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AIoTクラウド、既存のトラック車両などに簡単に導入できる温湿度管理ソリューションの提供開始

旭化成と協業し、本格的なサービス展開に向けた検証も

2021年1月8日 発表

温湿度管理ソリューションの提供を開始

既存のトラック車両などに簡単に導入できる温湿度管理ソリューション

 シャープの100%子会社であるAIoTクラウドは1月8日、テレマティクスサービス「LINC Biz mobility(リンクビズモビリティ)」において、新たに温湿度管理ソリューションの提供を開始すると発表した。既存のトラック車両などに簡単に導入できる点が特徴だ。

 2020年6月から義務化されている食品適正流通のための「HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)」への対応や、医薬品の適正流通を行なうための「GDP(Good Distribution Practices)」に対応するためのソリューションとしても注目を集めそうだ。また、旭化成との協業により、温湿度管理ソリューションを活用した保冷ボックス輸送中の温湿度データ取得と鮮度算出に関する本格的なサービス展開に向けた検証を進めていくことも発表した。

 LINC Biz mobilityは、2020年7月から提供を開始したテレマティクスサービスで、車両に搭載してデータ測位が可能な「GPSモジュール」と、ソラコムのSORACOM Air forセルラーを活用した「LTE通信サービス」、シャープのデータセンターを通じて提供する「端末管理クラウドサービス」を1つのパッケージで提供。車両の位置データや加速度データ、電圧データなどを収集し、それらのデータを可視化することができる。また、これらのデータを活用して、AIoTクラウドが開発した車両管理ソリューションなどを組み合わせて提案していくことになる。すでに、シャープの販売会社であるシャープマーケティングジャパンの営業車にLINC Biz mobilityを採用し、車両を管理している。

 今回発表した温湿度管理ソリューションは、LINC Biz mobilityで提供するGPSモジュールと、ティアンドデイの温湿度センサーの「おんどとり」を組み合わせて、収集した荷室の温湿度データをクラウドに送信。管理者やドライバーが常時モニタリングでき、異常などを検出できるほか、記録、保管、レポート作成などの機能も利用できる。

 具体的には、GPSモジュール端末とセンサー親機を運転席などに設置してUSBで接続。センサー子機を荷室に設置すればいい。センサー親機と子機は、特定小電力無線で接続するため、車体や荷室への穴あけ工事などが不要であり、既存の車両に後付けで設置することもできる。また、荷室内から発信される子機センサーのデータは、遮蔽物の影響が少なく受信できるため、荷室のセンサーを確認して、手作業でデータを記録するといった手間もなくなる。

株式会社AIoTクラウド クラウドソリューション事業推進部の松下剛士部長

 AIoTクラウド クラウドソリューション事業推進部の松下剛士部長は、「おんどとりを採用したのは、穴あけ工事が不要な特定小電力無線で接続できることで、これまでの導入実績をもとに高い信頼性があるのが理由。既存車両にも、安価で簡単に導入が可能になり、運転手は荷室を開けて温度計をチェックしなくても済むほか、自動でクラウドに記録し、プリセットの限界値を超えたら荷主や管理者に警告メールを発信する設定も可能になっている。また、温湿度計測値と車両走行位置の紐づけも可能であり、必要な報告書類のための数表をすぐに取り出せる。運転者の負担をかけず利用できる」という。

 また、センサー子機を保冷ボックスや配送用カート(カゴ車)ごとに設置すれば、それぞれの温湿度管理も可能になり、高価な専用冷蔵車両を導入することなく、それぞれに管理された環境での冷蔵輸送が可能になるほか、「小分けされた食品ごと」「出荷から売り場まで」といったように、細分化した温湿度管理も可能になり、別のトラックに積み替えて輸送する際も輸送全体の温湿度の状況をカバーできる。

 センサー子機はマイナス30℃~80℃までをカバーし、手軽に導入できる機種のほか、マイナス60℃~155℃にまで対応した保冷ボックス向け機種、生鮮食料品の鮮度管理に適した機種、マイナス25℃~70℃まで、湿度は0~99%RHまで対応可能な汎用性の高い機種の合計4機種を用意。用途に応じて選択できる。

