NVIDIA「GPU Technology Conference 2018」

【GTC 2018】アナリスト向け「INVESTOR DAY 2018」から見えてきたNVIDIA自動車事業の今

2018年3月26日~29日(現地時間)開催

San Jose McEnery Convention Center

GTC 2018での自動運転車両の展示スペース

 自動運転やAI(人工知能)向けの半導体&ソリューションメーカーであるNVIDIAは、3月26日~29日(現地時間、以下同)の4日間にわたり、米国 カリフォルニア州サンノゼ市の「San Jose McEnery Convention Center」においてNVIDIA製品に関する技術カンファレンス「GPU Technology Conference 2018」(以下、GTC 2018)を開催した。

 そのGTC 2018と同時期に、同会場でNVIDIAが開催したのが証券アナリストなどを対象にした「NVIDIA 2018 Annual Investor Day」で、この中でNVIDIAは自社の戦略や現状などを説明している。本記事ではその中から興味深いデータなどを中心に紹介していく。

売り上げが41%増と大幅アップ。売上高総利益率は60%超えを実現

 NVIDIAが年に1回行なっている証券アナリスト向けの説明会となるNVIDIA 2018 Annual Investor Dayは、GTC 2018の会場の一部を利用して実施された。このAnalyst Dayは、NVIDIAの会計年度(FY、Fiscal Year)が2月に始まり、1月に終わることにタイミングを合わせて毎年3月ごろに行なわれている。今回のNVIDIA 2018 Annual Investor DayはFY18(2017年2月~2018年1月期、以下同)の決算結果に基づく事業説明会となっている。なお、この模様はNVIDIAの投資家向けWebサイトで公開されているので、興味がある方は参考にするとよいだろう。

 このFY18の決算、その数字は誰が見てもNVIDIAの現状が「絶」の付く好調であることは以下のスライドを見れば明らかだろう。

NVIDIAのFY18の決算結果(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)

 これを見れば分かるように、売上高(Revenue)はFY17(2016年2月~2017年1月期、以下同)の69億ドル(米ドル、以下ドル)から97億ドルに41%もアップしている。そして売上高総利益率(Gross Margin)はFY17の59.2%から60.2%に、営業利益(Operating Income)は22億ドルから36億ドルへと63%アップ。1株あたりの利益(Earnings Per Share)3.06ドルから4.92ドルに61%アップとなっており、率直に言ってこの規模の企業としては驚異的な数字と言っていいだろう。

 とくに年々上がってきた売上高総利益率がついに60%を超えている。ちなみに、半導体メーカーで売上高総利益率が60%を超える会社はそれほど多くない。超優良企業の1つであるIntelがそうである程度で、Qualcommもかつては60%を超えていたが、現在は60%を切って50%後半だ。売上高総利益率は会社が「どれだけ効率よく利益を出す仕組みが構築されているか」を示す数値になるので、NVIDIAが半導体メーカーとして超優良企業とされている両社と肩を並べる企業であることを如実に示していると言える。

好調なNVIDIAの決算を支えているのはゲーミングとAI/データセンター事業

 こうした好調な決算の数字を支えている事業が何かと言えば、それは1番目に「ゲーミング」、2番目が「AI/データセンター」の事業だ。

NVIDIAの事業別の売り上げ(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)
FY17成長率FY18FY18全体に占める割合
ゲーミング41億ドル36%55億ドル57%
AI/データセンター8.3億ドル133%19.32億ドル20%
プログラフィックス8.35億ドル12%9.34億ドル10%
自動車4.87億ドル15%5.58億ドル6%
総売上69億ドル41%97億ドル

 NVIDIAのFY18の売り上げで57%を占めており、最も貢献している事業がゲーミング事業だ。NVIDIAが「GeForce」ブランドで展開しているPC向けGPUなどが中心となるゲーミング事業だが、FY18、もっと言えば暦年での2017年にはほとんど新製品を出さなかった。新しいアーキテクチャのGPUは2016年5月に発表したPascalアーキテクチャの「GeForce 10シリーズ」で、FY18にはそのバリエーション製品を出した程度だった。それでも競合他社が強力な対抗製品を出せなかったし、eSports市場が大きく成長し、仮想通貨のマイニング向けにGPUが売れるという予想外の要素があり、売り上げはむしろ伸びた。その結果として、FY17と比べて売り上げが36%(14億ドル)アップしている。

 そしてFY18に急成長したのが「Teslaシリーズ」、そして自社ブランドのスーパーコンピュータである「DGX」の好調な販売に支えられているAI/データセンター事業だ。FY17の8億3000万ドルの売り上げから、133%増という19億3200万ドルとなっている(つまり売り上げが倍以上になったということだ)。AI/ディープラーニングへの注目が高まり、その学習時間を短縮したい研究者が増加したことで、TeslaやDGXの売り上げが増えたためだ。ゲーミングとAI/データセンターの事業でNVIDIA全体の売り上げである97億ドルの約77%を占めており、この2つが現在のNVIDIAの躍進を支えていると言っていいだろう。

現時点での自動車事業(Auto)の利益率は高くない(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)

 では、自動車事業はどうかと言えば、実のところNVIDIA全体で占めるビジネスの割合としてはわずか6%でしかない。かつ、売上高総利益率でも自動車事業の貢献度は低い。NVIDIAが公開した資料によれば、一番売り上げのボリュームが大きいゲーミング事業は全体の売上高総利益率の60.2%に近いところに位置しており、それによりプログラフィックスが利益率が高く、最も利益率が高いのはAI/データセンターだという。この図のスケールが比例しているのか分からないが、仮に比例しているなら80%を超える売上高総利益率を実現していることになる。これは十分驚異的な数字だ。

 それに対して自動車事業は、スケール的には30%~40%のあたりに置かれている。つまり、投資やサポートなどのコストを考えると、あまり利益率が高くないビジネスにとどまっているということだろう。

NVIDIAが自動車事業に取り組むのは将来の市場が大きいから?

