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【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー

2017年10月15日(現地時間)

【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー 優勝後に記者のインタビューに応じる室屋義秀選手(No.31 チーム ファルケン)
優勝後に記者のインタビューに応じる室屋義秀選手(No.31 チーム ファルケン)

「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2017」の最終戦が米インディアナポリスで10月15日(現地時間、日本時間10月16日)に開催され、同大会で日本人パイロット室屋義秀選手(No.31 チーム ファルケン)が優勝するとともに、2017年シーズンの世界チャンピオンを獲得した。その室屋選手がレース終了後に取材陣の囲み取材に応じた。

【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー 記者のインタビューに応じる室屋選手
記者のインタビューに応じる室屋選手

――優勝おめでとうございます。予選ではやや成績がふるいませんでしたが、決勝日は天候の急変とともに、明らかにすべてのスイッチが入ったように切り替わったように感じました。勢いの風が吹いて来たなと感じることはありましたか?

室屋選手:どうでしょう。予選とはコンディションが劇的に変化して、気温も一気に下がってきて、気温が下がったほうが自分の機体には有利に働きますので、そういう意味では風が吹いて来たという感じはしました。気温は「下がれ!下がれ!」とチーム一同で思っていました。

――決勝のFinal 4でいきなり1分03秒台が出たときには、もうスゴい数字が出てしまったという感じで、会場も沸いていたのですが。自身の貯めていたモノが、一気に弾けたとか。

室屋選手:自分でもちょっとビックリしました。「あり得ない!」って感じで(笑)。あのタイムは、普通ではあり得ないです。計算上でも。ある意味、飛行は物理学ですので。どこかで追い風が吹くとか、さまざまな特別な要因がないことには、1秒というのは縮まりませんから。エアレースでの1秒というのはとてつもなく大きい数字ですから。1分04秒を切るというのはないはずだったのです。

――来シーズンの期待も高まります。

室屋選手:そうですね。来シーズンに向けてよいモチベーションをキープしていけると思います。

【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー 室屋選手の愛機「Edge 540 V3」
室屋選手の愛機「Edge 540 V3」

――機体を直して、Round of 14でソンカ選手と対戦する時、機体の感触はどうでしたか。

室屋選手:Round of 14では、ペナルティをもらいつつも4番目あたりにはつけていたので、機体のスピードが戻っているのは実感できました。決勝の天候ではペナルティが多発するのは予想していたので、こちらが1回程度もらっても、とにかく最後まで飛びきることは確認していました。Round of 14でのペナルティはタービュランス(乱気流)で止めようがなく、ある意味仕方がなかったので、よいフライトだったと思います。ソンカ選手が飛ぶのも同じコンディションですから、何かが起こる可能性があるという風に考えました。

――勝てそうだと、どのあたりで感じましたか。

室屋選手:そういうのはないです。最後まで気を抜けません。Round of 14終了後、マルティン・ソンカ選手が上がってきて、カービー・チャンブリス選手とピート・マクロード選手が抜けたので、ソンカ選手と一騎打ちになると考えました。Round of 8でもソンカ選手が勝ち抜けてファイナル(Final 4)に来たので、1位と3位か、1位と4位の組み合わせでしか勝ち目はなくなりました。(自分が)1位か1位になるしかないわけです。でも、まさか1分03秒台までタイムが上がるとは思いませんでしたが。

――1分03秒台を出して、これは誰も追いついて来ないだろうと思いましたか。

室屋選手:気流が荒れてて、すごく難しいコンディションでしたから、ペナルティに近い箇所も1、2カ所ありましたから、ペナルティがないといいなと思いつつ、タイムが速い感じはありました。乱気流で機体を止められないケースもけっこうありますから。ペナルティがなかったのが、すごくラッキーでした。

――今回はあり得ないようなシナリオだったんじゃないかと思います。予選から不調で、ライバルと当たり、そのライバルを倒したら復活してきてと、最後のパイロットが飛ぶまでタイトルが決まらなかったというのも珍しいと思います。Round of 8でマット・ホール選手がパイロンヒットして、マルティン・ソンカ選手に勝てなかった時、というのが1つの山場だったのかなと思いますが、その時の心境はどうでしたか。

