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トヨタ、2025年を目途に全車種に電動車を展開し、エンジン専用車は廃止へ
2030年までに1.5兆円を投じて電動車550万台以上の販売を目指す新施策の発表会レポート
2017年12月19日 00:00
- 2017年12月18日 開催
トヨタ自動車は12月13日、パナソニックと車載用角形電池事業について協業の可能性を検討することに合意したと発表。同日に都内で開催した共同記者会見の記者との質疑応答で、トヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏は、電動車普及に向けた具体的な台数イメージとして「EVとFCVで約100万台、ハイブリッドとPHVで約450万台。合計550万台の電動車を販売する」とコメント。12月18日にはこの言葉を裏付けるニュースリリースが発表され、同日に東京 お台場の「メガウェブ」で具体的な内容について解説する説明会が行なわれた。
説明会ではトヨタ自動車 取締役副社長の寺師茂樹氏が登壇し、トヨタの環境対応におけるビジョンや今後に向けた具体策についてプレゼンテーションを実施した。
寺師氏はトヨタが「持続可能な社会の実現に向けた貢献」と「お客さまの笑顔のためのモビリティの提供」を目指し、「環境」「感動」「安心・安全」という3種類の価値提供をつうじて経営基盤を固めつつ、持続的成長を実現していくとの方向性を示し、近年のライフスタイルの大きな変化によるクルマを取り巻く環境変化を「100年に1度の大変革」と定義。トヨタではこれを大きなチャンスと受け止めて「電動化」「情報化」「知能化」に戦略的に経営をシフトしていきたいと語った。
なかでも電動化について触れ、電動化はクルマのCO2削減に必要不可欠な要素であると語り、2015年10月に発表した「トヨタ環境チャレンジ2050」に向けて着実に進めているとアピール。一方で、どんな電動車が必要とされるかについては「環境規制や我々のようなメーカーが決めるのではなく、お客さまや市場が決めるもの」との考え方を示した。
ここで寺師氏はノルウェーの状況を例に挙げ、ノルウェーでは電動車比率が50%近く、世界一になっていると紹介。そのうち20%ほどがEV(電気自動車)となっており、販売のベスト10をEV、PHV(プラグインハイブリッドカー)、ハイブリッドカーが占めていると述べ、その理由についてノルウェーは油田を持っており国民1人あたりのGDPが日本の倍近くあること、水力発電が盛んで発電された電力を使って走るクルマを優遇していることなどを挙げ、フォルクスワーゲン「ゴルフ」の場合、通常のガソリンエンジン車よりEVのほうが安いと解説。さらに充電施設が完備された駐車場が市街地に用意されていたり、走行レーンが優遇されるといったEVに有利な政策が敷かれていることで、20%というEV比率、50%以上の電動化比率が実現できていると説明した。
また、日本は電動化比率が約30%となり、ノルウェーに次いで世界第2位になっていることも紹介。日本はエネルギー資源の自給率が低いことから、電力以外にも水素など多様なエネルギー源の活用を模索する必要があり、今後はハイブリッドカーに加えてFCV(燃料電池車)の普及が推進されていくとの見方を示した。
さらに寺師氏は、トヨタでの電動化に向けた具体的なマイルストーンを紹介。まず、2020年にEVを本格的に展開し、中国を皮切りにトヨタ、レクサスの両ブランドを日本、インド、米国、欧州に市場投入。グローバルに商品展開していくという。2020年代前半には10種類以上のEVを導入する計画としている。
続いて2025年ごろまでに、販売する全車種に電動車をグレード展開。2025年にはエンジン専用車は廃止する考えであるとした。これにより、2030年にはトヨタで新車販売するクルマの50%以上を電動車(ハイブリッドカー、PHV、EV、FCV)として、そのうち10%以上はEVやFCVにする計画となっている。この比率を現在のトヨタのグローバル販売台数に当てはめると、電動車は550万台以上の規模になり、ZEV(ゼロエミッションビークル)であるEVとFCVも100万台以上になると紹介した。
電池の研究開発費や設備投資で2030年までに1.5兆円規模を投資
寺師氏はこの目標を達成していくために、商品、技術、社会基盤の全方位で取り組んでいく必要があると語り、商品ではこれまでトヨタは性能や技術特性などに応じて「近距離はEV」「中距離はFCV」と使い分けてきたが、ユーザーニーズの多様化にも対応するため、今後はこれまで考えていた棲み分けにとらわれることなく、電動車も多様化させることが電動車普及に必要になっていくという新しい方向性を示した。これを受け、これまで近距離向けのパーソナルモビリティなどを中心としていたEVでも中型・大型車やトラックなど多様な車種に展開していくという。
また、「このような話をすると『トヨタはFCVからEVにシフトするのか』と言われますが、そうではなく、両方をやっていきます」と語り、2014年12月に発売した「ミライ」に続き、SUVやレクサスモデルにも展開。さらにバスやトラックといった商用車にも、グループ会社をつうじて展開していくと語り、このほかにも産業用など、グループ会社から燃料電池技術をさまざまな産業で展開させていくと語った。
ハイブリッドカーについては、燃費やコスト、走りなどの面で性能を磨き上げつつ、加速性能に優れるスポーツ型、トーイング性能に優れるハイパワー型などを用途別に展開し、新興国向けにはワンモーター型やマイルドハイブリッドといったアフォーダブルなハイブリッドなど、ユーザーニーズに合わせたさまざまなシステムを開発していくという。
