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F1日本GPに向けて「レッドブルやトロロッソとさまざまな仕掛けを」。ホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏に聞く

F1日本GPは5月19日チケット販売開始

2019年5月12日(現地時間) 開催

表彰台の下で、マックス・フェルスタッペン選手の表彰を祝福するホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏(左)とレッドブル・レーシング チーム代表 クリスチャン・ホーナー氏(右)

 5月12日(現地時間)に行なわれたF1スペインGPの決勝レースでは、レッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手が、予選4位からスタートして1周目に予選3位のフェラーリのセバスチャン・ベッテル選手をオーバーテイク。序盤から徐々に差をつけることに成功し、真っ向勝負でフェラーリを打ち倒して実力で3位表彰台を獲得した。

 レッドブル・レーシング・ホンダが表彰台を獲得するのは、フェルスタッペン選手が開幕戦のオーストラリアで果たして以来で、この結果によりフェルスタッペン選手はメルセデスのルイス・ハミルトン選手、バルテリ・ボッタス選手に続くドライバー選手ランキング3位に浮上している。

 2017年までのマクラーレンとのパートナーシップ時代とはうって変わって上り基調にあるホンダ F1を率いているのが、2019年3月まで本田技研工業 モータースポーツ部長を務め、2019年からはF1専任としてホンダ F1 マネージングディレクターに就任している山本雅史氏だ。レッドブルの首脳陣ともすっかりツーカーの関係を築き、人と人のつながりが重視され部外者がインナーになるのが難しいとされる“F1村”の一員として認められている山本氏はホンダ F1の顔となっており、現在のホンダ F1が好調になっている原動力の1人だ。

 その山本氏に、スペインGPのレース後に、今後のホンダ F1、特にホンダの地元と言える鈴鹿サーキットでのF1日本GP(練習走行は10月11日、予選は10月12日、決勝レースは10月13日)に向けての意気込みなどに関してうかがってきた。

決勝レースで3位に入賞したマックス・フェルスタッペン選手が操るレッドブル・レーシング・ホンダ(写真提供:ホンダ)

日本GPに向けてアップデートを投入し続けるとホンダ F1 山本氏

──今シーズンのここまでについての自己評価は?

山本氏:昨年のトロロッソとのパートナーシップが功を奏して、今シーズンに向けてレッドブル・レーシングと契約できた。そして開幕戦のオーストラリアGPでは、表彰台を獲得してよいスタートを切ることができた。ただし、ご存じの通りオーストラリアGPが開催されたアルバート・パーク・サーキットは公園をベースにした特殊なサーキットで、他のチームとの比較にはあまり適していない。それに対して、今回のスペインGPの会場であるカタロニア・サーキットはシーズンオフのテストでも使われていることもあるし、第2の開幕戦と言えるレースとなる。このサーキットで行なわれてきたシーズンオフのテストではフェラーリが最速と言われてきた。フェラーリと真っ向から戦えることが分かったことの意味は小さくない。ただし、メルセデスにはまだ敵わないというのもまた事実だ。従って、今後もレッドブル側も、ホンダ側もアップデートを重ねていき、実力でメルセデスに敵うようになっていくようにしていかなければいけない。

チェッカーを受けるマックス・フェルスタッペン選手(写真提供:ホンダ)

──ホンダのホームゲームと言える、日本GPに向けての準備は?

山本氏:今回のスペインGPで、勢力図がある程度見えてきたと思っている。応援していただいている日本のファンの皆さまのためにも、レッドブルやトロロッソとも話あってさまざまな仕掛けをしていこうと話ている。ぜひとも応援していただいているファンの皆さまのご期待に応えられるように頑張っていきたい。

トロロッソ チーム代表 フランツ・トスト氏と山本氏

──日本GPまでにいくつか勝つことはできるか?

山本氏:ホンダとしてレースをする以上、モータースポーツに取り組んでいく以上は勝ちにこだわっている。その点でレッドブルやトロロッソとは同じ方向性を向いている。両チームともにホンダのホームである鈴鹿では勝ちたいと言っている。しかし、そうした想いだけでなく、大事なことは実力が伴うことだ。スペインでのレースを見ると、トロロッソは決勝レースでもう少し改善しないといけない点(筆者注:決勝レース中にセーフティカーが出てきた時に2台同時にピットインしたが、ピットクルーのタイヤ交換の準備が整っておらず、タイムロスをしてしまったこと。その結果、ダニール・クビアト選手もアレクサンダー・アルボン選手もタイムロスをしてしまい、両車入賞のチャンスを逃してしまった)があると感じた。その意味で、現状ですでに真っ向からメルセデスに対抗できる可能性があるのはレッドブルだ。鈴鹿に向けて、チーム側もホンダ側もどんどんアップデートを入れていき、両者のパートナーシップがよいものになるためにホンダも努力を続けていく。

6位に入賞して調子が上向きなレッドブルのピエール・ガスリー選手

若手ドライバーには下位カテゴリーでしっかり結果を出してF1に上がってほしい

トロロッソ・ホンダ

──以前に比べると、アップデートの投入などの技術面も、チームとのコミュニケーションといった人的側面でもうまくまわっているという印象がある。以前とは何が違うのか?

