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ダンロップ、「水素添加ポリマー」でウェットグリップ低下を半減した「エナセーブ NEXT III」技術発表会
日本製紙、三菱ケミカルとの協業で完成。原材料分野でも環境性能を向上
2019年11月22日 14:53
- 2019年11月20日 開催
ダンロップ(住友ゴム工業)は11月20日、フラグシップ低燃費タイヤ、「エナセーブ NEXT III」の採用技術などを紹介する報道向け技術説明会を東京都内で開催した。当日はエナセーブ NEXT IIIに採用された技術のほか、技術的なロードマップも示された。
ダンロップ エナセーブ NEXT IIIはダンロップがフラグシップ低燃費タイヤとして位置付けるエナセーブ NEXTシリーズの最新作。転がり抵抗性能が「AAA」、ウェットグリップ性能が「a」と、どちらもタイヤラベリング制度の最優秀ランクを獲得したことが特徴。東京モーターショー 2019の会場で発表し、まもなくとなる12月1日に発売。タイヤサイズはトヨタ自動車「プリウス」などに適合する195/65R15の1サイズのみとなる。
ダンロップではクルマの電動化や自動運転化、シェアリングに対応すべく「Smart Tyre Concept(スマートタイヤコンセプト)」を掲げているが、エナセーブ NEXT IIIはそのコンセプトを初採用したタイヤでもある。
主な採用技術は「水素添加ポリマー」の採用で、走行距離を重ねることによるウェットグリップ性能の性能低下を半減している。また、バイオマス素材の「セルロースナノファイバー」をLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点からタイヤに採用した。
また、発表会ではスマートタイヤコンセプトの今後のロードマップも示され、2020年にLCA手法採用新素材によるコンセプトタイヤ、2023年に「アクティブトレッドコンセプトタイヤ」をそれぞれ発表し、その後に2020年代のどこかでスマートタイヤコンセプトの全技術を投入したタイヤが完成すると説明した。
企業や団体との協業で完成したエナセーブ NEXT III
説明会ではまず、住友ゴム工業 執行役員で材料開発本部長の村岡清繁氏があいさつに立ち、100年に1度の変革期でタイヤに求められる性能が変わるとし、スマートタイヤコンセプトはタイヤ開発、周辺サービス開発のコンセプトとして掲げていると説明した。
エナセーブ NEXT IIIにはスマートタイヤコンセプトのうち、性能持続技術とLCAを採用。計画よりも1年前倒しで発売できたとした。
また、自社で解決困難だった技術課題があったと明かし、「各方面の団体や企業さまと協業しながら、シミュレーション解析技術、素材開発や配合技術、最新のAI技術を組み合わせることで乗り越え、完成に至った」と、他社との協業によってエナセーブ NEXT IIIの完成にたどりついたことも強調した。
さまざまな要素を含んだスマートタイヤコンセプト
続いて材料開発本部 材料企画部長の上坂憲市氏がスマートタイヤコンセプトやエナセーブ NEXT IIIの採用技術、今後の展開を説明した。
スマートタイヤコンセプトはタイヤに求められる価値を再定義して、電動化、自動化、シェアリングに対応。中心となるコアテクノロジーは「Tyre Lifetime Simulation」と「ADVANCED 4D NANO DESIGN」で、さらにAI技術を用いたタイヤ解析のプラットフォーム「Tyre Leap AI Analysis」を加えている。
Tyre Leap AI Analysisでは、目視では判断が難しかったタイヤの変化を画像解析。新品タイヤと使用後タイヤの表面の変化から内部の構造変化を検出し、開発に役立てた。
エナセーブ NEXT IIIでは性能持続技術として水素添加ポリマーを採用
スマートタイヤコンセプトでは5つの方向性として「性能持続技術」「アクティブトレッド」「LCA」「エアレスタイヤ」「センシングコア」を挙げているが、エナセーブ NEXT IIIでは、そのうちの性能持続技術とLCAを盛り込んだ。
性能持続技術では、性能低下を引き起こす要因を物理的側面と科学的側面に分け、亀裂摩耗、経年変化、そして両方の側面を合わせた「メカノケミカル変化」によって引き起こされていると説明。亀裂摩耗のうち、シリカ界面での破壊を抑制した製品が2016年11月に登場したエナセーブ NEXT II、それに対してポリマー界面の破壊特性を抑えることを可能としているのが今回のエナセーブ NEXT IIIだとした。
経年変化に対しては、軟化剤の流出を防ぐ「液状ファルネセンゴム」の採用で対策。すでにファルネセンゴムはスタッドレスタイヤの「WINTER MAXX 02」に採用している。しかし、経年変化の対応では架橋の増加によるしなやかさの低下とポリマー分子の劣化も対策する必要がある。
さらに、物理的変化と科学的変化が同時に起きるメカノケミカル変化では、切れた分子が酸化して表面が硬くなることを説明。これに対しては分子の切れやすさ、酸化しやすさを抑える必要があると述べ、新たな素材開発に挑戦したという。
これらを解決するため、エナセーブ NEXT IIIでは従来とはまったく異なる素材の「水素添加ポリマー」を採用した。分子が切れにくい強い結合力を持ち、分子が切れた場合でも酸素と結合しにくく、切れても結合が戻ることが特徴で、ウェットグリップ性能を長期間維持できるとしている。
エナセーブ NEXT IIIとエナセーブ NEXT IIはどちらも最高ランクとなるAAA-aの低燃費とウェットグリップ性能だが、エナセーブ NEXT IIIではウェットグリップ性能の低下を半減するとしている。
低燃費車の普及で原材料分野での環境性能の向上が求められる
LCAでは商品のライフサイクル全体での環境負荷を評価。その低減を目指すことになるが、製品使用時の環境負荷はAAAグレードの低燃費性能で確立していることに加え、原材料の面でも環境負荷の低減を目指した。
温室効果ガスの排出量で見れば、製品使用時が多くを占めるためタイヤの低燃費性能が重要になるが、低燃費車が普及することにより、それ以外の環境負荷の低減も重要になっているという。
そのため、タイヤの材料としてバイオマス材料開発に取り組み、エナセーブ NEXT IIIでは国が重点産業として推進しているバイオマス素材のセルロースナノファイバーを採用した。セルロースナノファイバーをタイヤに採用するのは世界初としている。
性能が低下しないずっと安全なタイヤ、製品化はいつ?
さらに、今後のタイヤ開発の方向性としては、エナセーブ NEXT IIIにおいてタイヤの性能低下に対して「変化の抑制」という点を大幅に向上させたが、今後は「変化の修復」と「変化で向上」を実現することを目指すという。
また、LCAの「製造」と「リサイクル」において新素材を使ったコンセプトタイヤを2020年に発表、さらに2023年には「アクティブトレッド」のコンセントタイヤを発表するとしている。
実際の製品化や普及製品の登場について上坂氏は明言を避けたが、まずはエナセーブ NEXT IIIのようなスペシャルなタイヤを登場させ、普及品についてはその後になるという。また、従来のエナセーブ NEXT IIやエナセーブ NEXT IIIのタイヤサイズは1種類しかないが、これはタイヤが高価になっているため。それでも販売数が多くなればサイズ展開や普及品の登場につなげることができるとした。