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フォーミュラE参戦の小林可夢偉選手、参戦への経緯を説明

「香港でよい結果を出してフォーミュラEの面白さを伝えていきたい」

2017年11月22日 開催

小林可夢偉選手

 現在WECのトヨタ・ワークスドライバー、そしてスーパーフォーミュラに参戦して活躍している小林可夢偉選手が11月22日、都内で記者会見を開催。先日発表されたフォーミュラEシーズン4の開幕ラウンドとして12月2日~3日に予定されている香港戦にスポット参戦することになった経緯を説明した。

 発表自体は11月15日にすでに行なわれていたが、発表時点では小林可夢偉選手は海外にいたため、同日改めて説明が行なわれることになった。

 小林可夢偉選手が出場するチームは、米国アンドレッティ・オートスポーツ(今年佐藤琢磨選手がインディ500で優勝したときに所属していたチームとしても知られる)が母体となった「MS&AD ANDRETTI FORMULA E」で、ドイツの自動車メーカーBMWとテクニカルパートナーシップを結んでおり、来シーズン(シーズン5)からはBMWのワークスチームになることも決定している強豪チームだ。

以前から参戦する可能性を探っていた。香港でよい結果を出してフォーミュラEの面白さを伝えていきたい

――小林選手から参戦の経緯を説明してほしい。

小林選手:発表の時点では海外にいたので、お話する機会がなかったので今回こういう場を用意した。フォーミュラEのチャンスというのを去年の終わりぐらいから模索してきた。ほかのチームとの話になるが、テストをする機会もあったのだが、日程が合わず実現しなかった。今回、最後の最後にチャンスが巡ってきたので、挑戦することにした。テストができないなかでの参戦というのは残念だが、MS&ADや多くの方の協力で香港でレースができるようになったことは感謝している。テストができないままレースに行くのは厳しいが、自分自身の経験を生かして香港でよい結果を出し、フォーミュラEの楽しさを実感して皆さんに伝えていけることができればいいと思っている。

――先ほど抱負を語ってくれたが、ご自身のフォーミュラE観は? F1やスーパーフォーミュラとは違うレースに参戦することになるが。

小林選手:実はフォーミュラEのオーガナイザーであるアガグ(筆者注:アレハンドロ・アガグ氏)とは仲がよくて、日本に来たときには来てくれよと言われていたが、これまでは現実的な話だとは思っていなかった。だが、先日ベルリンのフォーミュラEのレースを見に行ったときに、過去に一緒だった人が結構関わっていると気がついた。過去のチームメイトだったり、ライバルだったり、エンジニアだったりが関わっていて、同年代のレーサーがトップ争いをしているレース。WECはワークス同士の戦いだけど、フォーミュラEはワークスがやってる部分もあるけど、ドライバー自身としても魅力的で楽しい部分もあるかなと注目していた。これまではチャンスがなかったのが、今回そのチャンスをいただき、昔から知っている仲間と一緒に走れるのは楽しい。

――スピード自体はそんなに高くないという意見もあるようだが。

小林選手:そう思うと思うが、乗ったドライバーに聞くと、みな口を揃えて400km/hぐらいに感じるという。フォーミュラEはシステム的にドライバーに難しくなっており、コンピュータを使うともっとハイテクにできるのだけど、ドライバーに難しさが要求され、ドライバーが忙しいレース。無線での交信が大事で、ハンドルのスイッチの変更もすごく大事。ちょっとしたことで、レース完走できないぐらいに追い詰められる。時速は200km/hぐらいだけど、乗ったら400km/hに感じると聞いている。また、普段はレーシングカーが走らない市街地でレースをするので、道もボコボコ。そういう本当の市街地でやっているので、そういうところの難しさを感じると思う。

――競技として純粋にフォーミュラEに興味があるということか?

