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ホンダレーシング、2020年のMotoGPを総括 2021年は「3冠奪還が一番の目標」

マルケス選手の怪我の状況、飛躍を見せたMotoGP中上選手に対するサポートの中身とは

2021年1月8日 開催

株式会社ホンダレーシング 開発室 RC213V 20YM開発責任者の子安剛裕氏(左)と、同社取締役レース運営室長の桒田哲宏氏が2020年を振り返った

 ホンダレーシングは1月8日、オンラインで会見を開き、オートバイレースの最高峰MotoGPにおける同社の2020年シーズンの活動を振り返るとともに、2021年シーズンに向けた抱負を語った。上位争いに加わり、初のポールポジションを獲得するなど活躍した日本人ライダー中上貴晶選手に対する評価やマシンの仕様、さらにはシーズン開幕戦で転倒骨折し戦線離脱を余儀なくされたマルク・マルケス選手の現在の状況などを明かした。

マルケス選手離脱の影響は大きく「完敗のシーズン」に

2020年型のマシン「RC213V」(Repsol Honda Team)

 MotoGPクラスにおいてRepsol Honda TeamとLCR Hondaの2チーム、4ライダーの布陣で臨んだ2020年シーズンのホンダ。しかしながら、結果としては1つとして勝利を挙げられず、コンストラクターランキングも最下位から2番目の5位に沈んだ。ホンダにとって想定外だったのは、新型コロナウイルスの影響により無観客での開幕となった最初のレースで、2020年チャンピオンのマルク・マルケス選手(Repsol Honda Team)が転倒し、負傷したことだ。2戦目の練習走行こそ出走したものの、怪我が悪化したことでその後のレースをすべて欠場することになった。

 くしくも前年度のMoto2クラスでチャンピオンに輝き、MotoGPに昇格した弟アレックス・マルケス選手が同じRepsol Honda Teamに加わったタイミング。本当なら「同一チーム内での兄弟対決」が実現するはずだったが、それもほとんどかなわなかった。アレックス選手は2021年、中上選手のいるLCR Hondaから参戦することが決まっており、兄がチームに復帰できるかどうかもまだ定かではない。

 現場でマネジメントするホンダレーシングのレース運営室長である桒田氏は、発表会で「完敗のシーズンだった」と無念の思いをにじませた。その原因の1つは、2019年のウィンターテストの時期から「(ミシュランタイヤの)新しいリアタイヤへの適合に苦しんだ」ことだという。コロナ禍にあり、その改善に向けたテストが思うように進められず、加えてマルケス選手が早々に戦線を離脱したことで「マシンの性能を引き出すライダーがいなかった」ことが戦闘力不足につながっていたようだ。

中上選手は、エンジンは2019年型だが、車体はほとんど2020年型

 それでも、一筋の光明となっていたのがLCR Honda IDEMITSUの中上選手だ。頻繁に上位争いに加わるようになり、2度の4位入賞を果たしたうえに、11戦目には初のポールポジションを獲得した。表彰台には一歩届かなかったものの、MotoGP参戦3年目でいよいよ本来の実力を発揮し、今後の表彰台獲得、さらには優勝をも期待できる走りを見せた。

 このため、「ランキングで常に上位にいてくれた中上選手に、これまで以上にサポート、アップデートを行なっていった」と桒田氏。ただし、こうした「ランキング上位の選手に対してサポートを強めていく」ことは、チームとして当然のことであり、あくまでも従来と変わりのない通常の戦略であることを強調した。中上選手のマシンのエンジンは2019年型ではあるものの、シーズン途中に効果の高いパーツについては積極的に投入してきたため、エンジン以外の車体は「2020年型と考えていただいていい」とのこと。

2020年型のエンジンまわり。中上選手のマシンはこのエンジンが2019年型のままだった

 マルケス選手が離脱したことで、「マシンの性能をどうやって引き出してもらえるか」を考えた1年だった、と振り返った桒田氏だが、同選手の代役として「MotoGPの全ライダーのなかでも、一番距離を走ってくれたかもしれない」というステファン・ブラドル選手を中心にマシン開発を進めた。それにより、シーズン後半にはアレックス選手もMotoGPマシンに適応し、表彰台獲得につながるなど、マシンの熟成、タイヤへの適合などに一定の成果が得られたことをアピールした。

2020年型「RC213V」のコンセプトと、表面化した課題

 2020年型「RC213V」のマシン開発については、開発責任者である子安氏が解説した。2020年は同マシンの開発コンセプトを「動力性能をさらに向上させる」こととし、ウィリー抑制やダウンフォース増加に向けたウィングレットの開発も進めるなど、「エンジン、車体すべての領域で見直した」という。

 具体的には、エンジンについては出力向上と扱いやすさ、車体については「減速、加速時の車体の安定性、旋回性やトラクションの向上」を主眼に置き、フレーム、スイングアームなどの基本骨格の見直し、部品配置の変更、電子制御システムの改善を行なったとのこと。ただし新開発したウィングレットについては、ウィリー抑制やダウンフォースに効果があると認められたものの、旋回性に悪影響していることが開幕直前に判明した。最終的には2019年型に戻すことになり、そのまま2020年シーズンを戦うことになったという。

