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ホンダ、2年連続の2輪総合優勝をふり返る「ダカールラリー 2021 オンライン取材会」
マシンの耐久力強化が連覇のポイント。期待を裏切らないよう3連覇を目指す!
2021年2月11日 10:00
- 2021年2月10日 開催
本田技研工業は2月10日、サウジアラビアで1月3日~15日(現地時間)に開催されたラリーレイド競技「ダカールラリー 2021」の2輪車部門で、ホンダのワークスチーム「Monster Energy Honda Team」が2連覇を達成したチャレンジについてふり返る「ダカールラリー 2021 オンライン取材会」を開催した。
ダカールラリーは1978年に初開催され、40年以上の歴史を持つラリーの国際大会。ホンダは2013年からHRC(ホンダ・レーシング)がチーム運営を担当して連続参戦しており、今大会には2020年に総合優勝を果たしたリッキー・ブラベック選手に加え、ホセ・イグナシオ・コルネホ選手、ケビン・ベナビデス選手、ジョアン・バレーダ選手の4人が、ラリー用プロトタイプマシン「CRF450 RALLY」を駆って全12ステージのラリーに挑んだ。
2021年度大会は13日間に渡り、サウジアラビア国内で総走行距離7649km、SS(スペシャルステージ)4767kmで競技を実施。この結果、第5ステージで優勝を飾り、その後も安定して上位をキープしたベナビデス選手が自身初のダカールラリー総合優勝を獲得。また、前年優勝者であり、今大会でもステージ優勝4回を記録したブラベック選手も総合2位となり、ホンダは1987年以来となる1-2フィニッシュを達成している。
取材会では、HRC レース運営室 オフロードブロックマネージャー 本田太一氏が出席。前半は司会者との一問一答形式で進められた。
ダカールラリー 2021の振り返り
――昨年の取材会で「連覇できる体制になった」と言っていましたが、見事な2連覇を達成しました。今の正直なお気持ちを聞かせてください。
HRC 本田氏:ダカールが終わって率直な感想としては非常にうれしいということにつきます。このコロナ禍でスポンサーの皆さま、HRCを応援してくださる皆さま、オールホンダでわれわれを支えてくれた皆さまに非常に感謝しております。来年もこのまま連覇できるよう頑張っていきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。
――今年のラリーの特徴として、前半のステージで、前日の1位、2位といったライダーが10位以下に落ちたり、次にはそんなライダーが上位に食い込んだりと乱高下の激しいラリーとなりましたが、チームを運営する立場としてどのように見ていましたか?
HRC 本田氏:今年は事前情報からもナビゲーションが非常に難しいだろうと、(手に入ったのは)ほんの少しの情報でしたが聞いていました。やはり始まってみたら、とくに難しいナビゲーションが続くラリーでした。そのなかで、ライダーの日々の順位を前年度のようには予想できない展開が続いて、そこでどのように上位争いをしていくのかで苦労しました。もちろん、ライダーが一番大変だったと思いますが、そんな日々が続いて、まったく気が抜けない長い2週間でしたね。
――画面にも表示しているように、かなり順位のグラフが乱高下するラリーになっていますね。とくにレストデイ(第6ステージと第7ステージ間に挟まれた休息期間)後にラリーが落ち着いたような感じですが、そこでライダーの習熟度が上がったりしているのでしょうか。
HRC 本田氏:ナビゲーションは終始難しかったと聞いています。最終的にマラソンステージ後に落ち着いたのは、前半に頑張っていたライダーが脱落して実力のあるライダーが残っていったのでそんな見え方になっていると思います。
――今年は全13ステージで10回のステージ優勝を果たしています。昨年は12ステージ中6ステージの優勝で、かなりステージ優勝が増えていますが、今年どのような変化があったのでしょうか。
HRC 本田氏:目標は「最終的に総合優勝する」というところだったので、日々のステージ優勝には正直なところあまりこだわっていなかったです。しかしながら、結果的にかなりのステージ優勝をすることで、他車に対するプレッシャーを掛けられた意味ではよかったのかなと思っています。
――とくに後半に入って、1-2-3という状態でステージ優勝も飾って、どの段階で優勝を意識したのでしょうか。
HRC 本田氏:いろいろな人から「早い段階でそんな風に思っていたんじゃないか」と言われるのですが、正直なところ、最終日のフィニッシュラインにマシンが来るまでまったく予想できなかったです。(下位との差が)数分差でしたので、完全にすぐ入れ替わってしまう差。今年は1回間違えるとロスが大きくて、そこが修正しきれないということもあったので、最終ステージのフィニッシュラインに来るまでまったく予想できなかったですね。
――後半はホンダライダーによる総合成績の1-2-3をキープした場面もあります。1986年以来の1-2-3フィニッシュは意識しましたか?
