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AI自働運転の開発でNVIDIAと協業したトヨタは何を得るのか? そしてNVIDIAは?

アウディ「zFAS」から始まったAI自動運転

GTC 2017でトヨタとの協業を伝えるNVIDIAのプレゼン

 2017年5月10日(現地時間)、米国カリフォルニア州サンノゼ市で行なわれたNVIDIA(エヌビディア)のテクノロジーカンファレンス「GPU Technology Conference 2017」の基調講演において、NVIDIA 創設者兼CEO ジェンスン・フアン氏は、自動運転車の開発でトヨタ自動車と協業することを発表し、数年後にトヨタが発売するクルマに同社の次世代SoC(System On a Chip)であるXavier(エグゼビア)が搭載されることを発表した。

トヨタの自動運転車に搭載されるXavier。SoCの名前はXavierだが、モジュールとしてはDRIVE PXシリーズになる。コンパクトなモジュールを強調
トヨタは自動運転車にDRIVE PXを選択したという

 このニュースは世界的に大きなインパクトもって迎えられ、NVIDIAの株価は急騰、基調講演の前日発表した好調な決算もあり同社株を押し上げた。発表前は103ドル程度で推移していた同社株は、発表後は127ドル近辺を推移している(その後、ポジティブな提携発表が相次ぎ、7月11日現在は約153ドル)。

 Car WatchではこれまでもNVIDIA関連のニュースを積極的に取り上げてきたが、トヨタ以外に、すでにアウディ、メルセデス・ベンツと自動運転分野での協業発表を行ない自動車業界の主要なプレーヤーに躍り出ようとしている。そもそも、なぜこのNVIDIAが自動運転分野において重要視されるのか、何が同社の強みなのか、世界で1位と2位を争うトヨタとフォルクスワーゲングループが選択した意味をこれまでのニュースとともに振り返ってみたい。

そもそもNVIDIAはグラフィックスチップメーカー

 NVIDIAは1993年に創業。1996年にNVIDIA初のグラフィックスチップ製品「NV1」を搭載したグラフィックスカードがダイアモンドマルチメディア「Edge 3D」発売された。この「Edge 3D」は急速に普及したWindows PCでゲームを楽しむための製品で、同梱ゲームとしてセガの「バーチャファイター」を用意。Windowsマシンでゲーム機クオリティを実現した製品として話題になったものの、その後ゲームAPIの標準となるMicrosoft DirectXとの互換性の問題、そして前年の1995年に独自ゲームAPI「GLIDE」を搭載する3dfxの3Dグラフィックスチップ「Voodoo」ほどのポジションを得ることはできなかった。

 そのNVIDIAが飛躍したのは、次作となるRIVA 128(NV3)から。このRIVA 128ではDirectXに対応し、その高速な実行性能からDirectXに対応する代表的な3Dグラフィックスチップメーカーとしての地位を確立し、Windows PCの普及とともに成長。1999年には同社の代名詞となる初のGPU(Graphics Processing Unit)「GeForce 256」を発売。このGPUという言葉もNVIDIAが“1秒で1000万ポリゴン以上の能力をもつものがGPU”と定義したものであり、GeForceシリーズの成長とともにGPUというジャンルを定着させ、2000年にはかつてのライバルだった3dfxを吸収合併した。

 次の転機は2006年のCUDA(クーダ、Compute Unified Device Architecture)の発表になる。最初の搭載製品は「GeForce 8800」として発売された。一般的なCPUがさまざまな形式のデータや命令を扱う能力を持つのに対して、グラフィックスチップは処理能力を描画に特化し、ある程度決まった形式のデータに制限することで処理を高速化。しかもその処理は同時並行で行ないやすいため並列処理性能を高めてきた。その結果、並列コンピューティングにも使えるような構造になっていた。NVIDIAはこの構造に着目。2002年にグラフィックスを描画するための言語として「Cg」をリリースして開発者向けに獲得していたノウハウも活用することでCUDA用のC言語ライブラリを提供した。

 これにより、今までスーパーコンピュータで行なっていたような大規模並列計算を、C言語を理解していればデスクトップ PCで行なえるようになった。大規模並列計算の代表的な例としては、クルマの開発でも用いられるCFD(数値流体力学、Computational Fluid Dynamics)、FEM(有限要素法、Finite Element Method)による構造解析など、ある一定の単位に分割して繰り返し計算を行なう分野があり、シミュレーション計算に非常に向いていることになる。

