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アカザーの「国際福祉機器展」をユーザー視点でチェックしてきました!

ホンダ「UNI-CUB β」ベースの試作機に感動!!

2017年9月27日~29日 開催

車椅子ユーザーでも「UNI-CUB β」
どうもアカザーっす。事故で脊髄を損傷して以来、17年間車椅子ユーザーです(イラスト:水口幸広)

 2000年の夏に怪我で脊髄を損傷し、以来この17年ほど車椅子ユーザーのアカザーっす。毎年この時期になると、手術後ベッドの上で絶望感に苛まれているオレを心配した家族が「国際福祉機器展」に行き、大量の車椅子パンフレットを持って帰って来てくれたコトを思い出します。

 17年前のオレが車椅子で社会復帰するきっかけとなった国際福祉機器展ですが、2017年は9月27日~29日の3日間、東京ビッグサイトにて開催されました。世界151カ国から526社が出展するアジア最大規模の福祉機器展示会は、3日間で12万人以上の来場者を集める例年以上の大盛況ぶり。毎年どんどん凄くなっていく感じっす。

2020年の東京パラリンピックに向けて車椅子スポーツを広めたい!

バイクのチューニングメーカーとして創業したOXエンジニアリングのブース

 例年どおりオレがまず向かったのは、17年間お世話になっている車椅子メーカーことOXエンジニアリングのブース。

 もとはバイクのチューニングメーカーとして創業したOXエンジニアリング。先代社長がバイクの事故で車椅子になったのをきっかけに一念発起し、車椅子業界に転身。以来、バイク業界で培った技術やデザインワークでカッコイイ車椅子を作り出し、車椅子業界に新風を吹き込んだメーカーです。

車椅子スポーツの振興にも力を入れるOXエンジニアリング。現在は石井勝之氏が2代目社長を務める

 オレも17年前、病院のベッドの上でOXエンジニアリングのカタログを見て、車椅子らしからぬそのカッコよさにヤラれたクチです! 苦しいリハビリを終えて、初めてOXエンジニアリング製のマイ車椅子が納車されたときはうれしかったなぁ~。

 バイクのチューニングメーカーだったOXエンジニアリングだけに、カッコよさだけではなくその性能もピカイチ! 陸上競技用レーサー「GPX」シリーズは、パラリンピック車椅子陸上で日本人選手使用率が80%以上という常勝マシン。そして、このたびその遺伝子を受け継ぎ、新たに開発されたエントリーモデルがこの「GP-S」!

より多くの人に車椅子陸上の楽しさを知ってもらいたいと開発された「GP-S」

 社長の石井勝之さん曰く、「2020年の東京パラリンピックに向けて、多くの方に車椅子陸上の楽しさを知ってもらいたくて作りました。コンパクトに設計した乗りやすいエントリーモデルとはいえ、乗り手次第ではハイエンドモデルのGPXにもついていけますよ」とのこと。

「アカザーさんもLサイズなら簡単に乗れると思います」との石井さんの一言で、その気になって乗っちゃいました!

前傾ポジションに構えると、速く走れそうな気になっちゃいます! この後、降りるときに尻が抜けなくて、ひと苦労だったのはナイショです(笑)

 本来、こういった車椅子レーサーは使用者との一体感を高めれば高めるほど戦闘力が上がるため、車体は選手専用のワンオフで作られるもの。なので、なかなか乗る機会がないのが現状。ですが、このGP-SはフレームサイズをS・M・Lの3種類とし、全長を1600mmにして、汎用性と取りまわしのよさをアップ! さらに価格も30万円ほどに抑えることで、多くの人が気軽に車椅子での陸上競技を楽しめるようにと開発されたもの。

 そしてこれらGPXやGP-Sを使った競技で磨かれた技術は、当然日常用車椅子にもフィードバックされるワケです! そんな、OXエンジニアリングのレーシングテクノロジーを日常用車椅子にフィードバックした新作が、こちらの1台!

参考出品の車椅子。上下セパレート構造でマルチマテリアル化を意識した設計。軸受け内部にはダンパーを内蔵する

 まだ参考出品で名前は決まっていないとのコトですが、現在のハイエンドモデル「ZZR」の後継機になるとのこと! フレームを上下分割構造とすることで、マルチマテリアルに対応したモデル。最近は2020年のパリンピックに向けて、競技用車椅子に使うカーボンやマグネシウムなどのマテリアルの進化が凄まじいらしく、それをいち早く日常用車椅子にフィードバックするためにこういった設計にしたとのこと。

マルチマテリアル対応により、これまでの車椅子よりかなり軽くかつ剛性感も高く作れるという

 コレなら上を軽いカーボン素材で作って、下を剛性と粘りのあるマグネシウムで作るなんてコトが可能になるんすね~! イカスわ~! 毎日車椅子を使う人は、今後要チェックの1台ですよ!

歩くように動ける! これが未来の車椅子の姿かも!?

 OXエンジニアリングの後に向かったのは、福祉機器開発最前線ブース。ここでは開発段階にある次世代機を見られたのですが、そこでオレを一番感動させたのがコレ!