こうした電動化したクルマの基盤となる技術を、寺師氏は20年間にわたり販売してきたハイブリッドカーで培ってきたと紹介。これまでに累計1100万台以上を販売し、現在では90以上の国や地域で販売が行なわれ、年間に約150万台を販売する規模の成長していることは、トヨタのハイブリッド技術が幅広く多くのユーザーに信頼されていることを意味していると解説。また、電動車に欠かせないモーターやバッテリー、インバーターに加え、電子制御や回生発電といった要素技術が蓄積されており、こうした技術が量産基盤で確立されて、日本だけでなくグローバルで年間150万台を生産に活用され、これがEVやFCVなどの電動車にも活用できることがトヨタの強みであり、電動車普及に大きく寄与するとアピールした。
しかし、それでも2030年の目標とする550万台という規模は、そんなトヨタにとっても「想像をはるかに超えた異次元の世界」だと寺師氏は表現。これまで20年かけて成長させてきた150万台という生産基盤を、これからの10年ほどで約3倍に増やすことになる。また、同じく2030年に100万台を目標とするZEVについても同様に「異次元のチャレンジ」と位置付ける。
例えば現行モデルの「プリウス」と、日産自動車の「リーフ」に搭載されている電池容量で比較すると約50倍となり、さらにそれだけの電池を搭載している車両でも航続距離はJC08モードで400km。プリウスの同航続距離が約1500kmとなり、航続距離まで対等の性能を持つEVを実現するためには、多くの電池や電池自体の進歩が必要とされ、これを寺師氏は「異次元のチャレンジ」だと解説した。
そのため、販売台数の拡大に対応する生産量の拡大、航続距離の拡大に対応するエネルギー密度、車両価格に大きく影響するコストなど、電池は電動車普及のキーファクターになると寺師氏は説明し、こうした課題をクリアしていくために開発や生産に思い切った投資が必要になると述べ、トヨタでは2030年までに電池だけの研究開発費や設備投資に1.5兆円規模を投じる必要があると明言した。
トヨタではこれまでにも電池を重要な技術であると位置付け、10月に開催された「第45回東京モーターショー2017」の会場で小型で安全性が高く、飛躍的な性能向上が見込める「全固体電池」の開発を加速させ、2020年代前半に実用化を目指すことを発表。これを後押しするのが去る12月13日に発表したパナソニックとの協業であり、寺師氏は「この協業で電動車のキーファクターである電池というピースが埋まり、電動化への準備が整いました」と表現。2030年の電動車550万台に向け、トヨタは大きく舵を切って異次元のチャレンジをさらに加速させていくと語った。
このほか、寺師氏は社会基盤の取り組みにおいて、モビリティの電動化と資源・エネルギー問題は切り離せない関係であると述べ、電池でリユース、リサイクルといった活動を進め、資源不足による価格高騰や産業廃棄物の増加を招かないよう取り組んでいくとしている。
説明会の後半に実施された質疑応答では、このタイミングで電動化についての発表が行なわれたのは他社の発表なども関係しているのかといった質問に対し、寺師氏は「ずっと前から『我々はEVで遅れてはいない』『ちゃんとした技術を持っているんだ』とずっと言い続けてきたのですが、それでも遅れていると言われることがあり、別の表現では『技術を持っているというなら、1台ぐらいEVを出してみれば?』と言われることもあって、これはとても説得力がある。でも、分かりました、明日出しますとはいかないので、まず僕らはEVに対して何が課題になっていて、何を解決したら次に行けるのかをはっきりと説明しようということになりました。そこで、今日のプレゼンテーションでも取り上げましたし、先日の(パナソニックとの協業の)会見でも出ましたが、どうしても電池の部分で乗り越えられるストーリーのめどが立たなかった。トヨタでは『電池はいくらでも作れるよ、どんどん安くしていけるよ』という前提のビジネスモデルは考えられなかったので、電池についての大きなストーリーが構築できて、いつ頃から我々が考えるEVをちゃんと出せるのかをメッセージとしてきちんと出していきたい。それでも『まだ出てないじゃないか』というご指摘は、甘んじて受けましょうと思っております」と回答した。
また、全固体電池の生産について、パナソニックとの協業がどのように関係するかとの質問では、「先ほども説明したように、100万台のZEVを作る、100万台分の電池を作るということがどれだけ大変なことかはご理解いただけたかと思います。もし、全固体電池の分野では我々が一番進んでいるので、これは自前でやりたいと思って研究開発に取り組んだとしても、実際に作る段階になったらトヨタだけでは絶対に(必要な量を)作れないですね。やっぱり電池のメーカーと協力して、台数に必要な電池を作ることになる。それならば、パナソニックさんといっしょになって研究開発をしながら、作るというゴールまで見据えて電池を開発する。そこにはパックを考える、形状を考える、(マツダ、デンソーと設立した)『EV C.A.Spirit』から出た要求特性もリンクさせる。つまり、リチウムイオン電池だけとか、全固体電池だけといった切り分けじゃなくて、EVにとって一番いい電池はどんなものなのかということをいっしょにやっていって、ゴールである生産から後のリサイクルまで含めたビジネス全体を考えていくには、最初からいっしょにやった方がいいという考え方になります」と寺師氏は答えた。