 記者は、1995年から2000年台前半までPC誌のスタッフかつゲームページの担当者として働いており、NV1の登場からNVIDIAの発展を見てきた。そこで感じるのは“ビジョンをもって製品を送り出していること”だ。NV1のセールス的な失敗からしっかり学び、Microsoftのゲーム向け 3DAPIであるDidirectX(Direct 3D)と寄り添うように製品を進化、ついには業界標準だった3dfxのゲームAPIであるGLIDEを圧倒。3dfxを吸収合併し、SLI(Scan-Line Interleave)に代表される3dfxのもつさまざまな技術を手に入れた。そしてCUDAをリリースすることでコンピュータシミュレーション分野に進出。2007年にはCUDAなどでの計算のみに特化した「Tesla」ブランドの製品を初めて発売する。

 このTeslaによりHPC(High Performance Computing)と呼ばれる大規模並列計算分野に本格進出。その翌年には東工大のTSUBAMEに採用され世界のスーパーコンピュータランキングであるTOP500にランクイン。2010年には世界最速のスーパーコンピュータの構成要素となった。

自動車分野に本格進出

2010年当時のNVIDIAのデモンストレーション。当時は高級車で始まったコクピットのグラフィックス化(デジタルコクピット)を訴求していた

 自動車産業の分野でNVIDIAの名前が表で聞かれるようになってきたのが、この2010年になる。僚誌PC Watchでは多和田新也氏の記事として2010年のCESにおけるNVIDIAの発表会を掲載(関連記事:【NVIDIA編】次世代版Tegraを発表。GF100の新機能もアピール)。ここでアウディのMMIへの採用が公表されている。また、Car Watchでもこの年に車載についてのインタビューを実施。笠原一輝氏によるNVIDIAインタビュー記事を掲載(関連記事:強力な新Tegraシステムを武器に自動車産業へと乗り出すNVIDIA【前編【後編】)している。

 ここで主にNVIDIAが提案していたのは、IVI(In-Vehicle Infotainment)の部分。当時は(今もだが)ナビゲーションシステムがより高度になり、表示が高精細になってくる、その際に必要になるのは高速描画が可能なグラフィックス機能という点。また、その延長としてフルデジタルのメーターパネルを提示。フルデジタルになることで自由な表現ができ、針や警告灯表示などアナログ部分を排除することで部品点数を減らし、よりロバスト性を高めるとともに高機能化していくというものだ。

 また、ここでNVIDIA製グラフィクスチップ、および周辺インターフェースまで含めた統合品であるTegra SoCを採用するメリットとして挙げられていたのがNVIDIAは開発ソフトまで含めた開発環境を提供していくということ。前述したようにCUDAリリース以降のNVIDIAは開発ソフトウェアを含む開発環境を提供する能力を備え、その環境を整えられたからこそさまざまなスーパーコンピュータに採用されるとともに、CUDAアプリケーションが多くリリースされることでユーザーが増えいてくという好循環に入った。NVIDIA製品で開発することが効率的であるというエコシステムを築き上げたわけだ。

 このIVIなど表示関係での代表的なNVIDIA製品搭載車が、テスラモーターズの「モデルS」や、アウディ「TT」から搭載が始まったバーチャルコクピットになる。NVIDIAは2014年のCESにタイミングを合わせて新SoC「Tegra K1」を発表。Tegra K1でのデジタルメーターパネルをデモするとともに、そのデジタルメーターパネルの開発環境である「UI Composer」を紹介した。

 その翌日行なわれたアウディのCESにおける基調講演では、このバーチャルコクピットのコンセプトを発表。NVIDIA 創設者兼CEO ジェンスン・フアン氏がゲストとして登壇した。

NVIDIA「Tegra K1 VCM」のデジタルメーターパネルを映像で紹介

NVIDIA Tegra K1 デジタルメーターパネル

NVIDIA Tegra K1 UI Composer操作デモ

アウディ、CESの基調講演でPHV「スポーツ クワトロ レーザーライト コンセプト」を世界初公開

アウディのCES基調講演に登壇したNVIDIA創設者兼CEO ジェンスン・フアン氏

 この2014年のCESにおけるアウディの発表は衝撃的で、CESの会場では量産状態に近いTegra 3搭載のアウディ TTのコクピットが展示されるとともに、CESの外会場ではTegra K1を搭載した自動運転車による無人自動駐車デモを実施。しかもそのTegra K1は「zFAS」という形でモジュール化され、自動運転時代が近いであろうことを示していた。

第1世代アウディ「zFAS」
第2世代アウディ「zFAS」。第1世代より実装面積が減っている
アウディがCES 2014で展示したアウディ「TT」のバーチャルコクピット。地図と一体化した提案や高いデザイン性など衝撃の展示だった。NVIDIAによると、NVIDIA製ツールを使わずにアウディがデザインしたとのこと

