インプレッション

三菱自動車「ミラージュ(1.2リッター)」

エンジンスペック以上のゆとりを手に入れた1.2リッターエンジン

 実用的な装備と扱いやすいサイズが好評のリッターカー、三菱自動車工業「ミラージュ」。登場から2年を経て1.2リッターエンジン搭載車(上級グレードの「G」のみ)が加わった。また、これと同時に従来からの1.0リッターモデルも装備の充実を中心とした変更が行われている。

 新たにラインアップに加わった直列3気筒DOHC 1.2リッターエンジン(ポート噴射)は、78PS/10.2kgmと、従来の直列3気筒DOHC 1.0リッターよりも9.0PS/1.4kgm力強い。トランスミッションはINVECS-III CVTで、これは変速レシオとファイナルギヤの両方とも変更はない。カタログ燃費は25.0km/Lと2.2km/Lほど劣るものの、1.0リッターエンジン以上にロングストローク型のボア×ストローク比を採用した(最大トルクの発生回転数は1.0リッターエンジンの5000rpmから4000rpmへと低められた)ため、後述する実用域でのトルクが太く実用燃費ではそれほど差が開かないばかりか、多人数乗車での高速走行時ではむしろ逆転する可能性もあるだろう。

 1.0リッターモデルのよさは、ガソリンエンジンでトップクラスの燃費数値(23.2〜27.2km/L)と軽快な走行フィールを両立していたことにある。しかし、燃費数値を稼ぎにいくため専用の燃焼プログラムを採り入れ、さらに低回転域を多用するようなCVTの変速レシオ特性を採用していたため、いわゆるヘビーユーザーからは動力性能に不満の声が挙がっていたという。実際、今回の試乗ステージのように住宅街を1〜2名で乗車し、駅への送り迎えや、買い物での移動手段として使用するのであれば十分な動力性能であったが、走行負荷が大きくなる高速域や多人数乗車時にはもどかしさが感じられた。

 1.2リッターと排気量の増加は20%だが、結論からすると低速域でのトルク増幅効果はかなり大きく、加えて変速レシオ特性も加速方向に変更されているため走行フィールは劇的に進化した。同時にアクセルに対するレスポンスも、燃焼ガスをシリンダー内に還流して燃費数値向上効果を狙う外部EGRを廃止したことに手助けされ俊敏になっている。

直列3気筒DOHC 1.2リッター MIVEC「3A92型」エンジンを搭載する新グレードの「1.2G」(144万5040円)。ボディーサイズは1.0リッターモデルと共通で、3710×1665×1505mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2450mmとなるが、車重は1.0リッターモデルの上級グレード「1.0G」から20kg重くなる890kgとなっている。撮影車のボディーカラーはセルリアンブルーマイカ
「1.2G」のラインアップに際してミラージュ全車の変更も実施。写真は「1.2G」に標準装備されるバンパービルトインタイプのフロントフォグランプ(1.0リッターモデルはオプション設定)
サイドターンランプ付ドアミラーは「1.0G」「1.2G」に標準装備
新たに採用された可倒式ショートアンテナは全車標準装備
「1.2G」専用装備の15インチアルミホイールにブリヂストンのハイグリップタイヤ「ポテンザ RE050A」(タイヤサイズ:175/55 R15)を組み合わせた。タイヤサイズの15インチ化を受け、フロントスタビライザーが追加されている
リアのコンビネーションランプは全車共通
ブラックカラーのインテリア。「1.2G」では本革巻きステアリングやピアノブラック調の加飾によって上級感が高められた
「1.0G」「1.2G」に本革巻きのステアリングとシフトノブを標準装備。これに加え、ピアノブラック調のパワーウインドースイッチパネルを「1.0G」「1.2G」「M」に、ピアノブラック調のインパネセンターパネルを全車に採用する
「1.2G」もアイドリングストップ機構「オートストップ&ゴー(AS&G)」を採用。スピードメーター内のマルチインフォメーションディスプレイでは平均燃費、外気温/凍結警報(ブザー連動)、航続可能距離などの情報を確認できる
エンジンスイッチはプッシュ式
運転席インパネアンダートレイを全車に標準装備して利便性を高めた
シートヒーターは全車オプション設定
シート地はワッフル調ファブリック。前席はダイヤル式のハイトアジャスター機能付き
後席は6:4分割可倒式を採用する

