、まわり込むコースの特性に合わせてさらにステアリングを切り込んでいっても素直な追従が続く。ここはWRX本来が持つ美点だ。従来型の特徴として、路面状態がわるくなると瞬間的な荷重の変化(抜け)を感じることがある。コーナリング姿勢を崩すほどではないにせよ、ドライバーにはそうした状況への気構えが求められる。新型はここでも明確な違いを見せた。筆者が気に入ったのは外乱に強くなったコーナリング特性だ。ブレーキングに合わせてゆっくりステアリングを操舵してコーナー外側前輪の荷重が高まり、少しの時間差で外側前後輪へと荷重が乗り切った、とイメージしてほしい。そこで橋のジョイントに遭遇するとどうなるのか……。新型はあっけないほどに凹みをサラリといなして通過してしまった。その際、ステアリング操舵フィールの変化も最小限だ。ここは先のステアリングギヤボックスの構造と特性の変更、さらにはバネ定数低減にはじまる前輪セットアップの変更が効いている。

絶対的な制動力向上とコントロール性のよさが“1つ目の理由”

最高出力227kW(308PS)/6400rpm、最大トルク422Nm(43.0kgm)/4400rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッターエンジンを搭載。ボディサイズは4595×1795×1475mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2650mm

 続く3~5%程度の上り勾配では、EJ20型の力強く息の長い加速を堪能! 7000rpmを超えてもなお力強く、もっと上まで回したくなるような高揚感を伴う加速力はWRXならではだ。筆者はこうした高回転時の荒々しさや、車体フロアやステアリングに発生する振動の類いは嫌いじゃないが、公道での使用、さらには同乗者がいる場合も考えてみると、同カテゴリーとしてライバル視されるであろう新型「シビック TYPE R」(全域しなやか&上質!)と比べると少々分がわるいか……。しかし、新型はこうした場面での静粛性が大きく向上した。フロントドアガラスの板厚を厚くするとともに、ドアまわりの整流を目的としたリップを新しくしたほか、ドアシール部分を穴埋めし、フロントウィンドウ上部にあたる前席乗員の頭部分に近いフロントレール内部に、発泡インシュレーターを充填することで雑音を低減。同時にこの発泡インシュレーターによって、フロントレールの振動も抑制する。また、リアまわりでは吸音材の密度を向上させて同じく静粛性向上を狙った。新型となってもエンジンそのものには手が加えられていないのでスペックとしては変わりない(308PS/43.0kgm)ものの、吸音材や制振作用のあるインシュレーターの相乗効果として耳元で感じる雑音が減り、400万円台の車両価格に相応しい上質さを手に入れている。

従来型WRX STI Type S
試乗会会場に掲示されていたブレーキの変更点に関する資料

 コースも中盤にさしかかる。途中、4速→3速→2速へのシフトダウンを伴うハードブレーキングや、2速と3速を行き来するようなタイトコーナーをいくつも通過していくと、従来型ではブレーキペダルのタッチや初期制動の立ち上がり方に微妙な変化が現れてきた。今回の試乗は複数のメディアのドライバーが交互に用意された試乗車に乗り込むため、停車時間といえば乗り換え時の1分程度で、あとはこうした全開走行が1時間以上続く。よって、ブレーキフィールに変化(フェードの兆候)が生じることがあるのだ。試乗時の外気温は35℃以上、路面温度はさらに10℃以上高いことから試乗車にとっては過酷な状況。絶対的な制動力にはまだまだ余力があるものの、従来型が装着するフロント 17インチ 2ピース 対向4ピストン、リア 17インチ 2ピース 対向2ピストンの強力なブレンボ製ブレーキをもってしても、10回以上のハードブレーキングでは明らかに放熱が追いつかないことから踏力が増加(=液圧の増加)してしまう(数値はスバル測定値)。新型のトピックはブレーキ性能の向上にも見てとれる。フロント 18インチ モノブロック 対向6ピストン、リア 18インチ モノブロック 対向2ピストンへとサイズと容量を大型化。これにより、前輪のシリンダー径は40φ+46φから30φ+34φ+38φ(後輪は新旧ともに40φ)、ディスク外径はフロント326mmから340mm、リア316mmから326mm、パッド面積はフロント76cm2から90cm2、リア32cm2から49cm2へとそれぞれ拡大した。ブレーキキャリパーには、「WRXコンセプト」が採用していたカラーリングをイメージしたイエロー塗装を施して差別化が図られている。

