【インプレッション・リポート】
レクサス「IS350 F SPORT」「IS350C」「RX270」「IS F」

Text by 岡本幸一郎


 日本車としては珍しく、イヤーモデル制をしいているレクサスが、2011年モデルを揃えた試乗会を開催した。展示車も含め30台近くのレクサス車がズラリと並んだが、その中から新たに追加された「IS F SPORT」「IS350C」「RX270」と、さらにリファインされた「IS F」の4台を試乗できたので、今回はそのレビューをお届けしたい。

IS350 F SPORT
 2005年9月の登場と、すでにかなり時間の経過している「IS」だが、センスのよいデザインのおかげで、あまり古く見えないところがよい。そして、2010年8月のマイナーチェンジで、フロントグリルおよびバンパー、リアコンビランプ、アルミホイールなどが変更され、ボディーカラーに新色3色を含む全11色が用意されるなどリフレッシュされた。

試乗したのはIS350 F SPORT。ボディーカラーはレッドマイカクリスタルシャイン

 さらに、今回試乗した「F SPORT」というスポーティバージョンが新たに追加されたのが気になるニュース。「F」というのは、いわずとしれた、「LFA」を頂点とするレクサスのスポーツスピリットを象徴する文字。F SPORTはその名に恥じぬ数々の専用アイテムを持ち、エクステリアにおいては、スポーティな意匠の専用フロントグリル、前後スポイラー、エンブレムを施したフェンダー、専用ホイールなどが与えられ、足まわりには専用のチューニングが施されている。インテリアにおいては、パドルシフト付の専用本革ステアリング、本革シフトノブや専用ヌバック調ファブリック/本革スポーツシートなどが装備される。

マイナーチェンジにより意匠変更されたフロントバンパーにはF SPORT専用のスポイラーが付くヘッドライトにはL字型のLEDポジションランプを新たに装備グリルも意匠変更がされた
F SPORT専用の18インチ軽量アルミホイール。サスペンションもF SPORT専用だトランクに付くスポイラーもF SPORT専用装備テールランプはマイナーチェンジで意匠変更

 ISというと、2年前にも足まわりのチューニングが変更され、それまで全体的に乗り心地が固めだったところが、適度にマイルドになり好印象だった。そしてF SPORTでは、IS Fのようにサーキットまでは求めないが、日常の中でもっと運転する楽しさを味わってもらえるよう、快適性を損なわない中でスポーツ性能の向上を図ったという。

 足まわりは、スプリングとダンパーだけでなく、リアのスタビライザーも専用にチューニングされており、リアのサスペンションアームの両端のゴムブッシュについてはIS Fのハードなものを流用しているとのこと。電動パワステのチューニングもベース車と変えるなど、そのセッティングにはけっこう力が入っている。

 箱根のターンパイクを飛ばした印象はなかなかよかった。ステアリング操作に対し、気持ちよく遅れることなく反応するので、ステアリングを切るのが楽しみになる。引き締められた足まわりは、大きく姿勢変化を起こすこともなく、かなり高い旋回Gでもよく踏ん張って粘る、いかにも攻めて楽しめる味付けだ。

 IS Fと比較しても、フロントが約100kgも軽いぶん、ノーズの動きが軽快に反応するので、その点ではむしろスポーティにすら感じられるほど。ただし、回頭性のよさを持つ一方で、ステアリングの中立付近が曖昧なフィーリングで、少し切り込んだところから一気にヨーモーメントが立ち上がるというクセがあるようで、最初は手探りで少々戸惑った。市街地ではあまり気にならないかもしれないが、そういう微妙な領域のさらなる洗練にも期待したいところだ。

 今回は、IS350のF SPORTのみ試乗し、販売的にははるかに多いIS250には乗っていないのだが、両者の違いというと、約100PSも違うエンジンについては、そのとおりの違いはあるだろうし、フロントブレーキが片持ちか対向ピストンかという違いもあるし、吸排気系や冷却系等を含むエンジン自体の重量も違えば、ブレーキも異なるなど、フロント軸重で約30kgの差があり、これもハンドリングに少なからず影響するはずだ。