室屋選手:あ~、もう1回だ。という感じです。「面白いじゃん! 勝負しようよ!」という感じでしたね。もう1回勝負で決戦しようと。Round of 8の最終ヒートでマット・ホール選手が帰ってきた時、自分は次のRound of 4に向けすでにエンジンをかけて待っていたのですが、「Sorry Yoshi!」と冗談を言っていました(笑)。マットもこちらのタイトルがかかっていることを分かっていたんですね。

【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー Round of 4でアタックする室屋選手
Round of 4でアタックする室屋選手

――とても楽しませていただきました。会場では、みんな叫んでいましたからね。

室屋選手:ドラマチックですよね。きっとTVなんかで見るととくに。僕は分からないんですが。叫んでいましたか。

――とくに途中で垂直にするところが、背面飛行になりそうなほど勢いがついて、その後持ち直してすり抜けるシーンがあったのですが、そこでは会場がどよめいていました。

室屋選手:あ~あれは、その前のゲートがギリギリだったので、回り切れないぐらいのところだったのですが、そこを戻せたのはなかなか、自分でもよく戻せたなという感じでしたね。パイロンヒットするかアウトにするか、あれはとてつもなく難しかった場面です。

――終わってみると、今年は年間最多の4勝されて、チャンピオンも獲られたという順調なシーズンだったと思うのですが、その要因をどのようにお考えですか。

室屋選手:今年の4勝はできすぎなところもあって、20年近い積み重ねの中で、レースのテクニックとかノウハウを少しずつ積んできた成果が、今年になって出始めたことなのかなと思っています。とは言っても、順調に来たわけでもなく、途中いろいろ難しい展開の中で、最終的に一歩前に出たというだけで、今日も誰が勝ってもおかしくない僅差ですよね。

――ある意味、目標を達成してしまったわけですが、次に設定する目標というのはどうお考えですか。

室屋選手:レースはまだ続けますので、2度、3度と繰り返していってホントの強さをつけたいです。ポール・ボノム選手(2003~2015年のシーズンを活躍)が3回ワールドチャンピオンを獲っていますよね。彼の技術というのは、やはり秀でています。そこに向けてまだまだ上手くなりたいなという考えがあります。今回の予選とか、自分が満足のいくフライトはできていない状況です。決勝でもまだ、「あ~~」と思ってしまうシーンはあります。ワールドチャンピオンを獲るためにやってきましたが、技術を磨くという楽しみのためにやっている部分もあるので、まだまだ技術は磨いていきたいと思います。頂点に立って、そこから教わることもあると思います。これを機にパイロットを目指す子も増えてくるでしょうから、次の世代に贈っていくということも使命だと思いますので、そういう活動が大きくなると思います。

【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー 終始和やかで、ときおり笑いも交えながら、記者のインタビューに応じる室屋選手
終始和やかで、ときおり笑いも交えながら、記者のインタビューに応じる室屋選手

――今回のような急にコンディションが変わった時は、どのように考えて飛ぶのでしょうか。

室屋選手:予選と決勝では、まったく違ったトラックに近いです。地上で計算するタクティシャンというスタッフもいるので、どういう風に飛ぶかは計算ができて準備をするのですが、1回目に飛ぶというのは凄く難しいんです。2回目はだいぶよいのですが、1回目で合わせなきゃならないRound of 14というのは、非常に難しいラウンドになります。どのゲートがどう見えて、どの角度で入るかをいかに準備をするかと、実力をその場で出せるように平常心と集中力をどうやってキープしていくかで、大きな差が出ると思います。

――今日のRound of 14と8でコンディションは似ているのでしょうか。

室屋選手:空気のコンディションはほぼ一緒。学習するので、だんだん速くはなっていくのですが、今日のコンディションではけっこう難しいですね。特にペナルティなしで飛ぶのはけっこう難しいです。

