イベントレポート
1万6000個のLEDを使う「高精細ADB」を初公開した小糸ブース デンソーとの協業で「1秒先を知るライティング」を実現すると勝田技術本部長
2023年10月27日 16:15
- 一般公開日:2023年10月28日~11月5日
- 入場料:1500円~4000円
「ジャパンモビリティショー2023」(一般公開日:2023年10月28日~11月5日、場所:東京ビッグサイト)に出展している小糸製作所は、プレスデー2日目となる10月26日に西展示棟4階 3~4ホール・W3303の同社ブースでプレスブリーフィングを実施した。
小糸製作所ブースでは、ドライバーをサポートするライティング技術の「高精細ADB」「2輪車用ADB」、センシングをサポートする「LiDARラインアップ」、移動体検知システム「ILLUMIERE(イルミエル)」、コミュニケーションをサポートする「アニメーションランプ」「標識灯路面描画ランプ」など、多数の技術について初公開している。
もっと“うれしい”モビリティの未来を届けていくと加藤社長
プレスブリーフィングでは最初に、小糸製作所 代表取締役社長 加藤充明氏があいさつを実施。「当社はこれまでも企業メッセージ『安全を光に託して』のもと、交通社会の安全と安心に貢献してまいりました。そしてこれからもそうありたいとの思いから、昨年11月に当社ビジョンといたしまして『人と地球の未来を照らす』を策定いたしました。ジャパンモビリティショー2023の当社のテーマは『光とセンシングでもっと“うれしい”モビリティ社会へ』でございます。当社がこれまで培ってまいりました光とセンシングという新しい技術で、次世代のモビリティを実現する魅力ある製品をご提供いたします。世界中に安全・安心、そしてもっと“うれしい”モビリティの未来をお届けしてまいります」。
「今回は3つのサポートを実現いたします。『ドライバーサポート』『センシングサポート』『コミュニケーションサポート』です。この3つのサポートを実現することにより、ドライバーに、歩行者に、そして交通に参加するすべての人に“うれしい”をご提供してまいりたいと考えています。『ドライバーサポート』では良好な夜間の視界をご提供するライティング技術で、ドライバーの運転する楽しさはそのままに、もっと安全で快適なドライビングをサポートいたします」。
「『センシングサポート』でありますが、ますます役割と期待が高まるセンシングの技術におきまして、より速く、広く、そして正確に周囲を検知することをサポートいたします。『コミュニケーションサポート』では、クルマの状態、そしてドライバーの意思、メッセージ、これらをライティング技術で視覚的に交通参加者にコミュニケーションする形でサポートしてまいります。当社はこれからもさまざまな“うれしい”をお届けして、安全、安心で快適な“乗りたい未来”を実現してまいります」と語り、出展の狙いなどを説明した。
「ドライバーサポート」
出展内容の詳細については、小糸製作所 専務執行役員 技術本部長 勝田隆之氏が解説を行なった。
「ドライバーサポート」で初公開した高精細ADBは、夜間視界の確保にはハイビームが最適なので積極的に使ってもらいたいが、すれ違う対向車などにまぶしく感じさせないためロービームを使うことになりがち。この解決策として開発された技術が「ADB(Adaptive Driving Beam)」で、先行車や対向車がいる場所のライトを部分的に消灯し、まぶしさを感じさせないようにして“いつも使えるハイビーム”を実現する技術となっている。これにより、夜間走行時にハイビームが視野を広げて歩行者の早期発見、事故防止に貢献できるという。
このADBによるさらなる視界拡大に向け、小糸製作所では2019年に「ブレードスキャン方式」のADBを世界で初めて市場投入。それまでも使っていた12個のLEDを高速回転するブレードミラーで反射させ、LEDの点灯・消灯と組み合わせて制御することでLED300個相当に拡張することで従来技術よりも細かな制御が可能になり、必要な遮光を行ないつつもより広い範囲をハイビームで照らせるようにしている。