HRC 本田氏:途中からそんな風に「1986年以来だ」という話をしてくる人がやたらに出てきたんですね。ただ、やっている側は本当に意識していなくて、とにかく優勝ということで、1-2-3といったことはみんな考えずに集中していました。チーム内では1986年についてといった話はまったくなかったです。
――それでも今回は1987年以来となる1-2フィニッシュで、感慨深いものがあると思います。ライダーの意見でもいいですが、そんなラリーで最も難しかったステージはどこになりますか?
HRC 本田氏:今年で難しかったところだと、ステージ5、ステージ6、ステージ11の3ステージが難しかったと考えています。その難しさとは、ステージの距離が長いこともあるのですが、さまざまな路面があるなかで、砂がけっこう多いと聞いていたことと、ナビゲーションが非常にトリッキーだと聞いていたので、そのあたりをとくに注意していたステージでした。
ライダーについて
――まず、2020年までの5人体制から4人体制になりました。変更された理由について教えてください。
HRC 本田氏:体制についてはこれまで8年間やってきた実績などを総合的に判断した結果です。チームのクオリティをより高めたいということで今年は4人体制でやりましょうということになりました。
――その体制で見事に勝ちきられたわけですが、これまでの南米開催ではサテライトチームが参戦したこともありました。今回はワークスチームだけで、ホンダとしてのサポートに混乱はなかったですか?
HRC 本田氏:過去の成績とサポート体制をチェックして、上位を走るライダーを強化することが非常に重要だと考えたので、サポートライダーをつけるよりも(ワークスチームの)4人がちゃんと助け合えるチームワークを整えていく体制を作りました。
HRC 本田氏:ラリー中はトラブルが起きた選手に自分のパーツを提供するといったシーンがこれまでのダカールラリーでもありました。つまり、今年は4人で勝ちきるということだったんですね。
HRC 本田氏:そうですね。あと、ラリーの総合優勝でもトップからのタイム差が10分程度と、2週間あってもスプリントレース並みのタイム差になっています。そこで大きなミスをしてしまうと勝てないということがあるので、そこがとても気になっていました。そのほかにも、事前の通達ではラリー開催直前まで「自分のバイクは自分で直さなければいけない。他人を手伝ってはいけない。部品をもらってもいけない」というルールがありました。それで各個人を強化することが非常に重要になっていました。結果的にはマラソンステージでもいつもどおりになって、助け合いが許可されたのですが、そんな面もありました。
――そんな状況下でホンダライダーの1-2フィニッシュが実現されたんですね。ではまず、優勝したケビン・ベナビデス選手の特徴や優勝について教えてください。
HRC 本田氏:非常にバランスの取れた選手で、ナビゲーションもきれいですし、スピードもそこそこ持っています。一番優れているところはフィジカルですね。体力面がとくに優れた選手です。本人もそういった面が重要だと考えていて、日々しっかりとトレーニングしているライダーです。
――では、2位になった、昨年優勝のリッキー・ブラベック選手について教えてください。
HRC 本田氏:リッキーはスピードが非常にあるライダーです。かつ、ナビゲーションも強く、フィジカルも強い。バランスの取れた選手で、スピードはダカールラリーに出ているライダーでトップクラスに来るのではないかと考えるほど速いライダーです。去年も勝っていますし、勝ち方が分かっているという点でチームにとって心強い選手ですね。
――とくに後半の追い上げが見事でしたね。
HRC 本田氏:そうですね、非常に悔しがっていました。前半のちょっとしたミスが後半に影響してしまって、勝てるラリーを落としてしまったということで、本人は「来年は絶対に勝つ!」とすぐに切り替えていました。
――レース直後の写真でも2位に入って悔しそうな表情をしていました。
HRC 本田氏:全然笑っていなかったですね。(苦笑)
――続いては、チームの大黒柱と言いますか、ジョアン・バレーダ選手についての印象はどうでしょうか。
HRC 本田氏:ジョアンは経験が豊富で、ナビゲーション能力も非常に高い。さらにスピードではダカールでナンバーワンと言われています。そんな定評のとおり、これまでのステージ優勝も、多分最多なんじゃないですかね。(司会:26回です)はい、それぐらいスピードのある選手です。全体的にもっとバランスが取れてくればもっと勝っていてもおかしくない選手なのかなと思います。
