飯田裕子のCar Life Diary

国内最大規模の実弾射撃演習「富士総合火力演習」を見てきた

大人気の総火演

 今年も陸上自衛隊の総合火力演習「平成25年度富士総合火力演習」(通称“総火演”)に行ってきました。この演習に携わった隊員は約2400名、そして戦車や装甲車が約80台、各種火砲が約50門、航空機も約30機が登場しました。どれが何でどんなカタチをしているのか分からない方は、とにかく沢山の種類の実演を見られたとご理解ください。私自身も専門用語は正直、よく分かりません(苦笑)。

早朝に取材陣の入場がオープン。目的によって距離や場所は異なるものの、グリーンの草むら一帯が標的になります。そして会場には多くの人が詰めかけました

 しかしながら、この総火演は国内最大規模の実弾射撃演習。学生教育が主目的ながら、地元住人や一般の方に公開し、理解や認識を深める役割を果たしているそうです。ところがこのイベント(一般人にとってはイベントですね)を知る人はご承知と思いますが、とにかく大人気。見学は抽選により選ばれるのですが、今年の一般見学希望の抽選倍率ははがきでは15.9倍、インターネットでは21倍だったそうです。これだけの演習を見る機会は年に一度ですから、応募が殺到するのも分かります。ただ観覧席のスペースには限りがあるため、人数を増やせないのが現実だと広報の方がおっしゃっていました。

 自衛隊の活動は私たちの身近なところではさまざまな災害への対応、そして島国である日本とその領土を守るための侵略阻止や排除、地域の伝統行事やロードレースなどの支援、さらに札幌の雪まつりでは雪像の作製などを行う様子をニュースなどで目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。また、手元の資料を見ると、自衛隊について私たちが理解を深めるために今回のような公開演習や航空機の体験搭乗、部隊の見学などさまざまな広報活動を各地各部隊で行っているようです。

毎年、演習とともに楽しみなのが出店でございます。さまざまな迷彩グッズ、スーパーやコンビニではお目にかかれないオリジナルのお菓子、カレーなども珍しくて興味深い。また地元の郵便局が臨時開局し毎年限定記念切手の発売を行っているそうですが、すぐに完売してしまうのだとか

2部構成で行われた公開演習プログラム

 さて、今年の総火演。公開演習プログラムは例年と同じく2部構成。統制のとれた隊員の方々の動きと訓練の成果による自衛隊の火砲(銃器やミサイルなど火薬を用いた兵器)での正確な攻撃とその迫力が見もの。

 前段では陸上自衛隊の主要装備が紹介されます。遠距離/中距離/近距離と異なる距離に対応する火砲を紹介。例えば一番最初に登場した遠距離火力の紹介パートでは、今回の会場である静岡県御殿場市の東富士演習場畑岡地区から熱海市付近まで攻撃ができるという155㎜りゅう弾砲FH70や最大口径の203㎜自走りゅう弾砲、伊東市付近まで攻撃可能な99式自走155㎜りゅう弾砲の実演が見られました。というように、それぞれの目的に応じた戦闘装備の説明を聞きながら実演が見られます。

 1パート毎の凄さがすべて分からなくても、ひと通り見るとそれぞれの役割や異なる凄さ(攻撃力)が引き立って見えてくるのは、このプログラムを考案した方の狙い通りかもしれません。また、例えば戦車などが目の前に登場する際にはグリーンの旗を掲げているのですが、攻撃態勢に入るとその旗がレッドに変わります。すると観覧席から見る私でも緊張感を覚えるものです。その旗のチェンジの素早さも流石という感じ。

グリーンの旗が見えているときは攻撃しない合図。レッドが掲げられると攻撃が始まるのでどれだけ大きな音を発するのか、どんな発射をするのかと、ちょっと緊張します

 後段では領土に侵入しようとする敵に対し、陸上・海上・航空自衛隊が統合して行う作戦や、攻撃にストーリー性を持たせた内容に沿って紹介されました。その内容は記載のアドレスから動画で見ることができるので、詳細はぜひそちらをご覧ください。空や洋上の敵に対する攻撃は映像なども交えて紹介されるのですが、ヘリコプターやF2戦闘機が上空に現れ、その迫力はさすが総火演という雰囲気。また、徐々に沿岸に接近してくる敵に対する攻撃には目の前でりゅう弾砲や迫撃砲、戦車などによる攻撃の方法や効果を知ることができます。

