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西村直人の「トヨタ 電動化技術説明会」レポート

左からトヨタ自動車のEV(eQ)、HV(プリウス)、PHV(プリウス PHV)、FCV(ミライ)

トヨタはEVに消極的?

 2017年は近年のうち、最も車両の電動化が注目された年ではないか。顕著だったのは記憶に新しいフランクフルトモーターショー2017(IAA2017)において欧州の自動車メーカーがこぞってEV(電気自動車)のコンセプトモデルや市販前提車両を出展したことだ。また、単に車両の提案だけでなく、メルセデス・ベンツを有するダイムラーからは未来のモビリティとして2016年のパリモーターショーで表明された「CASE」を具現化したコンセプトモデル「smart vision EQ fortwo」が披露された。さらにここでは、電動化ブランドである「EQ」(HV、PHV、EVなどを示す新ブランド)も同時に発表されている。

 CASEとは、Connected(ネット社会とつながる)/Autonomous(自律自動運転技術)/Shared(共有化)/Electric(電動化)の4つの柱を表した言葉で、このうち「E」の電動化では「EQ」ブランドとして2022年までにすべてのメルセデス・ベンツが販売する全モデルに対して電動パワートレーンを導入(総数は10車種50モデル以上)するとしている。

 国内では、日産自動車が2代目となる新型「リーフ」を発売。40kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し1回あたりの充電走行距離は400km(JC08モード値)を達成するなど話題となり、本田技研工業もFCV(燃料電池車)である「クラリティ フューエル セル」をベースにしたEVやPHV(プラグインハイブリッドカー)を日本でも発売するとした。そこへきて肝心のトヨタ自動車だが、これまで同社は一貫して「EVは100km程度の近距離用途に適している」と表明していたため、過去には各国の市場において「トヨタはEVに消極的」と揶揄されたり、「最先端のEV技術を持ち合わせていないのではないか……」との憶測が飛び交ったりしたことがあった。

メルセデス・ベンツ「smart vision EQ fortwo」
日産自動車「リーフ」
本田技研工業「クラリティ フューエル セル」

1000万台のハイブリッドカーで7700万tのCO2を削減

 去る11月末、「トヨタの車両電動化技術」~20年にわたり培ってきた実績~と題して、メディアを対象とした説明会が開催された。ここでは、①モビリティ社会が抱えている課題と今後の環境車の展開イメージの紹介、②トヨタの車両電動化技術の概要、③トヨタの電動車両開発と電動化技術の展開と応用が示された。

 ①では、途上国での人口増加と車両普及の見通しがなされ、2050年にはアジア地域を筆頭に世界の車両保有台数が現在の3倍にあたる20億台以上になるとの見解が示された。それとともに車両の燃費数値向上と燃料の多様化、温暖化防止に向けたCO2削減、大気汚染防止の観点からの排出ガスのクリーン化の3つの課題が顕著になると推察。よってトヨタは車両電動化が必須であるとして「エコカーは普及してこそ環境への貢献」と銘打ち、HV、PHV、FCV、EVを順次投入し展開することで自動車ユーザーが積極的にそれらを選択するような商品力向上に努めるとした。また、モビリティの棲み分けとして「EV」は引き続き近距離用途として小型宅配車両やパーソナルモビリティ向け、「HV・PHV」は乗用車を中心、将来的に長距離移動が可能となる「FCV」では乗用車のみならず大型トラックや路線バス、さらには宅配・物流トラック向けとしてそれぞれをイメージしていることが紹介された。加えて、「2050年新車CO2ゼロチャレンジ」として、2010年に対して2050年の新車平均CO2排出量を90%削減とする目標を掲げ、その実現に向けた電動車両開発をいっそう加速させるとした。

2050年には世界の車両保有台数が20億台以上まで増加するとの見解
車両電動化で環境問題の3つの課題に対応
カバーする走行距離によってEV、HV・PHV、FCVを使い分ける
2050年の新車平均CO2排出量を90%削減する「2050年新車CO2ゼロチャレンジ」

 ②では、まずEVの開発として1970年から当時の通産省(現在の経産省)が推進していた工業技術院プロジェクトに参画していたことや、1983年からトヨタ独自のEV開発(EV-10/EV-20/EV-30)が進められていたこと、また1996年には「RAV4 EV」を日本と米国で発売、2012年には4人乗りのガソリンモデル「iQ」をベースにしたEV「eQ」を限定販売していたことが紹介された。次にHVの開発として1977年に「トヨタ スポーツ800」をベースにしたガスタービンHV、1997年8月にトヨタ初の市販HVである小型バス「コースターハイブリッドEV」(シリーズ式ハイブリッド)、その4カ月後の12月には初代「プリウス」が市販を開始したことがそれぞれ紹介された。加えて、2017年1月にはHV累計販売台数1000万台を達成し、これにより同クラスのガソリン車比較でCO2削減量7700万tを実現。また、このHVにPHVとFCVを加えた電動車両の世界シェアは2017年時点で43%にあたる140万台となり、1997年からの電動車両販売は1100万台以上、累計のCO2削減量8500万tとなったことが合わせて紹介された。

トヨタにおける電動車両の歴史
1997年12月に発売された初代プリウスのカットモデル
駆動用バッテリーはリアシートとトランクのあいだに縦型配置
初代プリウスに採用された「THS」
「PCU(パワーコントロールユニット)」には発電機とモーターのインバーターが収められている
トヨタでは電動車両140万台を販売し、シェア43%を誇る
これまでに1100万台以上の電動車両を販売して8500万t以上というCO2削減効果となっている
ラインアップする全カテゴリーにHVを用意
トヨタでは30年ほどで1000万台のHVを販売。同クラスのガソリン車と比較して7700万tのCO2削減量となる