参考出品の「UNI-CUB βをベースとした障碍者向け一人乗りパーソナルモビリティ試作機」

 本田技研工業と横浜市総合リハビリテーションセンターが開発した、「UNI-CUB βをベースとした障碍者向け一人乗りパーソナルモビリティ試作機」! なんか名前がかな~り長くて覚えづらいのですが、要は2013年にホンダが発表した1人乗りパーソナルモビリティ「UNI-CUB β」を、足の不自由な車椅子ユーザーでも乗れるようにしたもの。

ベースとなっているのは、本田技研工業のパーソナルモビリティUNI-CUB β

 以前、OK GoのPVを見て以来、UNI-CUB βがめっちゃ楽しそうで凄く乗りたかったんすよね~。と、熱視線を注いでいたら、開発者の長谷川さんから「乗ってみますか?」のお言葉が! マジすか、いいんすか! 乗ります乗ります!

 ってコトでいきなり乗ってみました!

 本体はUNI-CUB βの四隅に転倒防止の4輪アタッチメントが付いており、パッと見はフツーの車椅子っぽいんですが、座面が小さいコトもあり乗った感覚は子供の頃に乗った一輪車に近いかも。車椅子に比べると座った感じが心もとなくちょっと怖かったので、左右の手すりをガッチリ掴んで深く座って搭乗。で、言われたとおりに恐る恐る身体を前に傾けて前進しようと試みるも……あれ? 前に進まない?

 どうやらUNI-CUB βの搭乗姿勢は背筋を伸ばして乗るのが基本とのこと。その背筋を伸ばしたニュートラルポジションから、わずかな体重移動で操作する乗り物のようで、オレのようにビビって猫背で椅子に深く座り、しかも手すりをガッチリ掴んで体重を転倒防止アタッチメントに預けている状態では、かえって操作しづらいとのこと。

 むむう。ちょっと怖いけど、ここは思い切ってアドバイスどおりに浅く座り、着座位置をシートセンターに! さらに背筋を伸ばし、体幹をUNI-CUB βの上にまっすぐ置くようにして、手すりは軽く握るだけ。その状態で軽く頭を前に傾けると……うおぉぉ! 前に動いたぁぁぁ! おおおお! なんだコレ! めっちゃ楽しいぃぃぃ!

足の不自由な車椅子ユーザーでも乗れるようにしたUNI-CUB β

 そのままブースをひとまわりして少し慣れたら、今度は手すりを持っていた手を膝の上に置き、さらに背筋をピシッと伸ばして操作! いや~、重心をUNI-CUB βのセンターに集めれば集めるほど、自由自在に動けるんすね~! やべぇぇぇ! マジでおもしれぇぇぇ!

 と、ニマニマして乗っていると、開発者の長谷川さんが「ちょっと転倒防止アタッチメントを外してみますか?」との提案! たった5分乗っただけなのに、すでに「オレが一番うまくUNI-CUB βを使えるんだ!」状態になってしまったオレは,、調子に乗って2つ返事でオーケー! いざ転倒防止アタッチメントなしのUNI-CUB βに挑戦!

 むおっ、おっ、やべぇ! すげぇ動く! ていうか動き過ぎる! そうか~、今までは転倒防止アタッチメントが補助輪的な役割をして、本来の動作を抑制していたのか! 転倒防止アタッチメントを外したコトでUNI-CUB βがより多く傾くようになり、少しの体重移動でもめっちゃ動く感じに! これがUNI-CUB βの真の実力なのか!

うひー! やべぇぇぇ! おもしれぇぇぇ!

転倒防止アタッチメントなしのUNI-CUB βに挑戦!

 各種イベントなどで、パーソナルモビリティのUNI-CUB βに乗ったコトがある人は分かると思うんですが、コレは本当に少しの体重移動だけで進む乗り物なんですね。なので、慣れてくると意識しなくても目線をやるだけでその方向に進むようになるのか~。

 ハッ! この感覚“歩く”感じじゃね? 最後に歩いたの17年前だけど、歩くってこんな感じだったよな!? 両手がフリーで、着座位置のせいか目線が高いのも歩いてる感じだよ! さらに、車椅子の幅を気にせずに人混みをかき分けていけるとか! うわ~そうそう、歩くってこんな感じだったわ~!!

 車椅子になって17年。色々なタイプの車椅子を体験してきましたが、そのどれとも違う感覚! ていうか、車椅子に乗っている感じじゃない!

