F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

特別編:こまっちゃんに聞いてみよ~! 第1回

 先日、ハースF1チームでチーフエンジニアを務める小松礼雄さんへの質問を募集したところ、50名以上の方から質問をいただきました! ありがとうございました!

 皆さまからいただいた質問は、レースとレースの間、小松さんに時間をとってもらって聞いてきました。小松さん、ありがとう!

 まだまだ聞き足りない質問もありますが、まずは第1回をお届けします!


みおさんからの質問

 私からの質問は、「『開発能力の高いドライバー』ってどんなドライバーですか?」です。よくメディアとかで開発能力に定評のあるドライバーが挙げられていますが、いかんせん私たちにはその方が何をしていてなぜ評価が高いのかよく分かりません。ぜひ教えてほしいです。

小松さん:今年はすごくいい例で、ニコ・ヒュルケンベルグ選手がいてくれています。僕が思う開発能力の高いドライバーだと思うんです。どういうことかと言うと、まず感覚が繊細ですよね、縦横上下のクルマの動きをどのように感じられるのか、彼の体のセンサーの感度がいいということです。

 また、それをエンジニアに分かる言葉で伝えられる能力が高いんです。

 あまりよくない例はロマン・グロージャン選手です。彼はクルマのメカニズムのことばかり考えすぎてしまい、感じていることをそのままを伝えてくれないんです。例えば「リアの車高が高すぎる」と言う表現をするんです。ドライバーにエンジニアが期待することは実はそうではなくて、感じたことをありのままにできるだけ正確に伝えてほしいのです。

 例えばリアの動きが不安定だとする、それはどういうときにどのように感じるのかを教えてほしいわけです。

 低速コーナーに入る初期ブレーキングのときなのか? ブレーキをリリースして速度が落ち始めたときなのか? ステアリングを切った瞬間なのか?

 そのときにどういうふうに感じているのか、突然クルマの挙動が変わるのか? 常にリアが動いている感じがするのか? などなど。

 クルマの挙動の違和感をドライバーが感じているのだとしたら、その原因はサスペンションにあるのではないかとか、それとも車高がこう動いているからエアロの方が原因ではないか、などという話をクルマのメカニズムに分解してその答えを出すのがエンジニアの仕事なわけです。

 エンジニアにできないことは実際に乗っていないので「感じる」ことです。

 開発能力の高いドライバーというのは、いいセンサーを持っていてその動きをフィルターをかけないでかつエンジニアに分かる言葉で正確に伝えられます。ヒュルケンベルグ選手はそのへんがピカイチですね。

 これまでいろいろなドライバーと仕事をしてきました。ロバート・クビサ選手、ニック・ハイドフェルド選手、ロマン・グロージャン選手、ケビン・マグヌッセン選手などなど……。それらのドライバーと比べても、これならクルマを作れるなと思わせてくれたのは、ヒュルケンベルグ選手ですね。

熱田:では、去年まで乗っていたミック・シューマッハ選手はどうでしたか?

小松さん:簡単に言うとヒュルケンベルグ選手からは大きく劣ります。ほんとに自分がより速く走れるためにはクルマに何を求めるのかということも分かっているとは言い難いです。

熱田:大人気のキミ・ライコネン選手についてはどうでしょう?

小松さん:キミは本当に天性の速さと感覚を持っていましたが、ニコのようにきちんとエンジニアとコミュニケーションをとってクルマを作っていく作業はイマイチありません。彼はいい感触があったときはとにかく何も変えたがりません。コメントすることも基本的に常に同じです。自分が速く走るために何が必要かということはよく分かっています。反面、やや頑固なまでに何も変えたくないというところがありました。例えば、メルボルンで感触がよかったとする。そうすると、モナコでも(サーキット特性が大きく違いクルマに求められるものが異なるにもかかわらず)全く同じセットアップで走りたいと言うのです。

パブリックビューイングが好きさんからの質問

 街乗りでロータスの車両を楽しんでいらっしゃるとご著書で読みました。完璧にメンテされたF1車両での敏感なセットアップを知る身ゆえに、街乗り車両にも妥協なきメンテナンスを求めてしまう職業病のようなものはあるのでしょうか? また、お知り合いから街乗り車両のセッティングの相談を受けることはあるのでしょうか。それとも、レース関係者はロードカーに完璧を求めても得るものが少ないことを知っているので、趣味のクルマは乗りっぱなしのノーメンテだったりするのでしょうか。

小松さん:妥協なきメンテナンス……という質問についてですが、僕はないです、全くないです!