車両の位置データや加速度データ、電圧データなどを収集し、それらのデータを可視化できる
温湿度管理ソリューションでは、LINC Biz mobilityで提供するGPSモジュールとティアンドデイの温湿度センサーの「おんどとり」を組み合わせる
温湿度管理ソリューションの特徴
既存の車両にも手軽に温湿度管理ソリューションを導入できる
温湿度の異常検出・レポート作成機能により、事業者のHACCP/GDP対応を支援
保冷車だけでなく、保冷ボックスや配送用カート(カゴ車)の温湿度管理にも対応
センサー親機
用途に応じて選べるセンサー子機

 さらにクラウドを利用していることから特別なシステム構築は不要であり、事業者が保有する既存の流通管理システムにデータを送信することもできる。上流から下流まで一貫した管理システムを構築したいコールドチェーン事業者にも適している。価格は、最小構成では初期費用が13万5000円~、月額2000円~を予定しているという。

パッケージ内容

旭化成との協業についても発表

 今回の温湿度管理ソリューションは、事業者のHACCP対応や、GDP対応を支援するものになる点も見逃せない。

 食品等事業者の衛生管理基準は、従来は都道府県などの条例で定められたものであったが、2020年6月からは食品衛生法施行規則による省令に則り、HACCPに基づく衛生管理が義務化。全国一律の衛生管理基準となっている。2021年6月からは完全施行されることなっており、それによって食品等事業者は原材料の入荷から、製品を消費者の手元に届けるまでの全工程において危害要因を把握し、除去、低減させることで製品の安全性を確保する必要がある。冷蔵食品や冷凍食品、生鮮食品などでは徹底した温湿度管理が求められ、輸送段階における温湿度の記録、保管が重要になる。

 今回の温湿度管理ソリューションによって、品質を確保するために管理すべき重要な指標である荷物の温湿度を事業者が設定した管理基準に従って監視し、異常を検出した場合には管理者に通知することができる。

 また、時系列で記録された位置情報や温湿度の推移を、表形式で簡単に出力することができ、トラック輸送など移動中の衛生管理のほか、流通事業者や食品事業者、運輸事業者、倉庫事業者なども対象にした管理が可能になる。

 AIoTクラウド クラウドソリューション事業推進部の松下剛士部長は、「食品等事業者は、2021年5月末までに積載貨物の温湿度の変化を見える化し、逸脱時の適正な対応が迅速にとれること、積載貨物の温湿度の変化を運行時間推移と連動させ、適正にレポート出力できることが求められている。温湿度管理ソリューションによって、こうした動きへの対応を支援できる」としている。

 さらに、厚生労働省が発出した医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインで定められている「保管条件が輸送中も維持されていること」「温度逸脱時に卸売販売業者等に報告すること」といった規定の順守も支援できるとしている。

 ターゲットとしているのは、食料品や医薬品の輸送、流通関係企業、温湿度管理を視野に入れた車両管理サービスの事業者などであり、とくに中小型車両や地域輸送を対象に提案をするという。

ターゲット企業と導入効果について

 日本自動車工業会によると、4t未満の業務用小型トラックやバンなどの車両は約770万台であり、このうち冷凍冷蔵対応している車両は1割強とみられることから、約100万台が市場対象になりそうだ。同社では、今後1年間に温湿度管理ソリューションで約5000台への導入を目指す。

「温湿度管理ソリューションにより、ドライバーを温湿度記録の手間や管理ストレスから解放できるほか、着荷までの時間短縮や効率アップ、食品や医薬品の輸送受託競争における優位性の確保につなげることができる」としている。

 一方、AIoTクラウドは旭化成との協業についても発表した。旭化成では、断熱や密閉性能に優れた保冷ボックス「Fresh Logiボックス」を用いたクラウド型生鮮品物流システム「Fresh Logiシステム」を提供。これらの実績を生かしながら、温湿度管理ソリューションを活用したさまざまな検証を進め、サービスの強化につなげるという。

 Fresh Logiシステムでは、輸送時や保管時のボックス内の温度、湿度、ガス組成などの情報をセンシングすることで、青果物の輸送、保管環境を可視化。さらに、旭化成のインフォマティクス技術を活用して青果物の鮮度の推定や予測も行なっているという。今回の協業をきっかけにして、両社の輸送関連ビジネス拡大にどうつながるかが注目される。

 なお、AIoTクラウドは、同じくシャープの100%子会社であり、PC事業などを行なうDynabookの100%子会社への移行が予定されている。