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フォルクスワーゲン、テレマティクス機能「Car-Net」実車説明会
9.2型ディスプレイを採用する“新世代Discover Pro”も日本初公開
2016年12月22日 00:00
- 2016年12月20日 開催
フォルクスワーゲン グループ ジャパンは12月20日、都内にある同社オフィスで記者説明会を開催。今年から製品展開を始めているモバイルオンラインサービス「Volkswagen Car-Net」について解説し、合わせて実車を使った体験会を行なった。
Car-Netは、日本的に言うといわゆるカーナビゲーションシステムだが、どちらかと言えば海外で「IVI(InーVehicle Infortainment)」と呼ばれる車載情報システムに進化していることが大きな特徴で、Wi-Fiルーターやスマートフォンのテザリング機能を利用してインターネットに常時接続しながら利用すると、より便利に使える点が従来のカーナビと大きな違いになる。
2025年にコネクテッドカーは6億台超。それに備えたコネクテッドカー開発が重要
説明会で登壇したフォルクスワーゲン グループ ジャパン 営業本部 商品企画課 次世代モビリティ・コネティビティ マネージャーの越知竜士氏は、Car-Netの機能などについての解説を行なった。
越知氏は「2016年の自動車業界のキーワードは『自動運転』と『コネクテッド』だった。モバイル端末と連携するコネクテッドカーは2015年末で1100万台だったが、フォルクスワーゲンでは2025年には6億台超に増えると考えている。さらに、そうした大きな新しい時代の流れを捉えるうえで、車載情報システムは重要になってくる」と述べ、今後自動運転などの普及に向けて、自動車のコネクテッド(英語で「接続されている」という意味だが、自動車業界で使われる場合はインターネットに常時接続されていることを意味する)化に向けた取り組みが重要になると強調した。
また、越知氏はCar-Netは大きく分けて「App-Connect」「e-Remote」「Guide&Inform」という3つに分類できる機能を持っていると語る。
App-Connectというのは、カーナビのディスプレイを利用して、USBケーブルで接続されたスマホのアプリを使えるようにする仕組みのことだ。従来は「MirrorLink」という仕組みが利用の中心になっていたが、現在はスマホの世界的な2大OSである「iOS」で利用する「CarPlay」と、「Android」で利用する「Android Auto」という2つの機能がメジャーになりつつある。越知氏によれば、Car-NetのApp-Connectでは、MirrorLink、CarPlay、Android Autoという3つの方式すべてに対応していることが1つの特徴になる。
e-RemoteはEVやプラグインハイブリッドカー向けの機能で、スマホを利用して車両の充電状況を確認したり、エアコンをリモート操作したり、ドアやライトの確認などが行なえる。ユーザーはスマホでCar-Netのポータルサイト(Webサイト)に接続すると、前述のような機能を確認したり、操作したりすることが可能になる。
クラウドにアクセスするCar-Net。スマホの利便性をクルマに
ユーザーにとって、Car-Netの最も身近な機能が3つめのGuide&Informになる。シンプルに言ってしまえば、従来のカーナビから発展したものだと考えればいいが、従来からの大きな違いは“コネクテッドであること”。つまり、インターネットに常時接続されていることを前提とした機能を多数備えていることだ。従来のカーナビでもコネクテッドな機能も一部であったが、プローブ交通情報などの機能だけに限られることが少なくなかった。しかし、Car-Netはコネクテッドなシステムとして設計されており、インターネットに常時接続することを前提とした機能が多数用意されている新世代のシステムとなっている。
越知氏によれば、Car-Netでは通常の内蔵地図のデータベースに加えてオンラインでの検索に対応しており、最近オープンしたばかりといった施設でも、日々更新されているGoogleの最新情報を検索して、そのデータを元に目的地設定することも可能になる。さらに、Google Mapsの拡張機能であるストリートビューやGoogle Earthといった機能も利用可能。例えばストリートビューを使うことで、目的地周辺の様子を事前に確認して「駐車場に右折で入るのは難しそうだ」といった確認もできる。
さらに越知氏は「インターネットに常時接続されていることで、VICS情報をオンラインで取得したり、駐車場やガソリンスタンドの情報を検索したり、さらにガソリン料金や駐車場の空き情報なども取得できる」と解説。なお、このガソリンスタンド情報や駐車場情報は、スマホ向けにサービスを提供しているナビタイムが提供しているデータで、スマホで利用しているサービスがIVIでも使えるようになったと考えると理解しやすいだろう。
また、Car-Net用のポータルサイトを利用すると、あらかじめPCやスマホなどで検索しておいた目的地を100件まで登録できる。自宅のPCや、レストランでスマホを見ながら検索しておいた目的地がインターネット経由でカーナビに自動転送されており、クルマに乗ったらリストから目的地を選ぶだけで簡単に目的地設定ができる。こうしたことが“コネクテッドであること”のメリットなのだ。そのほかにも、音声での目的地検索やIVIを操作できるボイスコマンド機能、ニュースや天気を表示する機能などが用意されていると越知氏は説明した。
なお、会場では現在フォルクスワーゲンが開発中の9.2型のディスプレイを採用する“次世代のIVI”が紹介された。越知氏によればジェスチャーコントロールなどの機能も備えており、メニューの切り替え操作を画面の前で手を動かす動作で行なえるなど進化しており、主力車種である「ゴルフ」のマイナーチェンジに合わせて導入予定とのことだ。