 ISが今回、こうして2度目のマイナーチェンジを実施したということは、まだまだ現役でいくということなのだろう。そして、明確にスポーティテイストを出したF SPORTの設定は、登場から5年が経って、ようやくISに「本命」が登場したのではないかと思ったほど。やはりスポーティモデルは、このくらい分かりやすくスポーティであってくれたほうが魅力的だ。

IS350C
 ISを2ドア化し、電動開閉式メタルトップを与えたコンバーチブルのIS Cが、最初に日本で発売されたのが2009年5月。だたし、海外では3.5リッターや3リッターの設定があったものの、日本では2.5リッターの「IS250C」のみの設定とされた。日本では、圧倒的に2.5リッターが売れていたことと、販売価格を下げることが理由のようだが、こうしたクルマは価格よりも中身の充実が大事なのでと思い、どうせ1機種に絞るなら、IS250CよりもIS350Cのほうがよいんじゃないかなという気は最初からしていた。そして、ようやく3.5リッターが加わり、好きなほうが選べるようになった。

3.5リッターエンジンを搭載したIS350C。オープン状態(写真上段)とクローズ状態(写真下段)

 IS350Cの話に移る前に、ひさびさに味わったIS Cの世界について述べたい。電動メタルトップは複雑な動きをしながらも20秒で開閉可能で、後席も広いとはいえないまでも、それほど窮屈ではなく、成人男性4人が、なんとか乗れるスペースが確保されているのが特徴。

 ディフレクターは標準では付かずオプション扱いとなっているが、サイドウィンドーを上げていれば、風の巻き込みはかなり小さく抑えられる。空調もクローズ時とオープン時でそれぞれ最適に制御してくれる。ちなみに今回、すべての窓を一括して開閉できるスイッチが新設定され、使い勝手が向上した。

わずか20秒で開閉可能な電動メタルトップ。内側にある黒いパーツは、オープン時は左右に広がり、Cピラー付け根部のカバーになる
オープン時のトランク。ルーフが収納されるため、十分な広さとは言い難いこの状態でもサブトランクにアクセスできる
クローズ状態にするとトランクの広さは2倍ぐらいに広がるサブトランクの前半部には工具などが収められていた

 オープンカーということで「インテリアもエクステリア」になるIS Cだけに、インテリアのカラーコーディネートもセダンとはまったく異なり、華やかな設定も。さらに今回、新色3色が加わったし、「Art Works」という仕様も設定された。

内装色はブラックやホワイトに加え、ライトグレーやサドルタン、写真のブラック&レッドなども選べるアルミ調の加飾が入ったステアリングセンターパネル
3.5リッターV6エンジンは最高出力234kW(318PS)/6400rpm、最大トルク380Nm(38.7kgm)/4800rpmを発生する

 今回、実際にIS350Cに乗ってみて、予想どおり好印象だった。やはりこういうクルマは、トルクのあるエンジンで、エンジンが騒々しくならない領域で、あまり回さずに乗ったほうがよい。少々の上り坂でもシフトダウンを必要とすることなく、余裕を感じながら走っていける。多少は価格が上がっても、ずっと優雅に乗れて、このクルマには間違いなく似合う。

 そもそも、セダンよりも車重が150kg以上も重くなっていたのだから、同じエンジンだと物足りなくなるのは必然。IS250CもV6という救いはあったものの、登坂路は少々キツかったのは否めない。たとえIS250CのバージョンLに比べて85万円高の620万円になっても、それは決して小さな価格差ではないが、それでもIS350Cをオススメしたいと思う。