 後半になるとストーリー展開のテンポも徐々に上がり、慌ただしくも円滑かつ正確な行動を目の当りにしてドキドキ……。初めて総火演を見たときは、専門用語や戦車と自走式りゅう弾砲の違いもよく分からなかった私でも圧倒され、それだけでも一見の価値があると思いましたが、今回の見学で3度目ともなると、それぞれの違いや凄さが少し分かってきたような気がします。最近はNHKドラマ「八重の桜」で鉄砲の改良や進化を見ている影響もあるのかもしれません。「99式自走155㎜りゅう弾砲は自動装填が可能です」と言われても、そんなの当たり前だと思っているとそうではないものもあるようで、紹介する価値があるのだと分かったり……。

今年、供試品として初披露された「12式地対艦誘導弾システム」。これは進化ではないのかもしれませんが、1弾あたり1t以上の重さのものを発射できるっていうこと? であるとするなら、想像の域を超えてます

 その点でさらに言えば、戦車は74式、90式、10式の3モデルが登場しますが、74式は1974年式であり90式は1990年式、10式は2010年式であると分かると、わずかながらその進化ぶりがうかがえます。昨年登場した10式戦車は90式に対し10tも軽く、軽量かつ小型で機動性に優れ、移動しながらの攻撃が可能なおかげでより速やかな撤退も可能。今回はスラローム射撃なる攻撃方法でその性能を見ることができました。

 さらにこれまでやりとりを無線で行っていたものがタッチパネル式へと変わり、情報の伝達もぐっと進化しているようです。またネットワーク射撃なるものも可能になり、このメリットはこれまでは例えば連絡を受けて4台の戦車が同時に敵に向かって攻撃を行っていたものを、それぞれの戦車がより正確な情報を素早く受け取り、1台の射撃で効果的な攻撃ができるようになっているのだそうです。おかげで“オーバー・キル”と言われるムダ玉が減るわけです。お財布にも優しい。

 自動車ネタとしては、以前はジープだった車両がパジェロタイプに変わり、燃費も向上。さらに気密性も高まり冷暖房が効果的に効くようになっただけでなく、これまでは大声で怒鳴るように話さなければいけないほど車内はうるさかったそうですが、今は普通に会話ができるのもよいと広報の方がおっしゃっていました。快適性が向上しています。ちなみに、今は戦車も含めほとんどがAT車なのだとか。免許は皆さんマニュアルで取得するそうですが……。

最新式戦車の10式(ヒトマルシキ)。ネットワークシステムの進化により情報伝達方法もタッチパネルによって行われるのだとか。またカメラの進化と多様化も進んでいるらしい。あまり詳しいことは教えてくれないんですよねぇ

 この3年、総火演を見て以来、御殿場市内や東名高速、中央道などで見かける自衛隊のクルマや隊員の方たちの見方も変わっています。親近感すら抱く今日この頃。こういう方たちの出動が現実にあることは望まないけれど、いざというときに対応するための訓練や兵器の実力を知る機会は、民間人にとっても大事だと思いながら会場を後にしたのでした。

 演習の模様は自衛隊HPの動画を見るのがもっとも見やすくて分かりやすい(苦笑)。その内容はこちら(http://www.mod.go.jp/gsdf/event/fire_power/fire_power_25.html)で見ることができます。

1974年式の74式(ナナヨンシキ)戦車。丸みのあるフォルムが好きです
戦闘ヘリコプターのアパッチ(AH-64D)
余談ですが、戦闘ヘリコプターのアパッチやコブラもカッコよいかもしれませんが、私はこちらの観測ヘリコプターOH-1が好きです。ローターのカタチとこの薄さが魅力的に見えます

飯田裕子