 ③では、EVとしてeQの構成要素の紹介とともにHV、PHV、FCVそれぞれの主要機器が示された。HVでは全カテゴリーHV化が完成し、この20年間で燃費数値は28.0km/L→40.8km/Lへ向上しつつ、HVシステムコストはざっくり4分の1程度にまで削減されたことが紹介された。PHVではデモ車の開発→少量生産→量産販売として初代プリウス PHV→日・米・欧のユーザー意見を採り入れた2代目プリウス PHVを発売という普及への道のりが提示された。また具体的な数値としてA:EV走行距離/B:電力量/C:電池質量/D:電池体積が初代と2代目のプリウス PHVで比較され、Aは26.4km→68.2kmの+158%、Bは4.4kWh→8.8kWhの+100%、Cは82kg→130.7kgの+59%、Dは92L→173Lの+88%になることが紹介された。また、2代目では環境性能だけでなく力強い走行性能も両立しているが、その要となる「デュアルモータードライブ」の仕組みについても言及。FCVでは1992年に開発がスタートし、これまで日・米で100台以上、延べ200万kmに及ぶ走行実績があることが紹介された。

eQでは既存のHVやPHVの部品を改良しつつ流用
10年を費やしたプリウス PHVの普及ロードマップ
2代目プリウス PHVは68.2kmのEV走行距離を実現
回生発電などを担当していたジェネレーターをモーターとしても機能させる「デュアルモータードライブ」を新採用
2代目プリウス PHVの主要な構成パーツ

「CO2削減やエネルギー源などを勘案するとEVを打開策の筆頭にするのは尚早」と安部静生常務理事

 この①~③のテーマのうち最も力説されたのが、「モーター」「バッテリー」「PCU/インバーター」の3点が要素技術となっている、ということだ。そしてこの3点に「エンジン」が組み合わされるとHV、「エンジンと外部充電機構」が組み合わされるとPHV、「外部充電機構のみ」が組み合わされるとEV、「燃料電池と水素タンク」が組み合わされるとFCVになるという分かりやすい概念も示された。

 1997年から現在に及ぶ20年でHVシステムには大幅な手が加えられている。まず、バッテリーの電池電圧を下げて小型化、次にPCU内の昇圧コンバーターに電圧調整機能を追加し、同じくPCU内のモーターインバーターにはモーター電圧を上げ小型化が施された。そしてPHVではこの進化したHVシステムに加えバッテリーの大容量化と外部充電機構の追加、FCVでは同じくHVシステムに燃料電池と燃料電池の昇圧コンバーターを追加、そしてEVでは3点の要素技術を基本骨格としバッテリーのさらなる大容量化と外部充電機構の追加でそれぞれ対応している。また、この3点の要素技術そのものも、この20年で大幅に進化した。「モーター」は出力で200%アップ、体積で50%ダウンし体積あたりの出力は400%アップした。「バッテリー」は重量で30~50%ダウン、体積で60%ダウン、「PCU/インバーター」はエネルギー損失で80%ダウン、体積で50%ダウンしている。

車両電動化の要素技術となるのは「モーター」「バッテリー」「PCU/インバーター」の3点。これにエンジンや外部充電機構などを組み合わせることでHVやPHVになる
3点の要素技術をHV開発で蓄積し、PHVやFCV、EVに展開していく
この20年で要素技術はそれぞれ大幅に進化
要素技術、制御技術、生産技術といった面で優位性を持つとの説明
HVシステムコストは4分の1程度にまで削減されている
スライドを使った解説以外にも、会場では電動車両の構成部品などについて詳しく説明された

 冒頭、「最先端のEV技術を持ち合わせていないのではないか……」との意見を紹介したが、「モーター」「バッテリー」「PCU/インバーター」の3点による要素技術を組み込んだ車両を140万台も販売した実績を考えれば、それは誤った見方であると結論付けられる。HVで培った電動化の要素技術、走行性能と安全性能を両立させた制御技術、大量・高品質で生産する生産技術があるからこそ、世界シェア43%を獲得していることは紛れもない事実だ。一方で、「EVは近距離用途」としたトヨタの見解はややもするとEV普及に消極的な印象を抱かれる可能性は残る。そこで、説明会に出席したトヨタ自動車の安部静生常務理事にその点をうかがってみた。

トヨタ自動車株式会社 パワートレーンカンパニー 常務理事 安部静生氏

「トヨタはこれまでの車両電動化開発を経験してきた中でEVのメリットを十分に理解し、またデメリットも同じく認識してきました。そうした経緯を受け、現時点ではEV=近距離用途という答えを導き出しています。もっとも、HV・PHVやFCVのような中・長距離をEVで達成することは現在までにトヨタが蓄積した技術でも実現可能です。しかし、CO2削減や大気汚染の抑制、さらには将来に渡る最適なエネルギー源を勘案していくと、現時点でEVをその打開策の筆頭にするのは尚早であると考えています」とし、「しかしながら、この先もEVが近距離用途のみになるとは限らない」とも付け加えてくれた。

 トヨタはEVの航続可能距離を伸ばし同時に充電時間を短縮する「全個体電池」の開発を進めているが、トヨタが歩んできた過去20年に及ぶ車両電動化の進化を見る限り、3大要素の1つである「バッテリー」が大幅な進化を迎える時期が変革点になるのは明らかだ。全個体電池の実用化はトヨタにおけるEVの第2章が幕開けすることを意味するのだろう。