 それでもNVIDIAが自動車向け半導体事業を手がける理由は何か? NVIDIAがAnalyst Dayで語ったのは、将来の市場規模の大きさだ。NVIDIA 副社長 兼 自動車事業本部長 ロブ・チョンガー氏はこのアナリストミーティングの中で、自動運転向け半導体の市場可能性(TAM、Total Addressable Market)を「2035年に600億ドル」と見積もっている。TAMとは競合他社も含めた市場における最大の可能性という予測で、NVIDIAだけでなく、Intelのようにすでに参入をしている企業や、今後参入するであろう競合他社の市場シェアを含んだ数字となる。

自動車事業のTAM(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)

 NVIDIAが2035年にこの市場で何パーセントの市場シェアを持っているか次第でNVIDIAの売り上げは変わってくるが、例えば2035年時点での市場シェア10%であれば60億ドル、20%であれば120億ドルという「取らぬ狸の皮算用」が成立する。

すでに370以上の企業や組織がNVIDIAベースの自動運転の開発を行なっている(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)

 だが、それは“皮算用”ではないかもしれない。というのも、すでにNVIDIAはこの市場のリーダーとなっており、急速にパートナーも増えている。実際にNVIDIAは、1月のCESでNVIDIAの製品をベースに自動運転を開発しているパートナー企業や組織(自動車メーカー、パーツメーカー、大学など)などを320以上と紹介していた。それが今回のGTCでは370に増えたと明らかにした。その勢いを勘案すれば、その600億ドルのうち、相当な割合を取れるとNVIDIAが考えているのも想像に難くないだろう。

GTC 2018では将来を見据えた新製品やロードマップを発表

 GTC 2018ではそうした自動運転におけるリードを拡大するために、新しい製品やロードマップの発表を行なっている。

DRIVE SIM AND CONSTELLATION(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)

 今回のGTCで発表されたのは「DRIVE SIM AND CONSTELLATION」と呼ばれる製品で、昼夜といった時間帯や、雨が降っているといった天候など実環境に近い自動運転の仮想環境を演算で作り出す「CONSTELLATION」と、データで作成した自動運転車をその仮想環境で走らすことができるシミュレータ環境の「DRIVE SIM」がセットになった製品。これにより、自動車メーカーは実車を使うのと同じような環境をコンピュータ上に再現して走らせることができる。

NVIDIAの自動車向けコンピューターのロードマップ(出典:NVIDIA 2018 Annual Investor Day、NVIDIA Corporation)

 もう1つの発表は将来のロードマップだ。NVIDIAは次世代製品としてすでに「Xavier」を1チップ搭載した「DRIVE Xavier」、Xavierを2つと、「Voltaアーキテクチャ」(NVIDIAの最新GPUアーキテクチャ)のGPUを2つ搭載した「DRIVE Pegasus」という自動運転向けのコンピュータボードを発表している。初代の「DRIVE Parker」を1とすると、現行製品の「DRIVE PX2」が20倍の性能、DRIVE Xavierは1チップで30倍の性能、DRIVE Pegasusにいたっては200倍の性能を持っていると説明されている。DRIVE Xavierはすでにサンプル出荷が開始されており、DRIVE Pegasusは2018年の第3四半期からサンプル出荷が開始される。製品版はDRIVE Xavierが2019年の第1四半期に、DRIVE Pegasusが2019年の第3四半期に出荷を予定している。

2019年の第3四半期に製品版の出荷を予定するDRIVE Pegasus

 NVIDIAはこのDRIVE Pegasusの後継として、開発コードネーム「ORIN(オーリン)」のプランを発表した。ORINで明らかにされているのは、2チップ構成でDRIVE Pegasusと同じ性能(つまりDRIVE Parkerの200倍)の性能を持つということだけだ。NVIDIAのXavierやDRIVE Pegasusの弱点と競合他社が指摘するのが消費電力なのだが、DRIVE Pegasusの性能を2チップで代替できるということは、消費電力の大幅な削減が可能になることを意味する。

 NVIDIAの自動車事業での強みは「CUDA」という単一のGPUコンピューティングのプログラミングモデルを持っていることで、プログラマーがDRIVE PX2用に書いたコードを、そのままDRIVE XavierやDRIVE Pegasusに利用できるという“ソフトウェア的なスケーラビリティ”にある。それは当然ORINにも当てはまるため、自動車メーカーや部品メーカーがDRIVE Pegasus向けに作成したソフトウェアは、そのままでORINで動かすことができ、しかも(おそらく)消費電力が下がるという恩恵を受けられる。

 そうしたソフトウェア資産を将来のプラットフォームでも使い回せることが、NVIDIAにとって大きな強みになり、自動車メーカーにとってもNVIDIAを使い続ける大きな理由となる。

笠原一輝