このブレードスキャンに続いてさらなる視界拡大の技術として開発を進めているのが今回公開した高精細ADB。2025年の市場投入を目指している高精細ADBではハイブームの光源となるLEDを1万6000個まで細分化。LEDの点灯や明るさを1個ごとに制御することで消灯する面積を最小化して、視界内でのハイビーム照射範囲をできる限り広げて「夜間走行時の交通事故ゼロ」という目標を実現。また、高精細ADBでは照射する明るさを制御する新機能も盛り込んでおり、歩行者がまぶしさを感じたり、道路標識が白飛びして判別しにくかったりといった問題が起きないことも技術的メリットとなっている。
2輪車用のヘッドライト向けとなるADBも2025年の市場投入に向けて開発を実施。2輪車はコーナーで車体を傾けて走行するため、ヘッドライトの照射範囲も変化する特性を持っている。イン側を照らすコーナーリングライトはこれまでも存在していたが、今回初公開された2輪車用ADBでは、センサー情報による車体の傾き状態に加え、カメラによって車両前方の状況を把握。対向車がいるときなどは遮光を行なってハイビーム状態で夜間走行でき、コーナーで車体が傾いた状態でも水平より高いエリアを照らして遠くまで安全確認できるようにする。
「センシングサポート」
小糸製作所では車両のADAS(先進運転支援システム)向け製品として中距離向けLiDARの市場投入も間もなく開始するほか、LiDARを商業施設や交通インフラ向けの移動体検知システムとして応用した「イルミエル」を初公開した。
監視カメラはプライバシーなどに配慮する必要があり、交通量の調査などへの活用も可能ながら2次元情報を画像処理するため直接的ではないといった問題がある。レーザー光を使って対象物の種類やサイズ、距離、移動方向などを正確に測定できるLiDARを使うイルミエルなら個人を特定するおそれがなく、カメラよりも広い範囲が測定可能で設置数を抑えることも期待できる。
また、検知した情報は継続的に蓄積したり傾向分析などを行なったりも可能。時間帯別の交通量予測のほか、商業施設で駐車場の順番待ちをしている車列の長さ、駐車場の満空情報と通路に止まっている車両のリアルタイム情報、交差点の死角にいて視認できない車両や歩行者を通知するV2X利用などさまざまな応用が考えられるのではないかと勝田氏は提案。ブースの正面2か所にイルミエルを設置して通路の通行状況をモニターするデモも行なっていることも説明して、ブース内にあるモニター表示で確認してほしいと語った。
「コミュニケーションサポート」
「コミュニケーションサポート」では、小糸製作所が得意とする光の技術で車内にいる人の意思やクルマの次の挙動をアピールしてクルマと人をつなぎ、より安全で快適なモビリティ社会の実現に向けた2種類の新技術を紹介。
「アニメーションランプ」では、より個性化した光の演出でパーソナライゼーションするウェルカムランプ、ドライバーの体調不良をランプの発光でアピールするエマージェンシー機能、ドアが開くことを後続車両に知らせる注意喚起などを発光によって行ない、カーライフの安心、安全、快適さを高めていく。
「標識灯路面描画ランプ」ではウインカーや後退灯にシンボル投写用のライトを組み込み、車両が次に起こすアクションを周囲のクルマや歩行者などに通知。出会い頭の接触や自転車などの巻き込み事故の予防などが期待できるのではないかと説明した。
最後に勝田氏は、10月19日に発表したデンソーとの協業について説明。小糸製作所が得意とするランプ技術とデンソーが得意とする画像センサー技術を連携・協調させることで、車両の周辺状況をいち早く認識する「1秒先を知るライティング」を提供。夜間走行時の安全性を高め、交通事故による死亡者ゼロ実現を目指していくと語った。
「光の可能性、そして当社が生み出す“うれしい”という価値はまだまだ広げていく余地があるのではないかと考えています。今後も“小糸の光”に大いに期待していただきたいと思います」とプレゼンテーションを締めくくっている。