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フォーアールエナジー、「リーフ」の充電池を再製品化する浪江事業所の事業について説明

強みは短時間でのバッテリーの性能分析ができること

2018年3月26日 実施

フォーアールエナジー株式会社 代表取締役社長 牧野英治氏

 フォーアールエナジー(4R Energy)は3月26日、福島県双葉郡浪江町において浪江事業所の開所式を行なった。同日、フォーアールエナジーと出資者である日産自動車、住友商事が浪江町地域スポーツセンターにて報道向けに詳細を説明した。

フォーアールエナジーの強みは短時間での性能分析

 浪江事業所では、日産「リーフ」の使用済みバッテリーを受け入れ、分解、性能分析を行なう。リーフ1台に48個内蔵されているモジュールのうち、複数台のバッテリーから良質なものを組み合わせ、リーフ向けの再生バッテリーとして出荷する。リーフ向けにならないものについては別の用途向けにバッテリーを再製品化する。

充電池再利用のイメージ

 バッテリーの再製品化にあたっては、個々の電池モジュールの性能分析が重要。クルマごとに使われ方はまちまちで、リーフは48個のモジュールを内蔵しているが、個々のモジュールが均等に劣化するわけでもない。フォーアールエナジーによって容量とパワーの点から個々のモジュールをランク分けし、良質なものを組み合わせてリーフの再生バッテリーを提供する。

回収した電池を性能でグループ分けする

 従来ならば詳細測定に非常に時間がかかっていたが、フォーアールエナジーの独自技術によって大幅に短縮したことが強み。具体的には24kWhのリーフのバッテリーパック1つの判定を4時間で終えることができる。これにより、再製品化の行程で最も時間がかかる性能分析を、より短時間かつ低コストで実施し、再製品化につなげていく。

 フォーアールエナジー 代表取締役社長 牧野英治氏によれば、リーフ1台分の性能分析は、日産の測定方法では1つのモジュールで8時間。48個やると16日間というものから、独自技術で1台分が4時間まで大幅に短縮できるという。

 また、当初からリーフはバッテリーモジュールの使用状態をモニターする機能があり、劣化具合や内部抵抗の増加などの履歴を管理している。フォーアールエナジーで改めて性能分析する理由としては、電池パック内に搭載した状態ではそれぞれのモジュールが不安定な状態なので、再製品化にあたって温度を一定にした恒温室で改めて精度の高い測定が必要になるとしている。

 現在の設備ではリーフ3台分を同時に行なえるため、1日8時間稼働として1日に6台分の処理ができる。設備の能力と作業シフト次第で変動はするが、年間では2250台の処理能力があるとしている。

リーフ向けに30万円の再生バッテリーを提供開始

リーフ向けの再生バッテリー

 開所式と同じ3月26日には、日産からフォーアールエナジーが手がけたリーフ向けの24kWh再生バッテリーの供給開始も発表された。価格は30万円(税別、工賃別)で、新品の24kWhのバッテリーの65万円に比べると半額以下となる。

 再生バッテリーの供給開始は5月のゴールデンウィーク明けとなる見込みで、供給数については使用済みバッテリーの回収数と処理能力に依存する形となる。牧野氏によれば、現在リーフ360台分の使用済みバッテリーパックを貯めているが、今後の入荷数は未定。「日産のちゃんとしたクルマなので、なかなか戻ってこない」とリーフのバッテリー性能を評価する一方で、バッテリーの回収数が多くならない点にジレンマを感じているようだった。

 リーフは2010年12月の発売で、2011年には約1万台を販売した。7年経過したクルマが約1万台あることになるが、日産からの説明では、これまでもリーフのバッテリー交換の需要は年間で数百台程度とそれほど多くなかったことも明らかにされた。

2020年には1万台処理が目標、他社EV向けバッテリーも歓迎

 牧野氏は当面の目標として「2020年に1万台は処理したい」と希望を述べるが、それは日産からの回収数次第となる。日産以外のEV(電気自動車)のバッテリーについても「喜んでやりたい」としているが、それには条件がある。

 今回のリーフのバッテリーの再製品化についても「我々の力だけでできたわけでなく、日産がサポートし、情報を開示してくれたから」としており、日産以外のバッテリーの再製品化には、リーフと同様のサポートがあれば可能という条件を付けた。

 現在は初代リーフの初期型に搭載された24kWhのバッテリーのみの取り扱いとなるが、リーフの30kWhや40kWhのバッテリーについても回収が進めば取り扱う予定。

 また、浪江事業所は東京電力 福島第一原子力発電所の事故により2017年3月31日まで避難指示が出されていた場所にある。この点について牧野氏は、「国が中心となって放射線量を下げることで避難指示が解除になった」と説明し、出荷される製品についても「必要なら放射線量などのデータを出して説明していきたい」と安全に問題がないことを強調した。

