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ADAS、自動運転、コネクテッドカーの普及により車載NANDフラッシュメモリーの需要は増えるとWestern Digital

2018年はSUPER GTのシリーズスポンサー活動も

Western Digital 組み込み&統合ソリューション 製品マーケティング 上席部長 オデッド・サギー氏

 米SanDiskはNAND(ナンド)型フラッシュメモリーのリーディングメーカーで、2015年にストレージメーカーの米Western Digitalに買収され、現在はWestern Digitalのブランドの1つとしてフラッシュメモリーの販売などを行なっている。多くの読者にとってSanDiskの名前を目にするのは、SDメモリーカードやmicroSDメモリーカードといった一般消費者向けのメモリカード製品だと思うが、古くからOEM向けのビジネスにも取り組んでおり、PCやスマートフォンに内蔵されているフラッシュメモリーを機器メーカーに提供してきた。

 近年はその延長線上として、Western Digitalの自動車向けソリューションにも取り組んでおり、自動車メーカー向けにフラッシュメモリーの提供を行なっている。今回はそのWestern Digitalで自動車向け製品のマーケティングを担当するWestern Digital 組み込み&統合ソリューション 製品マーケティング 上席部長 オデッド・サギー氏にお話を伺う機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。

2015年にNAND型フラッシュメモリー大手のSanDiskを買収

 フラッシュメモリーとは、電気が入っていないときでもデータの内容を保持することができるタイプのメモリーのことを指しており、近年ではPCやスマホなどのストレージとして一般的に利用されている。とくにPCでは、以前はHDD(Hard Disk Drive)と呼ばれる磁気ドライブ(磁気を利用して円盤にデータを記録する形のストレージのこと)を利用していたが、近年は高速さが評価されてハイエンドPCのほとんどがフラッシュメモリに置き換わっている。

 そうしたフラッシュメモリーだが、記録方式の違いなどでNOR(ノア)型とNAND型という2つの方式がある。その違いに関して説明し始めると、それだけでこの記事が終わってしまうぐらいなのでここではやめておくが、NOR型は読み込みが高速、NAND型は書き込みが高速という特徴があるとだけ覚えておいていただきたい。

SanDiskの400GBのmicroSDカードを紹介する看板

 2015年にWestern Digitalに買収されたSanDiskは、NOR型とNAND型のうちNAND型を中心にフラッシュメモリーを生産してきた。その主力工場は、東芝との合弁で運営されている四日市工場で、そこで生産された半導体を海外の工場に運んでパッケージなどに封入して出荷する形でビジネスを行なっている。Western Digitalの2017年第3四半期(2017年7月~9月期)におけるNAND型フラッシュメモリーの市場シェアは、韓国Samsung Electronics、日本の東芝に続いてグローバルで3位(台湾TrendForce調べ 英文)とされている

 そうしたWestern DigitalのNAND型フラッシュメモリーの代表的な応用例としては、一般消費者向けであればデジタルカメラのストレージとして使われているSDメモリーカード、そしてAndroidスマホの追加ストレージとして使われているmicroSDカードなどになる。いずれも、読者も日常的に使っている製品ではないだろうか。SanDiskはその代表的なブランドの1つであり、例えばmicroSDカードでは他社に先駆けて400GBという大容量の製品を発表するなど、テクノロジー的にリードするメーカーである。

SanDiskブランドのmicroSDカードでは、400GBモデルが2017年8月に発表された

 それと同時にB2B(Business to Business、企業間取引)にも力を入れており、デバイスメーカーが製造するPCやスマホの内蔵ストレージ、そしてこの記事の主役である自動車向けストレージなども提供しており、そうしたOEM向けのビジネスにも非常に力を入れているのが現状だ。

ADAS、自動運転、コネクテッドカーなどにより、車載製品のニーズがNOR型からNAND型に変わっていく

 現在Western Digitalは、自動車メーカーにNAND型フラッシュメモリーの採用を訴求している。その背景になっているのは、依然として自動車ではNAND型よりもNOR型のフラッシュメモリーを採用する例が多いからだ。自動車でNOR型が採用されているのはもちろん理由があり、これまで自動車のECUといったストレージはOSの起動ドライブとして利用されることが多く、なによりも読み込みが重要だった。そこで読み込み速度が速いNOR型が好まれてきたことが理由に挙げられる。また、自動車メーカーのエンジニアにとっても、すでにNOR型を多く採用してNOR型に慣れている側面があることも否定できない。

 だが、その状況にも大きな変化が出てきている。その最大の要因はADAS(先進運転支援システム)、自動運転、そしてコネクテッドカー(インターネットに常時接続された自動車のこと)などの新しいアプリケーションだ。Western Digital 組み込み&統合ソリューション 製品マーケティング 上席部長 オデッド・サギー氏は「自動車業界では現在、大きな技術的なシフトが起きている。重要なことは、処理すべきデータ量が増大していることだ。ADAS、自動運転、コネクテッドカーと、全てのアプリケーションでストレージに保存しておくデータが増えている」と述べ、クルマで処理するデータが今後増えていくことが、自動車メーカーにとって書き込み速度も十分に確保されているNAND型フラッシュメモリーを採用する理由になり得ると指摘した。

