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ダイナミックマップ基盤、自動運転用の高精度3D地図データを2024年度には地方主要道路まで対応させる計画を発表
2021年4月8日 10:12
- 2021年4月7日 開催
2024年度までに今の約4.1倍となるカバー総距離13万kmを目指す
自動運転やADAS向けの高精度3次元地図データ(HDマップ)を制作し、自動車メーカーなどに供給しているダイナミックマップ基盤は4月7日に記者会見を開催し、2023年度よりも次世代の高精度3次元地図データの提供を開始する計画であることを明らかにした。
同社によれば、現在同社が自動車メーカーなどに提供している高精度3次元地図データは主に高速道路・自動車専用道路に関するデータが中心になっており、距離にして約3万2000kmをカバーするが、2023年度に導入が計画されている次世代の高精度3次元地図データはそれに加えて国道などを中心とした一般道路をカバーして約8万kmをカバーするデータになる。さらに2024年度主要地方道路を加えて約13万kmにとデータを増やしていく計画だ。
現在のレベル2の自動運転(ADAS)やレベル3の自動運転は高速道路でのシステム動作に限定されており、そうなっている理由の1つとしては、高精度3次元地図データが高速道路や自動車専用道路に限られていることがあげられる。しかし、ダイナミックマップ基盤が国道や地方主要道路などをカバーする高精度3次元地図データの提供を開始することで、自動車メーカーが高速道路だけでなく一般道でもレベル4やレベル5の自動運転を実現する技術的なバックボーンができ上がることになる。
自動車が自動運転するために参照する高精度な地図となるのが高精度3次元地図データ
ダイナミックマップ基盤は2016年6月に、内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に参画していた企業と、国内の自動車メーカー10社(いすゞ、スズキ、スバル、ダイハツ、トヨタ、ニッサン、日野、ホンダ、マツダ、三菱自動車)が共同出資して作られた企業となる。自動車や自動車向けの地図作成などに関わっているほとんどの企業が参加しており、日本政府のバックアップの元「オールジャパン体制」(同社)で高精度3次元地図データを作成し、自動車メーカーなどに販売するビジネスを行なっている。
現在のカーナビゲーションシステムにも地図データは含まれているし、Google Mapsのようなクラウドベースの地図サービスにも地図データは含まれているが、高精度3次元地図データはそうした従来型の地図データとは大きく意味合いが異なっている。というのも、そうしたカーナビの地図や地図サービスの地図は、基本的には2Dのデータ(位置の特定は緯度や経度などにより行なわれている)になっており、紙の地図がそのままデジタルになっているデータだと考えてほぼ間違いない。
それに対して高精度3次元地図データは、高さ方向のデータも含まれており、ダイナミックマップ基盤 代表取締役社長である稲畑廣行氏の「自動運転やデジタルインフラに適した3Dの地図で、機械が読むための地図となる、cm級の高精度を実現している」との言葉通り、非常に精密なデータを持つことで、自動車がレベル2以上の自動運転でドライバーをアシストしたり、レベル3以上の自動運転で自動車が自律的に運転をしたりという時にデータとして参照しながら自動運転を行なうためのデータとなる。
ダイナミックマップ基盤の稲畑氏によれば、同社は2019年の3月に高速道路と自動車専用道路の約3万kmの整備を完了し、2019年の9月には量産車両にそれが初めて採用されたという。さらに、2019年には米国の高精度3次元地図データを自動車メーカーなどに提供しているUshrを子会社化し、既に北米(米国+カナダ)で20万マイル以上の地図データを自動車メーカーなどに提供しているという。
稲畑氏はそうした高精度3次元地図データの製造過程に関して「レーザーレーダー、カメラなどのセンサーを搭載した車両を走らせて、3次元のセンチメーター級の点群データを作成していく、点群データから地物を抽出してHDマップを作成するという図化を行なう。そうして作成したHDマップを自動車に提供し、自動運転につかってもらう」と説明した。
そうして作成した高精度3次元地図データの必要性に関しては「自動車が自動運転を行なう時には、今どこを走っているのかを自動車自身が認識しなければならない。車両のセンサーだけを利用しての運転になると判断までの遅延があってギクシャクした運転になってしまうことがある。しかし、高精度3次元地図データがあれば、仮想上のリンクの上を走る事ができるので安全、安心が実現できる」と稲畑氏は述べ、高精度3次元地図データがあれば、より安全で安心な自動運転が実現できると強調した。
次世代の高精度3次元地図データでは主要な一般道路をカバーし、低価格化を実現して普及価格帯の車両にも搭載可能に
次いでダイナミックマップ基盤 取締役 副社長 吉村修一氏は、市場動向や今後の同社の製品計画などに関して説明した。同社の高精度3次元地図データが採用した最初の国内の量産車は、2019年の9月に発表された日産自動車の「スカイライン」で、スカイラインに搭載された「プロパイロット 2.0」だという。
そして2021年になってレベル3に対応した自動運転の機能「Honda SENSING Elite」を採用しているとして話題になった本田技研工業の「レジェンド」にも採用されていると述べた。吉村氏は「他にも採用されている例はあるが、現時点ではまだ発表できない車種に採用されている」と述べ、今後登場するような新車にも同社の高精度3次元地図データが採用されている可能性を示唆した。
その上で「2005年以降、国内では保有台数が増えているのに事故の件数は減っている。飲酒運転の厳罰化などの影響もあるが、アクティブセーフティーが実装されていっていることも影響していると考えられる。それでも国内では2020年で2839名の方が交通事故で命を亡くしており、世界では約135万人の方が亡くなっている。そうした社会課題を解決していく必要があると考えている」と吉村氏は述べ、同社の高精度3次元地図データやそれに基づくアクティブセーフティー機能を搭載した自動車が増えることで、痛ましい交通事故を減らしていきたいとした。
