冬の高速道路はこうして守られている(前編)
NEXCO東日本新潟支社湯沢管理事務所に見る雪氷対策



 日本有数の豪雪地帯として、またおいしいお米の産地としても知られる新潟県南魚沼郡湯沢町。湿気を含んだ冬の季節風が越後山脈にぶつかることで日本海側に多くの雪が降るということを社会科の授業で習った人も多いだろう。その豪雪地帯を南北に貫く関越自動車道では、除雪作業がこの時期に欠かせない業務となっている。冬の関越道ではどのような作業が実際に行われているのだろうか? 本記事では前編・後編に分けて雪が降る前の作業準備から除雪作業の模様までをお届けする。

豪雪地帯を受け持つ湯沢管理事務所
 NEXCO東日本(東日本高速道路)では、関越道をいくつかのエリアに分けて管理している。大きくは新潟支社、関東支社などの支社単位で、さらにその支社の中に以前出陣式を取材した長岡管理事務所や湯沢管理事務所などがあり、管理事務所単位で実作業が行われている。

冬は多くのスキー・スノーボード客が利用する関越道湯沢IC。湯沢IC出口横に湯沢管理事務所はある

 今回取材した湯沢管理事務所は湯沢IC(インターチェンジ)の横にある。群馬県の水上ICから新潟県の小千谷ICまでの88.1kmを受け持ち、エリア内には道路用トンネルとしては日本最長となる全長約11kmの関越トンネルもある。関越トンネルの新潟県側では1月から3月にかけて多くの雪が降り、新潟支社の1シーズンの最大降雪日数118日という記録は、1995年度に管内の土樽PA(パーキングエリア)で、最大累計降雪量約29mも2005年度に土樽PAで記録されている。さらに最低気温の記録となるマイナス17.2度も1987年度に管内の小出ICで記録されている。

 この豪雪に対応するため、湯沢管理事務所は湯沢をはじめ、水上、谷川岳、土樽など9つの基地に、各種作業車両を配備し、除雪作業や凍結防止剤散布などの雪氷(せっぴょう)作業を行っている。雪氷作業の司令塔となるのが、湯沢管理事務所棟内に設けられた雪氷対策本部。管理事務所棟の2階に設けられ、雪氷対策体制の決定や即時対応の判断を行い、各基地に指示を出している。

湯沢管理事務所入口。入口横には関越トンネルの工事で掘り出された石が置いてある。白い石が新潟県側、青っぽい石が群馬県側の石。色が異なっているのは、地層の生成過程が異なるからだろうか?湯沢管理事務所棟近くの駐車場のみ屋根付き。これは大雪のときに何かあった場合でも、雪下ろしをすることなくすぐに緊急車両を発進できるようにするため。いわばスクランブル車両の待機所。空いているスペースはパトカーの駐車エリア湯沢管理事務所の奥には、雪氷作業のために使う作業車の駐車エリアが広がる
作業車の駐車エリア奥から湯沢管理事務所棟を望む駐車エリアでは高圧洗車をしているスタッフを見かけた。これは道路の凍結を防ぐためにまく薬剤(凍結防止剤)が塩のため、洗車をまめにしないと車にさびが出るのが早くなるとのこと凍結防止剤散布車。車の前部には除雪用のスノープラウが取り付けられている。凍結防止のための薬剤は後方のタンクに積む
除雪車。折りたたみ式の巨大なスノープラウが付いている。凍結防止剤散布車と異なり、車体左側のほうが広くなっている。これは日本が左側通行のためで、車体右側から雪をかき始め車体左側に排出していく。左が広くなっているのは左へ行くほどかく雪の量が増えていくのに対応するため
ロータリー除雪車。車体前面のロータリーを回転させて雪をかき込み、車体上部の排出口から飛ばす。排出口は折りたたみ式になっている。後方に折りたたんだコンベアで追走するダンプに雪を積みながら査証することもできる。ロータリー部分は2軸構成


ロータリー除雪車の動作映像

中央の建物が湯沢管理事務所の敷地内にある薬剤庫。2階建て構造になっており、1階に駐車した凍結防止剤散布車に2階から薬剤を投入する。その模様は後編でお届けする薬剤庫の横には赤いホースが。このホースは凍結防止剤散布車に薬液を投入するためのもの。薬液は飽和するまで薬剤を溶かした水溶液。簡単に言うとものすごく濃い塩水だ薬剤庫の横には薬液を作るための設備がある。銀色の投入口から薬剤が投入され、タンクで水と混ぜ合わす
薬剤庫に到着したトラック。荷台には薬剤が山積みとなっていた。「Salt」と書いてあることからも分かるように中身は塩薬剤庫の1階に運び込まれた薬剤の山。薬剤の搬入スケジュールも雪氷対策本部で策定されている薬剤庫2階の作業スペース。中央に見える金網から薬剤を投入し、1階に駐車した凍結防止剤散布車に積み込む
薬剤庫の2階から1階のストックヤードを見下ろしてみた。多くの薬剤袋が並んでいる1袋に1000kgの塩が入っている。価格の安い中国製の岩塩を使用しているNEXCO東日本のスタッフにお願いして薬剤を見せてもらうことに。左に見える投入口が薬液を作るための設備につながっている
薬液タンクへの投入口薬剤の袋の中には写真のようにざらめ状の塩が入っている薬剤庫の上部に設置されていたクレーン。薬剤は1つの袋で1000kgあるため、このクレーンを使って1階のストックヤードから2階の作業スペースへつるし上げる。2階での作業の際にも使用する
雪氷対策本部は湯沢管理事務所棟の2階に設けられている。雪のシーズン以外は通常の道路管理業務体制だが、雪のシーズンは特別体制が敷かれる