次期アウディ「TT」に採用するバーチャルコクピットは、NVIDIA Tegra 3を採用

アウディ、CESで「zFAS」モジュール搭載車による自動運転駐車デモを実施

【GTC2014】車載動画からリアルタイム3Dマッピングデータを作り出す「Tegra K1」のコンピューティングパワー

 この年の3月に行なわれた「GTC 2014」では、1月のTegra K1の発表を受けて、そのTegra K1の活用方法がセッションとして用意されていたほか、フアンCEOの基調講演ではマシンラーニング(機械学習)を訴求。ディープニューラルネットワークを用いたマシンラーニングで画像を認識でき、それには同社のGPUが適していると語り、現在のディープラーニング(ディープニューラルネットワークを用いた学習、深層学習)への流れを決定づけた。

NVIDIA、「GPU Technology Conference 2014」の基調講演映像をYoutubeで公開

NVIDIA Tegra K1 and the Automotive Industry

 今から振り返ってみると、この2014年はNVIDIAが表示装置の会社からAI(Artificial Intelligence、人工知能)の会社へと変わっていくターニングポイントだったことになる。また、クルマにおいては、ディスプレイなど表示装置関連のみでなく、自動操縦コントローラの市場もターゲットであると外部に明確に宣言した年になる。

 NVIDIAは2015年のCESに合わせて、消費電力10Wで1TFLOPSの性能を持つ車載SoC「Tegra X1」を発表。同時にその搭載モジュールである「DRIVE CX」と「DRIVE PX」も発表。DRIVE CXはTegra X1を1基搭載して表示系に用いられ、DRIVE PXはTegra X1を2基搭載することで自動運転車の開発に用いられると説明した。

2基のTegra X1を搭載する自動運転用車載モジュール「DRIVE PX」
DRIVE PXを掲げるNVIDIA創設者兼CEO ジェンスン・フアン氏

【CES2015】消費電力10Wで1TFLOPSの性能を叩き出すNVIDIAの車載SoC「Tegra X1」

 そして2016年のCESに合わせたプレスカンファレンスでは、AIコンピュータと明確に宣言した「DRIVE PX 2」を発表。これは、次世代Tegra SoC2基に加え、PascalアーキテクチャのGPU 2基を搭載。NVIDIA創設者兼CEO ジェンスン・フアン氏は「ディープラーニング処理能力を10倍以上」と語り、24 DL TOPSという性能値を発表。水冷かつ250Wというモンスターモジュールとして登場し、その性能もさるものながら消費電力の大きさが注目を集めた。

 この水冷、かつ250Wの消費電力は、フアンCEOに確認したところ、「その性能を望むカスタマーがいたから」とのこと。ディープラーニングの世界では学習が大きな要素となるが、このモジュールを搭載して安定して走り続けることで世界を学習するためのものだとの見解を示した。この段階で自動車メーカーの開発者の要望を採り入れつつ製品としていたのだろう。

水冷、250Wという消費電力で登場したDRIVE PX 2。そのリッチすぎるスペックのまま実際に市販車に載るという誤解を招いた。あくまで研究開発用のためのスペックで、自動車メーカーの要望に応えてデザインされたもの
最新のDRIVE PX 2ロードマップではコンパクトなものだけが登場している。現世代のDRIVE PX 2でレベル3自動運転に、Xavier世代のDRIVE PXシリーズでレベル4、レベル5の完全自動運転に対応するとしている
AI自動運転のブロックダイアグラム。OSの上にNVIDIAの提供する基礎ライブラリがあり、その上にコンピュータビジョン、その上にAI層がある

 ここまでNVIDIAのCES時期の発表は“CESに合わせた”と記してきたが、NVIDIAはここ数年CESの会期前にプライベートプレスカンファレンスを行ない、CESでは展示に徹していた(もしくはパートナーの発表会にフアンCEOが登壇するスタイル)。ところが、このNVIDIAの加速度的な進化で、AIの世界も加速度的に応用範囲が広がり、2016年からAI業界が盛り上がっているのはご存じのとおりだろう。

【CES 2016】NVIDIA、GPUアーキテクチャ“Pascal”採用による世界最高能力の車載人工知能エンジン「DRIVE PX 2」

 それは日本も米国も欧州も変わらず、ついに2017年のCESの基調講演はNVIDIAのフアンCEOが担当することになった。その年のテクノロジーを代表する立場へと駆け上ったことになる。この基調講演でフアン氏は、アウディと協業して2020年にAIカー(AIによる自動運転車)が登場することを発表。そのほか、NVIDIA製SoCの自動車メーカーへの納入元としてボッシュ、ZFとの協業を発表している。