山本氏:ひと言で言うなら、両者の目的意識が1つになったということだ。F1は確かにテクノロジーも重要だが、組織がやることは、人がやることだ。皆が同じ目的意識を持っていなければ和が乱れてしまう。今はレッドブル側もホンダ側も「勝つ」ということを目標にしており、それがお互いに共通言語になっている。トロロッソも同様で、昨年からホンダと組んで、今シーズンになって初めて100%ホンダ向けのシャシーを作れるようになった。そうしたベクトルが、ホンダも100、レッドブルも100、トロロッソも100となっている。もちろん意見がぶつかるときもあるが、どちらの側も「勝つ」ということを最優先しているため、その目的のために最後は意見が一致する、それが重要なことだ。

──今回のスペインGPでは、F2に松下信治選手、F3に角田裕毅選手、名取鉄平選手というホンダの若手ドライバー3人が走っていた。彼らが将来的に、F1ドライバーに昇格する可能性はあるか?

山本氏:もちろん、日本のファンの皆さまが日本のドライバーにF1に昇格してほしいという期待をお持ちのことは理解しているし、自分個人としてもそうなってほしいと思っている。ただ、現実を見れば、2019年のレッドブル、トロロッソの4人のドライバーはどのドライバーもよいドライバーだと衆目が一致している。特にレッドブルのジュニアチームという位置付けになるトロロッソの2人のドライバー(ダニール・クビアト選手とアレクサンダー・アルボン選手)はどちらも速くて素晴らしい。今回のレースでもチーム側の課題(筆者注:前述のセーフティカー導入時のピットストップ時のミスなど)がなければ、アルボン選手も入賞して4台入賞が実現していた。そうした状況で、ホンダが政治力を駆使してそうした若いドライバーを押し込むことは可能かもしれないが、それがホンダにとって、そして若いドライバーにとってもよいことではないと考えている。それで結果を出せなければ若いドライバーのキャリアを潰してしまいかねない。私としては、彼らが現在戦っているフィールドでしっかりと結果を出し、誰もが納得する形で上に上がっていってほしいと考えており、そのための協力は惜しまない。

ダニール・クビアト選手
アレクサンダー・アルボン選手

勝利を賭けて戦うホンダが帰ってくる2019年のF1日本GP

 今シーズンのここまでのレッドブル・レーシング・ホンダの戦いを見ていると、マックス・フェルスタッペン選手は、開幕戦のオーストラリアGPで3位表彰台を獲得後、第2戦から第4戦まで4位、そして第5戦となる今回のスペインGPで再び3位表彰台を獲得と、フェラーリの2台と常に表彰台を争う戦いを見せており、フェラーリと真っ向勝負ができているというのは山本氏も述べている通り。実際に現地でさまざまな関係者に話を聞いても、サーキットの違いでレッドブルが前に出たり、フェラーリが前に出たりという状況になっている。特にシーズンオフのテストではフェラーリが圧倒的だったカタロニア・サーキットで、今回フェラーリを上まわれたことには大きな意味があるだろう。つまり、対他チームという観点では、メルセデスとの差はまだ縮まっていないが、レッドブル・ホンダの競争力が冬の間から大きく向上したということ意味しているからだ。

 その意味で、今後レッドブル・レーシング・ホンダがメルセデスと戦っていけるチームに成長できるかは、ホンダ側のアップデートもそうだし、レッドブル側の車体のアップデートもどんどん入っていき、それによりパフォーマンスを上げメルセデスとの差を縮める必要があると言える。今シーズンの序盤はレッドブルの車体側がややつまずいている印象で、チームの無線などを聞いていると、両ドライバーともコーナーでアンダーステアやスリップを訴えるなどしており、そのあたりをレッドブルがどう改善してくるのかにかかっているだろう。そして、これまでも何度か見てきたように(例えば2009年などが典型例だが)レッドブルはシーズン序盤に苦しんでいても、終盤戦までには空力のアップデートを繰り返して戦闘力をアップするのが通例だ。鈴鹿サーキットは終盤のレースになるだけに、そうした問題も解決されている可能性が高いのではないだろうか。

 正直、2015年にF1に復帰して以降、ホンダが本当の意味で勝負に参加している年はなかったため、応援しがいがないなぁと感じているファンも少なくなかったのではないだろうか。しかし、2019年はすでにフェラーリと互角かサーキットによっては上まわっており、今後のアップデートによってはメルセデスと本当の意味で勝負ができるようになってくる可能性は高いのではないだろうか。

 そのF1日本GPは、前述の通り10月11日~13日の3日間に鈴鹿サーキットで開催される予定。チケットは一部(パドッククラブ、VIPスイートなど)を除き大多数が5月19日から販売される予定になっている。販売開始時刻は10時からと11時からの2段階が予定されており、詳しくは鈴鹿サーキットのWebサイトでご確認いただきたい。

 最後に、山本氏が言う「レッドブルやトロロッソとも話あってさまざまな仕掛け」が何なのか、今の時点では分からないが、それがレッドブルやトロロッソによる「鈴鹿スペシャル空力」であれば、F1ファンにとってまたとない贈り物になる可能性が高いのではないだろうか。2019年10月には、ホンダが戦う「鈴鹿」が帰ってくる……。

スペインGPの表彰台。鈴鹿では右端ではなく、中央を狙ってほしいというのがファンの願いだ。それも決して不可能な目標ではなくなってきている