雪氷対策本部内に備えられた多くの情報端末
 雪氷対策本部内に入ってまず目につくのは壁面にずらりとならんだモニター類。管内の道路状況をリアルタイムに見るためのもので、道路状況の変化や事故の状況を映像で確認できる。モニターの映像は、道路に取り付けられたカメラから送られており、カメラを直接コントロールすることで、カメラの向きの変更や映像の拡大なども可能になっていた。

 そのほか、管内各所の気温や路面温度、風力などの情報、新潟支社内で行われている規制情報、道路へあらかじめ埋め込まれたヒーターなど融雪装置の稼働状況、雪氷対策を行う車両の位置など多くの情報がすべて分かるようになっている。また、KP(キロポスト)表示など道路上の視線誘導標(デリニエータ)の照明のON/OFF、管内の高速道路の電光掲示板への表示文字のコントロールなどを行え、集められた情報を元に薬剤の散布や除雪作業の指示、各種規制情報の道路への表示を行っていく。

雪氷対策本部の壁面にずらりと並んだモニター。各種情報端末も設置されている。シーズン中のスタッフは通常5人体制とのこと。天候次第で増員される中央のやや大きなモニター群が本線上の映像を映し出す。奥の小さ目のモニター群が関越トンネル内の映像を映し出すためのもの。それぞれのモニターでは順次映像が切り替わりつつ高速道路の状況を映し出していたホワイトボードに書かれていた降雪量。関越トンネルの新潟県側出入口近くにある土樽PAの累計降雪量が多いことが分かる。ただし、前年と比べると半分ほどの累計降雪量
壁面に設置されていた自発光デリニエータ操作盤。関越道では、雪などで視界が悪化するため自発光タイプのデリニエータも備え付けられているKP(キロポスト)標識の上に付いているのが自発光デリニエータ。土樽PAから湯沢ICにかけて設置されていた気象情報はパソコンで提供されている。左のディスプレイには降雪(降雨)情報が、右側のディスプレイには時刻ごとの道路気象予測が表示されていた。情報提供はウェザーニューズ
気象情報は切り替えることもでき、左側のディスプレイに雲の写真とともに等圧線が描かれた天気図を表示しているところ天気図のアップ。日本列島の西から前線を伴った低気圧が近づいてきている道路気象予測画面。○が晴れで◎が曇り、●が雨、×が雪の記号。湯沢管理事務所が管理するエリアを7つに分けて予測している
気象情報を見るパソコンの横に置かれていたウェザーニューズのマニュアル管内の作業車の位置はリアルタイムに把握されている左の画面のアップ。小千谷や長岡とIC名が表示され、その上にはKP表示も。車両をクリックすると地図画面に切り替わる
地図画面。中央に作業車のアイコンが見える作業車アイコンのアップ。作業車のIDのほか100mごとのKP情報、走行速度も分かるようになっている管内の気温や路面温度などを表示するディスプレイ。0度以下のところは赤く表示され凍結のおそれがあることを示している
新潟支社全体の規制情報の状況を示すディスプレイ。緑が規制なし(最高速度100km/h)を表し、黄緑が速度規制1(80km/hや70km/h)、黄色が速度規制2(50km/h)を表す。湯沢管理事務所管内は、全線で速度規制1の表示道路施設の稼働状況を示すディスプレイ。散水施設や道路に埋め込まれたヒーターの稼働状況を表している雪氷対策本部に掲示される雪氷対策稼働表。まるで鉄道のダイヤグラムみたいだが、スタッフはダイヤと呼んでいるそうだ。作業車の稼働状況などを書き込んでいく。ちなみこれは取材前日のもので、多くの作業が行われていたのが分かる
雪氷対策稼働表の記載凡例。剤散布とは薬剤散布のことで、液散布とは薬液散布のこと。路面の状況によって、固体の塩をまくのか、液体の塩水をまくのか使い分けているチェーン規制の行われた時刻を示す。土樽PA(上り)のみチェーン脱却となっているが、これは関越トンネルに入る車に対して、金属製チェーンを外す規制をしていたことを示す赤のラインは除雪処理。1時間に1区間を往復したことが分かる。水色のラインもあるので薬液も散布されていたようだ

雪氷巡回や気象情報などの確認から始まる
 シーズンはそれこそ毎日のように雪が降るため、雪氷対策本部は24時間体制で稼働している。とはいえ仕事の流れはあり、道路パトロールカーによる道路状況の報告のほか、16時に行われる気象予測情報の確認によりその日の雪氷対策体制を決定するとのこと。

