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日産「リーフ」の充電池を再製品化するフォーアールエナジー 浪江事業所が開所

使用済みリチウムイオンバッテリーを回収、性能分析、パッケージ化を実施

2018年3月26日 開所

フォーアールエナジー浪江事業所において開所式が行なわれた

 フォーアールエナジー(4R Energy)は3月26日、福島県双葉郡浪江町で開所したフォーアールエナジー 浪江事業所の開所式を行なった。日産自動車「リーフ」の使用済みリチウムイオンバッテリーの回収、性能分析、パッケージ化の業務をここで行ない、ゴールデンウィーク明けにはリーフ用の再生バッテリーの出荷も開始する。

リーフの使用済みバッテリーから再生バッテリーを生産

 フォーアールエナジーは日産と住友商事の合弁会社で、再利用(Reuse)、再販売(Resell)、再製品化(Refabricate)、リサイクル(Recycle)の4R事業の検討を目的に2010年9月に設立。EV(電気自動車)の車載用リチウムイオンバッテリーの二次利用技術の開発を行なってきた。今回新たに開設した浪江事業所ではリーフから取り外したバッテリーの再製品化を行なう。

フォーアールエナジー浪江事業所
こちら側はバッテリーの倉庫側になる
運び込まれたリーフの使用済みバッテリー

 浪江事業所では製造機能のほかにグローバル開発機能を持たせ、車載用リチウムイオンバッテリー再利用拠点は国内初としており、フォーアールエナジーでは、EV向け再生電池は世界初だとしている。

 再生の流れは全国から回収したリーフの初期型、24kWhタイプの再利用可能なバッテリーをここに運び、使用履歴を照会しながら独自に性能を分析して内部のモジュールをランク付けする。そこから状態のよいものを集めてリーフ用の再生バッテリーを生産する。それ以外は電動フォークリフト、家庭用蓄電池、産業用蓄電池などに向けてパッケージングを実施する。

恒温室で性能分析を行なう。ケースを開けている
ケースの分解を行ない、モジュールを露出させる
リフトも装備される
性能分析を行なう恒温室。内部にはバッテリーが運び込まれている
性能分析のためバッテリーの充電を行なう設備
主に開発で用いるバッテリー使用時の温度を自由に設定できる装置

 リーフのバッテリーは内蔵された48個のモジュールそれぞれで性能分析を行なうが、性能分析には充放電を行なうなど時間がかかっていた。それをフォーアールエナジーの独自技術により大幅に時間短縮を可能にし、リーフのバッテリー1つあたりを4時間で済ませるようにした。

 現在のところ初期型リーフの24kWhタイプのバッテリーの扱いのみとなるが、後に登場した30kWh、40kWhタイプについても使用済みバッテリーの数が集まったころに開始するという。

 フォーアールエナジー浪江事業所は浪江藤橋産業団地内に位置し、敷地面積は1万2960m2、建築面積は2447.97m2。浪江町出身者を含む地元から従業員を雇い入れ、本社から移動したスタッフを含めた約10名で操業を開始する。

復興大臣や地元関係者が出席した開所式

バッテリーラックの前で開所式が行なわれた。新型リーフが置かれているが、新型リーフのバッテリーはまだ作業対象ではない

 3月26日にはフォーアールエナジー 浪江事業所において、復興庁から大臣の吉野正芳氏をはじめ、地元関係者など多数の来賓を迎え開所式が行なわれた。来賓からは復興や雇用の確保、街づくりのパートナーとしての期待が寄せられた。

 最初に挨拶に立ったフォーアールエナジー 社長の牧野英治氏は、電動車から回収した電池を再利用するビジネスが拡大する理由を3つ示し、自動車メーカーの電動車へのシフト、電池に使用するコバルト、ニッケルといった原料の高騰、そしてメーカーへの電池回収責任が中国のようにルール化されることを挙げた。

フォーアールエナジー株式会社 社長 牧野英治氏

 さらに「回収する電池は性能がバラバラ。回収してきた電池の性能を正確に把握しなければならないが、いかに短く、いかに低コストで、いかに簡単に測定するかということがカギとなり、その技術を我々が持っている」と自社の技術に自信を見せた。

 浪江町の復興については「何年かしたらJRの浪江駅、電車から降りてぞろぞろ歩いて、フォーアールエナジーの事業所に向かっていく。こんな夢みたいなことを思うと非常にワクワクしている」と将来の夢を示し、「たくさんの人を雇いたい」と希望を述べた。

