インプレッション

日産「ノート」

「メダリスト」の名称が復活

 初代「ノート」は2005年1月にデビューした。2005年1月と言うと、初代「ティーダ」発売から間もないタイミングだが、室内の広さや上質感を訴求するティーダに対し、ノートは1つクラス下で、カジュアルな雰囲気が与えられるなど、キャラクターの棲み分けがなされており、ひと回り小さいボディーながら十分な室内空間を持つという性格のクルマだった。

 そんな初代ノートは当初、エントリーユーザーが販売の中心だったが、徐々に年齢層の高いユーザーの割合が増えてゆき、やがて逆転した。あるいは、発売から7年あまりの間に自動車を取り巻く世の中の状況も変わり、よりダウンサイジングが求められるようになった中で、ノートは年齢層の高いユーザーにも積極的に選ばれるようになった。

 これらの市場の動向もあって、今回、日産はティーダの国内での扱いをやめ、ノートに絞った。今回のノートのモデルチェンジの方向性は、それらの事情に合わせて舵が切られた。

 わずかにサイズアップし、ちょっと押し出し感すらあるフロントマスクやキャラクターラインの与えられたボディーパネルなど、パッと見でずいぶん立派になったように感じられる。

撮影車はメダリスト。ボディーサイズは4100×1695×1525mm(全長×全幅×全高)

 インテリアの質感も高く、さらにスエード調クロスと合皮のコンビシートや、ピアノ調センタークラスターフィニッシャー、本革巻きステアリングなどの上級装備が与えられた最上級グレードに、往年のローレルを想起させる「メダリスト」の名称が復活しているのも興味深い。これならティーダのユーザーだった人が買い替えても十分に満足できるだろう。

 居住性は上々。「ティアナクラスの有効室内長と後席ニールーム」と謳っているとおりだ。分厚いクッションを持つシートを備え、ヘッドクリアランスもニールームも十分に広く、サイドウインドーがあまり寝かされていないおかげで、頭まわりの横方向にも余裕を感じる。ラゲッジルームも十分に広く、開口部の下端が従来よりも低くなったおかげで、より使いやすくなった。

メダリストのインテリア。スエード調クロスと合皮のコンビシート、ピアノ調センタークラスターフィニッシャーなど上級装備を採用
運転席はシートリフター機能が付き、最適なポジションを得やすい
ヘッドクリアランスもニールームも十分に広く、居住性は上々。後席ドアは最大で約90度開く
ラゲッジルームは開口部の下端が従来よりも低くなったため、より使いやすくなった

1リッター以上のクラスでNo.1の燃費

スーパーチャージャー付き直列3気筒DOHC 1.2リッター直噴「HR12DDR」エンジンは、最高出力72kW(98PS)/5600rpm、最大トルク142Nm(14.5kgm)/4400rpmを発生

 エンジンはこれまでの1.5ないし1.6リッターの直列4気筒から、「マーチ」で採用する直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」エンジンと、新開発のスーパーチャージャー付き直列3気筒DOHC 1.2リッター直噴「HR12DDR」エンジンの2種類が用意され、いずれにも副変速機の付くエクストロニックCVTが組み合わされる。今回、試乗したのは後者である。

 JC08モード燃費では、自然吸気のHR12DE搭載車が22.6km/Lであるのに対し、直噴スーパーチャージャーのHR12DDR搭載車が24.0~25.2km/Lと上回る。大人しく運転しているとスーパーチャージャーは作動せず、加速しようと強めに踏み込んだときだけ作動するので、燃費の悪化を招かない。ちなみに、JC08モード測定時の走り方では、一度も作動することがないらしい。

 三菱自動車「ミラージュ」の登場により、「1リッター以上のクラスでNo.1」という但し書きが必要となったが、ガソリンエンジンの登録車としてトップクラスの低燃費を誇ることには違いない。