 なぜかというと、自分の仕事でレースカーのセットアップをやればやるほどそう思います。

 ただ、高校生のころ、自分のバイクにオーリンズのダンパーを入れていたり、改造したりしまくっていましたよ。そのときはそれで楽しかったんですけどね。まあ、自己満足の領域で、実際にバイクをよくしていたとは思えません。

 イギリスに来て学生時代にロータスエンジニアリングのアクティブコントロールという部署でインターンをしていました。そこでサスペンションやハンドリングの最適化のシミュレーションをやらせてもらっていたんですが、ちょうどそのころはロータス・エリーゼを作っていて活気がありました。隣の部署がライド&ハンドリングという部署で、そこの開発ドライバーの人たちが乗って評価をしてエリーゼやエスプリなどのセットアップをしていました。

 ロータスはヘセルの工場内にテストコースがあって、そこでエリーゼの開発評価をしていたんですね。そのテストをやっているドライバーと話す機会もあり、ときどき同乗もさせてらったりしていました。そこで彼らのレベルの高さを実感するわけです。とにかく素晴らしい感覚を持って開発をしているわけです。そうやって世に出たクルマを、自分が街乗りで乗っていて、サスペンションやキャンバーなんかを変えてよくできるわけがないんです。

 だから、あの人たちのレベルの高さを知っているので、彼が作ってくれたファクトリーセッティングで自分は乗っています。

 普段、ファクトリーまでの通勤で2007年製ロータス・エキシージに乗っているんですけど、イギリスの田舎道は路面がわるいところも多いけれどアンジュレーションとかもあって、運転がとにかく楽しい道が多いんです。でも田舎道ってバンピーなんでエキシージだととにかくクルマが跳ねるんですよ。そうするとやっぱりサスペンションを柔らかくしたくなるじゃないですか。

 でもある日、シルバーストーンの走行会で走る機会があったんです、コプスという有名な右の高速コーナーがあるじゃないですか(昔の1コーナー、今のグランプリでは9コーナー)。そこにステアリングを切って入っていった瞬間に感激したんです。

 カ~~~ンてターンインして1回クルマが動いて(ロールして)、その後は地面に張り付くように安定してピタ~~~っと曲がっていくんですよ。このときに、「ああこのクルマの想定している路面、速度域、荷重域というのはこういうことなんだな」と。やっぱりいじらないでよかったと思いました!

 あのすごい開発ドライバーの人たちが、いろんな場面を想定してエキシージのセットアップはこれでいくと決めたわけですからそれを100%尊重して、彼らの技術を楽しんで乗っています。

熱田:もう1台、2010年製ポルシェ・911 ターボ カブリオレを持っていますよね。エキシージとは全然違う乗り味だと思うんですが、考え方は一緒ですか?

小松さん:そうですね。一緒です。でも、450馬力でとてつもなく速いので、一般道で限界まで使えるわけではないじゃないですか。4駆で自分の乗っている領域でのバランスはとてもよく、流石に洗練されていると感じます。

 でも、エキシージの方が全てダイレクトに感じられて乗せられている感が少なく、よりゴーカートに近いので個人的にはエキシージの方が楽しいです。でも、高速サーキットに持っていって2台を比較したら印象はまたガラッと変わるんでしょうけど。まあ、全く違うクルマなので比較すること自体ナンセンスですね(笑)。

 そういう意味では、院生のときに乗っていたエスコートMK1がすごく面白かったです。家から大学までの道に高速コーナーがあったんですが、ギリギリ全開でリアを流しながら楽しんで走れるような制御しやすさがありました。基本的に、いい意味で限界が低いクルマの方が安全にいろんなクルマの動きを楽しめていいと僕は思います。

 個人的な理想はケータハムのスーパー7ですね。あのクルマはホントにリアが流れるのをよく感じることができるので、とっても楽しいです。

 まあクルマによって違う楽しみ方がいろいろとあると思うのですが、セッティングを変えるということは僕はしないです。ホイールのインチアップなんてしていいことは何もないと思いますし、キャンバー、トーやスプリング、ダンパー、アライメント、車高なども一切変えません。特別にどこかのサーキットや道専門でセットアップするのなら別ですがそうではないので。

熱田:余談ですけど、今、ほかに欲しいクルマはありますか?

小松さん:そうですね……。

 昔乗っていたエスコートMK1とか、ミニ・クーパーとかいいなと思う。あと、デルタ・インテグラーレとかランエボとか乗ったことないので乗ってみたいです。毎日田舎道を乗っていて楽しい、ハンドリングがよくて限界が低いとなると昔のクルマが多くなってしまいますよね。

 でもガンダム世代ですから、ランボルギーニとかも憧れはありますよ!

