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クルマの安全はどう評価する? 世界の評価基準や取り組みを紹介

「2019 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」にて

2019年7月29日~30日 開催

世界に点在するNCAP団体は実際の車両にダミーを載せて衝突試験を行ない、その結果をレーティングを使った自動車安全評価として消費者に分かりやすく報告している。写真はラテンNCAPのプレゼンテーションのスライドより

 クルマの安全性を衝突実験を行なったうえで研究および検証し、その結果を星の数(スターレーティング)などを使って分かりやすく公表する団体がある。その1つがアメリカの「NCAP(New Car Assessment Programme)」だ。政府機関の米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が実施して公表している。ほかにもアメリカには米国道路安全保険協会(IIHS)が行なうものや、日本ではNASVA(自動車事故対策機構)が主体となって行なうJNCAP(Japan New Car Assessment Program)がある。

 このNCAPの活動などを解説する自動車安全評価関連のフォーラム「第6回 2019 NCAP&Car Safety Forum in Tokyo」が7月29日~30日に都内で開催された。初日は「NCAP」がテーマで、2日目はテーマを変えて「自動運転の現在と未来(Automated Driving Now and Future)」として行なわれた。本稿ではその初日の模様をお届けする。なお、今回はアメリカからの参加がなく、欧州とアジア、ラテンアメリカ地域、アフリカからの話題となっていた。

 近年、クルマの安全性は、周囲を認識して安全運転をサポートするアクティブセーフティや自動運転技術なども加わって急速に進化しており、安全評価の方法もそれに合わせてアップデートされている。フォーラムの参加者は自動車メーカーやサードパーティメーカーの担当者で、技術者や専門家向けの内容となっている。記事ではその要所をお伝えしよう。

 初日のゲストは、Global NCAP and Latin NCAP アレハンドロ・フラス(Alejandro Furas)氏、Euro NCAP アンドレ・ジーク(Andre Seeck)氏、China-NCAP CATARC グオ・ミャオ(Guo Miao)氏、ASEAN NCAP Director of MIROS カイリル・アンワル(Khairil Anwar)氏(登壇順)の4人。

インドとアフリカでのNCAP

Global NCAP and Latin NCAP アレハンドロ・フラス氏

 まず最初に、1月にグローバルNCAP 事務局長に就任したアレハンドロ・フラス氏が登壇。「Global NCAP Near Future(NCAPの世界規模での近未来)」と題して、最近力を入れている、インドとアフリカでのNCAPの活動状況と今後について解説した。

 まずはインドでの状況について。2014年~2018年にかけてタタ・モーターズ「ネクソン」が4スターから5スターになったことがメディアで話題になり、市場からも非常に早い反応があってインドの消費者に浸透していったことを説明。メディアで知った消費者からの声を受けて政府も尽力し、交通弱者保護の世界統一基準「GTR9」を含め、大きく前進しているとの報告があった。

 次に、2017年に南アフリカから始めたアフリカでの動向の報告があり、今後は課題も多いがアフリカ全土に広げたいと考えていること、どこが守られているのか、どの箇所のリスクが高いのかといった情報を、メディアも含めてしっかり示していきたいとしていた。また、アフリカ、インドにおいても「ESC(横滑り防止装置)」の装着、GTR9や「UN127」に準拠した交通弱者保護の対応が施された車種が増えつつあり、これから5年の間には今後衝突試験のスターレーティングの項目に含まれてくるとのことだ。今後はムービング・デフォーマブル・バリア(MDB。台車を動かして衝撃を吸収するアルミ製バリアに衝突させるもの)での試験をオプションではなく、標準化する動きもあるという。

 チャイルドシートの試験も重点的に行なっていて、同じ工場で作られた欧州向けと南アフリカ向けの製品でも、ISOFIXに基づいたチャイルドシートの固定金具が異なっていたり(南アフリカ向けはリタッチされていた)、固定で問題が出るケースがいくつかあったという。規格としては合っていても、実際には車両とチャイルドシートの接続がうまくいかないというケースもあり、グローバルNCAPではこういった問題も扱っていて、レギュレーションの見直しや、きちんと接続できるかの試験も行なっている。

 子供たちを守るために見逃していることがないかを確認し、互換性のチェックを行なっていきたい。メーカー側でテストを行ない推奨品となるチャイルドシートがあるのは理解しているが、互換性の部分を提言していくことも重要。継続した評価でチェックすることが大事だと認識しているが、これまで互換性はあまりチェックされてこなかったとのことだ。ほかにも、チャイルドシート認証ラベルが消費者にとって分かりやすい表示になっているかもチェックが必要とのことで、実際に消費者に誤解を与えやすいラベルについても紹介された。