リーフでビル電力のピークカットに活用している日産自動車

 今回の説明では、フォーアールエナジー、日産、住友商事の取り組みについても説明が行なわれた。

日産自動車株式会社 取締役副社長 坂本秀行氏

 日産は同社 取締役副社長の坂本秀行氏が、EV市場はリーフが形成し、EVの日産のイメージを確立したことや、拡充している充電インフラの現状を説明。

自動車の課題
ニッサン インテリジェント モビリティの説明
EV市場の販売台数推移
充電インフラは年々拡充している
ステークホルダーの輪を広げて実現するEV社会
電動車によるエネルギーの賢い選択と利用

 最新の取り組みとしては「LEAF to Home」と名付けたV2Hのシステムを累計4000台以上販売していることや、平均で年間約4万円の電気料金削減効果があがっていることも紹介した。

 さらに、日産では神奈川県厚木市の先進技術開発センターにおいて2013年から従業員が駐車したリーフから電力をビルに供給することで午後の消費電力が多い時間帯に外部からの電気購入を抑制、電力消費のピークを過ぎたあとは逆にリーフへ充電する「Vehicle-to-Building」によって年間約44万円を削減していることも紹介した。

LEAF to Home
従業員が駐車したリーフから電力をビルに供給
中古電池の再生・再製品化

EVの残価を上げたい

 フォーアールエナジーは牧野氏が説明。バッテリーの再製品化はEVに乗り続けるユーザーに安価で交換用のバッテリーを提供することや、劣化したバッテリーの二次利用を進めることに加え、EVの残価を上げる目的もあるという。

 また、牧野氏は再製品化を行なう意味として「再生可能エネルギーが増えてくると平準化するための蓄電池が重要で、二次利用した電池で安定して手ごろな値段で供給できる」とコスト面でのメリットのほか、「自動車メーカーが電動車にかじをきったため、コバルトやニッケルの値段が上がって再利用しないといけない」と原料確保の問題、そして、中国のように電動車を販売したらバッテリー回収の責任が発生するルール上の問題を挙げた。

フォーアールエナジーの会社概要
ビジョンとミッション
二次利用の必要性

 フォーアールエナジーは初代リーフの発売直前に設立しているが、これまでは新品の電池を用いた家庭用蓄電池システムや蓄電池付き充電器、大型リユース蓄電システム、日産の先進技術開発センターのシステムなどを検討、市場に導入してニーズを探ってきた。

 今後はリーフの使用済みバッテリーからリーフ向けの再生バッテリーを提供するほか、適切なアプリケーションをシミュレーションしながら決めていくという。具体的にはよいランクのものはリーフ用として戻されるが、少し下のランクのものは電動フォークリフトやゴルフカートなどのモビリティ、さらに下のランクでは使用頻度が低いバックアップ電源や、外灯を設置する浪江町のプロジェクト「THE REBORN LIGHT」のオフグリッド型外灯に活用していく。

今までのフォーアールエナジーの活動
下のランクの蓄電池利用方法
さらに下のランクの蓄電池利用方法

 今回、フォーアールエナジーが浪江町に事業所を構えた理由についても説明。2016年に浪江町長の馬場氏が横浜市のフォーアールエナジーを訪問。蓄電池のリユースとEVの導入を組み合わせた「浪江町まちづくり計画」に共感したことから。さらに、福島県や国の支援があることや、日産いわき工場に近く、輸送コストのかかるリーフ用バッテリーの輸送にも日産の物流ネットワークを活用できるなどの理由が挙げられた。

「EVリユース蓄電モデル」を構築、市場開拓を担う住友商事

住友商事株式会社 モビリティサービス事業部副部長 兼 電池事業チーム長 緒方剛氏

 住友商事はモビリティサービス事業部副部長 兼 電池事業チーム長の緒方剛氏がこれまで手がけてきた「EVリユース蓄電モデル」の説明を行なった。フォーアールエナジーから市場開拓力を期待される住友商事は、2013年に大阪府大阪市夢洲で技術実証を行ない、2015年からは鹿児島県薩摩川内市の甑島においてリユース蓄電池実証事業を実施してエコアイランドのモデルケースを構築している。

低酸素社会に向けた好循環サイクル
リユースの実現に向けた事業展開
甑島のリユース蓄電池実証事業
回収した充電池
廃校グラウンドの活用
蓄電センターが実現する再生可能エネルギーの最大導入
再生可能エネルギーの接続環境の提供
エネルギーとまちづくりの融合
エコアイランドのモデルケース

 甑島では回収した36台分のリユース蓄電池を使い、廃校となった小学校のグラウンドに太陽光発電所、蓄電センターを設け、体育館を非常時でも電力供給ができる災害時避難所とした。

 島内では小学校跡地のほかにも太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーがあり、既存のディーゼル発電機とともにそれらを蓄電センターでまとめて安定化する。その結果、再生可能エネルギーの接続可能容量を大幅に増加させ、島内負荷の30%が再生可能エネルギーとなり、年間約1000tのCO2削減効果があるという。