 NVIDIAのような半導体を供給するメーカーが自動車メーカーへ直接半導体を納入することはなく、ボッシュ、ZFのような大手自動車部品メーカー(ティアワン)がモジュールとして納入するスキームを作り上げることが自動車製造においては必須となる。アウディのバーチャルコクピットを納入していたのはボッシュであっただけに、ボッシュとの協業は予想の範囲内だったが、ZFについてはサプライズ。ZFの納入先はトラックなどの商用車メーカーであると発表されており、この分野への進出も宣言したことになる。それらの市場規模は10兆ドルといい、この10兆ドルの産業に革命を起こすと基調講演でフアン氏は語った。

【CES 2017】自動運転技術で「10兆ドルの産業に革命を起こす」、NVIDIA ジェンスン・フアン CEO基調講演

NVIDIA、ジェンスン・フアン氏の基調講演で独アウディとの「AIカー」製作を表明

 このCESでフアン氏が新世代SoCとして紹介したのが、トヨタが採用することになったXavier。このXavierの詳細については、少しだけ今回の「GTC 2017」で明らかにされたが、ディープラーニング計算性能が30TOPS DL、消費電力が30W。30TOPS DLのうち10TOPS DLがDLA(Deep Learning Accelerator)であり、このDLAは推論(inference)を通常のディープラーニング実行ユニットより低消費電力で実行できるとしている。

 Xavierは2016年の欧州のGTCで発表され、日本で開催されたGTC Japan 2016でもその概要が語られたが、その際は20TOPS DLで20Wと紹介されていた。つまり日本のGTCからCESまでに10TOPS DLと10W上積みされ、10TOPSはDLAであるということが発表されたことになる。

 前年に発表されたDRIVE PX 2が24TOPS DLであったことを考えると、すでに自動車メーカーがターゲットとしていた数値に足りない部分を上積みしたととも取れる性能改良だが、トヨタが採用を決定している30TOPS DLという値は車載AIの分野で一つの指標になるだろう。

DLAのブロックダイヤグラム。中央右に「MAC Array」というユニットがあり、そのユニットは「2048 int8」or「1024 FP16」or「1024 FP32」とあることから、int8(8bit整数)を使うことで高速演算性能を得ようしていることが分かる

トヨタはNVIDIAとの協業で何を得るのか?

 このようにNVIDIAは高性能なAI実行環境をアップデートし続けてきた。それと同時にアップデートし続けてきたのが開発環境になる。今回のGTCの発表ではトヨタがNVIDIAと協業し、車載AIコンピュータにXavierを搭載することになる。

 これは、NVIDIAのAI開発環境を同時に購入することになり、このGTC 2016で発表されたVoltaアーキテクチャの「Tesla V100」を8基搭載したAIスーパーコンピュータ「DGX-1 WITH Tesla V100」(960 Tensor TFLOPS)や、4基搭載したAIワークステーション「DGX Station」がトヨタ社内で必要になるだろう。DGX-1 WITH Tesla V100は14万9000ドル、DGX-1 WITH Tesla V100は6万9000ドルと高価だが、DGX-1 WITH Tesla V100は従来世界最高レベルだったDGX-1の(170 TFLOPS)12万9000ドルと比べても、ディープラーニングの学習スピードで3倍の性能を確保するなど圧倒的なコストパフォーマンスを実現している。出荷は第3四半期以降となっているがオーダーはすでにWebではオーダーを受け付けるとしており、昨年のDGX-1のデビュー後のセールスを考えると、奪い合いになってしまうかもしれない。

 AI自律自動運転の開発を考えると、一刻も早く開発環境を築き上げ、さまざまな状況における判断を学習させ、その結果を検証していきたいのはどの自動車メーカーも同じだ。自動運転はクルマという製品において、クルマを運転する楽しみに影響する部分もあるが、トヨタのAI研究を米国で担うToyota Research Institute CEO ギル・プラット氏がGTC 2016の基調講演で指摘したように、世界で年間120万人の人が亡くなっている悲しい現実を解決する大きな手段であるのは間違いない。

 ギル・プラット氏は豊田章男社長が掲げる4つの理想を、安全(Safety)、環境(Environment)、誰もが使える移動手段(Mobility for All)、楽しい運転(Fun to Drive)と紹介しており、「Guardian Angel(ガーディアン・エンジェル、守護神)/Parallel Autonomy」「Chauffer(ショーファー、運転手)/Series Autonomy」という2つの方向性で自動運転開発を進めていく「Hybrid Autonomy」を行なうという。

