イベントレポート 東京オートサロン 2025

日産が東京オートサロン2025に出展する「R32EV」からバッテリEVの可能性を見た

2025年1月10日~12日 開催

東京オートサロン2025の日産自動車ブースに展示される「R32EV」は夢のあるコンセプトカーだった

 国内外で多くのファンを持つR32 スカイラインGT-R(以下R32 GT-R)から、RB26DETTエンジンや電子制御トルクスプリット4WDシステムのアテーサE-TSを取り外してツインモーターを搭載したBEV(バッテリ電気自動車)が「R32EV」である。

 このクルマは2023年3月に「R32GT-R EVコンバージョンコンセプトモデル」として製作発表された。そして半年以上経った2025年1月10日、「東京オートサロン2025」の日産自動車ブース(西2)で初公開されることとなった。

R32EV スペック

ベース車両:R32型スカイラインGT-R(BNR32)
サイズ:4545×1755×1340mm(全長×全幅×全長)
車両重量:1797kg
モーター最高出力:160kW×2基
モーター最大トルク:340Nm×2基
乗車定員:2名
駆動方式:ツインモーター4WD
燃料:電気
タイヤサイズ:245/40R18

R32EVのベースになった車両は前期型のR32スカイラインGT-R(BNR32)
ボディ色は発売当時の訴求色であったガングレーメタリック
ボディ自体はノーマル。ホイールは18インチでタイヤはブリヂストン ポテンザRE-71RS(サイズは前後とも245/40R18)。ホイールを換えている内容は後述する

RB26DETTのフィーリングをEVで再現

 日産では神奈川県座間市に「日産ヘリテージコレクション」という歴代の日産車が保存、展示されている施設がある。また、名車再生クラブという社内のクラブ活動にてヘリテージコレクションに保存されているクルマを走れるように再生していく活動も行なっている。

 このように日産は「自社が作ってきたクルマへの愛」が強く感じられるメーカーでもあるが、その「愛」の深さがさらに増したといえるものがR32EVである。

 R32EVは東京オートサロン2025の日産ブースで展示される車両ではあるが、発案や製作は有志の技術者の集まりによるもの。チームリーダーを務めたのはパワートレーンのスペシャリストである平工良三氏で、同氏はEVやe-POWER、e-4ORCEといった日産の看板技術の開発に携わってきた人物である。そして若い頃は多くの日産ファンと同じくR32 GT-Rに憧れていた1人だった。

 平工氏はこの取り組みについて「R32 GT-Rは30年以上前にデビューしたクルマですが、いま運転してもワクワクさせてくれるものです。それだけに、どうにかしてこの感覚を後世に残すことはできないのかという思いが生まれ、始まったのがR32EVの開発です。目指したのはわれわれが持つデジタルや電気の技術を用いて、R32 GT-Rが持っていたアナログ(ガソリンモデル)のよさをデジタル(EV)データで再現することでした。いわばクルマのデジタルリマスター版のようなものを作る活動だと考えています」と語っている。

 ではその作りを紹介しよう。R32EVには日産のBEV「リーフ」のモーターが前後に積まれていて、バッテリはニスモが製作した「リーフ NISMO RC_02」と同じものを搭載している。

 これらの装備はコントロールユニットにて電動車ならではの緻密な制御をすることでRB26DETTの加速感を再現する。4WDシステムもアテーサETSから前後2モーター4WDに変更しているが、それぞれのモーターの出力とトルクを車両重量に合わせてチューニングし、パワーウェイトレシオをR32 GT-Rにあわせているので、実際の車重は違えど駆動の掛かり方でもR32 GT-Rのフィーリングを再現している。

 つまりR32EVはR32 GT-Rを電動化したというより、R32 GT-Rの走りを再現できる電動化の技術をR32 GT-Rのボディに載せているといったものであるが、実はこの取り組みは「過去のクルマの保存」についての常識を大きく変える可能性を持ったものでもあった。

