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勝利の鍵は禁酒?「神保町フリーミーティング #03~橋本洋平氏86/BRZレース初優勝への道~」レポート
2016年7月12日 00:00
- 2016年6月24日 開催
岡山国際サーキット(岡山県美作市)で4月24日に開催された「GAZOO Racing 86/BRZ Race」クラブマンシリーズの2016年シーズン第2戦で、Car Watchで新車インプレッションの執筆や「橋本洋平の『GAZOO Racing 86/BRZ Race』奮闘記」を連載している橋本洋平氏が初優勝したことを記念する「神保町フリーミーティング #03~橋本洋平氏86/BRZレース初優勝への道 佐々木雅弘選手とメカニックが勝因を分析~」が、Car Watch編集部のある神保町三井ビルディング セミナールームで6月24日に開催された。
参戦4年、24戦目にして初めて立った表彰台の頂上。そのとき橋本氏の胸の内にどんな思いが去来していたのか、そして優勝の影の立役者でもある妻のまるも亜希子氏やメカニックの高橋滋氏、橋本氏が師匠と仰ぐレーシングドライバーの佐々木雅弘選手、GAZOO Racing 86/BRZレース参戦当初から橋本氏の走りを追いかけてきたカメラマンの高橋学氏の各氏がどう見ていたのか、事前申し込みで集まった30人以上のCar Watch読者の前でさまざまなエピソードから隠された裏事情(?)まで明かされた。
初のポールポジション獲得と優勝は“禁酒”のおかげ?
イベントの冒頭では、GAZOO Racing 86/BRZ Raceに参戦する多くの選手にタイヤを供給しており、橋本氏のレース活動もサポートしているブリヂストンのJリージョンモータースポーツ推進ユニット ユニットリーダーである塩谷聡一郎氏が挨拶。「長いことこのカテゴリーをサポートしてきて、(優勝したことに)我々も大変感動しています」と語り、第2戦の橋本氏とともに、スポーツランドSUGOで開催された第3戦プロフェッショナルシリーズでシーズン初優勝を飾った佐々木選手も祝福した。その後、橋本氏など4人の登壇者によって4月に行なわれた2016年の第1戦からレースの話題が展開された。
第2戦の岡山国際サーキットで初優勝した橋本氏だが、その3週間前に開催された第1戦もてぎでは調子がいまひとつだったという。「最終ラップ、あと半周くらいのところで燃料ポンプが壊れるという悪夢のような止まり方だった」と橋本氏。2013年の第3戦 鈴鹿サーキットで(橋本氏自身が)燃料を入れ忘れ、決勝レースでガス欠リタイアをしたときの記憶と重ねながら、メカニックの高橋滋氏に対して「やりやがったな」という怒りの気持ちが先行し、一触即発状態だったことを告白した。
しかし、高橋滋氏によるとトラブルの原因は、燃料の残量が少なくなった際にポンプがエアを吸うとエンジンがかからなくなるというもの。これを受け、燃料タンクの中身をいったん全て入れ替えることで「燃料を無駄なく使える状態」を整えて第2戦に挑むことができたという。結局は誰のせいでもなかったわけだが、佐々木選手からの「(燃料ギリギリを)攻めすぎなんじゃない? なぜそんなに少なくするんですか?」という問いかけに「少ない方が軽くなる分速い。橋本さんの(お腹の肉の)分をこっち(燃料)で削らないと」と高橋滋氏が返して会場の笑いを誘った。
そうして迎えた第2戦、予選で初めてのポールポジションを獲得したが、橋本氏は「トップだった人が走路外走行して、繰り上がりのポールだった」と謙遜。速く走れた要因についても「自分でもあまりよく分かっていない」と話す一方で、「(車両のセットアップを)ちょっとアレンジした。いつも佐々木選手に言われるがままにやって、うまくいかないんで、ちょっと疑った」と明かす。高橋滋氏も「そのときばかりは橋本さんが抵抗した」とのことで、自身の好きなセットアップで走ったことが予選の好成績につながったと分析した。
しかし、本当の原因は別のところにあったようだ。「2~3年レースに同行していますけど、優勝したレースだけ彼がやらなかったことがありました」と妻のまるも氏。「普通のアスリートはみなさんやっていることだと思うんですが、岡山にいる間、一滴もお酒を飲まなかった。ほかのレースでは毎回飲んでいたんです。だからこれからは禁酒してください」と、夫の橋本氏に対してまさかの禁酒勧告。
ところが、これに対して佐々木選手が反論。「こないだの(第3戦)菅生で予選5番手だったとき、悔しくて『お酒飲んじゃえ』と思って土曜日に飲んだら、日曜日に勝っちゃった」と、橋本氏とは正反対のパターンで優勝できたと語り、まるも氏が「一流のドライバーは、みなさん2週間前からお酒を抜くと言っている」と語るも、再び佐々木選手が「みんな朝まで飲んでますよ」と冗談とも本当ともつかない突っ込みを浴びせていた。
