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【インプレッション】ホンダアクセス「S660 Modulo(モデューロ)仕様」

“日本のニュルブルクリンク”でS660 Modulo仕様を体感

筆者(左)とModuloの開発担当を務める湯沢峰司氏(右)

 パーツを開発する場は、本田技研工業のテストコースなど国内にとどまらず、かのニュルブルクリンクや周辺のワインディングにもおよぶ。クルマにとってもっとも厳しい条件下でテストを重ねることで、ホンダアクセスの「Modulo(モデューロ)」ブランドが目指す「誰もが、いつでも、どんな道でも気持ちよく走りを楽しめる」ことを最良の形で具現化できる。“峠の第一人者”である土屋圭市氏を開発アドバイザーに迎え入れたのもそのためだ。

 道幅が狭く、低速から高速までさまざまなコーナーが連なり、エスケープゾーンもほとんどなく、路面が荒れていることで知られる群馬サイクルスポーツセンター。まさしく「日本のニュルブルクリンク」と評されるとおり、テストを行なっている厳しい環境に通じるものがあると開発陣は語る。その1周約6kmのコースにおいて、モデューロが手がけたS660を試す機会を得た。

 このS660に装着されたホイール、スプリング、ダンパー、ブレーキパッド、アクティブスポイラーといったひととおりのパーツは、むろんどんな道でも気持ちよく走りを愉しめることを意識して開発されたものだ。

S660 Modulo仕様
Moduloのフロントフェイスキット、リアロアバンパー、デカール、フューエルリッド、アルミホイール、サスペンション、ロールトップなどを装着する
アルミホイール「MR-R01」のフロント用は15×5J インセット45mm、リア用は16×6.5J インセット50mm。価格はフロント用が3万1320円/本、リア用が3万3480円/本。ドリルドタイプのディスクローターは1台分セットで6万4800円
フロントフェイスキットはバンパー・グリル一体式(10万8000円)。スポーティさを高めるリアロアバンパーは8万4240円。エンジンは標準車に準ずる
S660 Modulo仕様のインテリア。シフトノブやサイドブレーキカバー、ドアライニングパネル、フロアカーペットマット、ドリンクホルダーなどが与えられる
S660の標準車にも試乗

 比較用として足まわりがノーマルのS660も用意されていたので、まずはそちらでコースを走行して感触を確認しておき、ノーマルもよくできたスポーツカーであることをあらためて感じつつ、モデューロ仕様に乗り替えてコースイン。なお、タイヤはどちらもOEタイヤの横浜ゴム「ADVAN NEOVA」だ。

 すると、走り出して最初のコーナーですでに小さくない違いを感じる。パワーステアリングに変更はないが、切り始めからリニアに向きが変わり、路面をしっかり掴んで曲がっていく感覚があるのだ。変更していないのに手応え感が違うのは、まさしく接地性の違い。

S660 モデューロ仕様の開発を担当した湯沢峰司氏

 S660 モデューロ仕様の開発を担当した湯沢峰司氏いわく、「4輪をちゃんと接地させることがグリップ感につながり、安心感にもつながります。走り出してすぐに“あっ!”と感じていただけることと思います。足まわりを硬めてスポーティにするというよりも、走りの質感を出すことを重視しています」とのこと。その言葉どおり、走り味はゴーカート的にキビキビと動くノーマルに対し、パーツ装着車はしっかり感があり、しっとりと落ち着いた印象がある。履いているタイヤが同じとは思えないほどだ。

 アンジュレーションの大きな路面で、ノーマルは路面からタイヤが離れる時間があることを感じたのに対し、モデューロ仕様はそれがほとんどない。それだけタイヤがきれいに路面に追従しているということだろう。

 タイトなコーナーでは小さな舵角でスムーズにターンインでき、立ち上がりではアンダーステアが出そうな感覚も小さいことを感じる。コーナーでもしっかり踏ん張ってくれるし、いたって乗りやすいので、知らず知らずのうちにペースが上がってしまう。

 また、ノーマルよりもドライバーの意図したとおりに動いてくれる懐の深さを感じた。その印象を伝えたところ、前出の湯沢氏はこれを「FR的」と表現した。その意味するところは、アクセルで積極的に姿勢をコントロールできるということ。湯沢氏は「ミッドシップはハンドリングはよいのですが、コントロールする楽しさはFRのほうが上です。ミッドシップのS660でも足まわりのセッティングでFR的なハンドリングに近づけることができます。まず意図したのはノーズがインを向けやすいこと。そしてコーナーの出口にかけて踏んでいけば曲がっていくことです。ミッドシップでありながら、後ろから押して曲がっていく。立ち上がりでアンダーステアになりにくい。フロントに安定して荷重がかかっていて、踏んだらさらに曲がっていくという感じです。ドライバーとしては早く踏みたいところ、『踏んでいいよ』とクルマが教えてくれて、気持ちよく曲がっていけるよう心がけて仕上げました」と説明してくれた。

空力性能を向上させるアクティブスポイラー

軽自動車として初の電動式を採用した「アクティブスポイラー」は、約70km/hになると自動でせり上がり、約35km/hになると自動的に格納。価格は16万2000円(スポイラーキット、ユニット&アタッチキット、ベースキット)

 電動の「アクティブスポイラー」についても述べておこう。約70km/hでせり上がり、約35km/hで自動格納するというこのリアウイングは、ホンダアクセスの要望により、あとで大がかりな加工をすることなく装着できることをあらかじめ織り込んでホンダが車体側を設計したとのこと。収まっているときもダックテール風に見えるようデザインされており、フィッティングも上々だ。16万2000円(スポイラーキット、ユニット&アタッチキット、ベースキット)とけっして安価ではないが、S660の販売台数からすると、ホンダアクセスの予想をはるかに上回るほどの売れ行きで、装着率は非常に高いのだという。

 風洞実験の結果、S660は中央よりもボディサイドを流れる風が多く、それを考慮しつつ、抵抗を減らしながらダウンフォースを増やせる翼断面形状とした。見た目がよいのは言うまでもないが、高速コーナーで感じた高いグリップ感、ひいては安心感にはこのアクティブスポイラーもひと役買っているのだ。さらには、コーナリング時にはよりクルマが曲がりやすいよう横方向の空気の流れも制御しているのだという。

 S660は軽自動車ながら本格的なミッドシップスポーツとしての資質を備えているともともと感じていたが、それをベースに“究極のカスタマイズカー”を追求して開発されたS660 モデューロ仕様は、巧みなセットアップによってその魅力がさらに高められていた。

 そして開発者から直接話を聞くことができて、そのこだわりとハンパでない手間をかけて開発されていることもよく分かった。こうして生まれたカスタマイズパーツは、やはりそれ相応に素晴らしい走りを味わわせてくれることを思い知った次第である。

協力:株式会社ホンダアクセス