 いざというときに介入してくれる先進運転支援のガーディアン・エンジェルと、完全自動運転のショーファーの2面性を持つことで、豊田章男社長が掲げるFun to Driveを持つAI自動運転を実現しようとしている。

 そのために車載デバイスとしてはリッチといえる30W、30TOPS DLのXavierを選択し、世界最高レベルのAI開発環境を整えていくことになるだろう。当然ながらこのNVIDIAの開発環境を必要とするのはトヨタのみにとどまらない。トヨタに納入する企業の多くが、NVIDIAの開発環境を導入することになっていく。世界最大級の生産量を誇るトヨタ、フォルクスワーゲングループの先進企業であるアウディ、ダイムラーグループの中核であるメルセデス・ベンツもNVIDIAを採用し、世界最大級の自動車部品サプライヤーであるボッシュ、ボルボの主力サプライヤーであるオートリブもNVIDIAを選択した。自動車業界のAIシステムのデファクトスタンダードになりつつあるのは事実だ。

 また、一部報道でNVIDIAがトヨタにカスタム半導体をNVIDIAが提供するというような話もあったが、これは16nmプロセスで製造されるほどの高密度半導体であるXavierにおいてはあまり考えられる話ではなく、トヨタカスタムがあるとしても開発環境を構築するためのソフトウェアに限定されるだろう。

 いずれにしろ、リッチな車載半導体であるXavierを採用するということは、スーパーリッチなAI開発環境を揃える必要があることだ。これにより、トヨタはアウディやメルセデス・ベンツと同様の強力なAI実行環境を整えることになり、あとは各社の開発力の勝負になる。

 そしてスーパーリッチな開発環境を整えたトヨタは当面は自動運転の分野でのAI開発に注力するとしても、AIという分野の産業に対する影響力を考えると、自動運転だけにAIを用いていくのだろうかという疑問は残る。トヨタはロボット開発を行なっているほか、日本最大級の企業でもある。その企業が圧倒的なAI開発力を手に入れた結果生み出す、自動運転以外のAIソリューションには注目したい。

NVIDIAはトヨタとの協業で何を得るのか?

 一方、NVIDIAがトヨタと協業することで何を得るのだろうか? 半導体は規模の勝負だけに世界最大級の自動車メーカーと協業することで、大きな数の販売を見込めるだろう。一般的には車載半導体の売上が伸びるとなるのだろうが、影響はそれだけにとどまらない。NVIDIAの半導体の特徴は車載半導体からスーパーコンピュータ用半導体まで同一アーキテクチャを採用しており、同一のソフトウェア環境で開発が行なえる。

 つまり、先述したようにNVIDIAのソフトウェア開発環境を実行しやすいNVIDIAのスーパーコンピュータ環境が導入され、その面でも大きなメリットがでるだろう。もちろんそれはトヨタにとどまらず、トヨタ関連会社に波及していく。それどころか、アウディ、メルセデス・ベンツ、ボルボが採用を表明しており、そこへの大手部品納入メーカーであるボッシュ、ZF、オートリブもNVIDIAとの協業を発表している。さらに、世界最大の自動車市場である中国においては百度とアポロ計画を進めており、残るは……といったところだろうか。

 すでにNVIDIAは半導体メーカーというより、AI開発プラットフォームを広範に提供するメーカーとなっており、その実行環境として強力な演算機能をもつ開発用・車載採用のGPUも提供していると捉えたほうが分かりやすいだろう。

 そしてこのAI開発プラットフォームで大切になるのがソフトウェア品質だ。バグが少なく、安定して動作し、しかも実行速度が速い。これを実現するのに大切なことが、実際の利用者からのレポートになる。何が問題なのか?同問題なのか?という指摘があることでメーカーは改良でき、よりよい品質のものを提供できるようになる。

 トヨタ製品が圧倒的に優れている点は、だれもが認めているように品質にあり、その品質を支えるのが現場のカイゼン力になっている。トヨタが大規模導入したものには、トヨタ側からカイゼン要請が行なわれ、そこに真摯に応えていくことで品質は上がっていく。とくにソフトウェアではそのサイクルが速く回る可能性があり、NVIDIA製品は一段も二段も洗練されていくだろう。

 GPUを用いたディープラーニングが切り拓いた新しいAIの世界。CES 2017におけるボッシュとZFとの提携、そしてGTC 2017におけるトヨタとの提携発表で、AI自動運転は誰の目にも確実な未来として見えてきている。

GTC 2017で自動運転に関するトヨタとの協業を発表したNVIDIA 創設者兼CEO ジェンスン・フアン氏