 R32 GT-RのRB26DETT同様、高い人気となっているSR20DETやVG30DETT、FJ20ETなどもそれぞれのエンジンデータや乗り味をサンプリングできる実動車があれば、それらを元に走行性能をデジタルデータ化するのも可能だろう。それにいまでもファンの多いA型、L型エンジン、さらにはレース用にチューニングされた日産ワークス仕様のエンジンなどの特性もEVの駆動用としてデータ化できるかもしれない。

 そしてそのデータを市販のEV用に公開する、もしくはEVの機能の一部として搭載して販売すれば速いけど無個性な印象のBEVの走りに大きな変化とおもしろみが追加できるようになる。

 また、市販が難しいとなってもヘリテージコレクションのような施設であれば、乗ってみたいクルマのデータを入れたシミュレーターが運転できるなど過去のクルマをリアルに体験できる未来はありそうな気がする。クルマの歴史を知るのに「見ること」に加えて「体験できる」が加わればどれほどに楽しいだろう。そんなことを想像してしまうのだ。

ボンネットを開けた状態。収まっているのはリーフのモーターなど。ワンオフなので細かい部分の仕上げにとくに意味はないそうだ
RB26DETTであれば6連スロットルがある側から見た状態。ブレーキのマスターバックはポンプで負圧を作り作動させているという
RB26DETTならエアクリーナーやターボがある側
リーフ NISMO RC_02のバッテリはリアシート部に搭載される。このバッテリも設計図を元に再生産したものという
リアのクオーターウィンドウから見たところ。バッテリスペースカバーの上にはR32時代のSKYLINEロゴが入る。バッテリ搭載に対しては保護を目的とした隔壁も作ってある
EVなのでマフラーはないが、バンパーの切り欠きは残っている
BEV化により車重が増えていて、出力も上がっていることからブレーキの強化がされている。使っているのはR35 GT-R用のキャリパーとローター
リアもR35 GT-R用のブレーキに変えられている
ブレーキの大型化によりR32 GT-R純正の16インチホイールが付かなくなったので、純正ホイールのイメージを引き継ぎつつ18インチに大径化したホイールを使用する。センターキャップも純正と同じデザイン
このホイールは購入希望者が多そうだが、残念ながらショー用の作ったもので発売はないという。詳細なスペックや製法などは公開されていない
インテリアにも変更があるがエクステリア同様にノーマル風に仕上げている
シートはレカロ製のバケットシートに変えてあるが、表皮のカラーを純正シート風に張り替えている
アクセル操作にあわせてRB26DETTのサウンドをスピーカーから流す専用サウンドシステムも装備する。空吹かしで試させてもらうことができたが、モーターなのでレスポンスが良すぎた。シフトチェンジした際にガソリンモデル同様にエンジン音は変化するという
後席はバッテリとその隔壁があるのでシートポジションの調整幅はあまりなさそうだ
メーターはノーマルのようだが、実は全面が液晶ディスプレイで、そこにR32 GT-Rのメーターと同様のデザインを映している。ただ、BEVということでガソリンメーターがバッテリレベルメーターになっているなど表示内容は変えてある
キーは残っているが始動は電源ボタンで行なう
ステアリングにパドルが追加されている。疑似シフトモードを搭載しているとのこと
リーフのモーターを使っているので電制シフト式。操作レバーはR32 GT-Rのシフトノブ、ブーツを再現している。シフトポジションはメーター内に表示される
センターコンソールは液晶センターコントロールパネルになっている

 冒頭にも書いたように、R32EVはクラブ活動的な取り組みで製作されたクルマであり、日産からも平工氏からも「この活動は商品化のためのものではない」と明言されているが、夢があるクルマということは紛れもない事実。

 東京オートサロンはチューニングやカスタムを通じて、モーターショーとは違った面からクルマに関するワクワク感を伝える場であるが、R32EVがその場にふさわしいのは間違いない。それどころか筆者としては、ここ数年のあらゆるショーで日産が出したすべてのコンセプトカーの中で一番興味を持ったクルマだ。それだけに東京オートサロン2025に行かれるのなら、R32EVはぜひ見ていただきたい。

東京オートサロン2025に展示されるクルマの中で「必見」と言えるのがR32EVだ
深田昌之