 ここでの驚きは絶対的な制動力向上もさることながら、終始安定したブレーキタッチを保つこと。従来型と同じく新型も休みなく全開でコースを走り回っていることから条件は同じながら、新型ではタッチそのものに変化を一切感じないだけでなく、減速度にして0.1~0.2程度の街中で多用するブレーキ操作に対しても、通常温度のブレーキと同じ制動フィールであったこと。また、ハードなブレーキングではブレーキの踏力をじわりじわりと緩めるシーンがあるが、18インチ モノブロック キャリパーを装着する新型はそうした際のコントロール性もよく、いつもどおりのペダル操作で幅の広い減速コントロールができる。これが「新型を味わうべき理由」1つ目だ。

「曲がる力」と「進む力」をうまく配分するフル電子制御化されたDCCD

 コース終盤のタイトコーナーでは、フル電子制御化されたマルチモードDCCDの特性が手に取るように分かる。新旧での構造的な違いは、内部構造のうちサンギヤをなくし一体型のトルクカムを新設計した上で、機械式LSDから電子制御式LSDへと変更したところ。今回は新旧の違いを明確に体感するため「AUTO」モードで走行した。これまで認識されているように従来型では常時機械式LSDが作用していたため、曲率のきついタイトなコーナーでアクセルを深く踏み込んだ際にアンダーステア傾向が強かった。具体的にはこうだ。タイトなコーナーに合わせてステアリングを切り込んでいく訳だから前輪の操舵角は次第に大きくなり、そして、コーナーの頂点を越えるに従い、徐々にアクセルが踏み込まれていく。そんな状況のなかで従来型では機械式LSDの作用がターンイン時を含めて常に働いているため、タイヤにはドライバーのステアリング操作による「曲がろうとする力」と、機械式LSDによる「前に進もうとする力」の両方が一気に加わることになる。従来型の場合は、この「曲がる力」と「進む力」が相互に強いことから、結果としてタイヤの曲がろうとする力が負けて(駆動力が勝りタイヤの摩擦円を超えて)しまい、プッシュアンダーステア傾向に陥ってしまっていた。

 新型はそうした領域の制御をフルに電子制御化することで、プッシュアンダー傾向を解消した。ターンインではステアリング操作を邪魔しないようにLSD効果を調整しながら、コーナー頂点からのアクセル操作に対しては“曲がりながら走ることができるよう”、その方向性をガラリと変えたのだ。また、DCCDの特性変化に合わせて、前述したフロントサスペンションの変更に加え、リアサスペンションのスタビライザーも小径化している。これらによりハンドリング性能は大きく向上し、タイトコーナーではドライバーの要求どおりにアクセルを踏み込めるようになった。分かりやすく表現するなら、後輪駆動(FR)的なコーナリング特性を身につけたというべきか。ただ、FRのそれと大きく違うのは、切り込んでいったステアリングのインフォメーションはこれまでどおりしっかり残り、ときとしてトルクステア的な部分も体感させる芯の太いもの。また、踏み込んだアクセルペダルの量に比例してググッと操舵力も重くなる。あくまでも従来型でアンダーステア傾向であったネガティブな部分が、フル電子制御化されたDCCDによって「曲がる力」と「進む力」にうまく配分されている、ということだ。これが「新型を味わうべき理由」の2つ目だ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学