 続けて、衝突事故を防ぐ衝突回避のプロモーションを積極的に行なっていることが報告され、2030年までに欧州での死亡事故を50%削減する「50by30」という活動を行なっていること、グローバルNCAPの会合を中国で2020年の10月22日~23日の日程で開催する予定になっていることなどが伝えられた。

 最後に、バスなどの大量輸送をする車両(M1、M2、M3)の安全性に関心が集まっていて、NCAPとしてバスなども安全性試験をしていけるようテスト方法を吟味していて、情報収集している段階になっているとのことだ。

インドではタタ ネクソンが4スターから5スターになった
南アフリカで2017年~2019年に行なわれたテストの車種と結果
南アフリカ製でベストセラーとなっている日産自動車のピックアップトラック「NP300」だが、2エアバッグにもかかわらず、成人でのテスト結果は無星
日産 NP300のオフセット前面衝突試験の様子
インドとアフリカのスターレート
ユーロNCAPと同じダミー人形を使用している
オフセット衝突試験の概要。4名乗車して64km/hで衝突させる
キア「ピカント」の衝突試験評価
キア ピカントで衝突試験を行なった際のチャイルドシートの動作。欧州向けと南アフリカ向けで結果が異なる
キア ピカントのチャイルドシート接続部を欧州向けと南アフリカ向けで比較
南米で発見されたラベル。米国安全基準のFMVSS 213適合ラベルにように見える(FMVSS 213適合ラベルは文章で書かれている)が、表示方法は欧州のECE R44.03の表示方法。消費者に間違った認識を与える例として紹介された。日本の国土交通省の基準マークは欧州に習ったタイプ
現在、バスなどの大量輸送に使われる車両の衝突試験を行なう準備を進めている

ユーロNCAPの成り立ちとレーティング方法

Euro NCAP アンドレ・ジーク(Andre Seeck)氏

 続いて登壇したEuro NCAP アンドレ・ジーク氏は、欧州のユーロNCAPに関して詳しい解説を行なった。なお「BASt」はドイツ運輸省の配下にあるドイツ連邦道路交通研究所だが、政府とは分離されて独立している。今回は第6回目のフォーラムだが、アンドレ・ジーク氏は6回すべてで登壇している。

 まずは、「Euro NCAP's Principles and Rating(ユーロNCAPの紹介とレーティング方法)」というテーマでユーロNCAPを紹介するセッションを行なった。

 ユーロNCAPは、まず第一に消費者のための機関だということ、そして自動車業界を刺激し、改善していくことが目的になっている。法的な規制は市場で売るための最低条件。NCAPによる消費者に向けた情報は、クルマの法的な要件となる型式認定とはまったく異なるアプローチで、スターレーティングや「よい、わるい」といった評価で分かりやすく見せている。

 始まりとなったのは英国で設立されたUK NCAPで、1997年にスウェーデンが加わることでユーロNCAPとなった。独立性を保った非営利団体で、産業界からの影響も受けないことが特徴となっている。評価結果の信頼性を重視していて、リードとセカンドと呼ばれる2人の検査員を配置している。

 試験を行なう団体では、パッシブ・セーフティ(衝突安全)の試験に中国の「CAERI」が加わる動きが最近あった。これは中国のクルマを欧州で販売するため、中国メーカーをサポートする目的もある。今後は中国でも試験ができるよう支援していくとのことだ。

 衝突試験とスターレーティングがどのようなものかイメージしにくいという人でも、以下の動画を見るとすぐに分かることだろう。2018年のクラス別で高評価のモデルが短く紹介されている。

Euro NCAP Best in Class Cars of 2018
壇上のアンドレ・ジーク氏
ユーロNCAPを構成する団体
アクティブ・セーフティ(予防安全)の試験団体と内容
パッシブ・セーフティ(衝突安全)の試験団体と内容。中国の試験団体が加わっている

 レーティングは、1番目に5段階のスターレーティングがあり、2番目に大人と子供の乗員、交通弱者保護、セーフティアシストの4項目に分けてパーセンテージで示すレーティングがある。ユーロNCAPのWebサイトにあるこれらの情報は、評価した各車の結果を簡単に比較できるようになっており、さらに3番目ではダミー各部位の詳細な安全性が確認できる。

5段階のスターと4項目のレーティングで各車を比較できる
モデル別の詳細情報を表示した状態
ダミーの各部位のより詳しい安全性情報も確認できる

 レーティングシステムは、大人、子供、交通弱者保護、セーフティアシストの4項目について、細かいテスト項目で採点している。例えば大人の乗員は、オフセット衝突やフルラップ前面衝突、ムービング・デフォーマブル・バリア(MDB)を使った側面衝突、ポールの側面衝突、むち打ち、自動緊急ブレーキ(AEB)の低速域といった項目でスコアを付ける。なお、交通弱者保護では、今後は自転車とオートバイも含めることを考えているそうだ。