熱田:レースのことを話しているより全然表情も明るく、話は止まりませんでした。クルマ大好きなんだな! って思いました。

SHINICHI MATSUOKAさんからの質問

 エンジニア、それも世界最高峰のF1のエンジニアとなれば、超論理的な思考が必須だと思いますが、ドライバーにも論理的な考えができる人とそうでない(直感重視)人がいますか? 直感的なドライバーへの情報の伝え方でご苦労されたことや、小松さんが目にするドライバーの中で、考え方が面白い人を教えてください。

小松さん:エンジニアであれば、論理的に考えなければいけないというのは当たり前なんですが、皆さん見落としているかもしれませんが、僕の立場の仕事だと直感というのがものすごく大事なんですよ!

 その直感というのは、もともとその人が持っているもの、そして経験によって培われるものもあると思うんです。

 例えば、タイヤのことを例にとると、タイヤはゴムですよね。それも生ものです。料理をして出てくるようなもの、すごく難しい。タイヤで取れているデータというのはすごく少ないんです。タイヤはたわむし、熱が入ればすぐに変化する。路面によって大きく特性が変わり、とにかく難しいんです。

 データとしては内圧、表面温度、中のバルク温度、どれくらい滑っているかくらいで、そこからこのタイヤには今何が起こっているのだろう、このタイヤをどのように使ったらいいだろうというのを導き出さなければいけない。タイヤのデータが全体の10%しかないとすれば、残りの90%は自分の理解を元に想像するしかない。その想像力というのは直感力とも言えると思います。

 あと直感というと、僕の大好きなウエットの予選。あの瞬間で、何が合っている、間違っているなんて100%データで出るわけないんですよ。

 もちろん時間があれば導けますよ。でも、実際には3秒くらいで決断しなければならないし、できるだけの情報を吸収して、決断は自分の絶対合っているという直感を信じるしかない。そのような直感力がある人とない人でトラックサイドで仕事ができるかどうか決まってくるんです。

 ストラテジストという人と何人もこれまで仕事をしてきましたけど、どれだけ学校の勉強ができるかとか、シミュレーションができるかとかではなく、シミュレーションを流した上で目の前の状況、全体像を把握できるかできないか、そういう能力があるなしでは天と地ほどの差になります。

 僕の中で、何が合っている、何かおかしいなど、データをいくら取っても分からないことが実際にはあるんです。事象を全部つなぎ合わせて、導き出すのは個人個人の人間なんです。データに出ないことを瞬時に当てはめられるかできないかというのは直感力があるかないかにかかわってくるんです。

 そういう意味では、今まで一緒にやらせてもらった人の中ではパット・シモンズが素晴らしかったです。

 僕は幸い若いときから感覚が鋭い人とたくさん仕事をしてきて、その分からない事象に対して、その対応をいろいろ体験したので直感力が養われたんだと思います。

熱田:その直感というのは、自分がゴーカートとか、自分のクルマに乗っていて経験したこととかは影響しますか?

小松さん:難しいですね。ないとは言いませんが、そうとも言えないと思います。要は人生経験全部つぎ込んでいるわけですからね。例えば、そのドライバーの人となりとかの理解ですよね。こないだのカナダ予選でケビンに、ピットに入ってこいと言ったのにケビンは意見が違い、結局彼の意見を聞き入れてピットに入れなかった。結果間違っていました。

 後から考えれば、僕が違う言い方で言えばよかったという反省も出てくるわけですし、ケビンの意見も彼の性格をもっと考慮して僕の中でもっとうまく消化していれば、その後の指示も違っていました。

 もう1つ挙げるとすると、ロマン・グロージャン選手。ずっと前の上海の雨の予選でした。

 インターミディエイトで走っていて、それまではまだいいタイムを出していなく、彼は自己ベストを大きく上まわるタイムで走っていました。しかし、このアタックラップを終えてからピットに入れると、もう1度ニュータイヤでアタックする時間がありません。でも路面はどんどんよくなっているし、この状況でインターは1周しかもたないと判断しました。ですから、自己ベストを更新しているラップを中断してピットインするように指示を出しました。この状況でロマンに入って来いって言ったらギャーギャー言うのは全然想像できて、案の定そうなりました。

 そのときに「これが絶対に合っている、今説明できないから終わったら後でちゃんと説明するからとにかく入って来い」と言いました。

 そしたらロマンは「分かった」って入ってきて、タイヤ交換してその結果素晴らしいタイムを出すことができたという例もあります。そのときはロマンという人をちゃんと理解できるからそういう言い方をできたわけです。

 とにかくデータを含めて全てを総動員して考え、かつ無駄なことを考えずに最後は自分の感覚を信じて判断を下す。ここで無駄なことを考えてはいけないということは重要です。これが簡単ではないんです。