越知氏によれば、フォルクスワーゲンが販売するすべての機種にこれらの機能が搭載されているわけではなく、標準搭載のモデルもあれば、オプションで用意されているモデルがあると言う。しかし、EV/PHV専用のe-Remoteは別にして、Guide&Informは全モデルの4割で標準搭載、あるいはオプション設定されており、ゴルフシリーズや「パサート」シリーズから順次導入が進められ、App-Connectにおいては全モデルの約8割(スライドでは約9割になっているが、約8割が正しいとのこと)で標準搭載、またはオプション設定されているとのことだった。
クルマの操作性を活用しつつ、インターネットにアクセスできることが魅力
実際に搭載車で試してみたところ、やはり感心したのは、インターネットの機能を従来の日本のカーナビよりもしっかりと活用できているという点だ。
例えば、行き先を設定するときに検索するのはローカルのデータベースではなく、インターネット上にあるGoogleのデータベースを使う。従って表示される情報も常に最新のデータとなる。Google Mapsを普段から使っていると分かるが、Googleのデータベースは日々更新されており、今回の説明会でも先日オープンしたばかりの施設を検索してそれを示してみせた。また、ストリートビューを見ることができるのも意外と便利だ。
現在、多くの人がそうだと思うが、電車でどこかに出かけるというときに、まずはGoogle Mapsで行き先までのルートを確認し、ストリートビューで目的地周辺の様子を確認するといったことを普通にやっていると思う。筆者もそんな1人で、今まではクルマで移動する場合には、まずスマホのGoogle Mapsで行き先を確認し、ストリートビューで様子を見て、そのあとにカーナビに住所を入力するという手間がかかっていた。しかし、このCar-Netの場合には、スマホで検索するという作業がなくなるので非常に便利だ。
同じことは、ナビタイムが提供する駐車場情報やガソリンスタンド情報、各種ニュース、天気予報などの情報を見る機能にも言うことができる。こうした情報も、スマホのアプリという形で提供されており、クルマに乗るときにスマホのアプリで情報確認している人も少なくないだろう。ナビタイムに限らず、ニュースや天気予報をスマートニュースやYAHOO!ニュースなどで見ているという人なら、「同じサービスにカーナビの画面からアクセスできるようになっている」と言えばイメージしやすくなるだろう。つまり言い換えるなら、このCar-NetはUI(ユーザーインターフェース)こそ車内で操作するのにふさわしいものになっているが、実現していることはスマホの仕組みそのものなのだ。
スマホのアプリがインターネット経由でアクセスしている、データの実体が置かれているサーバーのことを「クラウドサーバー」と呼んでいる。そこにクライアントとなるスマホがアクセスするので、こうしたモデルのことをIT業界では「クラウドコンピューティング」と呼んでいる。Car-Netがスマホと同じような仕組みを導入していくということは、言ってみればこのクラウドコンピューティングを自動車に導入するのと同じことで、大きな意味がある。
自動車の未来を垣間見せてくれるCar-Netの今後に期待
ただ、実際に触ってみて、現状ではいくつかの課題があることも見えてきた。その最大の点は、音声認識が現在スマホで実現されている音声認識と比べてやや時代遅れな機能であることだ。現在のスマホの音声認識機能は、音声のキャプチャーだけをスマホで行ない、キャプチャーされた音声をクラウドサーバーに送ってクラウド側で音声認識を実施。その結果をスマホに返すという仕組みで成り立っている。
これは、クラウド側にAI(人工知能)などの機能を利用して音声認識する仕組みがあり、それを利用すると人間がヒアリングしているのに近い成功率で音声認識が可能になるためだ。AppleのSiriやGoogleのGoogle 音声認識などのスマホで利用されている音声認識は例外なくこの仕組みを採用しており、人間同士で話すような「自然発話」でも、問いかけに見合った答えを返してくれるのだ。例えばSiriに「音楽かけて」と言うと、音楽再生ソフトを起動して音楽を再生してくれるといった具合だ。
それに対してCar-Netでは、音声認識後の検索にはインターネットを活用できるが、音声認識のエンジンそのものはローカルにあるシステムを利用している。このため、認識率もあまり高いというわけではなく、音声認識の利用も階層化されたコマンドを使う必要がある。先ほど紹介したように、Siriでは「音楽かけて」と口にするだけで音楽が再生されるが、Car-Netの場合では「メディア」→「CD再生」など、コマンドの階層をたどっていってやっと音楽を再生できる。クラウドにあるAIなどのように、自然言語認識ができるエンジンが利用できないからだ。クルマでも今後は音声認識がさらに重要なUIになると考えられるので、この点は要改善だろう。
ただ、すでにスマホと同じようなオンライン地図、オンラインデータベースへのアクセスが実現できており、クラウド側のAIを利用した音声認識などの機能を利用できるようになるのも時間の問題だろう。今後、このCar-Netを発展させていけば、より便利なクルマが実現できることは間違いない。このCar-Netはそうした時代へのまさに第一歩なのだ。
【お詫びと訂正】記事初出時、Car-Netのカーナビ用地図に関する情報が間違っておりました。純正インフォテイメントシステム「Composition Media」「Discover Pro」に搭載されている地図はGoogle Mapsをベースにしたものではありません。お詫びして訂正させていただくとともに、該当部分を修正いたしました。