 そこから、4項目の重要度に応じて重み付けをしたスターと、バランス評価で最も低いスターを決め、そこから2つを比較して低い方をスターレーティングとして決定する。計算結果に関しては、2013年まで四捨五入していたが、現在は切り捨て方式に変更されている。

 また、安全装備で標準装備とオプション装備を区別する「デュアルレーティング」を採用していることも特徴。とくに普及モデルではコストの関係で高価なセンサーなどを採用しにくい。だが、有料のオプションで追加できるモデルでは、ベースと有料セーフティパック装着時のスターレーティングを2種表示できるようにするというものだ。この場合、標準装備の状態で3スター以上でなければならない条件がある。

レーティングシステムは、大人、子供、交通弱者保護、セーフティアシストの4項目で採点
採点結果を4項目の重要度に応じて重み付けをする
バランス評価で最も低いスターを決める
重み付けをしたスターとバランス評価のスターで低い方をスターレーティングとする
2018~2019年のレーティングシステム全体。黄色が変更点
セーフティパック装着時のスターも表示するデュアルレーティングの例

ユーロNCAPの今後

 続けてジーク氏から、「Milestone of Euro NCAP's Roadmap 2025(ユーロNCAPの2025年までのロードマップ)」というテーマの解説があった。

 ロードマップを作るにあたっては、その課題を見直す必要がある。ドイツでは、アウトバーンがない地方の道路でクルマとオートバイの乗員による死亡事故が多い。また、道路使用弱者となる自転車や歩行者は市街地での事故が多い。これに対し、どういったことができるのか、どういったテクノロジーで対応できるかといったことを考えなければならない。また、アクティブ・セーフティなのかパッシブ・セーフティなのか、そして新たに「事故後の安全」という領域も出てきている。ほかには、レーティングとは関係ない部分で、経済性が優先されがちなトラックのための安全認証ラベルを作れないかという要望や、オートバイの課題、サイバーセキュリティも重要になってくる。自動運転も同様にレーティングとは異なる内容で、分けて考える必要がある。

2020年までのロードマップ(仮)
ドイツではどのような場所で運転中に死亡事故が多いかを示している図。上から市街地、地方のアウトバーンではない道路、アウトバーン。地方の道路が突出している
2020年までのロードマップ作成のタイムライン

 大人乗員の項目に関して2020年までに変更されるのが、「ODB(Offset Deformable Barrier)」が「MPDB(Mobile Progressive Deformable Barrier)」になること、助手席側からの衝撃とレスキューの項目が加わることがある。

 MPDBは、実際に事故に近い状況を作り出し、車両とバリアを取り付けた台車の双方を50km/hで動かし、50%オーバーラップさせて変形しやすいバリアに車両を衝突させるもの。ダミーは次世代型のTHORダミーを使う。そして、衝突時の重量、構造、硬さの3つの互換性を考えて評価に加えていく。

太字が大人乗員の評価で変更される項目
正面からの衝突試験のODBはMPDBに変更
MPDBで衝突試験を行なう衝突の瞬間。50%オーバーラップしている
MPDBによる衝突試験の衝突後。車両と台車の双方が動いている
次世代型のTHORダミーを使う
衝突試験では3つの互換性を考える必要がある

 側面衝突も前面衝突と同じく1400kgまで質量を上げて、こちらの速度は60km/hに設定している。助手席側からの衝撃ではシートベルトの構造上、衝撃で運転席側の人が助手席側に飛び出しやすい。また、2名乗車時にお互いの頭がぶつかることも多い。「O2O」と呼ばれるこの衝突をいかに防止できるようにしていくかが課題になる。

 また、救助の項目も新たに追加される。ここでは車種ごとに異なる事故時の救助要点(例えばEVでは、不用意にバッテリーに触れると危険)が書かれた「レスキューシート」と呼ばれている紙を用意することが求められ、これがないと2ポイント減点となり、他の項目も加点対象にならないなど必須の項目となる。レスキューシートはサンバイザーに収納されているケースが多い。このほか、事故後の電話連絡手段(eCall)、マルチコリジョン・ブレーキ・システム(MCB、事故発生時に対向車線にはみ出さないようにするシステム)があると加点される。

助手席側(左ハンドル車のため写真内左側)からの衝撃では、運転手が助手席側に飛び出しやすい
各ライン上にカメラを設置して計測
2名乗車時にはお互いの頭がぶつかることが多い
救助の項目も追加され、レスキューシートがほぼ必須となる
レスキューシートがない車両は減点のみで、まったく加点されない
マルチコリジョン・ブレーキ・システムの動作