ウィングレットはプレシーズンテストで新型が投入されたが、旋回性に悪影響があり、2019年型に戻したという

 とはいえ、動力性能の面でも改善できたとは言いがたい状況だった。シーズン中、直線で抜き去られる場面が多く見られ、子安氏も「直線で(ライバルを)抜ける加速力、動力性能」が不足していたことを認めた。新しいリアタイヤへの適合に時間がかかったことが、思ったようなパフォーマンスを得られなかった理由だとも語り、桒田氏は「(動力性能には)他のコンペティターも大きく力を入れてきた。われわれももちろん向上しているが、彼らの向上幅が大きく、その差を埋められなかった」と明かす。

 また、ミシュランタイヤの新しいリアタイヤについて子安氏は、「われわれなりにどう理解していくかが大きな課題だった」とし、タイヤをどう使いこなし、いかに旨味を引き出せるか、トライアンドエラーを繰り返したという。そんななか、リアサスペンションの動きに着目して対応していったことで、中上選手のポールポジション獲得や、アレックス選手の表彰台獲得につながるような改善ができたのではないか、と述べた。

中上選手の分析能力の高さが安定した成績を残す結果に?

 2020年シーズン、安定して上位に食い込むようになった中上選手の成長ぶりには目を見張るものがあった。その要因について桒田氏は、同選手の分析能力の高さを指摘する。「マシンをどうやれば速く走らせられるか、われわれと一緒にデータを見ながら、こういうところが足りてないんじゃないか、こういうところはもっと何かできるんじゃないか」と考え抜いたうえで、「それをきちんと実現し、自分のものにして、マシンのいいところを引き出せるスキルを身につけた」と桒田氏は見ている。

 2019年のウィンターテストから「中上選手に合うマシンを用意をしていた」こと、シーズン途中にもマシンのアップデートを行なっていったこと、そうした「総合的なパッケージでパフォーマンスを上げられた」ところもあるだろうとしたが、「中上選手の伸びしろが大きかったのは事実だと思う」と断言。マシン開発においては、「マルケス選手に近い方向性(のコメント)だったりして、開発に対しても非常に有意義なフィードバックをしてくれた」と語った。

中上選手は2020年型のマシン開発にも貢献

 一方の子安氏も、中上選手の優れた部分として、ホンダのマシンや2020年型のパーツに対する理解レベルの高さや、感覚だけでなくデータも見ながら定量的に分析できるところを挙げる。しかも、それを自分の走りに適用しながら、開発にもフィードバックできるとし、「非常に優秀なライダー」であると評価した。

 11戦目に予選でポールポジションを獲得したものの、その本選となるレースではオープニングラップで転倒リタイアという屈辱も味わった中上選手。しかしながら桒田氏によれば「(中上選手にとって、その出来事から)学ぶところがすごくあり、レースでどうやって勝つかという戦略を考えるようになった」とのこと。それが「今年(のさらなる飛躍)にもつながっていく1つのポイントにもなったのではないか」とし、2021年シーズンはより大きな期待をかけているようだ。

3度の手術を受けたマルケス選手、2021年に復帰できるか

 開幕戦で負った怪我を押し、2戦目の練習走行で一度は復帰したマルケス選手だったが、すでに述べたようにその後のレースはすべて欠場となった。このときに無理をさせたチームの判断が、その後の長期離脱につながったのではないか、との疑問に対して桒田氏は、「それは結果論ということになる」としつつも、「ただ、当時はドクターの意見を含めて走行が可能ではないか、という判断になったので、まずは本当に走行できるのかを確認しようと。その点に関しては、そのときにできる限りのことをやった、と思っている」とコメントした。

 マルケス選手は2020年12月に3回目の手術を受けたばかり。それによって回復が早まるであろうことが分かったのはポジティブであるとも述べ、「今のところはまだ経過観察。この後もチェックしながら、われわれとしては、彼が(2月から始まる)ウィンターテストに帰ってきたときに、きちんといいマシンを提供できるようにしていく。マルケス選手の方もそれに向けてできることをやっている」と語った。

チャレンジャーとして2021年シーズンに挑む、と語った桒田氏と子安氏

 2021年シーズンも前年と同じく2チーム、4ライダーで挑むホンダ。マルケス選手の復帰が不透明なこともあり、試練の続く1年になりそうだが、桒田氏は「(ライダー、コンストラクター、チームのランキングの)3冠奪還が一番の目標。去年はホンダの強さを見せられなかったので、今年は、やっぱりホンダはこうなんだ(強いんだ)というのをファンの皆さんに感じていただけるようなレースをしながら、3冠奪取を目標にやっていきたい」と意気込みを見せた。

 子安氏は開発側の立場から、「去年の結果を真摯に受け止め、チャレンジャーの思いで、エンジンを含めたパワートレーン(2021年のレギュレーションで認められている吸気系や排気系)、車体系をしっかり見直していく。マルク・マルケス選手は間違いなくエースライダーだが、ワークスとサテライトで(扱いをはっきり分ける)、という考え方はホンダにはないので、4ライダーに対して、3冠を奪還できるマシンの開発を開幕に向けて進めていく」と述べた。