 その失敗例が去年の雨の日本GP決勝です。自分の準備の仕方ですね。

 エンジニアというとコンピュータで数字ばかり追いかけて、常に論理的だと思われると思います。そうなんですけど、それだけじゃダメなんです。ドライバーが運転だけできればいいということではないというのと一緒です。

 フェルナンドみたいにレース全体の状況、残り周回数とタイヤやマシンの状況を俯瞰から見れるドライバーは少ない。

 エンジニアも一緒で、数字でこうだと示されて、導き出した答えが何かおかしい、それにそのときに気がつく人は多くない。それが逆に人間味があって面白い、そういうことがモータースポーツを面白くしていると思うんですよ。

 全部数字で出てきて、AIで正解が導け出せるんだったら、ちっとも面白くないじゃないですか。ドライバーがロボットで100%の遅れのない完璧な感度のセンサーが付いていて自動運転していたら面白くないし、そんなレース誰も見にこないわけじゃないですか。要は最後は人間だということです。

TAMAさんからの質問

 私は理系の研究室で実験を行なっていますが、失敗の原因が分からないと忍耐強さを失ってしまうことがあります。技術面で原因不明の問題に直面したとき、それを解決するにあたって小松さんはどのようなことを心がけていますか?

小松さん:いい質問ですね。

 僕が研究室でやっていたことは、今までの事象を見てまずは仮説を立てる。

 例えばチームのレースパフォーマンスがわるい、なぜわるいのか仮説を立てることになる。今までの走行データ、クルマのデザインデータや空力データなど全部自分が把握しているものを総合して、頭の中で一番怪しいのはこれではないかと仮説を立てる。そこからその仮説が正しいかどうかを検証します。

 そのときにやってはいけないことは、自分の仮設が正しいことを証明するために解析を進めてはいけないということです。データというのは見方によっては自分の仮説に都合のいいことばかりピックアップして自分が正しいと結論づけることが可能なんです。そういうふうに仕事を進めている人はたくさんいます。

 でもそうではなくて、仮説を立てた上で逆にシビアに見てこの仮説は間違っているのではないかと考えながら見ていくと本当の解決の糸口が見えてくることがあります。

 そして仮説が間違っているとしたら、解析を見て次の仮説を立てる、見る角度を変えてみる、一歩二歩下がって俯瞰から見てみる、前に言った、直感力や感覚がいい人は一発で成果を出すけれど、そうでない人は10回やってもダメかもしれない。ぶち当たって何回も同じことを繰り返すというのはよくないです。100回やれば成功するという考えではダメだと思います。

熱田:でも、例えばサーキットで解決しなければならないことが起こっている、タイムリミットは迫る、焦る、失敗できない、どうしても解決する方向が見えない……どハマりしてる……。という、泣きたくなるような場面に遭遇したらどうしますか?

小松さん:だいたい泣きそうになるときがない! なんで、泣きそうになる? 熱田さん、暗いですよね……。(おい!)

 なんで、そんな、演歌的になるのかと思う。(演歌いいじゃん)

 チャレンジなんですよ! 答えが簡単に見つかったら誰でもできるじゃないですか!

 その答えを、ライバルより早く解決の答えを見つけるかで、チャンピオンシップを上に行けるかどうか決まるわけじゃないですか! チャンスなわけですよ!

熱田:いや~かっこいいね! いい言葉だ!

小松さん:そうですかあ……。でも基本泣きそうになるとか全然ないですよ、でも鈴鹿で大失敗したときは責任を感じるし、終わってから、ドライバーやチームのみんなに合わせる顔がないと、悔しいし情けないし。

 でも、普段決断を下すときに、自分が間違ったら500人が路頭に迷うとか考えていたら決断なんかできない。だから決断するときは目の前にあることだけ考える。その事象を全身全霊で把握して決めるただそれだけです。そのときに「もし失敗したら」なんて微塵も考えません。

 鈴鹿の失敗の後で立ち直れなかったら、自分にはこのレベルでの仕事はできないと受け入れてF1を辞めればいいわけですよ、違うことをやればいいんです。まあ、友人の助けもあって立ち直れてよかったですけど(笑)。

 失敗しても、次どうするんだ! こうしてみようと考え続ける、チャレンジするということです。

 グランプリ期間中のパドックで長時間にわたり質問に答えてくれた小松さん。

 毎回小松さんと話していて思うのは、理路整然としていてブレがない。そして頭の回転が恐ろしく早い感じ。僕はただ感覚でものを考えるしかないような人間ですから、その感覚の鋭さに憧れます。

 第2回後半も楽しみにしてください!

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。