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日産 西川社長、「日産パワー88」で目指した販売増を追究する体質からの脱却を明言

2018年度 第3四半期決算説明会にて

2019年2月12日 開催

2018年度 第3四半期決算説明会で登壇した日産自動車株式会社 代表取締役社長 CEO 西川廣人氏

 日産自動車は2月12日、2018年度 第3四半期の決算を発表。同日に神奈川県横浜市にあるグローバル本社で決算説明会を開催した。

 2018年度 第3四半期累計9か月(2018年4月~12月)では、売上高は前年同期(8兆5280億円)比で0.6%増となる8兆5784億円、営業利益は同(3642億円)13.9%減の3137億円、営業利益率は同0.6%減の3.7%、当期純利益は同(5781億円)45.2%減の3167億円。また、第3四半期累計9カ月のグローバル販売台数は同(410万9000台)2.1%減の402万3000台となっている。このほか決算内容の数値については関連記事(日産、2018年度 第3四半期決算。売上高は5.9%増の3兆457億円ながら、純利益76.7%減の704億円で増収減益)を参照していただきたい。

2018年度 第3四半期(3か月)の主要財務指標
2018年度 第3四半期(9か月)のグローバル販売台数
2018年度 第3四半期(9か月)の財務実績
日産自動車 2018年度第3四半期決算発表記者会見(52分33秒)
日産自動車株式会社 CFO(最高財務責任者)軽部博氏

 説明会では最初に、日産自動車 CFO(最高財務責任者)軽部博氏が登壇し、発表した決算内容について解説を実施。

 第3四半期3か月の主要財務指標について軽部氏は、第3四半期3か月は全体需要が前年比で3.6%減少する厳しい市場環境となっており、日産のグローバル販売台数も前年比2.6%減となったが、これは全体需要は上まわる数値で、日本、中国、タイ、フィリピン、中南米で全体需要以上の台数を販売。一方、米国では「販売の質の向上」の取り組みを計上したことで販売台数が減少したが、販売費用は改善しており、少しずつ結果が現われているとした。また、欧州市場でもWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)の導入やディーゼル車の需要が落ち込んでいること、英国のブレグジットを控えた不透明感などの影響から販売台数が減少したと説明した。

 また、209億円増となった営業利益の1033億円については、前年度の完成検査問題の影響、過年度の財務情報の修正といった一時的要因、原材料価格の上昇、為替の影響などの外的要因に影響を受けているものの、これらを除外した会社のパフォーマンスは販売活動が上まわったことで増益に改善していると軽部氏は述べた。

2018年度 第3四半期(3か月)の総括

 主な市場の販売状況では、日本は全体需要が2.1%増の373万台で、日産では前年同期(37万8000台)比8.4%増の41万台を販売。市場占有率も11.0%に増加した。前年の数値が2017年10月に明るみに出た完成検査の問題に対応するため生産が一時的にストップした影響から伸び率が大きく出ているが、その影響を除外した場合でも、2018年3月に発売した「セレナ e-POWER」やEV(電気自動車)「リーフ」が引き続いて販売台数を伸ばしており、「ノート e-POWER」も好調をキープしていることを好調の要因としている。

 会計年度が暦年ベースとなる中国では2018年1月から9月の9か月間に全体需要が1.6%増の1936万台となり、日産は前年同期(102万台)比7.4%増の109万6000台を販売。中国では「シルフィ」「エクストレイル」などの既存モデルに加え、2017年後半に市場投入した「ヴェヌーシア D60」「キックス」などの新規モデルの好調が販売増に貢献しているという。

 北米市場は米国の全体需要が0.3%減の1316万台となり、日産も前年同期(117万7000台)比8.4%減の107万8000台を販売と後退。これは米国市場での販売がセダンからライトトラックにシフトしていることの影響から、セダンモデルを中心に販売が減少したと軽部氏は説明。また、米国では引き続き販売正常化に向けた取り組みを進めているという。カナダでは全体需要が3.8%減の156万台で日産は同2.0%増の11万5000台、メキシコでは全体需要が5.9%減の108万台で、日産も同13.5%減の23万3000台の販売となっている。

「ノート」「セレナ」のe-POWERモデルが好調で、日本市場のマーケットシェアも拡大
中国市場は2018年下期に全体需要が落ち込んだが、日産は通年の販売台数を2.9%増加させて好調を維持している
米国市場ではセダンモデルが伸び悩んだ他、販売の正常化に向けた取り組みで販売台数が減少している

 ロシアを含む欧州では、日産は前年同期(54万4000台)比13.2%減の47万2000台を販売。環境規制の強化に対応するため販売台数が減少する結果となったが、EVのリーフは引き続き販売が好調で、前年比で3倍以上と大きく伸長しているとのこと。