 チャイルドシートでも運転席同様の速度と重量で衝突試験を行なう。側面衝突の速度が50km/hから60km/hに上がるが、これはエネルギー換算では55%もの増加となる。2022年には、子供のみが乗車していないかを検知して保護するシステム(COPD、Child Occupant Presence Detection)の有無が追加される予定になっている。

チャイルドシートでも同様にODBからMPDBに変更される
側面衝突の速度が50km/hから60km/hに上がる
子供のみが乗車していないかを検知し、保護するシステムがあると大きく加点されるようになる

 交通弱者保護の項目では、ダミーの足に使われるインパクターを2018年11月から日本製の製品に変更。アクティブ・セーフティを使った歩行者と自転車保護の最大点数がそれぞれ上がり、AEB(衝突被害軽減ブレーキ)の項目にはAES(緊急自動ステアリング)も加わって、2022年には右左折時に自車と同じ方向に進んでいるものに対する作動も追加となる。これは、曲がる方向に対して斜め後方から巻き込むような位置関係となるため、前方だけでなく新たに後方センサーを付けるなど、より広角に検知できるセンサーが必要となる。

 オートバイへの対応も行なうことになり、現在はフランスの「MUSEプロジェクト」からの提言が来ている状況。対応にはコーナーセンサーが必要となってくるという。

交通弱者保護でのテスト項目
ダミーのインパクターを日本製に変更
2022年には右左折した先で起きる動きに対するAEBの作動を追加
交差点でのアシスト
2022年には見通しのわるい丁字路から出る場合も想定する。この作動にはコーナーセンサーが必要
2022年にはオートバイへの対応も行なう

 セーフティアシストの項目では、交通弱者の試験と似た進化が想定される。AEBとAESは、追従するリアの車対車の試験が市街地や郊外を想定して行なわれ、-50%オフセットの時のみにAESでのステアリング回避が加わる。

 正面衝突でのAEBとAESでの危険回避は、現在はまだ技術的に完成していないが、2022年に加えられる予定としている。

セーフティアシストのテスト項目
追従するリアの車対車の試験が市街地や郊外を想定して行なわれる
見通しのわるい丁字路から出る場合も想定するのは、対オートバイのケースと同様
正面衝突の試験。エマージェンシー・レーン・キープ使用時
車線を逸脱している
自動では回避できずダミーに衝突した
正面衝突の試験。正面衝突向けのAEBとAESがある場合
ぶつかりそうになるが……
ステアリング操作のみでギリギリを回避した

中国、ラテンアメリカ地域、ASEANのNCAPも紹介

 ほかにも中国とASEAN、ラテンアメリカ地域で活動するNCAPの状況報告も行なわれた。中国に関しては「China NCAP's Roadmap 2019/2020 and Future」として、China-NCAP CATARC グオ・ミャオ氏が、2006年から始まったC-NCAPのプロモートにより、中国での安全装備の装着率が格段に上がっていることやロードマップなどを紹介。

 ラテンアメリカ地域については「Latin NCAP's Roadmap 2019/2020 and Future」として、先にも登壇したフラス氏が、ラテンNCAPはユーロNCAPに準拠しつつ整備され、活動により安全性も大きく向上していることを実例も交えて紹介した。

 ASEANは「The Vision of ASEAN NCAP Towards 2020」として、ASEAN NCAP Director of MIROS カイリル・アンワル氏が解説。ASEANではオートバイの利用が多く、その安全対策が急務との話題を含め、最も若いNCAPについて紹介した。

China-NCAP CATARC グオ・ミャオ氏
ASEAN NCAP Director of MIROS カイリル・アンワル氏
フォーラムの最後にはパネルディスカッションが行なわれた

 フォーラムの最後には、先に登壇したメンバーに加え、BASt Chief of Automated drivingのクラウス・パストル(Claus Pastor)氏と自動車事故対策機構(NASVA)企画部・自動車アセスメント部 部長 森内孝信氏も参加してパネルディスカッションが行なわれた。モデレーターは杉本富史氏。

 森内氏は日本の状況として「必ずしもユーロに準拠しているわけではなく、例えば衝突安全性能については、ユーロが50km/hに対し、日本ではレギュレーションとして50km/h、アセスメントでは55km/hで行なっています。予防安全性能に関してはユーロの方が先行していて、日本は導入に際して参考にしています。日本独自の状況として、高齢化が進み、ペダルの踏み間違いによる事故が発生しています。ペダル踏み間違いによる加速の抑制装置の評価を2018年度から開始しています。これはアクセル操作に対して(ブレーキが)オーバーライドするシステムになっていて、世界初になります」と発言した。

独立行政法人自動車事故対策機構 企画部・自動車アセスメント部 部長 森内孝信氏
BASt Chief of Automated driving クラウス・パストル氏