2周だけ見て「勝てる」と佐々木選手、高橋カメラマンは確信
禁酒が功を奏したのかどうかはともかく、車両のセットアップではリアサスペンションのプリロードを強めにかけ(バネを縮めた)、クルマが横方向にナーバスに動き過ぎるのを抑えたことで、路面μの低い岡山国際サーキットにマッチしたのではないかと橋本氏は分析。ポールを獲得した後は「ものすごいプレッシャー。前に誰もいないサーキットって目印がないので難しい。正直にいうとあまり好きじゃない」とふり返るが、決勝当日は「開き直った感じがあった」とまるも氏は語る。
ただ、橋本氏のスタート前の様子を見ていた佐々木選手によると、コースに出るアウトラップでは「すごいスピードでコース1周から戻ってきた」と言い、さらにフォーメーションラップでも「ウェービング(蛇行)をほぼやらずに、全開で帰ってきた」という。橋本氏はこれについて「温めるなら全開で飛ばした方が温まるよと聞いたことがあって……」と釈明したが、佐々木選手は「でも(タイヤ温度が)低い時にバン!と熱を上げてしまうとタイヤ表面がささくれちゃう」と冷静にデメリットを指摘していた。
それでも決勝は「安心して見ていられるレースだった」と佐々木選手。橋本氏は2015年の第6戦 十勝スピードウェイでも一時的にトップに立った経験もあるが、「十勝のときはすごく後ろばかり気にしていて、ブロックライン、後ろを邪魔する走り方をしていたので、タイムがどんどん遅くなる。タイヤにも厳しいし、それでやっぱり抜かれてしまった。(橋本氏は)その経験を生かして、岡山では自分のレコードライン、自分のペースで走っていたので、2周くらい見ただけで勝っちゃうかなと思った」と佐々木選手は分析する。
ここで高橋カメラマンがマイクを握り、決勝レースの様子をカメラマンの視点から語った。「(GAZOO Racing 86/BRZ Raceは)10~12周しかない非常に短いレースなので、1コーナーでスタートシーンを撮ったら、優勝する可能性があるとなれば10周目にはゴールにいなきゃいけない。岡山国際サーキットはコースの上をまたいで移動するので、あのときは最初の2~3周くらいで1コーナー(での撮影)を切り上げたんですが、もうその時点で優勝すると思ってました。十勝のときは、見てて『抜かれるかなーこれ』と。(岡山で)勝ったときは、うれしいというのもあったけど、すごくほっとしました。何年も見ていると、『勝てよ、いい加減』とか『まだ勝たないのかよ』と思うようになってしまう。期待はどんどん大きくなっていたので、(勝てて)よかったね、と」。
当事者の橋本氏は、勝った瞬間について「ようやくここに来れたなぁ、長かったなぁ前振り、という感じ。よかった、うれしかったです、その瞬間は」と率直な感想を口にしつつ、「本当にラッキーだった」と付け加える。「その次の菅生(のレース)で、最初のラップでミッションブローした。岡山でも、もしかしたら最終ラップでミッションブローしていてもおかしくなかった。クルマも人も、運があるなと」。
妻のまるも氏は「あんまり実感がわかなくて、家に帰ってから優勝したんだなと実感した。でも、ここでゴールじゃないとは思っていた。優勝に向けて何年もやってきたので、『気が抜けなければいいな』っていう不安の方が大きかったかも」と述懐する。
一方、メカニックの高橋滋氏は「優勝してゴールした瞬間、感動して泣くかなと思ったけど、その後のことを考えたら泣くヒマがなかった」とし、「優勝したらじゃんけん大会で(優勝車両の)タイヤをプレゼントするんですよ。車検場に行って、ブリヂストンの人が『早く持ってきて』という顔で待っているので、急いで交換しなきゃという気持ちがあった」と笑った。
進化した橋本氏の走りに期待。86は新車に乗り替え?
嬉しい初優勝後は、「運を使い果たしたのか」(橋本氏)第3戦のスポーツランド菅生ではミッションブロー、第4戦の富士スピードウェイでは混戦&豪雨でどちらも8位フィニッシュと、思ったような成績を挙げられていない橋本氏。しかし、今回のフリーミーティング中に披露された、橋本氏の車両に搭載したデータロガーから得られた走行データを見る限りでは、同じ条件で走行した佐々木氏と目立って大きな差と言える部分はなく、参戦から3年半で橋本氏の走りに著しい進化があったことは明らかだった。
橋本氏はクラブマンシリーズで86に装着しているブリヂストンの「POTENZA RE-71R」が持つグリップ性能のおかげで、コーナリングでの無理な突っ込みなど「多少の無理を許容してくれるところに甘えちゃいけない」と自己分析。タイヤの使い方に気を配る走りにもチャレンジし続けていると語る。3年半に渡りサーキット走行で酷使し続けてきた影響でルーフに歪みが発生している86については「パテを盛って直します」とジョークを織り交ぜつつ、今後はできればエンジンを載せ替えるか、あるいは新しい86に乗り替えることにも含みをもたせつつ、まだチャンスが残る今シーズンの年間チャンピオンを目指すと宣言した。