小林選手:このカテゴリーをドライバーとしてやることで、バッテリーについてのノウハウとか、クルマについての引き出しは増えると思う。そこでチャレンジできることは楽しみ。例えば、予選になって200kWになったら、予選はニュータイヤでブレーキは奥になると普通は考える。ところが、ほかのドライバーに聞くと、予選になったらブレーキングポイントを10mは手前にしないと、止まれないと言われる。そういう経験が引き出しになる。ドライバーにとって、どんなクルマでも速く走ることが大事。そういうスキルを学びたい。

――テストができずいきなり本番であることに不安はないのか?

小林選手:あるが、チャンスはチャンス。これまでもあまりたくさん準備して乗れたことはないので(笑)。

チームは来シーズンからBMWワークスだが、今回の契約はあくまで小林選手の個人的な契約

――将来的に継続参戦はあるのか? また、チームはBMWのパートナーで来シーズンからBMWワークスになる。そのあたりの関係は?

小林選手:1回乗ってだめだなと思われるかもしれないが、よい結果を出してオファーされるようにならないといけない。自分の場合はほかのレースとの掛け持ちになるが、今年のオリジナルスケジュールはすべて終了しており、香港に出ても影響はないということで、トヨタさんにもご了承をいただいている。

――ベルリン大会を見てチーム間の差は大きいと感じるか? アンドレッティとの交渉はどのような経緯で?

小林選手:クルマがイコールかと言われると、シーズン3、4に向けては、イコールじゃないという認識。例えば、バッテリーの使い方が違う。あるチームはエネルギーの回生をマニュアルでしないといけなかったり、チームによってなにもしないでいいチームもある。WECやってるとそんなことやってないんだというレベル。僕としてはWECの経験を生かしながらやればいいと思っている。アンドレッティとの交渉というわけではないが、シーズン3が始まるときから、チャンスがないかなと見ていくようになった。まずは、フォーミュラEは誰がやっているということから入って、それから交渉ということだから時間がかかった。今年の夏ごろに、実際にチャンスあるかというのを、人の力を借りて模索してきて、なかなかテストしないと踏み出せないという状況だった。だが、最後の最後のチャンスがきたので、たくさんの人の協力でここまでこれた。

――アンドレッティの印象と、BMWチームだがトヨタとの関係は?

小林選手:簡単に言うと、トヨタとBMWは関係ない。トヨタがなにかしたということではなく、僕個人が交渉した。アンドレッティというとアメリカのイメージしかなかった。自分はアメリカのレースをしたことがないので、佐藤琢磨選手がインディで勝ったイメージしかない。イギリスにベースがあるので、アンドレッティと言われてもピンとこなかったのだが、実際にファクトリーに行ってみると、みんなイギリス人でイギリスのレーシングチームという印象。レースウィークに入ると、もしかしたら変わってくるのかな? というぐらいだ。

――チームとのコミュニケーションについては?

小林選手:メカニックをやっているのは、広大(筆者注:塚越広大選手)がF3マナーチームで走っていたときのメカニック。チームマネージャもダンディライアンでリチャード・ライアンがチャンピオンを獲ったときのエンジニアで、日本のモータースポーツ関係者からもそんなに遠くない世界のイメージ。

――それはロブ・アーノット氏か?

小林選手:そう、ロブ。

――マシンの乗り換えがあるけど、小林選手には初めての経験だが?

小林選手:正直、意外に簡単だった。時間が決まっていて1分あるので、WECとかをやってると全然余裕だった。WECの場合、タイヤ交換しないと25秒程度でやらないといけない。それに比べると落ち着いてやれば大丈夫だ。

――最後に、フォーミュラE独自のシステムとしてファンブーストがあり、山本左近選手が獲得したことがあるが、小林選手はどうか?

小林選手:本音で言うと、出ているドライバーに聞くと、ファンブーストってそんなにいらないみたいだ(笑)。噂によると、ファンブーストを使うとバッテリーの温度が上がってしまって後で大変なことになるらしい。ただ、使うか使わないか分からないけど、出るからにはファンブースといただけると、気持ちだけでうれしいので、いつか日本で公道レースを初開催できるように手助けしてほしい。ファンブーストをいただいて、使わなくても、怒らないでください(笑)。