特別企画

【特別企画】三井ダイレクト損保の社会貢献活動“ムジコロジー”に本田雅一が迫る(前編)

“渋滞学”を学ぶと事故と渋滞が減る!?

 個人的に抱いていたダイレクト損保に対する認識の甘さに打ちひしがれた三井ダイレクト損保・船木社長へのインタビューだったが、そのなかで突然出てきた「MUJICOLOGY!」というキーワード。読み方はそのまま“ムジコロジー”。なんとも変わったキーワードである。

 今回のインタビューは自動車保険商品の話ばかりになると思っていた筆者は、この一風変わった言葉に飛びついた。しかも、このムジコロジーは営利を目的としていない社会貢献活動だという。いったいどんな社会活動で、また三井ダイレクト損保はなぜ、この取り組みを行っているのだろうか?

自動車事故がもっとも起きやすい状況とは?

 あらためて言うまでもないが、保険という仕組みは「多くの人からお金を集めておき、万が一というときに加入者のために役立てる」ことが基本だ。保険会社はサービスを提供するコストを下げるために構造を最適化したり、集めたお金を効率的に運用するが、あくまでもそこは、よりよい保険会社となるための創意工夫の部分。

 そんな自動車保険だけに、事故が起きたときには契約で決められた保険金を支払うことになる。言い換えれば、事故の頻度(事故率)が下がれば保険会社の支払う保険金が減り、利用者としても掛け金(保険料率)の引き下げにつながる。当然ながら交通事故による被害者も減るわけで、まさに“三方よし”となる。

 そこで保険会社や健康保険を運営する自治体、保険組合などが健康増進活動に力を入れるのと同じように、自動車保険会社は安全運転の啓発に力を入れている。とは言え、安全運転セミナーなどの開催、あるいは支援などといった側方支援がおもになっている。そこで、「もっと本質的な部分で自動車事故削減に貢献できないだろうか」と考えて、三井ダイレクト損保の若手が創案したのがムジコロジーだった。

「“ムジコロジー”はまさに三井ダイレクト損保のDNAが実現させたプロジェクト」と解説する船木氏

「“ムジコロジー”は安心で豊かな社会づくりに貢献するといった目的のために、“環境変化を先取りし、新しいことにチャレンジする”という三井ダイレクト損保のDNAが実現させたプロジェクトです。当社はさまざまな自動車事故の対応を行っており、事故の悲惨さを痛切に感じています。なぜ事故が起きるのかについて、数多くの事例や経験から事故が起きる原因をとことん追究し、その結果として生まれたのが“ムジコロジー”になります(船木氏)」

 船木氏によると、ニュースなどでは無謀な運転や自然災害などによる事故が目立つものの、実際の事故件数は市街地に多く、しかも低速走行時に起きているという。その事故原因について掘り下げてみると、交差点や狭い道でのすれ違いなどで、つい先を急いでしまう気持ちが事故を引き起こしてしまうのだ。そこで、“お先にどうぞ”という譲り合いの心、相手を思いやる気持ちがいかに“自分にとって利益のある行為”なのか。そして事故を減らすことができるのかを啓発する活動として、ムジコロジーというユニークな名称で始めたのだそうだ。

 ムジコロジーの紹介は、三井ダイレクト損保のWebサイトとは独立し、「ムジコロジー研究所(http://www.mujicology.jp)」として現在運営されている。

ムジコロジー研究所のトップページ

“渋滞学”から学ぶ事故予防の心構え

“お先にどうぞ”と互いが思うことで、事故を減らせるだけでなく、互いに気持ちよく移動できる。頭のなかで少し冷静に考えてみれば、これがいかに大切なことか、そして自分自身にとって利益のある(事故の確率を下げ、嫌な思いもしないで済む)ことか分かる。

 しかし、それでも“少しでも前に行きたい”という気持ちがどうしても出てしまうという読者もいるのではないだろうか。三井ダイレクト損保も自動車保険のエキスパートとして、当然そうしたことは想定済み。そこでムジコロジー研究所はさらに一歩踏み込んで、「譲りあうことが渋滞を減らす一番の良薬」であると訴求しているのだ。

 このために三井ダイレクト損保は、ムジコロジー研究所・所長に渋滞学の権威として知られる東京大学の西成活裕教授を迎えている。渋滞の影響はドライバーに対してストレスになり、移動時間が長くなることによる経済損失、燃料消費率低下による環境負荷の増大だけではない。ドライバーへのストレス増大は「少しでも早く先に進みたい」という気持ちを高めて事故率を上げる。また、高速道路での渋滞は追突事故の原因にもなり、高速道路上の事故の2割を占める。国土交通省の試算によると、渋滞による経済損失を合計すると、年間で12兆円にも達するという。