中回転域からの力強さは30%増し

1.0リッターエンジン以上にロングストローク型のボア×ストローク(75.0×90.0)比を採用した直列3気筒DOHC 1.2リッター MIVECエンジン。最高出力は9PS増の57kW(78PS)/6000rpm、最大トルクは1.4kgm増の100Nm(10.2kgm)/4000rpmを発生。JC08モード燃費は25.0km/L

 1.2リッターモデルはこれらの相乗効果によってエンジンスペック以上のゆとりを手に入れたわけだが、その効果は発進加速時から十分に感じられるものだ。アクセルに足をのせた瞬間からグッと押し出されるような感覚が強くなり、もともと軽量なボディー(1.0リッターモデル比20kg増の890kg)がさらに10%程度軽くなったかのように、その後も軽やかに速度をのせていく。

 また、1.2リッターモデルは全車アイドリングストップ機構を採用しているが、再始動後の駆動力伝達にかけてのマナーがよい。これも美点だ。今でこそアイドリングストップ機構は当たり前の環境対策装備の1つだが、再始動時のマナーはよいものばかりではない。その点、ミラージュの場合は再始動時間こそ目を見張るほどの素早さはないが、ブレーキリリース→エンジン再始動→アクセルオン→走り出しという一連の動作が非常にスムーズで、駆動力が伝わる際に発生しやすい不快なショックも発生しない。

 中回転域からの力強さは1.0リッターモデル比で30%増しといった印象。なによりエンジンフィールとCVTの変速レシオ特性のバランスがよく、30〜60km/hにかけての走りはライバル車たちが搭載する直列4気筒直噴1.3リッターエンジンに負けていない。振動特性では不利になる3気筒エンジンであるため、1.0リッターモデルは1200-1500rpm前後を多用する領域では車体全体へ伝わるエンジン/駆動系からの振動が大きく、同時にゴロゴロとした排気音も目立っていた。しかし、1.2リッターモデルは走行中であればほとんどそれらが気にならない。

 もっとも、まったく振動が消え去ったわけでないが、適度に残るリズミカルな振動によって加速フィールに抑揚が生まれ、シートを通じて駆動トルクを実感しやすいため、自ずとスムーズなアクセルワークが身に付くというイメージだ。一方、高回転域はおとなしく、低〜中回転域にかけての盛り上がりに比べると加速力の鈍化度合が少々大きい。また、アイドリングストップ機構が働いていない停車時に限ったことだが、ステアリングに伝わる振動が大きく上質感を欠いてしまう点も数少ない要改善点だ。

 1.2リッターエンジンのアピールポイントは、大きく向上したハンドリング性能にも垣間見ることができる。フロントサスペンションにはスタビライザーが追加され、装着タイヤもエコタイヤの代名詞であるブリヂストン「エコピア」(165/65 R14)から、同じくブリヂストンのハイグリップタイヤ「ポテンザ RE050A」(175/55 R15)と一気にグレードアップしたのだ。開発陣曰く「今回のエンジン追加によるボディー補強は一切行っていない」というが、まるでサスペンション取付け部を中心にスポット増しを行ったかのように足まわりが引き締められた印象だ。

 それこそ交差点を曲がる際にも感じられる高められたボディーの一体感だが、それを助長する適正なドライビングポジションにも改めて感心した。御存知の通りミラージュは欧州、豪州、タイをはじめとしたアジア地域など、各国で販売することを前提に開発されたグローバルカーだ。よって、平均身長の高い欧州系のドライバーにもフィットさせるためにドライビングポジションにはゆとりがあり、アクセルやブレーキペダルの配置からフロントホイールハウスの張り出しを抑えるなどの配慮が行き届いている。シートリフターやチルトステアリングの調整幅もコンパクトクラスにしては大きいほうだ。もちろん、シートレールや調整ノッチなどは仕向地により異なるが、ペダル配置や足下スペースは共通であるため、最適値を探るには開発段階からの取り組みがなければ成立しない。「各国でも評価をいただいています」と開発担当者は謙虚に語るが、地味な部分だと素通りされてしまいそうな部分にこそ実用性の高さが現れるという見事なお手本だ。