そして同社のロードマップについてふれ、2023年から同社が「次世代高精度3次元地図データ」と呼ぶ、新世代の地図を導入していくと明らかにした。吉村氏によれば同社の現行の製品は高速道路と自動車専用道路をカバーするが、次世代製品ではそれに加えて一般道の情報も格納していくという。
また、地物や属性情報に関しても一般道に合わせて拡張し、例えば「信号機」「路肩」「停止線」「車線中心線」という情報を含んでいるほか、歩道や路側帯などの走行禁止領域を常に把握することで交通事故の防止を実現していくという。また、ドライバーモニタリングで、ドライバーに緊急事態が起こったと車両が判断したときに、地図データから安全に停車できる場所を探して停車することが可能になり、追突の可能性がある車線上に停止するなどの事態を避けることができるとした。
その上で、次世代製品の特徴として吉村氏は「一般道路対応」「コストパフォーマンス」「グローバルフォーマット」という3つをあげた。吉村氏によれば「現在は約3万kmの高速道路・自動車専用道路をカバーしている。それが2023年度には一般道路を含み8万kmに、そしてそれが2024年度には13万kmに拡張される。一般道を含んだのは国内初の提供となり、高い安全性を提供する」と述べ、今後同社の次世代製品を採用すると、一般道でレベル4なりレベル5なりの車両側が完全にコントロールする自動運転が実現する基盤が整うと説明した。
そして「次世代製品では子会社のUshrの技術を導入して低コスト化を実現する。Ushrは独自の自動化ツールを持っており、それらを利用して低コスト化を実現している。それにより思い切った価格設定を行ない、よりプレミアムな価格帯の車両だけでなくよりメインストリームの価格帯にも採用できるようにする」と述べ、自動車メーカーへの提供価格を下げることでより広い車両への採用を促すと説明した。
また、現在は米国で事業を展開しているUshrとは地図やデータのフォーマットが違っているということだが、それを次世代地図では統一するという。それによりグローバルに事業を展開している自動車メーカーは、それぞれの地域向けに開発を分ける必要がなくなり、車両の開発期間を極小化できるとした。なお、同社は日本を、Ushrは米国をターゲットにしているが、それ以外の地域(例えば欧州など)に関しても今後ニーズを見極めながら検討していきたいと吉村氏は述べた。
米国子会社の技術などの導入により低コストでの地図製作を実現することで、低価格を実現していく
記者会見終了後には質疑応答が行なわれた、以下その模様になる。
Q:データの更新について、事故などの道路状況の変化に応じた情報の提供はあるのか?
データの更新はさまざまなルートから集めている。公的に道路を工事するとか分かっている情報もある。今後はさまざまなクルマのセンサーからの情報を得られるようにPOCを続けている、現段階では変わった状況があれば更新する。事故などはダイナミックな領域の話、地図に加えてセンサーなどでカバーすることになる。将来的には鮮度を上げた更新にトライしていきたい。
Q:データは膨大になっていくのか?
車両に対してどれくらいの分量をというと、実際には図化されたデータは限定されたデータになっている、自動車は少ない分量で判断することができそれでも提供サイドの問題としては無限に広がっていくデータをどう格納していくかは、日々考えているところだ。
Q:車側のデータはどれくらいか?
車両側のデータはさほど大きく無い、それこそメガバイト単位で済むようなデータでもっている。
Q:提供予定のデータは全体から見るとどれくらいなのか?
日本の道路は総延長130万㎞程度だと言われている、そのうち13万kmを整備するのが今回の計画だ。2023年度に8万kmというのは国道クラスをカバーする計画で、2024年度の13万kmというのは地方主要道路のレベルとなる。東京で言えば環七などがカバーされると考えて頂きたい。
Q:国がとったデータとはどう違っているのか? また競合はどこになるのか?
国がとったデータというのをどう考えるかだが、点群としては一致している。オールジャパンの立ち位置からしても、競争領域ではなく、国とか道路会社にどういうことを提供していくかが重要だと考えている。
競争環境は点群データなどをもとに、ベクトルデータに変えていく。自動車以外にも使うことを将来的には検討している。世界で見ると、我々以外にも作っているところはいる。しかし、この精度でこのカバレッジではいないと考えている。
Q:位置情報の特定はGPSでやっているのか? 最終的には一般道をすべてカバーするのか?
GPSで取得し補正している。今後はその手段を増やしていきたい。最終的にはさまざまな一般道までカバーできるようにしていきたい。
Q:価格はどうなるのか?
そのものズバリの価格は公開していないが、従来の価格に2桁分の減りということで準備を進めている。従来の自動車に搭載されていた地図は、自動車が使うのではなくドライバーがそれを参照しながら運転する地図だった。しかし、今後は自動車が制御のために使う地図ということになる。置き換えというキーワードで目指すプライシングを想像して頂きたい。
Q:一般道路をカバーするとなるとコストは増えないのか? また、MMS(地図データ作成のセンサー)搭載車は価格が高いと聞いているが、それを増やしたりすることでコストは増えるか?
一般道をカバーするからコストが増えるということではない。自動車の場合、ほとんどのパーツは物理的な素材などの原価がかかる。しかし我々のデータはコピーするだけで、搭載する台数が増えれば増えるほど低価格で提供できる。
MMSは確かに高いシステムだが、総コストから見ればMMSが占める割合はわずかだ。どちらかと言えば、オペレーターが運転するコスト、点群データからベクターデータに変換するコストが多い。そこで図化のコストを削減するために米国子会社の技術を導入し、それにより大胆な価格設定を行なっていく。
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