 16時に行われる気象予測の確認では、天気予報サイトとしても有名なウェザーニューズとWebカメラを使ってビデオカンファレンスを行い、その日の天気概況を知るほか、疑問点については直接ウェザーニューズの担当者とやり取りすることで解決し、天候を詳細に把握をしている。

 ビデオカンファレンスを終えたら16時30分から雪氷体制判定会議が始まる。これは、雪氷対策の機材配置や人員配置、道路規制などを決めるもので、その日の天候予測を重視しつつ現状を加味して決められていた。取材日の天候は異例となるもので、通常は関越トンネルの新潟県側で雪が多く降るのだが、この日は群馬県側で雪となる予報。それも深夜過ぎから20cm以上の降雪となる予報であった。

 この予報などに基づき、各基地における常駐スタッフ以外に招集スタッフ配備体制を決定。とくに降雪が多くなると予報されていた、群馬県側の水上基地には、22時から常駐以外のスタッフを招集するということが雪氷対策作業体制表に特記されていた。

 その後、湯沢管理事務所内にある新潟県警察高速道路交通警察隊湯沢分駐隊に状況を報告。これは道路の管理は高速道路会社などで行っているものの、交通規制については警察の業務となるため。もちろん、降雪があれば事故も増えやすく、その日の道路状況について警察と打ち合わせを行っている。

16時にウェザーニューズとのビデオカンファレンスが始まった。その日の気象予測の詳細を聞くNEXCO東日本の生方雪氷対策班長気象予測の詳細説明が一通り終わったところで、気象の疑問点などをウェザーニューズの担当者と直接やり取りする。この日は水上ICから谷川岳PAにかけて多くの降雪が見込まれており、その近辺の気象情報に関して担当者に質問していた16時30分に雪氷体制判定会議が開始された。先ほどの気象情報などをもとにして会議を進めていく。当日の人員体制や機材の配備状況などを決めていく
会議の資料として使われた道路気象予測。1時間ごと、エリアごとに細かい気象情報が書かれている道路気象予測のアップ。水上IC~谷川岳PAのエリアでは23時ごろから雪が降り始めると予測されている。0時すぎには管内のすべての場所で雪が降るとなっていた会議で決定された雪氷対策作業体制表。常駐スタッフ以外のスタッフも各基地で動員されている。新潟支社とも調整した上で、最終的に体制を決定し、各基地での雪氷対策体制の周知徹底が行われる
多くの降雪が予測される水上基地には22時に増援スタッフを招集すると特記されていた雪氷対策作業が決まると当日の体制などを湯沢管理事務所棟の1階にある新潟県警湯沢分駐隊に報告する。警察と一体になっての体制作りが行われていた雪氷対策本部22時の模様。まだ雪は降り始めていないが、事故や故障車の監視などもあり常にモニターを確認している。振り返って生方班長と話をしているのはベテランスタッフの大久保学氏

深夜から雪が降り始めた
 雪が降る前は、道路状況をモニターで確認しつつ、天気の状況を端末で確認。また、湯沢管理事務所以外の管理事務所や、管内の基地と適宜状況をやり取りしていた。

 この日の雪氷対策班長を務めたNEXCO東日本新潟支社湯沢管理事務所の生方直樹氏によると、今シーズンは比較的雪が少ないそうで、多いシーズンの半分くらいとのこと。雪がひたすら降り続くときは休憩を取る暇もない状況になると言い、「雪が降らないほうがありがたいと言いたいところだが、地域の大切な産業であるスキー場などのことを考えると雪が必要でもあるし」と語ってくれた。天候についてはどうしようもないことでもあり、それによる被害を最小限にとどめるための努力を、24時間体制で行っているというわけだ。

 0時近くになると雪がちらつき始め、雪氷対策本部に各所から電話が入り始めた。この日は群馬県側から雪が降り、0時40分ごろ“雪のゴーマル”を発令する準備が始まった。これは降雪により、高速道路の最高速度を50km/hに制限するということなのだが、前述したように速度規制の決定は警察が行う。雪氷対策本部と警察の間で何度か天候などに関するやり取りがあり、“雪のゴーマル”が0時50分に発令された。

 モニターに映る夜間映像でもハッキリと雪が確認でき、道路にもうっすらと雪が積もり始めた。ここから本格的な除雪作業の開始となるのだが、除雪作業の実際については後編でお届けする。

0時近くになり、モニターでも雪がちらつき始めた。関越道では前橋方面から雪が降り始め、水上IC近辺でも降雪が始まった模様モニターに映し出される映像を確認する大久保氏。マウスでカメラが映し出す方向をコントロールしたり、ズームしたりするなどの作業を行っている。降雪の状況は、さまざまな情報端末でも確認する手前が各方面と電話連絡を取る生方班長。“雪のゴーマル”を行うのか否かの判断材料を各方面と状況を確認しつつ集めていく。速度規制の最終決定は警察が行い、0時50分から最高速度50km/hの速度規制が始まった。並行して水上基地での除雪作業なども始まっていた

 

(編集部:編集部:谷川 潔)
2009年 2月 27日