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ジャパンディスプレイ、HUD搭載スマートヘルメット「XHD-01」(開発コードネーム:スパルタ)公開
スーパーフォーミュラのダンディライアンと透明カラーディスプレイ内蔵ヘルメットの開発で提携
2018年8月2日 20:29
- 2018年8月1日 発表
JDI(ジャパンディスプレイ)は8月1日、東京都内で記者会見を開催し、同社が開発中の新製品などについて説明した。この中でジャパンディスプレイ 常務執行役員 チーフマーケティングオフィサー(CMO) 伊藤嘉明氏は同社の新戦略やその一環として開発された製品などについて紹介し、その中で同社が市場で高いシェアを持つHUD(ハッド、Head Up Display)を小型化してヘルメットに内蔵したスマートヘルメット「XHD-01」(開発コードネーム:スパルタ)を公開した。
また、同社はスーパーフォーミュラに参戦しているレーシングチーム「チーム・ダンディライアン・レーシング」と提携し、同社の「透過型液晶ディスプレイ」技術を応用したディスプレイ内蔵ヘルメットの開発を共同で行なっていくと発表した。このディスプレイは先日富士スピードウェイで行なわれたスーパーフォーミュラの2019年以降用車両「SF19」のテスト時にも利用されていたもので、現在はヘルメットの外側にディスプレイが設置されているが、将来はヘルメットの内部に内蔵して実戦投入を目指すという。
スパルタのコードネームを持つXHD-01は、同社のIoTソリューションのショーケース的な役割を果たす
JDIは、ソニー、東芝、日立製作所などのディスプレイ部門が合併してできたディスプレイパネル製造メーカーで、スマートフォンや車載ディスプレイなどに強いパネルメーカーとして知られている。だが、元々”日の丸パネルメーカー"として経済産業省の強いリーダーシップの下で作られたJDIだが、中国・韓国勢という国家が赤字を覚悟で補助金を投入する国の企業との価格競争に晒されており、設立以来赤字が続いている。
こうしたJDIを立て直す目的で外部から招聘されたのが、ジャパンディスプレイ 常務執行役員 チーフマーケティングオフィサー(CMO) 伊藤嘉明氏だ。伊藤氏は新しいマーケティング関連の事業部を作成し、会社横串で人材を募集して新しい事業を起こしていくことを狙っている。
伊藤氏の新しい事業部が力を入れて取り組んでいるのが、IoTのような新しい事業に向けた製品だ。そうした新しい事業はまだ成功例も少なく、メーカー側もどうした製品を作っていいか分からないという状態にあり、パネルメーカーのJDIとしてもそれを自社製品を利用してどんな製品ができるのかを見せていく必要がある。
そうした狙いでJDIが始めるのが、B2C(Business to Consumer、一般消費者向け)のビジネスだ。これまでJDIはB2B2C(Business to Business to Consumer、B2Cの企業に販売するという意味)と言われる、一般消費者向けの製品を作っているメーカーにパネルを販売するという形でビジネスをしてきた。もちろん、こうしたB2B2Cのビジネスが今後も中心であるのは変わらないのだが、直接一般消費者に製品を提供するB2Cのビジネスを、いわば「パイロット販売」のような形で始めることで、消費者の反応をダイレクトに受け取ったり、B2B2Cの顧客(デバイスメーカーなど)にショールームのような形で新しい可能性を見せるといった意味を込めて始めたものと考えられる。
現在IT業界では、B2B2CのメーカーがB2Cのビジネスをショールーム的に始めることが一般的になりつつあり、JDIもそうした狙いを込めてB2Cのビジネスを始めるものだと考えられる。
JDIがその第1弾として紹介したのがスマートヘルメットXHD-01だ。XHD-01は同社が自動車メーカー向けに販売しているHUD(ハッド、Head Up Display)を応用した製品で、ヘルメットのバイザー内部に小型の透明スクリーンを置き、ヘルメット内部に小型化した投影機を設置。人間の目から現実に各種の情報が重ね合わせて表示されるイメージになる。なお、伊藤氏によれば、開発コードネームはスパルタは、古代ギリシャのスパルタのレオニダス王にちなんでつけられたという。レオニダス王はペルシア戦争で300人の戦士と共に10万を超えるペルシア軍と戦い玉砕したもののギリシャを救った英雄とされており、この製品がJDIを救う救世主になってほしいという意味が込められているのだと考えられる。
現時点では開発中ということで、解像度はQVGA程度で表示できる情報も多くないが、将来的にはもっと解像度を上げていき、表示できる内容も増やしていきたいと説明員は説明した。
ダンディライアン・レーシングと共同開発した「高透過、透明カラーディスプレイ」
JDIは同発表会において、先日富士スピードウェイで行なわれたスーパーフォーミュラの次期車両となる「SF19」のシェイクダウンテスト時に、テストを担当した野尻智紀選手がヘルメットに装着していた「高透過、透明カラーディスプレイ」が同社とダンディライアン・レーシングが共同で開発したプロジェクトであることを明らかにした。
会場には野尻選手と同チームの監督である村岡潔氏が訪れ、報道関係者などに対して仕組みや感想を説明した。野尻選手によれば「これまでステアリングのモニターに表示されていた内容が表示される仕組み。透けて見えるのでドライブしていて邪魔にならないし、何よりも視線移動がないのがいい」とのことで、従来はクルマのギヤがどこに入っているのか、速度やエンジンの回転数などを確認するには視線を移動してステアリングに付いているディスプレイを見る必要があったが、この「高透過、透明カラーディスプレイ」の場合にはその必要がないので、見やすく早く実戦でも使いたいぐらいだということだった。
ダンディライアン・レーシングの村岡監督によれば「ヘルメットに関しては外装や耐衝撃の規定はあるが、内部に関しては何も規定がないのでレギュレーション上は今でも導入することは可能。今はテスト段階ということで外についているが、将来的にはヘルメットの中に入れて実戦で投入できるようにしたい」とのことSBCで、実戦を見据えた取り組みであると説明した。なお、JDIの説明員によれば、ヘルメットと車両の間にはRaspberry Piを利用した小型コンピューターが入っており、それを経由して車両側からデータを取ることで、ディスプレイにデータを表示する仕組みになっているということだった。
JDIがダンディライアン・レーシングと共同開発している「高透過、透明カラーディスプレイ」は、透過率80%という業界でも最高の透過率を誇る透過型ディスプレイで、ディスプレイのサイズは4型で300x360ドットの画素数となっている。ユニークなのは、バックライトなどがなくても表示できるように、下からRGB(赤、緑、青)を順番に高速に投射する仕組みになっており、それにより人間の目には色がついて見えるようになっていることだ。
村岡監督はJDIと協力して開発を続け、ディスプレイを小型化してヘルメットに内蔵することで実戦投入を目指していきたいとのことだった。ダンデライアン・レーシングはNTTドコモがメインスポンサーということもあり、これまでも数々の新しいITの取り組みを行なっているチームであり、このJDIの取り組みの今後も注目していきたいところだ。