 一方で浪江町のスマートコミュニティ事業にも参画、「電気自動車を有効活用してスマートな街にする、昨年の12月からキーメンバーとして参加している。ここは日産、住友商事にも入ってもらって、どこにもない浪江らしいプロジェクトを作っていこうと思っている」とした。

 また、町民が帰還できない理由に「街が暗い」ことがあるとして、リーフの使用済みバッテリーを再利用して製作した外灯を設置するプロジェクト「THE REBORN LIGHT」を進めることを示した。また、フォーアールエナジーのエンジニアとバッテリー、設備があることから「福島県のいろんな学校の生徒さんに集まっていただいて、蓄電池がどんなとか、セミナーとかやっていきたい」と希望を述べた。

復興庁 大臣の吉野正芳氏

 続いて、政府から復興大臣の吉野正芳氏が登壇、「帰還するためには生活環境の整備が大事で、働く場が帰還するうえで大事な要素になっている。働く場は民間の力を借りないとできない」と雇用に期待をした。

「福島県は2040年に向けて、福島県民が使っている電気を全部再生可能エネルギーで同じ量を作るという大きな目標がある。再生可能エネルギーにはバッテリーが必要になるので、バッテリーを浪江の町に根付かせていただくことに感謝し、政府としてもできる限りの支援をしていきたい」とバッテリー再生事業そのものにも期待を寄せた。

経済産業大臣政務官 平木大作氏

 経済産業大臣政務官の平木大作氏は「昨年春に避難指示が解除されてちょうど1年。節目のタイミングで新しい事業所を開設できた。浪江町の復興にとって大変大きな1歩になると確信している」と期待。「浪江町で新たな命を吹き込まれたリチウムイオン電池が、国内外で電気自動車、産業用、あるいは家庭用で幅広く利用され、まさに産業復興のシンボルとなることを期待している」と述べた。

 また、福島県の海側の地域である「浜通り」に進出したことについて「この地域は産業集積にとっても大きな意味がある。浜通り地域に新たな産業基盤の構築を目指す、福島イノベーション・コースト構想そのものである」と讃えた。

福島県副知事 鈴木正晃氏

 福島県からは福島県副知事 鈴木正晃氏が登壇、「事業所開所は浪江町の避難地域の復興を大きく後押しするものであり、画期的な技術や製品が浪江町から発信されますことは、震災から復興していく姿を国内外に強く伝えるものとなる」と期待した。

浪江町長 馬場有氏

 浪江町長の馬場有氏は「産業団地への立地第1号として時代の最先端を行くフォーアールエナジー社がこの佳き日を迎え、避難生活を続ける町民のみなさんの希望の便りが届けられることを非常に喜ばしく感じられる」と挨拶。「帰還を迷われる町民には町内の雇用の確保は重要な課題。フォーアールエナジー社のように、最新の技術でこれからの未来を築いていく企業に立地をいただいたことは、特に若者世代にとって非常に明るい光になる」と喜びを示したほか、「化石燃料や原子力エネルギーから構造転換を狙っている当町にとって大きな意義を持つものである」と評価した。

日産自動車株式会社 副社長 坂本秀行氏

 日産からは副社長の坂本秀行氏が登壇。リーフの製品化前からバッテリーを社会資産として取り組んでいることを説明したのち、リーフの使用済みバッテリーについては「工場のバックアップ電源やフォークリフトの電源などいろいろな使いみちがある。何回も何回も回っていくと社会に対して非常に大きな貢献ができる」と社会の資産であることを強調した。さらに「ここは世界の先駆けとなるモデルケース。ここで作った仕事の仕方を世界中が見習うことになる」と期待した。

住友商事株式会社 執行役員 中島正樹氏

 株主でもある住友商事の執行役員 中島正樹氏は「この浪江で、フォーアールエナジーの4つのRが回り始めることは感無量」と喜びを示し、「フォーアールエナジーが開設されたのは、日産リーフ発売開始の2010年12月より3カ月も前のこと、当時、まとまった電池の回収が見込まれないにもかかわらず、あえて立ち上げたというところに、我々のこの事業の大切さや思いが込められている」と振り返った。

 来賓のあいさつのあとには鏡開きが行なわれた。浪江町に蔵元があった鈴木酒造が提供した「磐城壽」の樽を割って開所を祝った。

鏡開きが行なわれた。酒は浪江町に蔵元があった鈴木酒造の「磐城壽」