イベントレポート 東京オートサロン 2023

豊田章男社長、2023年の東京オートサロンも会場訪問 「苦節10年、やっとトヨタがオートサロンに出る流儀を学んだ」

日産のブースでアシュワニ・グプタCOO(右)と記念写真。目線が外れているのは、手前のストロボがオフィシャルカメラマンのため

「クルマ好きを誰ひとりおいていかない」と語った豊田章男社長

 カスタムカーの祭典「東京オートサロン2023」が1月13日、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開幕した。近年のオートサロンは自動車OEMの出展が増え、1日あたりの集客数では東京モーターショーを超える規模になっている。従来からのカスタムカーショップやパーツメーカーに加え、自動車OEMが出展することで規模を増大させてきた。

 とはいえ、そんな東京オートサロンも2020年2月以降のコロナ禍により規模を縮小。2021年はオンライン開催のみ、2022年はオンライン開催も併催されたがリアル開催を超える盛り上がりは難しかった。2023年1月開催の東京オートサロン2023は、2020年以来の盛り上がりを見せていた。

自身のコロナ陽性報道をネタにカンファレンスのつかみを得る豊田章男社長。ネガティブ報道を健康アピールに変える手腕はさすがだ
既販車のCO2問題を提案する豊田社長

 プレスカンファレンスのトップバッターとなったのは、TOYOTA GAZOO Racing(トヨタ自動車)。東京オートサロンではレーシングギアなどを身に着けたモリゾウ選手として登場することも多いが、プレスカンファレンスはトヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏として登場した。

 水素ハチロク、電気ハチロクなども展示されていたため、その第一声に注目が集まったが、豊田社長が最初に発したのは自身の陽性報道について。定期的に実施している検診で一度陽性が出て新年の賀詞交換会を欠席し、それがでかでかと報道されたことを紹介していた。豊田社長は、その後は陰性しか出ておらず大事を取って休んだのだが、それが大きなニュースとなったため、ある意味そのニュースをつかみに持ってくると同時に、自身の健康をアピール。さすがのプレゼンテーションだった。

TOYOTA GAZOO Racing プレスカンファレンス
AE86 H2/BEV Concept -Project Story-

 プレセンテーションで紹介された車両は、水素エンジン&バッテリEV仕様の「AE86」、そしてGRヤリス RZ“High-performance・Sebastien Ogier Edition Concept”と RZ“High-performance・Kalle Rovanpera Edition Concept”。AE86は「クルマ好きを誰ひとりおいていかない」を具現化したカーボンニュートラル改造車で、GRヤリスのチャンピオンエディションはカスタマイズバリエーションとなる。つまり、いずれも新型車ではなく、既存車のカスタマイズカーだった。

「苦節10年、やっとトヨタがオートサロンに出る流儀を学んだ」

会場訪問は自社のブースから。まずは水素ハチロクの前で撮影開始

 午後には、2022年も実施した会場練り歩きをトヨタイムズスタッフとともにスタート。2023年は豊田章男社長、オートサロンにチョー詳しい佐々木雅弘選手、そしてアナウンサー役の富川悠太氏という布陣で、自社ブースから始まった。

 2022年は突発的にブースを訪ねていた御一行だが、2023年にはある程度トヨタスタッフの方でサポートされていたようで、実施規模も大きくなっていた。2022年はなぜか自動車研究家の山本シンヤ氏と記者が直前アポを取っていたが、今回は少し遠くから見ていることができた。

 自社ブースを出た一行は、スバルブースで井口卓人選手を加える。そして2023年はダンロップブースで勝田範彦選手もゲット。自動車メーカー、カスタマイズメーカー、部品メーカーのブースを訪問していた。

お約束のようにスバルブースで井口卓人選手をゲット
ダイハツブースではコペンのラリーカーに試乗。ロールケージを乗り越え乗るのは、モリゾウ選手としてお手のもの?
ダンロップブースでは、勝田範彦選手をゲット
ブリヂストンブースで10秒間チャレンジを提案
RE雨宮ブースで、しばし歓談

 2022年はほぼ関係者のみだったため、なかなか一般客の反応を見ることができなかったが、2023年は午後には特別招待客が多く訪れるようになっていた。それらの人たちは、豊田章男社長を見ると「おお、モリゾウさんだ」「豊田章男さんが来ている」と反応。「おれ、あの人応援しているんだよな」という声も聞こえてきた。

 豊田章男社長はタイの25時間レース時に「ジャパンラブも陰りを見せたし」と語りつつも、「やはり、世の中のクルマラブと自動車業界を支えている人たちのような誰かのために戦っているんです。そんな人をちょっと応援してほしいなと思いました」と語っており、オートサロンのプレゼンでも「クルマ好きを誰ひとりおいていかない」とアピール。そんな豊田社長の姿勢は、オートサロンの会場に訪れるクルマのリアルユーザーの元にしっかり届いているようだ。

 約2時間ほどの会場訪問を終えた豊田章男社長に2023年の印象を聞いてみると、「苦節10年、やっとトヨタがオートサロンに出る流儀を学んだ」という。トヨタが東京オートサロンに参加して10年ちょっとになるが、AE86の水素コンバージョン、電気コンバージョンなどトヨタ流の改造車を出せたことに手応えを感じている様子。

 実際、トヨタブースのAE86はものすごい人気で、よくもわるくもGRヤリスのチャンピオンエディションを遙かに超える規模で人だかりができている。正直、カーボンニュートラルというキーワードはこれまでクルマ好きとは遠いところにあったが、既販車のカーボンニュートラル問題をAE86で示すことで、一気に身近な問題として見せた。

 人々の心の中にあった、「カーボンニュートラルって、これまでの愛車に乗り続けられるの?」というもやもやを、トヨタの持つ水素技術、ハイブリッド技術によって、解決できる可能性を示したことになる。

 机上でクルマのカーボンニュートラルを語るのはたやすいことではあるが、新車を購入してもらうだけではカーボンニュートラルの達成には長い時間がかかる。クルマのカーボンニュートラルを語るのであれば、まずは東京オートサロンにおいてトヨタが提示した既販車のカーボンニュートラル問題、そしてそれに対するユーザーの受け止めは見ておくべきではないだろうか。クルマ好きの心に、トヨタのカーボンニュートラル提案がしっかり届いてるのを見ることができるだろう。

編集部:谷川 潔