――予選での吸気系トラブルというのは、乗ってすぐ分かるのでしょうか。

室屋選手:トレーニング3では明らかにパワーダウンしていて、操縦するのもスカスカな感触でした。速度が遅いと操縦感覚も変わってきてしまうんです。「アレ!?」と思いながら飛んではいました。調整しましたが、予選までには時間がないので、速度が変わるとGも変わりますし、全部の操縦感覚が変わってきますので、これじゃちょっと難しいなという感触は昨日はありました。

――メカニックはすぐ対応できるということだったのでしょうか。

室屋選手:メカニックとタクティシャンの方に任せてあるので、任せてくれれば大丈夫だということでした。チームは遅くまで作業をしてくれたようです。

――2016年はスパッツ(タイヤ部分のカバー)を新しく付けるということが改良であったわけですが、2017年でも機体に改良がありましたか。

室屋選手:見た目ではなくて、エンジンの冷却系統がだいぶ変わっています。アブダビで失敗したのがあって、大きく変更しています。フライトの解析精度が上がってきているので、それでタイムが0.2~0.3秒とか詰めています。

――今までどおり、シーズンオフはアメリカでメンテナンスをして来シーズンの開幕を迎えるのでしょうか。

室屋選手:もう明日(米国時間:10月16日)にはカルフォルニアに移動して、その後予定はギリギリに詰まっています。次の開幕までどこまでこなせるのか、時間との勝負です。

――優勝会見の質疑応答で、佐藤琢磨選手から地元福島について質問がありましたが、福島のことについて語ってください。

室屋選手:福島ではアンバサダーをしていて、今の現状を正しく世界に伝えることがとても大事で、その上で来てもらうことが大事だと考えています。恐らく世界では、完全に死んでしまった地域というイメージを持っているかと思います。そういった風評は払拭しなければいけないし、現状放射能がある地域もあるのは事実ですし、ないところはないですし、正しく伝えて無駄に恐れる必要もないです。このエアレースを福島で開催できると、世界は驚くかと思います。もし開催できれば、放送で世界の人が「大丈夫なんだ」と思ってくれるでしょう。例えばですが、こういった活動ができればと思っています。今、福島では子供向けの航空教室をここ3年やってきています。県でも航空宇宙産業集積を推進させるということですので、入口を作ってあげるという役割をしたいと思います。ドローンの研究施設など、いろいろとできています。航空機の製造会社の進出などの話も進み始めているようです。復興が終わったところから、未来へのステージに入るための産業作りも含め牽引役になれればよいかなと思っています。

――千葉大会は3年目で、昨年は優勝され、今年は千葉優勝も含めて世界チャンピオンになるとステップアップしてきて、日本でのエアレースの知名度も上がってきていると思います。日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

室屋選手:とにかく生でレースを観戦してほしいです。人間が介在してドラマがある。身近で観戦できるように、日本での開催を続けてほしいと思います。ファンの声も誘致につながると思います。どれだけ多くのファンを作っていくかというのも大事だと考えています。

――2018年の千葉開催は現状不安があるようなのですが、室屋選手の活躍で日本開催の弾みがついたのではと思います。

室屋選手:ちゃんと仕事しましたので、この先は報道の皆さんも頑張っていただければ(笑)。とにかくファンの声でムーブメントを起こしていけるか。他国に比べ、日本では毎回ファンが凄くたくさん来場してくれます。なんでこんなに来るのかとビックリするほどです。飛行機ファンが多いのでしょう。

――クルマのレースでは、コースに見えない部分があるのですが、エアレースは全部を見通せるんですよね。

室屋選手:エアレースは、意外にも30~40歳代の女性ファンが多いのです。クルマのレースにはないファン層です。レースが分かりやすいんでしょうね。

【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー メダルを手にする室屋選手
メダルを手にする室屋選手
【レッドブル・エアレース最終戦 インディアナポリス】世界チャンピオン・室屋義秀選手へのインタビュー メダルは FAI(国際航空連盟)のデザイン
メダルは FAI(国際航空連盟)のデザイン

 なお、今回室屋選手が優勝したレッドブル・エアレース最終戦インディアナポリスのRound of 8から、優勝が決まるRound of 4までの動画を公式サイトで見ることができる。ぜひ振り返って楽しんでみてほしい。