 ハンドリングについては、基本的にはISのよさを受け継いでいるものの、メタルトップの開閉により大きな重量物が移動するため、開閉によるフィーリングの変化は、注意深く乗ると、それなりに感じられる。また、ボディー剛性の確保には相当に力を入れたとのことで、オープンカーの弱点と思しき部分は概ねよく抑えられている。オープンカーにありがちなスカットルシェイクは、やはりこうした機会に屋根付きのクルマと横並びで乗り比べると、多少は感じるものの、単独で乗るとあまり気にならないレベルに抑えられている。

箱根の登坂路もシフトダウンすることなく余裕で登っていくトルクは、IS Cに似つかわしいものだと思う。オープン時のボディー剛性も高く確保されている

 この価格帯のクルマを買える人は限られるし、そんな人たちにとっては、もっと欧州勢のほうに目が向きがちだと思うが、日本にもこんなクルマが存在することをお忘れなくと言いたい。そして今回、IS Cの本命であるIS350Cが追加されたことを歓迎したいと思う。

RX270
 RXは、2009年1月に発売された。ハリアーにひきつづきハイブリッドの設定が注目を集めたが、全体の売れ行きは、当初こそ月販目標を上回ったものの、その後はあまり芳しくないようだ。一方で、健闘しているのがハリアーだ。本来はRXの発売とともに販売終了となるはずだったところ、販売サイドからの強い要望により、2.4リッター車のみを残した、力の入っていない販売体制ながらも、コンスタントに月1000台前後が売れているのだ。おかげで、いつやめてもおかしくなかったはずのハリアーの販売は、当面継続される模様だ。

 原因はハリアーが本来RXに来るはずの客層をとどめさせているわけではなく、RX自体の商品性にあるのではと思う。なにしろ価格が高い。さらには、全長4770mm、全幅1885mmという、日本ではもてあます大柄なボディーサイズも、万人向けではない。そもそもレクサスの販売網が十分に充実しているとは言い難い。

 そんな中で今回、まずは価格を少しでも安くということで追加されたのが「RX270」だ。車両価格は415万円~473万円と、けっして安くはないが、これまではRX350が460万円~565万円、RX450hが545万円~650万円だったことを考えると、RXとしてはちょっと値ごろ感が出たと言えるだろう。

撮影車はレクサス開業5周年を記念した特別仕様車「RX270 Art Works」。Art Worksは、スペインのデザイナーデュオ「Stone Designs」を起用したアーティスティックラインで、レクサスに新たな価値を持ち込んだ
Art Works専用装備として、フロント周りではブラッククリアの専用カラードグリルを装備。また、サイドにはショルダーラインに専用ストライプがあしらわれる
ホイールは19インチアルミホイールを装備リア周り。ゲート左側にRX270のバッヂが付く
インパネ。ブラッククリア塗装のコンソールアッパーパネルがArt Works専用装備ステアリングは本革巻きでカームレッドステッチは専用装備カームレッド、カームベージュ、カームグレーを組み合わせたインテリアは真昼の陽射しをテーマにしたカラーリング
2.7リッター直列4気筒エンジン

 RX270に搭載される2.7リッター直列4気筒エンジンの1AR-FE型というのは、ハイランダー等の北米で販売される中堅SUVに搭載されており、国内では初搭載となる。最高出力138kW(188PS)/5800rpm、最大トルク252Nm(25.7kgm)/4200rpmを発生。ちなみにRXで唯一のレギュラーガソリン仕様で、10・15モード燃費は10.4km/Lと、エコカー減税で50%減税の対象となる。トランスミッションは6速ATで、駆動方式は4WDがなく2WD(FF)のみの設定だ。

 ドライブフィールは、すべて「270」と聞いてイメージするものに「相応」という印象だ。1.8t超もの車体を250Nm少々のトルクでひっぱるのだから、平坦地はまだしも、上り坂はキツイ。さらに、細いトルクを補うべく、スロットルゲインが高められているので、踏み始めの飛び出し感が強く、かなり気を使う。逆に、パーシャル領域では、少し踏み増しても無反応という領域も。