ストレージに求められる要件が変わりつつある
新しいアプリケーションに対応できる回答がNAND型フラッシュメモリー

 例えば、自動運転車は車両自身が各種データを生成する。自車が走ったログはもちろんのこと、常にカメラやレーダー、LiDARなどのセンサーからの情報を融合して周囲360度のデータを常に把握しながら進んでいくため、そうしたセンサーが作り出すデータの量も膨大になる。以前に紹介したIntelのインタビュー記事(別記事「インテル 執行役員 オートモーティブ担当 大野誠氏に、Intelの自動車向け半導体ビジネスについて聞く」参照)でもお伝えしたように、Intelの予想では2020年に自動運転車が作り出すデータは1日4TBに達するという。4TBと言えば、現在最もハイエンドなスマホであるiPhone Xの上位モデルは256GBの内部ストレージを持っているが、その16台分の内部ストレージが自動車が1日に作り出すデータだけでいっぱいになってしまうということだ。

鍵を握るのはデータ。Intelの予想では、2020年の自動運転車は1日に4TBのデータを生成するという

 もちろん、全てのデータを自動車のストレージに保持するのではなく、必要なデータは携帯電話回線を通じてクラウドにアップロードされ、不要なデータは消されることになるだろう。それでも、その処理が行なわれるまではデータを一時的に保持する何らかのストレージが必要になる。また、コネクテッドカーが普及すれば、将来的には自動運転車の中でユーザーを楽しませるための動画をダウンロードして再生するといった使い方が想定され、そこにも大容量のローカルストレージが必要になる。

「現在、ユーザーが所持しているスマホは写真などのデータを作り出すデバイスになっている。自動車もそれと同じようなことになるのではないか」(サギー氏)という説明のとおりで、そういった各種のデータを保存するストレージの本命として考えられるのは、書き込み速度があまり高速ではないNOR型ではなく、PCやスマホと同じようにNAND型になる可能性は高い。

 デジタル業界全体を見ても、とくにPCやスマホなどの一般消費者向け機器を中心に、大容量のデータを扱う機器ではすでにNAND型が主流になっている。その影響もあって、NAND型はさまざまな技術革新で大容量化などが進展する見通しだ。今後、ADAS、自動運転、コネクテッドカーなどで扱うデータが増えるクルマでも、NOR型からNAND型へと需要が移り変わっていくというのは自然な流れと言ってよい。

カスタマーのニーズに合わせた車載グレード製品を提供。SUPER GTのスポンサードも開始

 サギー氏によれば、SanDiskではそうした自動車向けNAND型フラッシュメモリーとして2つの車載グレード(AG:Automotive Grade)製品を用意しているという。1つは組み込み向けのチップ単体であり、もう1つがSDメモリーカードになる。

SanDiskブランドで提供される自動車向けNAND型フラッシュメモリー。現在の最大容量は64GB

 車載グレードとしては「一般向けとは異なるパーツを利用しており、一般消費者向けに比べてより広い温度環境のサポートなどに配慮している。また、アプリケーションにも配慮しており、例えば地図データを置くストレージとして活用される場合には、読み込み速度を上げるなどの改良を加えて提供しているし、その逆にドライブレコーダー用であれば書き込みが重要になるので、そちらに振った製品を提供する」(サギー氏)とのことで、クルマの車内環境(温度)への配慮だけでなく、メーカーの用途にも配慮した製品を提供しているとした。また、自動車ビジネスを行なっていく上では「デザイン上の配慮などカスタマーニーズに合わせること、品質のコントロール、問題が発生したときの3つが大事だ」と述べ、日本法人などを通じて日本の自動車メーカーに対してサービスを提供していくと説明した。

 なお、Western Digitalの日本法人の1つであるサンディスクはそうしたことを訴求するため、今シーズンはSUPER GTのシリーズスポンサー(特定の車両に対してではなく、シリーズ全体をカバーするスポンサーのこと)に就任する。それに伴い、SUPER GTの全車両に取り付けられるオンボードカメラ(車内1つと車外2つ)に同社の車載グレードのSDメモリーカードと、産業用グレードのmicroSDカードが記録媒体として利用される。とくに車外(リア2つ)に設置されるカメラは接触などが発生したときの判定用としても利用されるとのことで、非常に重要な役割を果たすことになる。今シーズンのSUPER GTを盛り上げてくれる存在の1社としてのWestern Digitalにも期待したいところだ。

1月17日~19日の3日間に行なわれた「オートモーティブワールド」のWestern Digitalブース。SUPER GTをフィーチャーした展示が行なわれた(写真提供:SanDisk)
日本を代表するモータースポーツ SUPER GT×SanDisk(4分39秒)