インプレッション

STI「BRZ tS(2015 Spec.)」

300台限定で発売

 これまでもSTI(スバルテクニカインターナショナル)が手がけたコンプリートカーには乗るたびに感心させられてきた。約2年前に発売された、「(STIとして)当時できることはやり切った」と開発関係者が語ってくれた初代「BRZ tS(2013 Spec.)」も素晴らしい完成度だった。

 そしてこのほど、国内各メーカーから相次いでスポーツカーが送り出されている2015年に、いま一度BRZの存在感をアピールすべく、BRZ tSの2代目(2015 Spec.)が300台限定で発売された。ご参考まで、300台というのは2013 Spec.よりも200台少ない。2013 Spec.に対する2年分の進化はいかなるものか興味深いところだ。

 まず気になったのは、試乗用として用意された中に2013 Spec.では「GT PACKAGE」として設定されていた、GTウイングを装備するレーシーなルックスのモデルがないことだ。代わりにリップタイプのトランクスポイラーが装着されていた。確認したところこれもオプションで、ツルシでは何も付かず、さらにオプションでは2013 Spec.と同じカーボン製の価格30万円超のGTウイングも好みで選べるそうだ。

 事情を聞くと、2013 Spec.は比較的年齢層の高いユーザーが多く、派手な外観が敬遠される傾向にあったので、2015 Spec.では任意で選べるようにしたのだという。一方で、ボディーカラーに鮮烈な「サンライズイエロー」の設定があり、そちらは限定100台の販売となる。こちらが好みの人はとにかく急ぐべし。

BRZ tS(2015 Spec.)のボディーサイズ(参考値)は4260×1775×1310mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2570mm。6速MT車と6速AT車を設定し、価格はそれぞれ399万円、407万1000円
撮影車のボディーカラーは、100台限定で用意される専用色のサンライズイエロー(3万2400円高)
フロントまわりでは、STI製フロントアンダースポイラーやチェリーレッドの加飾が入る専用フロントグリル、LEDデイライナー&STI製LEDデイライナーカバーエクステンションなどを採用
ドアミラー(ヒーテッド機能付き)はブラックに塗装される
足まわりはブラックに塗装されるSTI製18インチ(7 1/2J)アルミホイールにミシュラン パイロットスーパースポーツ(225/40 ZR18)の組み合わせ。ブレンボ製ブレーキシステム(フロント:対向4ピストン、リア:2ピストン)では、新たにドリルドディスクが採用されている
ブラックカラーのフロントフェンダーガーニッシュ(STIロゴ入り)
シャークフィンタイプのルーフアンテナもブラックカラーとなる
オプション設定となるマットブラックのトランクスポイラー(4万8600円)
リアバンパーにもチェリーレッドの加飾が。マフラーは左右2本出しのレイアウト
ブラックとレッドを基調としたBRZ tS(2015 Spec.)のインテリア
ドアトリムにレッドカラーのアクセントが入る
「tS」のロゴ入りキッキングプレート
本革巻ステアリングホイール(高触感革)を装備
6速AT車のペダルまわり
オーナメント(tS LIMITED EDITION 300)入りのカーボン調インパネパネル
6速AT車の本革巻シフトレバー
6速MT車の本革巻シフトノブ
STIロゴ入り専用スポーツメーター。スピードメーターは260km/hまで刻まれる
運転席右側にLEDデイライナーのON/OFFスイッチが備わる
レカロ製のバケットタイプ(SRSサイドエアバッグ付)は、大腿部をシート座面の前端部で支持するサイサポート性を高めたもの。運転時の疲労軽減が図れるという

徹底して応答遅れを排除

 内容を確認すると、2013 Spec.から色々な個所が変更されている。ベース車両自体がD型となり、剛性向上などが図られていることはもとより、走りに直接関係しそうな部分もいくつか変わった。

 まずサスペンションダンパーは、2013 Spec.がショーワ製だったところ、2015 Spec.ではSTI製ビルシュタインとされた。また、曲げやねじり成分は逃がしてヒステリシスを抑えつつ、軸方向に高い剛性を発揮するという「フレキシブルVバー」と呼ぶSTIの中でも新しいアイテムが、エンジンルーム内のフロントストラットタワーとバルクヘッドにかけて装着されている。そのほかにもブレーキまわりやシートなども2013 Spec.から変更を受けた。

水平対向4気筒DOHC 2.0リッター「FA20」エンジンは最高出力147kW(200PS)/7000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/6400-6600rpmを発生。フロントストラットとバルクヘッドの距離があるBRZの車体構造に合わせ、ピロボールを組み込む新開発の「フレキシブルVバー」を採用する

 会場で開発関係者によるプレゼンテーションを聞き、インタビューも試みたのだが、そこで印象的だったキーワードは「操舵応答性」と「質感」だ。

 2015 Spec.に乗って最初に感じたのは、スポーティさが増したということだ。ビルシュタインを得た足まわりは引き締まった乗り味を感じさせ、路面の状況を分かりやすく伝えてくれる。そしてアナウンスどおり、操舵に対する応答遅れが本当に小さい。ステアリングを操作したとおりに遅れることなくノーズが向きを変えるとともに、リアにも遅れなくコーナリングフォースが発生する。その際の姿勢変化も極めて小さく抑えられていて、揺り返しもほとんどない。見事なまでに走りの一体感が表現されている。

 ステアリングレシオに手を加えていないにもかかわらず、あたかもクイックに変更したかのような印象すらある。ただし、あくまで「応答遅れ」がないのであって、「ゲイン」がないわけではなく、そこがまたよい。

インタビューに答えていただいた開発陣の面々。左からSTI 取締役 商品開発部 部長 森宏志氏、STI 商品開発部 車体実験グループ 担当部長 渋谷真氏、STI 車体技術部 部長 毛利豊彦氏

 高速道路に入ると、直進安定性が極めて高いことを実感する。そして微少な舵角を与えると、まさしくそのとおりに正確に反応することが分かる。また、車速が高まるほどに姿勢がフラットに落ち着いていく。いろいろ新たにチャレンジしたことが着実に効いているようで、2輪駆動のスポーツカーで、これほど高速道路を安心して走れるというのはちょっと心当たりがない。

静粛性と聴かせるサウンドを両立

 もう1つ印象的だったのが音についてである。「静粛性を高めつつも、サウンドを楽しめるようにした」と伝えられ、それがどういう状態を意味するのかと思っていたのだが、実際にドライブして納得できた。

 不快な音は確かに抑えられていて、騒々しく感じることなく心地よいスポーティな音だけが抽出されて聴こえる。このクルマの開発にあたっては、走りや乗り心地だけでなく静粛性までを含めて一格上の質感を出すことを念頭に置いたとのことで、インシュレーター類を各部に追加するとともに、エアフィルターを目的に合うものに変更している。

 また、2015 Spec.では助手席の同乗者にも上質な走りを楽しんでもらうということも重要なテーマとして掲げている。そこで筆者も助手席に乗ってみたところ、引き締まった乗り心地には硬さも感じるものの、けっして不快には感じない硬さであるように思えた。

 そのほかでは、サイサポート性を高めたというシートはホールド感が増し、ハードブレーキングの身体の保持性能も高まったように思う。

 2013 Spec.の登場から2年足らずが経ち、ふたたび現れたBRZ tSは前作の延長上にありつつ、新しいアイテムを得てハンドリングや音の面で着実に進化を果たしていた。STIが手がけたクルマならではの完成度に期待する、あえてSTIのコンプリートモデルを選ぶ人にとって、十分に満足できるであろう仕上がりであった。

【お詫びと訂正】記事初出時、ペダルまわりの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学