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AImotive、「レベル5自動運転」を見据える低消費電力なNPU内蔵ASIC設計を可能にするIPデザインを提供

「FPGA」を利用したプロトタイプ車両を公開

2017年12月11日 開催

AImotiveと菱洋エレクトロが共同で行なった記者会見

 ハンガリーのAImotiveと半導体商社の菱洋エレクトロは12月11日、東京都内で記者会見を開催し、AImotiveが開発しているディープラーニングを効率よく演算できるアクセラレータのIPデザイン(半導体の設計図のこと)「AIware」に関する説明と、FPGAを利用したその開発環境のデモを行なった。

 現在のディープラーニングはNVIDIAの「CUDA」を利用したGPU演算が主流だが、消費電力が大きいことから、サーバーで行なう学習に支障はないが、クルマなどのエッジ側に搭載するには消費電力が課題になりつつあった。AImotiveが提供するAIwareのようなアクセレータを活用することで、低消費電力でエッジ側にディープラーニングを利用できる環境を実現できるようになる。

 AImotiveではAIwareをIPライセンスとして半導体メーカーに提供するライセンスモデルを検討しており、半導体メーカーは自社製品にAIwareベースのアクセラレータを組み込むことが可能になって、低コスト、低消費電力なレベル5の自動運転が実現可能になると説明している。

AIwareベースの「ASIC」は、GPUと同じ消費電力では4~5倍の性能を発揮

AImotive 日本オフィス 自動車事業責任者 アクセル・ビアルケ氏

 AImotive 日本オフィス 自動車事業責任者のアクセル・ビアルケ氏は「AImotiveはハンガリーに本社を構えるIT企業で、10年前からディープラーニング関連ソフトウェア技術を開発してきた。現在は自動運転用ソフトウェアプラットフォームの『aiDrive』、シミュレーションツールの『aiSim』などを自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどに提供している。PSAグループやボルボに提供しているほか、日本の自動車メーカーともお話をさせてもらっている」と述べ、同社がAIの開発に利用されるコンピュータの手法であるディープラーニングに長期間取り組んでおり、それをベースにしたAI自動運転の開発に必要なソフトウェアを自動車メーカーやティアワンの部品メーカーに提供していると述べた。

AImotiveの概要や製品群についての紹介
AImotive 半導体技術責任者 マートン・フィーハー氏

 次いで登壇したAImotive 半導体技術責任者のマートン・フィーハー氏は「GPUのようなソリューションは演算性能は高いが、消費電力が高くてボトルネックも多く、自動車のような組み込み環境ではそれほど使われていない。そのため、自動車のような組み込み環境でも使えるような専用のソリューションを開発した、それがAIwareだ」と述べ、ニューラルネットワークに特化したアクセラレータを導入することで、低い消費電力で高い処理能力を持つディープラーニング用の半導体を設計することが可能になるとした。

AIに求められるニーズ

 フィーハー氏によれば、AIwareはArmが半導体メーカーに提供している「Cortex」や「Mali」のようなIPデザイン(半導体の設計図)になる。半導体メーカーは、そうしたIPライセンスをデザイン会社にライセンス料を払って自社製品に組み込んでおり、AImotiveはそれと同じようなビジネスモデルを展開するという。AIwareは推論と学習の両方に対応可能な仕組みになっており、AIwareを利用して設計された「ASIC」は、同じ消費電力であればGPUを利用して演算した場合と比べて4~5倍の性能を発揮できるという。

アクセラレータのIPデザインを設計
AIwareの性能
AIwareのアーキテクチャ
GPUなどとの性能比較

 また、GPUの世界で「OpenGL」や「OpenCL」などの標準APIの策定を行なっているKhronos Groupが策定を進めている「NNEF(Neural Network Exchange Format)」という業界標準のAPIに対応している。一般的に半導体はそれぞれ独自の命令セット(命令を実行する手順)が決まっており、ソフトウェアはそのそれぞれに対応しなければならないため、互換性の問題が発生する。そこでNNEFでは、その1つの上の層として中間的な命令セットを作成し、どの半導体でも同じように使えるようにしているのだ。

 NVIDIAのCUDAの場合はNVIDIAのGPUでしか使えなかったが、NNEFに対応したソフトウェアを1つ作れば、NNEFに対応したGPUやアクセラレータであればどこのメーカーの製品でも同じように使うことができる。フィーハー氏は「ディープラーニングといえばNVIDIAのGPUの1択だったこれまでの状況から、これからは自由に選べるようになる」と述べた。

AIwareのソフトウェア環境。NNEF(Neural Network Exchange Format)に対応
FPGAを利用した評価環境を提供。テストチップは2018年第1四半期までに製造開始

 なお、AImotiveが今回デモを行なったのは、FPGA(インテルのArria 10)と呼ばれるソフトウェアで再構成可能な半導体を利用したもので、半導体メーカーのエンジニアなどが評価するための評価キット。フィーハー氏によればすでにAIwareに対応したテストチップの開発を続けており、2018年3月までにGlobal Foundriesの22nmプロセスルールで生産されるとのことだ。

日本での販売、プロモーションに半導体商社の菱洋エレクトロが協力

菱洋エレクトロ株式会社 代表取締役社長 大内孝好氏

 菱洋エレクトロ 代表取締役社長の大内孝好氏は「コネクテッドカー市場に新たなアプローチで臨んでいく。AImotiveとはその前身だった企業とGPUを使った画像認識アルゴリズムを開発し、そのソリューションを一緒に売り込んだ。今回のAIwareに関しても、デモカーの製作を弊社がバックアップしており、自動車メーカーやサプライヤーに一緒に売り込んでいく」と述べ、デモカーの作成などを通じてAImotiveをバックアップし、コネクテッドカー時代に自動車メーカーに新しい選択肢を提供していくとした。

大内氏のスライド

 記者会見の終了後にはFPGAを利用したAIwareのテスト環境が公開されたほか、それを搭載したデモカーが公開された。デモカーは前後左右にカメラ4個を備え、フロントウィンドウ内にステレオカメラと単眼カメラを搭載。その計7個のカメラが、前出のFPGAベースのAIwareで処理される様子などが公開された。

FPGAを利用したAIwareのデモ。右側がAIwareで、左側がGPUベース
現在はインテルのArria 10というFPGA(ソフトウェアにより再構成可能な汎用半導体)を利用してデモが行なわれている。このためPCのように巨大になっているが、ASICに落とし込めば1チップで実現可能
デモカー
前後左右に計4個のカメラを設置
フロントウィンドウ内に固定されたステレオカメラと単眼カメラ
画像認識を行なっている様子
ラゲッジスペースに納められたユニット