――ホセ・イグナシオ・コルネホ選手はステージ9まで総合首位にいましたが、彼の印象はいかがでしょう。
HRC 本田氏:コルネホは26歳で一番の若手。ホンダでは4年目で走っていただいていて、毎年成績も向上しています。取り組みも非常に真面目な選手で、われわれが言ったことに対して真摯に対応してくれます。マシン作り、練習とすべてにおいて非常に真面目に取り組む選手です。
今回はステージ10で転倒してしまって、視界はクリアなところだったのですが、砂の下に石が埋まっていて、それを踏んで転倒してしまったんですね。それでもそのまま帰ってきたので元気なんだろうと思っていましたが、主催者側から「コルネホを確認しに来てくれ」と言われてフィニッシュラインのところに行ってみたら、まずマシンが大破していて、これで百数十kmを走ってきたのかと。普通なら止めちゃうところだと思うのですが、それでも諦めず、勝ちたいという気持ちを持ち続けてゴールまで来てくれたことに非常に感動しました。ケガはなかったのですが、大事を取って結果的にドクターストップでリタイアになりました。非常に取り組みがよくて、チームリーダーとのコミュニケーションも良好で、すごく信頼できる選手です。
――安定してきたことがうかがえる選手ですが、そのあたりが彼の躍進の理由ということでしょうか。
HRC 本田氏:ミスなくステージ10まで確実に走り切っていたということ。2位の選手に対して、ステージ6あたりから日々着実にギャップを広げていったということで、本当に惜しかったですね。
――バレーダ選手はステージ11で給油ポイントを見落とした件があって、ラリー中のコメントで以前の転倒の影響があったと書かれていましたが、それはどんな事情だったのでしょうか。
HRC 本田氏:われわれからは給油忘れとしか言えないですね。検査の結果でとくに異常もなかったですし、残念ながら給油ポイントを忘れてしまったという結果です。
――ライダーについて最後の質問ですが、誰を勝たせるといったチームオーダーはあったのでしょうか?
HRC 本田氏:チームオーダーはないです。なぜなら全員勝てるライダーであり、ステージ10までは4人とも非常にいいバランスでトップ6に入っていたことでラリーを進めやすいところもあって、誰が勝ってもおかしくない状況でした。
マシン「CRF450 RALLY」について
――2021年のイヤーモデルは昨年の優勝マシンからどのような変更があったのでしょうか。
HRC 本田氏:エンジンが壊れることが2年連続であったので、そこで問題が出ないようしっかり対策することをトッププライオリティとして進めました。それからレギュレーションに関連して、フロントスクリーンが前方に倒れるタイプにしなければならなかったことと、水タンクの廃止などいくつかルールができて、あとはタイヤが6本しか使えなくなったので、そのルールに対応するための合わせ込みです。エンジンのドライバビリティを高めるセッティングも集中してやりました。
――ダカールラリーを勝つマシン作りで一番重要になるポイントはどういったところでしょうか。
HRC 本田氏:マシン作りでは、やはり変えると問題が起きやすいので、変えるなら理論的に壊れないようにするもの作りが大切になると思っています。ラリーを開催する場所が変わって、昔のようにトップスピードが要求されることはなくなってきました。そこで、ライダーがより走りやすいよう、コントロールしやすいエンジン特性であったり、サスペンションもとくにリアクッションが跳ねにくいようにするといったことを中心にやりつつ、当然トッププライオリティは壊れちゃいけないというところだと思います。
――会場がサウジアラビアに移ってから、南米時代にあった“アンデス越え”のように標高の高いところを走ることもなくなって、環境の変化でライダーがマシンに求めるものも変わっているのでしょうか。
HRC 本田氏:われわれとしても、高地に行けば高地に合わせたセッティングをしていましたが、その必要はなくなりました。ただ、走る路面が複合的になって、最高速がエンデューロレースのように遅いセクションがいくつかあったり、岩だらけのところもあったりして、そういった面では非常に難しかったです。
――ラリー用の市販車を販売する計画はあるのでしょうか。
HRC 本田氏:昨年もそういった質問がありましたが、僕からはお答えできません。
チームの運営体制について
――昨年優勝して、今シーズンのチーム運営体制で変更点はありましたか?