 加速フィールは、初代ノートが「低燃費系でビュンビュン系」と言っていたのに比べると、大人しくなったような印象だ。低回転域でもう少しリニアにレスポンスして欲しい気がするところだが、踏み込んでスーパーチャージャーが作動すると、けっこうパワフルに加速。スーパーチャージャーにありがちな作動音は小さく、抵抗感もなく、至ってスムーズだ。

 ECOモードを選ぶと、よりスーパーチャージャーの作動を抑えた制御となり、燃費が向上する。メーターパネルの光の加減で自然とエコドライブを心がけるようになる仕掛けもある。

 静粛性もまずまずで、風切り音や路面から入ってくる音など、外から侵入する音もよく抑えられている。ドアの下部を二重にシールするなどといった丁寧な作り込みも、走りの質感向上に寄与しているようだ。

 パワートレーン系の音については、音質的には上までエンジンをまわすといかにも3気筒らしい音がするものの、常用する低回転域では「野太い」と言うと大げさではあるが、やや低音の効いた3気筒っぽくない音がする。

オールラウンドなキャラクター

 フットワークは、一言で言うと「骨太」な印象。タイヤは185/70 R14サイズと185/65 R15サイズが用意されており、後者が燃費訴求グレードに標準装着され、試乗したのも後者。ステアリングはやや重めで、直進性は高く、しっかりとした操舵フィールがある。転舵した状態で保持している最中にウネウネと動いてしまう症状もない。ややセンターに戻ろうとする力が大きいため、ステアリングが重すぎると感じる人もいたようだが、筆者としては許容範囲で、むしろほどよく感じられた。

 乗り心地はリアに若干の硬さを感じたものの、姿勢変化は小さく抑えられている。リアサスペンションの伸びストロークも十分に確保されており、長めのホイールベースも効いて、高速コーナリングでの安定性がけっこう高い。コーナリング中にギャップを越えても、ラインの乱れが小さくて済む。

 なお、横滑り防止装置とカーテンエアバッグはエントリーグレードを除いてメーカーオプション設定となっている。選べるだけまだよいのだが、このタイミングで出た新型車に横滑り防止装置が全車標準装備とされなかったのはいかがなものか。残念である。

 このクラスのベンチマークと言えるホンダ「フィット」に対してどうかと言うと、ユーティリティに関しては相変わらずフィットに強みがあるが、後席に人を乗せることを重視するのであれば、ノートのほうがしっかりとしたリアシートが備わる。シートに座った姿勢もアップライトなフィットに対し、ノートは乗用車的。

 走りについても、軽快なフィットに対し、ノートはやや重厚な印象で、着座姿勢の影響もあって、フィットのほうが重心の高い感覚がある。動力性能は、エンジンをまわすとノートは速いが、フィットのほうがリニアなフィーリングだ。それぞれ好みはあると思うが、筆者は全体としてはノートのほうが好みに近かった。

 装備では、駐停車をサポートするアラウンドビューモニターが、このクラスのコンパクトカーとして初めて設定されたことを歓迎したい。表示される面積は小さいものの、あったほうが絶対によい装備には違いない。

駐停車をサポートするアラウンドビューモニター。ルームミラー内蔵モニターが標準装備となるが、カーナビ装着車はナビ画面にも表示できる

 ティーダとの統合が図られたことで、より幅広い層を相手にしなければならなくなったこともあり、方向性としては初代に比べると「無難」なところに落ち着いた印象もあるが、その分クルマとしての完成度は、あらゆる項目で高いポイントを稼げる、オールラウンドなキャラクターになったと言える。

 コストパフォーマンスを考えても、かなり高いのではないかと思う。購入したユーザーが、「いい買い物をしたな」と思えるであろうクルマに間違いなく仕上がっていると感じた。

こちらはオーテックのノート「ライダー」。専用フロントグリルや光輝モール付きの専用フロントバンパー、専用15インチ光輝アルミホイールなどを装備。インテリアでは格子柄のシート地やドアトリム、本革巻きステアリングなど専用装備品が与えられる

(岡本幸一郎)