インプレッション

シトロエン「C4(1.2リッターターボ)」

完全自社開発エンジンを搭載

 2010年夏に発表され、約1年後に日本への導入が始まった2代目の現行シトロエン「C4」。フォルクスワーゲン「ゴルフ」を筆頭に、欧州の強豪ひしめくカテゴリーに属するこのモデルに、このほど大幅なリファインの手が加えられた。

 とはいえ、一見した限りでは「ちょっとライトのデザインが変わったくらいでしょ?」と、そんな風にも受け取られてしまいそう。実は、今回のリファインでのもっとも見どころあるメニューは、ランプ類のグラフィック変更などのフェイスリフトとともに実施をされた、心臓部の換装にこそあるのだ。

 従来の直列4気筒DOHC 1.6リッターターボに代わって搭載されたのは、完全新開発が行われた直列3気筒DOHC 1.2リッターターボ「HN02」エンジン。単にダウンサイズ/レスシリンダー化が図られただけでなく、従来エンジンがBMWとの共同開発によるものであったのに対し、新エンジンはPSA(プジョー・シトロエン)グループの手による完全自社開発という点も注目すべきポイントだ。

新エンジンの直列3気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボ「HN02」は、「C4 セダクション」と装備の充実化を図った「C4 セダクション アップグレードパッケージ」(写真)に搭載。前者は276万円、後者は296万円。ボディーサイズは従来と変わらず、4330×1790×1490mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2610mm
「C4 セダクション アップグレードパッケージ」では新デザインの17インチアロイホイール(ダイヤモンドカット加工)、リバースギヤ連動ドアミラーチルト機能、電動ブラインド付き大型パノラミックガラスルーフなどを標準装備
従来モデルからヘッドライトデザインを刷新し、白色に点灯するLEDランプを標準装備
リアコンビネーションランプにもLEDを採用

 そもそも、ディーゼル乗用車比率が高いことで知られる欧州のマーケット。その中でもシトロエンの本拠地であるフランスは、全体の7割以上をディーゼル車が占めると言われるほどのディーゼル大国。加えて、プジョーやルノーも含めた現在のフランスメーカーは、ガソリン車が大半のシェアを占める巨大マーケット・アメリカでの商売を行っていない。かくして、そんなブランドが手掛ける商品はこれまでディーゼルモデルが主役となり、必然的にガソリンモデルは“脇役”になる傾向が避けられなかった。

 それだけに、此の期におよんで今回オールニューのガソリンエンジンをPSAグループが自ら開発と初めて耳にした際には、その真意を図りかねたもの。だが、どうやらそこは、今の時代ならではの事情が大きく影響しているようだ。

完全自社開発の直列3気筒DOHC 1.2リッターターボ「HN02」エンジン。最高出力96kW(130PS)/5500rpm、最大トルク230Nm(23.5kgm)/1750rpmを発生し、トランスミッションは6速ATを組み合わせる。JC08モード燃費は16.3km/Lをマーク

 そもそも、ガソリンモデルに比べて多少割高となるディーゼルモデルが、それでも彼の地のベーシックカー・カテゴリーで強く支持されてきたのは、それが燃費経済性に優れ、走れば走るほどにランニングコスト面でのメリットが大きかったゆえ。ところがこのところ、そうした風向きが少しずつ変わりつつある。

 度重なる排ガス規制の強化に対応するために、昨今のディーゼルエンジンは高度な後処理装置の装備が不可欠。となると、特に比較的安価なモデルではそのためのコストが重荷となり、ガソリンモデルに対するアドバンテージが薄れつつあるからだ。

 今回PSAグループが、これまで手薄だったガソリンエンジンを突然手掛けたようにも見える背景には、そうした時代の動きの影響があったはず。これが、これまでガソリンエンジンの分野で手を組んできたBMWと袂を分かち、自身での開発へと方針転換をした理由の1つと想像ができるわけだ。

「C4 セダクション アップグレードパッケージ」のインテリア
後席は分割可倒式を採用する

新エンジン、その乗り味は?

 排気量を落とし、気筒数の削減までを行った新たな心臓を、こちらもこれまでの“2ペダル式MT”に代えて日本ではよりオーソドックスなトルコン式のステップATと組み合わせて搭載する最新のC4。となると、誰でも気になるのは当然その走りの実力であるはず。というよりも、本音を言えば「そんな1.2リッターなんかでマトモに走るのか?」と考える人が大半かもしれない。

 車両重量は1.3t超。対して発生される最高出力は130PSだから、そんなデータを見る限りは俊敏な走りは期待薄。だが、ここで注目すべきはトルク値だ。1750rpmで発せられる230Nmという数字は、2.0リッター級の自然吸気ガソリンエンジンが発する値に匹敵するものだ。

 アイドリング・ストップ機構が標準で採用されるものの、それが作動しない状態でも3気筒特有のノイズはほとんど気にならない。一方で、ごく低回転域では4気筒ユニットと異なる感触の微振動がわずかに感じられる。あとにも先にも「3気筒らしさ」を意識させられるのは、この部分のみと言ってよい。

 一方で、1気筒を削減した故のフリクションの小ささを実感させてくれるのが、低回転域で期待以上に太いトルク感。それは、ごく普通のスタートを切った瞬間から明確。特に1000rpm台半ばから2000rpm付近にかけては、この心臓の最大の見せ場と表現してもよさそうだ。

 ちなみに、そんな心臓と組み合わされる6速ATの仕上がり具合は、ごく標準的と言えるもの。ただし、ブレーキを掛けるまでもなくちょっとした減速力が欲しい場面などのために、シフトパドルの装備を望みたくなったことを付け加えておきたい。

 今回は短時間のテストドライブのため、燃費の計測には至らなかった。「従来型比で約20%の向上」という説明が聞かれるように、当然この実力も向上しているはず。

 ところで、従来型と比較すると車両重量も40kgほど軽くなったのが新型。そして、そうした重量差はパワーパックが搭載されるフロントまわりで生じていると考えられる。それでも、フットワークの印象などに従来型との目立った違いは感じられなかった。時にバネ下の動きがやや重い感触があるものの、ピッチ挙動が封じ込められた穏やかな走りのテイストは相変わらずだった。

 大型のパノラミック・ガラスルーフに加え、スマートキーやブラインドスポット・モニターなどが標準装備として加えられたうえで、従来モデルとの価格差はちょうど20万円。となれば、販売の主力はベースの「セダクション」よりも「アップグレード・パッケージ」となるはずだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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Photo:安田 剛