【インプレッション・リポート】 フォルクスワーゲン「ポロGTI」 |
フォルクスワーゲン「ポロ」の評価は日に日に高まるばかりだ。世界のハッチバックのベンチマークだったゴルフが大きくなると同時にポロも成長して、かつてのゴルフと同じくらいのサイズになり、丁度使い勝手が見直されたタイミングでもあった。実際、ポロはボディーサイズ、エンジン、新開発のトランスミッションにおいて、新しいハッチバックのベンチマークと見ることができる。
ポロのモデルチェンジは、日本では2009年の10月。ボディを刷新してゴルフ似の精悍なスタイルになった。しかし、2010年の5月にはエンジンを換装するという大きなマイナーチェンジを受けている。当初は自然吸気1.4リッター+7速DSGの「1.4コンフォートライン」だけだったが、1.2リッターターボ+7速DSGに変更。1.4コンフォートラインはラインアップから落とされ、エンジンは1.2リッターターボのみに整理されている。ラインアップは「TSIコンフォートライン」と上級グレードの「TSIハイライン」、それに車高を上げてアウトドアライフをイメージした「クロスポロ」の3機種となる。
そしてポロシリーズ待望のスポーツグレード「GTI」が2010年の秋に登場した。こちらは1.4リッターエンジンにターボ+スーパーチャージャー過給をして、7速のDSGと組み合わせたパワートレーンを持つ。
■排気量の大きな自然吸気エンジンのようなフィーリング
第3世代となるポロGTIはフォルクスワーゲンのダウンサイジング路線に則って、排気量を1.4リッターとしているが、実質を採ってSOHCとした1.2リッターエンジンと違って4バルブDOHCと、スポーツグレードらしい形式になっている。ボア×ストロークは76.5×75.6㎜でほぼスクエアだ。
過給は、フォルクスワーゲンが世間をアッと言わせたターボとスーパーチャジャーの2丁掛け。お互いの弱点を補完し、かつ燃費も優れたものになった。圧縮比は10:1と、過給器付きとしては高く、過給でパワーをひねり出すというよりも、軽い過給によって自然なドライブフィールを得ようという意図が分かる。
ツインチャージに目が行くが、この他にも過給器と相性がよく、燃焼効率などの効果を引き出せる直噴、可変バルブタイミングなど高度な制御技術を満載している。
最高出力は6000rpmで132kW(179PS)。また、250Nm(25.5kgm)のトルクを2000rpmから4500rpmという広い回転域で出している。この幅広いトルクバンドは、ポロGTIにスポーツグレード以上のドライバビリティを与えており、市街地でのノロノロ運転や高速での追越にもGTIに自由に羽ばたく下地を作っている。
実際、このツインチャージエンジンは素直な回転フィールを見せ、アクセルに足を乗せた時から極めてスムーズな加速を見せてくれる。その気になれば、とてもコンパクトなBセグメントのハッチバックと思えない瞬発力を見せ、カタログデータでは0-100km/hを6.9秒で走り切るというから相当な汗馬である。
当然ながらスーパーチャージャーとターボチャージャーの役割は異なるが、巧みな使い分けで自然に上昇する回転フィールを楽しめる。昨今のターボ過給は低回転から自然吸気に近い加速をするが、ツインチャージャーは排気量の大きな自然吸気エンジンのようなフィーリングを得ている。
7000rpm手前で頭打ちとなるが、イエローゾーンまでの回転の上がりは速く、滑らかだ。
■極めて快適なDSG、燃費も良好
トランスミッションはフォルクスワーゲンの自信作であるツインクラッチ「DSG」で、フォルクスワーゲンの省燃費技術の大きな柱ともなっている。乾式と湿式があるが、GTIに使っているのは軽量な乾式。乾式のメリットはクラッチプレートを冷却するオイルが不要なために、その分のオイル量、そしてオイルを攪拌するパワーロスを防ぐことができる。さらに7速を設けることで相当にワイドなギアレシオを設定し、切れ目のない変速が期待できる。
ツインクラッチの苦手なところは発進だが、ポロGTIも発進時のクラッチミートに神経を使う場面がある。トルクコンバーターを持たないので、エンジンのトルクと機械の作り出すクラッチミートが上手くリンクせずに、飛び出し感が残ることがある。特に段差乗り越しのスタートでは不利になる。
それ以外では極めて快適で、変速ショックを感じる間もなく、素早く変速しつつ、速度がドンドン乗っていくのは気持ちがいい。変速はDレンジで自動でシフトするのに任せてもいいし、ステアリングスポークの裏側に付いているシフトパドルで変速することもできる。
Sレンジでは変速を抑制するので、ギアの守備範囲が広くなり、回転を高く維持するためにレスポンスがシャープになる。シフトパドルは右側がアップ、左手がダウンで、ちょっと短いが、馴れてしまうと指が自然と伸びて操作できる。パドルによる変速も素早いが、当然、守備範囲を超えての変速は行われない。ちなみにポロGTIは全てDSGしか用意されず、本国にもMTの設定車種はない。
ポロGTIの10・15モード燃費は16.6km/Lと優れており、パフォーマンスのワリにはかなりよい値を示している。
ポロは今や世界展開するグローバルカーで、国によってさまざまなエンジン、トランスミッションが設定されているが、GTIだけはスペックがごく限られている。
■スポーツカーに豹変するファミリーカー
サスペンションはフロントがストラット、リアがトレーリングアームで、スタンダードのポロよりもサスペンションを固められており、15㎜ローダウンされている。タイヤも1.2TSIの185/60 R15から215/45 R17にインチアップされており、ホイールも7Jのワイドなものになる。
スポーツサスペンションの乗心地は硬いものの、突き上げでロングドライブに苦痛を感じるほどのものではなく、むしろ速度を上げていくとしっかりした収束に好感を覚える。さすがに低速ではゴツゴツ感とした突き上げがあり、当然1.2リッターTSIほどのしなやかさはないが、許容範囲だろう。
ワインディングロードでは、高速でハンドル左右に切り返すようなシュチュエーションでも追従性は高く、滑らかで安定したコーナリングフォームを維持してドライバーの期待に応える。ステアリングはクイックではなく、むしろシュアといったほうがいいだろう。電子制御パワーステアリングが持っている微妙な切り始めの不感帯を感じるが、基本的に操舵力に変化はなく、爽快なハンドルワークを楽しめる。
もちろんFFなので操舵輪と駆動輪を共有したハンドルに伝わる反力は残るものの、思いどおりのラインを狙える。1つにはゴルフGTIでも採用されている電子制御デフロックのXDS効果もあり、低中速コーナーでの内輪のいたずらを抑制するために、アンダーステアが軽減され、大きなトラクションを掛けられることも大きい。
ポロGTIはドライバーにとってファンなクルマだ。それに小粋なコンパクトハッチバックが、ドライバーの意思1つでスポーツカーに豹変する面白さも合わせ持っている。しかもポロは4ドアのハッチバックだ。堂々とファミリーカーと言えるところは、家人を説得するよい材料にもなる。何、ポイントで配置されるフロントグリルの赤いストライプやサイドスカート、リアスポイラー、ちょっと乗りにくいスポーツシートなど言い訳はどうにでもつく。
この楽しみと実用性を兼ね備えて300万を切る価格は結構、食指が動くのではないか?
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2011年 1月 6日