 まあ、このあたりは市街地メインのユーザーには大きな問題はないかもしれないが、音質もいかにも4気筒という印象。全体的に安っぽいのは否めず、回転を高めるとかなりノイジーになり、あまり「レクサス」というイメージには似つかわしくない。

 ただし、運転すると鼻先の軽さを実感するところはよい。操舵力の軽さだけでなく、ステアリングを切った際のノーズの入り方も軽く、大柄な車体ながら、意外と軽快なフットワークを身に着けている。この軽さを好む人も少なくないことと思う。それがドライビングプレジャーかと言われれば、それほどでもないわけだが、軽快で、乗り心地も悪くなく、乗り味に大きな不満はない。

軽くなったエンジンのおかげで軽快感はあるが、特に箱根のような登坂路ではエンジンの力不足を感じてしまう

 装備面では、RX270にはレーダークルーズコントロールやプリクラッシュ、インテリジェントAFS、プラズマクラスター、カードキーなどの設定がないところは覚悟だが、その他はとRX350に対し大きな差異はない。

 とりあえず、RX270の追加により、RXが少しだけとっつきやすくなったことは間違いない。だからといって、ハリアーを買おうかという人が、背伸びしてRXに行くほどでもないと思うが、もともとRXに興味を持っていて、できるだけ安く買いたいと思っていた人や、RX350の下に何かあればよいと思っていた人、エコカー減税で少しでも得した気分になりたいといった人にとっては、背中が押された気持ちになれるだろうし、これで十分という人も少なくないだろう。それでも、個人的にはあまりオススメしたくないモデルではある。価格差を考えても、もうひとがんばりしてRX350を選ぶほうが賢明ではないかと……。

IS F
 今回、IS Fも微妙に変わったのだが、こちらはマイナーチェンジではなく、年次改良だ。これまでも足まわりのチューニングを変えたり、トルセンLSDを採用するなどして、走りを洗練させてきたが、今回もさらに足まわりのチューニングが変わった。前の印象がよかったので、そこからどうするのかと興味深かったのだが、快適性の面で不満の声が小さくなかったらしく、それへの対応という感じだ。

年次改良の加えられたIS F専用の5リッターV8エンジンは、最高出力311kW(423PS)/6600rpm、最大トルク505Nm(51.5kgm)/5200rpmを発生
フェンダーにあしらわれたFのエンブレムフロントには6ピストン、リアに2ピストンのブレンボ製対向キャリパーを装備縦に並んだツインテールマフラーが特徴
インパネシフトパドル付きのステアリングタコメーターを中心としたメーター。スピードメーターは330km/hまで刻まれる
ダークシルバーリースターリングファイバーのパネルはメーカーオプションホワイト&ブラックの内装シート表皮にはセミアニリン本皮を使用。前席は電動8wayパワーシートだ

 ただし、単に柔らかくしたというのではなく、あくまで「熟成」と表現し、乗り心地と操安性のバランスを図ったもので、狙いとする方向性を変えたわけではないとしている。ハード面ではまったく変わらず、変わったのは味付けの部分のみで、これまではときおり突き上げ感のある乗り味だったところ、だいぶしっとりしたように感じられた。

 今回新規設定されたF SPORTに対しても、IS Fのほうがしなやかに感じるシチュエーションも多く、全体的にも、もともとこうした仕様を想定して作ったなりのまとまりのよさがあるように思う。そしてIS Fというと、スペシャリティカーとしてとても特殊な存在という印象があるかもしれないが、実はよくよく考えると、ISの上のほうのモデルとの価格差が意外と小さいことに気づいたりした。

従来より乗り心地のよくなったサスペンション。といってもそういう方向を目指したのではなく、運動性能はそのままに熟成を進めたと言う


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 2月 18日