 なんか、歩けていた時のことを思い出して、ちょっとウルっときちゃいました。まさかこんな体験ができるなんて……。

 オレはTh12番の脊髄損傷なので、腹筋が効いて体幹もそこそこあるので、初見でも乗れたんだと思うのですが、たぶん頸椎損傷などで体幹がままならない人には現状の仕様では乗るのは難しいかも。

 開発の長谷川氏曰く、「多くの人が乗れるようにすることや、段差を越えるのが難しい点など、まだまだ今後クリアしなければいけない問題は山積みです。それらの問題を解決するために、現在は横浜リハビリテーションセンターの協力のもと日夜研究開発をしています」とのこと。

 そうですか、そうですか! オレ、めっちゃ応援しますよ! だってコレ、歩きたいと願う車椅子ユーザー全員に体験してほしい“歩くことを思い出す乗り物”ですもん! あ~、この原稿書いてたら思い出して、またウルウルしてきたわ~。もっかい乗りたいなぁ。はやく実用化されないかな~。

再生医療のリハビリシーンを想定した機器

 同じく福祉機器開発最前線ブースで参考出品されていた、カーボン製長下肢装具と車椅子が一体となっためっちゃカッチョイイアイテムを発見!

車椅子と合体可能なカーボン製長下肢装具「C-FREX」

 この「C-FREX」(脊髄損傷者用カーボン長下肢装具)はオレのような脊髄損傷者でも、外骨格構造の装具を用いるコトで立位・歩行を可能にするというもの。また、車椅子と合体可能とすることで、実用的な移動手段にもなりえるとのこと。

 開発をしている国立障害者リハビリセンター研究所の川島さんによると、今後さらに進むであろう再生医療をうけ、神経再生手術後などのリハビリも意識して開発しているとのこと。

長下装具としては画期的な、膝が曲がる仕様。また、カーボン素材のバネ効果により下肢を前に蹴り出せるので、歩く感覚により近付いたという

 実はコレ、2年前の福祉機器展でも見ていたんですが、当時はコンセプトCGだけの発表だったものが、今年はプロトタイプを展示するまでになってました! リハビリ方面をサポートする機器もどんどん進歩しているんすねぇ。

SF映画に出てきそうな未来の福祉機器

 トヨタブースで見つけたコレ。関連会社のアイシンが参考出品していた「ILY-Ai」という小型の電動3輪パーソナルモビリティ。一見「セグウェイ」ぽい感じなんですが、なんと用途に合わせて、キャリーモード、キックスクーターモード、カートモード、ビーグルモードの4種類の形態に変形するとのこと!

 また、前面のセンサーやカメラで障害物を認識。ロボット技術を応用した知能化安全技術で、車体の速度を自動調整したりブレーキをかけたりするアシスト機能を搭載するとのこと。

小型の電動3輪パーソナルモビリティ「ILY-Ai」。ニーズに合わせた4形態に変形する
このSF映画に出てきそうな未来デザインがイカスわ~! アイシンかなり凄いかも!

 同じく参考出品「ILY-I」は屋内で使用するファニーチェアモビリティで、肘掛けにあるコントローラーで自由に動かせる電動椅子も展示。

車椅子ユーザーの視点に立ったクルマ

 障碍者でもbe a Driverになれるクルマを作ってくれているマツダブースもチェック! 2016年は、障碍者でも運転が楽しめる手動運転装置つき「ロードスター」と「アクセラ」の発表に感動(2016年の記事)したんですが、2017年はさらに手動運転装置車のラインアップに「ロードスター RF」と「アテンザ」の2台が追加されてましたヨ!

ロードスター RFとアテンザともに手だけで運転できる手動運転装置が付いている。よりスポーティな走りが楽しめるロードスターRFにはステアリングスポーク右に、親指で操作可能なシフトダウンボタンも装備

 走りなら間違いなく2.0リッターエンジンを搭載し、よりパワフルになったロードスター RFだと思うのですが、2017年は実用面でナイスな装備が搭載されていたアテンザ推し! コレコレ、この小型クレーンがついたトランクルームですよ! このクレーンや備品のまとめ方に、マツダのセンスを感じずにはいられない!

展示されていたアテンザのトランクルームには、リモコンで動く小型のクレーンを装備。奥には競技用の車椅子が置かれ、車椅子でスポーツをするユーザーの利用を思わせるディスプレイ

 さらに、積み下ろし時に車体を傷つけないようにするカバーや、走行中に車椅子が揺れて動かないよう上からホールドするカバーなど小物も充実! これらは一見地味なアイテムですが、実は車椅子ユーザーの視点に立ったもの作りなんですよ! 車椅子ユーザーのオレなんかがクルマを使っていると、乗り降りや荷物の積み下ろしの際にどうしても愛車のバンパーや荷室を傷つけちゃうんです。

 これはそんな俺のようなユーザーの悩みを、カッコよく解決してくれる超ナイスな製品なんですヨ! 機能とデザインを両立したこういう製品が、障碍者向けにも作られる時代になったコトも素直にうれしいですね。

 開催まで3年を切った2020年の東京パラリンピック、そしてますます高齢化が加速する日本社会。そういったシーンを裏方として支えることで、これからさらに進歩していくであろう福祉機器の世界。これから出てくる機能的でカッコイイ福祉機器が、俺たちの人生を豊かにしてくれる! そんな未来を感じた、2017年の国際福祉機器展でした。

9月27日~29日に東京ビッグサイトにて、国際福祉機器が開催されました!