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【GTC Japan 2017】未来の自動車はソフトウェアにより定義され、日々スマートになっていく

フアン氏の基調講演でGPUで実現する最新のAIソリューションについて紹介

2017年12月12日~13日 開催

5月に発表したVoltaを手に持つNVIDIA 創始者 兼 CEOのジェンスン・フアン氏

 半導体メーカーのNVIDIAは、同社の開発者向け会議「GTC Japan 2017」を、東京港区のヒルトン東京お台場において12月12日~12月13日に開催した。12月13日の午前中には、同社 創始者 兼 CEOのジェンスン・フアン氏の基調講演が行なわれ、同社のAIソリューションに関しての説明が行なわれた。

 この中でフアン氏は「将来の自動車はソフトウェアで定義されるようになる。エンジニアが新しいソフトウェアを開発すれば、自動車は日々よりスマートなデバイスに進化していくだろう」と述べ、同社のDRIVE PXとそれに基づいたソフトウェアを開発するSDKとなるDRIVE IXを利用することで自動運転だけでなく、AIを利用して人物を認識しての自動解錠、居眠り運転の防止といったスマート機能の実装が可能になると述べた。

 また、フアン氏は大手建設・鉱山機器メーカーであるコマツとの提携を発表し、同社のエッジ向けAIモジュールのJetsonTX2が、コマツの建築現場をIT化する取り組みの「スマートコンストラクション」に採用されたことを明らかにした。

自動車の開発生データを元に、Holodeckで開発者と経営者が一緒にVRの世界で進捗状況をチェック

 約1年2カ月ぶりに開催されたGTC Japanに登壇したフアン氏は「来日を毎回毎回楽しみにしている。日本はとても綺麗で、おいしい食事があり、何より素晴らしいラーメンがある(笑)」とジョークを交えながら、来日を毎回楽しみにしていると強調した。記事の冒頭から話しが脱線して恐縮だが、NVIDIA日本オフィスの関係者によれば、実はフアン氏は大のラーメン愛好家で、来日の度に東京などのおいしいラーメン屋を巡っているという(従って、昨日の夜もどこかのラーメン屋で打ち上げをしていたかも…)。その大好物のラーメンと共に楽しみにしているが、日本のAI関連の企業を巡ることで、来日するのが楽しみだというのは決してリップサービスではなくて、フアン氏の本心に近いようだ。

トレードマークの革ジャンを着て登場したNVIDIA 創始者 兼 CEOのジェンスン・フアン氏

 そのフアン氏は「CPUの性能向上は止まっている。しかし、コンピューティングに必要とされる処理能力は増え続けており、今後も継続してそれを必要としている。そのニーズに応えるのがNVIDIAのGPUであり、その基本となるCUDAだ。CUDAに対応したソフトウェアがあれば、性能は毎年向上していくことに疑いの余地はない」と述べ、NVIDIAの提供するCUDAを活用したGPUの汎用コンピューティングが、年々向上していく処理能力のニーズに対応していく唯一の手段だと強調した。

GPUが進化を後押し
強力なロードマップ
NVIDIAの強みは同社のCUDAをベースにしてAI開発のエコシステムができあがっていること

 その上で、そのGPUの代表的な使い方として、NVIDIAが今年5月にサンノゼで開催したGTC 2017で発表した、「Project Holodeck」(プロジェクトホロデック)だと紹介した。Project HolodeckはVRの世界で、複数人がコミュニケーションをとるツールで、異なる場所などから参加して同じVRのデータを閲覧しながらやりとりを行なうことが可能になっている。例えば、自動車の設計データをVR HMDを利用して参照し、あたかも実際のクルマがそこにあるかのような仮想世界で、エンジニアと経営者が課題点などを共有していく、そういった使い方が想定されている。

レクサス「LC」が登場したProject Holodeck
CATIAなどのシミュレーションツールからMayaなどの3Dツールに出力して、Holodeckで利用できるようになる

 フアン氏はその例としてレクサス「LC」と思われる車両のデータを見せ、VRの世界でエンジンを取り出して表示させてみたり、エンジンの一部からドライブシャフトだけを取り出してみたりしながら、3人の参加者が仮想的な世界でその製品のイメージを確認したり出来る様子などを公開した。フアン氏によれば「既にCATIAなどの自動車のシミュレーションにつかうソフトウェアから、Maya/3D Studio MAXに出力し、それをHolodeckで閲覧することが可能だ」と述べ、現在自動車メーカーが設計などに使っているCATIAなどの3Dモデリングソフトウェアから出力したデータをHolodeckに読み込ませて活用できるとした。

世界発というAIが作曲した曲をオーケストラが演奏

 その後、フアン氏はGPUを利用したAIのソリューションについて説明した。「2012年にある青年が多階層のニューラルネットワークをGPUで演算させると、とてつもないことができると気がついた。それまでのディープラーニングにはCPUの処理能力では現実的ではないというハードルがあったが、GPUを利用することでそれが解決された。それにより世の中は大きく変わりつつある」と述べ、GPUを利用したディープラーニングが一般的になるにつれ、フアン氏が「スーパーヒューマン」と呼ぶ人間を越えるような音声認識や画像認識が可能になるAIが実現されるようになっていると述べた。