HRC 本田氏:基本的にはありません。昨年も非常にいいリズムでラリーを終えることができましたので、そこは継続して、ライダーは5人から4人になっています。
――今年はコロナ禍で多くのスタッフが現地入りできなかったとも聞きます。厳しい大会になったと思いますが、現地の運営スタッフと日本側でどんなやり取りがあったのでしょうか。
HRC 本田氏:コロナ対応としては主催者側、サウジアラビアの公衆衛生局などと一緒にPCR検査をして、参加者から感染者を出さないために、感染していないメンバーで2週間しっかり行なうために、出発前から示されたプロトコルを守っていました。われわれのチームからも罹患者は1人も出なかったですし、非常にしっかりコントロールされていたと思います。
海外と日本でのやり取りでは、ほかのカテゴリーでも今はレース期間中にリモートで現地スタッフとやり取りをしていて、ダカールラリーでも可能な限りそうしています。ただ、ほかのカテゴリーとは違って田舎の方までいってラリーもするので、通信環境が非常にわるいこともあります。そうなると映像を残すこともできなくなりますし、動画ではなく写真にしたり、電話などを使って最低限できることはやったつもりです。
――現状の社会情勢で国際レースに挑む苦労はどんなものがありますか。
HRC 本田氏:この状況なので、PCR検査はマストで受けてレースに臨まなければいけないといったことも事前に把握していました。とくに苦にはなりませんでしたね。
2022年に向けての抱負
――2連覇を達成した大きな原動力はどんなものが挙げられますか?
HRC 本田氏:みんなが勝つことに集中していたということですね。途中で2人ライダーがリタイアして、見ていてなんか雲行きが怪しいんじゃないかと考えた人もいたかと思いますが、現場の雰囲気としては、2人いなくなったとしても絶対に勝つぞという気持ちが非常に強かったです。ライダーがいなくなってしまったメカニックもそれぞれ助け合ってコミュニケーションを取りながらチーム運営できていたので、みんなが高い集中力を維持して勝つことに執着していたことですね。
――よくマシン、ライダー、チーム運営の3つがそろって初めて勝利できるとも聞きますが、そのなかでもとくに今回の優勝でキモになったポイントを挙げるとしたらどこでしょうか。
HRC 本田氏:運営力は年々強くなっていると思いますが、これまでマシンの面でちょっと劣っていた。耐久性の部分なんですが、そこが改善されたのが勝利の大きなポイントなのかなと思います。
――今年のラリーで新たに見つかった課題などはありますでしょうか。
HRC 本田氏:マシンでは昨年に行なった対策で成果が出ています。大きなトラブルなく壊れていないんですよね。今、マシンがサウジアラビアから戻ってきている途中なので、戻ってきたら細かくすべてチェックして、来年に向けてどうしていくかを決めていきたいと思います。
ただ、結果的にはステージ10で転倒してリタイアし、ステージ11でもジョアンがリタイアしてしまった。これで完走率としては50%です。そこを来年は100%完走にして、かつ優勝するということを目標にしてやっていきたいです。
――来年のライダー4人の体制は決まっていますか?
HRC 本田氏:そこはこれから検討するところです。
――最後に、3連覇に向けた意気込みを聞かせてください。
HRC 本田氏:大変な状況でも応援してくれるスポンサーさまがいて、ファンの皆さまも応援してくれています。皆さんわれわれが勝てない時もずっと支えてくれていたので、来年も皆さんの期待を裏切らないよう、恥ずかしくない走りができるよう頑張りたいです。
質疑応答
後半にはオンラインで参加した記者との質疑応答が行なわれ、レギュレーションの変更点の詳細で、スクリーンの変更は転倒などのシーンでライダーが前方に投げ出された際、スクリーンがライダーの体に当たってもじゃまにならないよう可倒式にすることが新たに定められ、タイヤはこれまで使用本数に制限がなかったが、フロントタイヤはこれまでどおり無制限としつつ、リアタイヤはラリー期間全体で6本までに制限。チーム、ライダーともにタイヤの使い方をしっかりコントロールしてラリーを戦うよう改められたと説明された。
リアタイヤが6本までに制限されたことでマシンに変更が行なわれたかという質問には、「車両での変更はとくに行なっていません。われわれはタイヤが減った状態でどんな性能が出るのかについて耐久テストなどをしっかりやって把握しております。ライダーたちもそのあたりを把握しながら日々走っていたということで、きちんとコントロールできたと思います」と回答。
会場がサウジアラビアになってラリー内容がエンデューロ方向にシフトしたことでマシンに行なった変更点についての質問には、「これまでのペルーやアルゼンチンといった南米では、どちらかというとピークパワーを重視したセッティングでした。これがサウジアラビアにいってから、より中低速域に重きを置いて、あつかいにくいと岩場などを走りにくいので、ライダーに合わせた出力特性を細かくアジャストして今回の大会にも挑んでいます。車体では石が多いと情報で聞いていたので、サスペンションの作動性を向上させつつ限界性能を高めたセッティングを目指しました」と答えている。