 一方、このご時世に商品力のアップを図るのであれば、「衝突被害軽減ブレーキ」の導入もほしかった。三菱自動車では「衝突被害軽減ブレーキ」を「FCM」と呼んでいるが、現状、採用しているのは「アウトランダー」「プラウディア」「ディグニティ」(ミリ波レーダー方式。プラウディア&ディグニティは日産自動車からのOEMで、日産では「追突被害軽減ブレーキ/インテリジェントブレーキアシスト」と呼ぶ。デリカD:2はミリ波レーダー方式ながら後述するeKシリーズと同じ「FCM-City」と命名する別物。これはスズキからのOEMでスズキでは「レーダーブレーキサポートII」と呼ぶ)と、「eKワゴン」「eKスペース」(以下、eKシリーズ/赤外線レーザー方式)のみだ。もっとも、台数が見込める軽自動車への装着こそ急務とする考え方もあるだけに一概に否定できない。また、リッターカークラスであれば高速道路での走行シーンも多くなるだろうから、赤外線方式ではなく対応速度域の高いミリ波レーダー方式や光学カメラ方式での対応とともに、ミリ波レーダー方式となるのであればACCの同時装着も考えていただきたい。

eKシリーズに衝突被害軽減ブレーキ「FCM-City」を新採用

 2014年12月4日、そのeKシリーズ(eKワゴン/eKカスタム/eKスペース)に赤外線レーザー方式の「衝突被害軽減ブレーキ」(三菱自動車では「低車速衝突被害軽減ブレーキ/FCM-Cityと呼ぶ)と、その赤外線レーザーを共有センサーとする「誤発進抑制機能」を装着した。「FCM-City」は、約5km/h〜30km/hでの走行時に衝突警報とメーター内の警告灯でドライバーに報知するとともに、衝突が避けられない場合は自律自動ブレーキを作動させて衝突被害を軽減、もしくは回避するものだ。

 2014年10月23日に発表された自動車アセスメントで知名度が一気に上がった「衝突被害軽減ブレーキ」だが、同時に赤外線レーザー方式が獲得したアセスメントでの点数が低いことから、その数字だけが一人歩きし、結果的に「赤外線レーザー方式の効果は低い」という間違った見識が一部にみられる。これは非常に残念なことだ。たしかに、赤外線レーザー方式では対応可能な速度域と最大減速度に対して、ミリ波レーダー方式や光学式カメラ方式と比べて大きな制限があるため、このアセスメントの結果が発表される時点でそうとらえられてしまう懸念はあった。

FCM-Cityでは赤外線レーザーが前方車両を検知し、衝突の危険が迫るとブザー音とメーター内の警告灯で注意喚起を行うとともに、自動ブレーキによって衝突の回避または衝突被害の軽減を図る。約5km/h〜約30km/hで走行している際に作動

 しかし、そもそも車両への搭載が許されている赤外線レーザーセンサーは照射範囲にして約10mまでと制限を受けているため、対応可能な車速域と最大減速度が低いことを理解するべきだ。その代わり、普及に適した2万円台という低価格帯での装着が可能になったのだ。これには、先だって法制化された「車両挙動安定装置」(三菱自動車では「ASC」と呼ぶ)によるブレーキ介入システムがなければ成立しなかったことだ。いずれにしろ、一般道における事故を起こす直前の速度(危険認知速度)は30km/h以下での発生件数が75%(平成18年度 警察庁交通局「交通事故の発生状況」より)と高いことからも、実状に対して大きく貢献することは確かだ。

 もっとも、赤外線レーザー方式にも課題はある。それはドライバーへの報知手段に乏しいということだ。今回、eKシリーズにおける体験でも感じたことだが、報知音から自律自動ブレーキが介入するまでの時間が短く、かつ報知音そのものも非常に小さい。介入時間についてはTTC(Time to Collision/衝突予測時間)によるところなので技術指針の変更とともに、赤外線レーザーセンサーの照射範囲(主に距離)に対する見直しが必須となるが、報知音については音量をアップさせるとともに、オーディオで音楽を聴いている状況であってもドライバーの耳に届きやすい周波数帯の音源に変更するといった手段であれば、大きなコストを掛けずとも実現の可能性は高いだろう。現状、報知音を発するスピーカーはシートベルト未装着警告音などと共有せざるを得ないという技術的な理由も理解できるが、「衝突被害軽減ブレーキ」の主たる目的は“1秒でも早く危険を察知して素早くドライバーにブレーキペダルを踏ませる”ことにあることからも、ぜひ前向きに検討していただきたい。

FCM-Cityとともに、誤発進抑制機能も採用。赤外線レーザーが前方(約4m以内)に車両や障害物を検知している状態で約10q/h以下で走行した際、踏み間違いなどの操作ミスをした場合にブザー音とメーター内の警告灯で注意喚起を行い、同時にエンジン出力を抑制して衝突被害の軽減を図る

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:中野英幸