レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】トーヨータイヤ「オブザーブ・ガリットギズ」(アイス編)

新横浜スケートセンターのアイス路面で走行

 2014-2015年シーズンに新たに登場したトーヨータイヤ(東洋ゴム工業)のスタッドレスタイヤ「OBSERVE GARIT GIZ(オブザーブ・ガリットギズ)」。スノー編でお伝えしたとおり(http://car.watch.impress.co.jp/docs/review/20140828_663980.html)、以前のガリットG5よりも剛性感にあふれ、スノー路面では安定性がかなり高まっていた。ただ、2月に行われた北海道のテストコース試乗では、気温の上昇からアイス路面を試すことができない状況。そこで、トーヨータイヤはスケートリンクにおいてアイス性能のみをテストする機会を新たに設けた。

 ガリットG5はタイヤ全体をたわませることでアイス路面に適応しようとしていたことが顕著に見られるタイヤだった。いかにも柔らかく、だからこそアイス路面を得意としていたということなのだろう。その半面、スノー路面におけるヨレが気になってしまっていたのだ。だが、新生ガリットGIZはそれとは真逆の特性を持っている。平たく言ってしまえば剛性感のある硬いタイヤなのだ。だからこそ氷上での性能はとても気になるところだ。

 トーヨータイヤによれば、ガリットGIZには「NEO吸水カーボニックセル」や、氷に密着する「ナノゲル」などを盛り込み、氷の表面にある水膜を除去するための秘策があるという。さらに、トーヨータイヤの特徴ともいえる鬼クルミ殻が配合されている。アイス路面対策はバッチリだというが果たして?

 テスト会場となった新横浜スケートセンターを訪れてみると、その場所は当然といえば当然だが、クルマで走るにはかなり狭いコースだった。おかげで試乗車となる「プリウス」が街中で見るよりもかなり大きく感じる。それはドライバーズシートに収まってみると、さらに狭さが際立ってくる。パイロンで規制されたコースは、クルマ1台が走るのがやっとというコース。とてもガンガン走る気にはならない。ハッキリ言ってかなり怖い。ただ、スケートリンクの氷上は、-7℃に設定されているとのアナウンスがあるなら安心か? これならスライドの原因となる水膜も少なく、アイス路面にしては路面μが高い状況だ。

ガリットGIZ
ガリットG5

 まずは前世代の製品であるガリットG5を装着したプリウスでコースイン。すると発進時にはすぐにホイールスピンが始まりスタビリティコントロールが介入。たかだか10km/hほどで駆け抜ける緩いスラロームでは、グリップ感がかなり薄い。ステアリングの反力はスカスカで、いかにも氷の上を走っている感覚である。その後、タイトな円旋回に15km/hほどで突入すると、ステアリングに大きな操舵角を与えてようやく反応するイメージ。大舵角を与えてフロントのドラッグをあえて作り出して曲げて行く、そんな走り方が合っていそうだ。

試乗コースは新横浜スケートセンター。左奥がスタート地点

 その後、円旋回から脱出しようとすると、フロントタイヤは急激に滑り出す。手前で与えていた大舵角からのお釣りをくらうようにグリップがすっぽ抜ける。おかげで、その後に控えていた急制動テストの進入スピードである20km/hまで加速するのが非常に難しかった。対して急制動は、フロントタイヤですべてを請け負っている感覚。減速はつんのめって止まるように感じる部分がある。つまりは、リアタイヤが仕事をしていない感覚なのだ。これはタイヤが持つ柔らかさが、ピッチングに表れ、リアの荷重が抜けるのかもしれない。

 対するガリットGIZはスタート時のトラクションもよく、プリウスのトラクション制御であるスタビリティコントロールの介入がガリットG5よりも遅いところが好感触。ステアリングの切り始めから確かな手応えがあり、クルマ全体が反応し出すところも特徴的だ。ガリットG5よりも小舵角ではじめのスラロームを駆け抜けることが可能になる。その分、ペースが上がってしまうことを認識しておかなければならないほどだ。

 そのため、続く円旋回への進入はきちんと減速。旋回ブレーキのコントロール性もわるくはない。円旋回に突入すると、ガリットG5よりも明らかに小舵角でコーナーリングしていることが感じられる。おかげで、そこからの脱出時にスロットルを入れても、急激に横方向のグリップが抜けるようなこともなく、その先の急制動テストへ向けてスピードを乗せて行けるのだ。

しっかりとしたグリップ力を感じることが可能な円旋回

 アンダーオーバーを出しにくい、それがガリットGIZのメリットの1つ。スノー路面で感じられていた性能はアイス路面であっても変わらぬ印象を得ることができる。そして最後の急制動をしてみると、4輪がバランスよく減速させている感覚があり、先ほどよりも短く止まることができた。まるで屋根から押し付けられるように止まるこの感触は、氷上路面において安心感に繋がるだろう。結果として20km/hからのフル制動では、フロントのオーバーハング分くらいガリットG5より短く止まることができた。

 このようにガリットGIZのアイス性能には、たしかな手応えを感じることができた。ただし、この性能を過信してペースアップしてしまえば、グリップを失う時にリスクがかえって大きくなっていることを忘れずに。頼れるからといって、それを使い切ればより痛い目を見てしまう。ガリットGIZは、そんなことを心配してしまうくらいに、実力アップしているタイヤだと感じた。

トーヨータイヤ ガリットGIZ vs. ガリットG5。20km/hからの制動映像

Photo:安田 剛

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。