 その他市場で日産は前年同期比1.9%増の61万9000台を販売。中南米とアフリカ・その他で販売台数が増加している。

WLTPの導入などの影響から欧州市場も販売減
中南米とアフリカ・その他で販売が好調。中東地域は全体需要が大きく落ち込んだが、日産は6.9%減で踏みとどまった

 また、9か月間累計の財務実績で当期純利益が45.2%減と大きく数値を悪化させているが、これは前期の数値に米国の税制改革によるプラスの影響が大きく出ていたことを反映したものと軽部氏は解説している。

西川氏が「日産パワー88」の体質から脱却するとコメント

 軽部氏の決算報告に続いて質疑応答の時間となったが、このタイミングで日産自動車 代表取締役社長 CEO 西川廣人氏が登壇。質疑応答に先立って西川氏がスピーチを行なった。

 西川氏は下方修正することになった通期見通しについて、この第3四半期の段階で期初に設定した数値見通しの達成率が6割を下まわる数値となっていることから、無理はできないと判断し、現在の市場環境も鑑みて、この状況から第4四半期だけで遅れを挽回しようと無理をすれば過去の過ちを繰り返すことになると指摘。「販売の質の改善」の取り組みを継続して会社としての実力、パフォーマンスを上げ、持続的な競争力を維持していくことを優先するため大幅な下方修正に踏み切ったと説明した。

 また、西川氏は「日産パワー88」で推進した販売台数のストレッチという体質から脱却し、米国での販売の質の改善に取り組んでいるとコメント。効果は少しずつ出ているものの「まだバリューで売り切るというまでの実力を付けていない」と自己分析。販売体制の強化も図っていくとの方向性を示した。

質疑応答で回答する西川氏

 質疑応答では、「過年度で計上されていない金額」として新たに計上された92億円を日産としてどのようにしていくのかについて質問され、西川氏は「今回計上したのは、想定される債務と言うべきものを『保守的に見た場合』にこういった計算になるということで、実際に確認をしているという意味です。これを実際に支払うと決めたわけではありません。これからどうするのかというご質問ですが、これはわれわれとしては、いろいろな側面から考えて検討したいと思いますが、私としては支払いをするという結論に至ると思っていません」と回答した。

 また、米国と中国の販売台数見通し引き下げが業績見通しを下方修正する主な要因になっているが、それぞれの市場環境をどのように見ているかという質問に対し、西川氏は「アメリカのマーケットは長く全需の拡大基調が続いていましたが、さまざまな環境変化でピークアウトが発生して、来年度は数で言っても少し落ちますし、競争はさらに厳しくなると見ております。中国がどうかと言えば、中国も少し踊り場に来ておりますが、長い目で見ればまだ成長していくと見ております。そういった中で、米国と中国でわれわれが抱えている課題は少し毛色が違うと思います」。

「アメリカに関しては過去の販売のプッシュと、やや無理なストレッチを繰り返してきた結果、クルマのブランドとしてのバリューが十分ではないということ。従ってインセンティブやフリートなどで進めなければなかなか台数を稼げない体質が現在あります。ここをブランドの価値を上げて、バリューを上げていくことが非常に大きな宿題としてあるということです。全需は簡単に台数を伸ばせる状況ではないと見ていますので、台数増というよりはブランドのバリューを上げて、下取り価格など平均価格を上げていく、お客さまに認めていただくといった仕事を進めていこうと思っております」。

「一方で中国では、かなり継続性のある技術と安全性を中心としたマーケティングで日産ブランドの価値が定着しつつあります。従って、ここから先はバリューを毀損することなく徐々に成長させていく。ここはベースができつつあるので、やや積極的に将来的なバックグラウンドを取りに行くということを考えて進めていきたいと思っています。その中で、ローカルブランドである『ヴェヌーシア』のペースをもう少し上げなければいけない。高級車市場でも世界最大になりつつある中国で、インフィニティの戦略はまだまだ遅れていますので、ここをまき直していくことが課題であると思っております」と回答した。

 ルノーと日産で進めてきたアライアンスの方向性ついて見直しを行なう具体的な方向性やポイントについての質問では、「アライアンスのバリューを将来の財産として成長させていくということは、われわれが共に強く思っているところですが、その中で、今の仕事の仕方、仕事の仕組みといったものが、ガバナンスというか運営というか、どちらにも言えるのですが、1人に権限が集中すると仕事が上手くいくという発想でアレンジされていて、アライアンスは当然ながらルノーであり日産であり三菱でありというところが独自性を持って仕事をしていく中での協力です」。

「そういった中で無理に権力を集中させるということが本当に効率的なのかという点で、なかなか答えが出てこないところであります。個人に権力を集中させるというソリューションがいいかどうか、これはもう少し見直しをするべきところだと思いますし、その部分について、まだ結論は出ていませんが、(ルノー CEOの)スナールさんと十分に議論をして方向性を出していきたい。これはガバナンスという大きなストラクチャーにも言えることであると思いますが、最終的に個人に権力を集中させることを目的とした進化というものではなく、アライアンスがメンバー会社の成長なり進化に大きく貢献する。そのための仕組みを作っていくことが一番大事なんだろうと思います」と西川氏は回答した。