Voltaが投入された
Voltaを搭載したハイエンドGPUカード「TITAN V」

 その上で、NVIDIAが5月のGTC2017で発表した新GPUアーキテクチャ「Volta」を搭載したTesla V100、そして先週の発表されたばかりの「TITAN V」などを紹介し、GPUをディープラーニングに活用すると、4つのラックと巨大だったサーバーが、1つのサーバーに小さくすることができるとアピールした。それにより消費電力は20分の1、コストは6分の1にできると説明し、フアン氏は冗談とも本気とも思える口調で「CPUではなくGPUを買えばもっとお金を節約できる。皆さんも友人にGPUを買うように勧めて欲しい、クリスマスプレゼントにでも(笑)」と言って会場を沸かせた。

CPUとGPUの比較
CPUとGPUの比較、4つのラックサーバーが1つのサーバーになる

 その後、フアン氏によれば史上初となる、AIが作曲した曲をオーケストラが演奏しているビデオを公開した。曲はスターウォーズのテーマ曲の作曲家として知られるジョン・ウィリアムズ氏の傾向をAIが学習し、AIが同氏風に作曲したという曲になる。確かに聞いてて、なんとなくスターウォーズ風にも聞こえるような曲だった。

AIが様々な問題を解決していく
AIが作曲した曲が流れる

未来の自動車はソフトウェアが定義、日々アプリケーションのアップデートでスマートになる

 続いてフアン氏はそうしたNVIDIAのAIへの取り組みと日本との関係について言及した。「日本には、自動車、建機、ヘルスケアなどの分野でAIに可能性がある。IT業界の未来はPCでも、モバイルでもなくAIだ、AIこそが日本のITの黄金期を作り出すだろう」と述べ、富士通、NTTコミュニケーション、AIST、ファナック、東京大学、PFNやAbejaなどのAIスタートアップとのパートなシップなどについて説明した。

日本におけるAI

 その上で「自動運転は次の時代のキーだ。例えば自動運転による移動革命は、社会の形も変えていき、もっと安全な移動を実現することができるようになる。我々は自動運転は、ソフトウェアによって定義されるものだと信じている。自動車にパワフルなコンピュータが搭載され、機能安全を実現したOSとアプリケーションがその上で動く形になる。携帯電話が進化してスマートフォンになったような変化が自動車でも発生する」と述べ、その自動運転車をソフトウェアで実現するためのハードウェアがDRIVE PXで、ソフトウェアの開発環境がDRIVE IXだと紹介した。

自動運転による移動革命

 フアン氏は「AIは自動運転を実現するだけではない、ユーザー体験も変える。例えばドライバーを画像認識して自動でトランクを開けたり、視線を追いかけて脇見運転や居眠り運転のアラームを出したりということも実現できる。我々は将来のクルマはソフトウェアで定義されると信じており、それを実現するのがGPUだ。将来のクルマはエンジニアが日々作るアプリケーションでもっともっとスマートになっていくだろう」と述べた。

AIのソフトウェアが自動車を定義する
ソフトウェアにより数々の新しい機能が実現される

 なお、5月のGTCで正式に発表したXavierはまもなく工場から出荷されると説明し、その後1つのXavierが乗っているボード、複数のXavierが乗っているボード、そして複数のXavierとGPUが搭載されているボード(DRIVE PX PEGASUS、別記事参照)を出荷する予定であり、DRIVE PX PEGASUSでは640TOP(トリオンオペレーション)/秒のディープラーニング性能を実現すると説明した。

 そうしたDRIVE PX/IXが自動車開発者にとってのインフラになると述べ、将来はデータが今のプログラムのソースコードのような存在になり、データがAIを鍛えていくというモデルが将来のコンピュータのモデルになると説明した。

世界のコマツと提携を発表、スマートコンストラクションにJetson TX2を採用

 次いでフアン氏は自動運転から自律動作マシン、つまりロボットなどについて説明した。フアン氏は「自律動作マシンには約4000億ドルの市場規模がある。例えば建設は2000億ドルの市場で、重機などが自律的に動くようになり、ドローンが工事現場の進捗状況をスキャンしてデジタルデータにしていく」と述べ、グローバルに大手建設・鉱山機器のトップメーカーであるコマツと、そうした自律動作マシンの分野で提携していくことを明らかにした。コマツはJetson TX2を搭載したエッジデバイスを、コマツの建築現場をIT化する取り組みの「スマートコンストラクション」に採用したことを明らかにした。

自律操作マシンの市場は約4000億ドル
スマートコンストラクション
コマツと提携を発表

 フアン氏は「日本はロボットの国で、ロボットの未来は非常に明るい。自動運転車を鍛えていくようにロボットのAIを鍛えて、新しい問題をロボットが解決できるようにする必要がある」と述べ、5月のGTCで発表したロボットのトレーニングシミュレータソフト「Issac」(アイゼック)を紹介し、シミュレーション上でIssacを鍛えてゴルフができるようになる様子を公開した。

Issacのデモ

 最後にフアン氏は「AI革命は始まったばかりで。NVIDIAの仕事は、未来を探し、皆様にソリューションを提供していくことだ」と述べ、DRIVE PX/IXのようなプラットフォームの形で様々なAIを実現できるソリューションを今後も提供していくと説明して講演を終えた。

AI革命が始まる