ムジコロジー研究所では、動画を使った渋滞学の紹介のほか、歌と体操で楽しみながら譲り合いの精神を学べる「ムジコロジー体操」などのコンテンツを用意している

 では、渋滞を減らすにはどうすればいいのか? ムジコロジー研究所では、豊富な動画を用いて渋滞の仕組みを解き明かしている。

 たとえば、渋滞は譲り合いをしない限り、どんどん列の後方へと移動し、その長さは(継続的に交通量がある場合)決して短くならない。これは経験則としても理解できるだろう。渋滞の原因が地形や道路設計、あるいはなんらかの障害物やインターチェンジなどにある場合、発生元は移動せずにずっと居座ることになるので、渋滞は後ろに移動しつつ、どんどん新しい渋滞が発生していく。

 そこで渋滞を解消する方法は? というと、これはとてもシンプル。クルマが走る速度が遅い速いにかかわらず、きちんと適切な車間距離を保って運転することだ。速度が遅くなったからといっても車間距離を詰めてはいけない。車間を詰めると前に進む余裕がなくなり、減速せざるを得ない状態になる。減速すれば後続車が保っていた車間距離も縮まり、次の減速に連鎖していく。しかし、車間距離をとっておけば一定の速度で走行しやすくなるので、渋滞が起きにくくなるというわけだ。

【MUJICOLOGY!研究所】「渋滞学」交通の三銃士

 すべての人が私欲を捨て、車間距離を詰めたり、あるいは無理な割り込みをしなければ、たとえ一時的に渋滞が発生してもすぐに解消されていく。「本当に?」と確かめたい方は、ムジコロジー研究所のWebサイトを訪れてみるとよいだろう。渋滞を起こさない、渋滞を解消させるための心構えは、事故原因そのものを刈り取る“譲り合い”と同じ精神から生まれるものであることが分かる。

“利他的精神の大切さ”と事故予防

 ところで、「“適切な車間距離”といっても、クルマが走っている速度によって違うよね?」と考える読者もいるはず。これはまったくそのとおりで、移動速度によって適切な車間距離は変化するため、ムジコロジー研究所内で西成所長は「車間時間」という概念についても説明している。西成所長によると、適切な車間時間は2秒。前のクルマがある地点を通過し、同じところに次のクルマが到達するまでの時間が2秒あれば、渋滞は発生しないのだそうだ。

「でも、それって直線道路での話だよね?」と次の疑問が湧いてくるかもしれない。市街地の低速区間での事故が多いのなら、そこでの譲り合いとは違う話なんじゃないのかな?という疑問だ。

 しかし、これは間違いだ。西成所長は高速道路のジャンクションで本線に合流するとき、効率よく車列に合流するための対策について解説している。合流車線からすぐ本線に入るのではなく、しばらく加速時間を設けて、ドライバー同士が相互を認識しながら合流する。相互認識をすれば、他車の動きが予想可能になり、譲りあうことが可能になるからだ。もちろん、ここで“利他的精神”を発揮できなければうまく合流できず、無駄な減速が発生して渋滞や事故の原因になる場合もある。大切なのは相手をよく見て、そして自分がどう行動すべきかを考えることである。

【MUJICOLOGY!研究所】「渋滞学」生態にみる渋滞
【MUJICOLOGY!研究所】「渋滞学」利他的精神の大切さ

 ともかく、実際に動画を見るのが一番。興味を持ったなら、ぜひともムジコロジー研究所を訪れてほしい。1本の動画は5分前後に収まっているので手軽に楽しめるはず。現時点では“渋滞学”(http://www.mujicology.jp/juutaigaku/)について4本の動画が公開されている。

 また、ムジコロジーの活動を通じて新たなネットワークも生まれたと船木氏は語る。東京都港区の三田警察署から、この斬新な着眼点と活動に対して表彰が行われたほか、各警察署とのパイプが広がっているという。ムジコロジーは社会貢献の一環だけに、活動としては地味な内容ではあるが、警察組織の協力もあって全国各地で開催されている交通安全運動に参加を打診されるなど、ムジコロジー活動に広がりが出始めているとのことだ。

 こうした成果を受けて、三井ダイレクト損保はムジコロジー活動を次のステップに進めた。それが「ムジコロジー・スマイル基金」。次回はこの新しい基金について話をすることにしたい。

Photo:堤晋一

本田雅一