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ホンダF1最終年 山本雅史MD、「メルセデスと対等に戦って競り勝ち、ファンの記憶に残るシーズンに」
2021年4月15日 04:53
ホンダにとって2021年シーズンは、「第4期F1参戦」と後に呼ばれることになるであろうF1参戦最後のシーズンとなる。2021年シーズンをもってホンダはF1から撤退し、そのPU(パワーユニット)の知的財産権はレッドブルが新しく設立する企業に譲渡される予定になっており、パワーユニットのレギュレーションが凍結される2024年シーズンまでを戦うことになる。
ホンダF1の2021年シーズンは、初戦のバーレーンGPでレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手によるポールポジション獲得で始まった。決勝レースはメルセデスの絶対王者ルイス・ハミルトン選手との激しい戦いとなり、フェルスタッペン選手は残念ながら2位に終わった。
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開幕戦を終えて言えることは、今シーズンはメルセデスとレッドブル・ホンダが対等に勝負できる、そういうシーズンになりそうだ。F1は今週末にイタリアのイモラサーキットで「第2戦 エミリア・ロマーニャGP」を迎えることになるが、それに先立ちホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏にインタビューする機会を得た。ここにお届けする。
開幕戦を終え、ホンダパワーユニットへの欧州での評価は大きく変化。
──開幕戦を終えた感想を。
山本MD:マックスとルイスはちょっと異次元の世界で、2人でバトルを見せてくれたというのが感想だ。今シーズンは戦えるっていうことに、クリスチャン(クリスチャン・ホーナー氏、レッドブル・レーシング・チーム代表)も、フランツ(フランツ・トスト氏、アルファタウリ・チーム代表)も、ヘルムート(ヘルムート・マルコ氏)もみんな(ホンダに)感謝しているといってくれていた。
──海外のモータースポーツ専門媒体でも、アルファタウリのフランツ・トスト代表が「今年のアルファタウリの躍進の大部分はホンダのパワーユニットの進化のおかげ」と発言したことがニュースになっていた。
山本MD:私もそれは読んだが、その中でトスト氏は「70%がホンダのおかげだ」といっていただいている。もちろん自分たちから「そうでしょう」といえないが、浅木もいっていたように新骨格のパワーユニットはリアエンドの空力に大きく寄与している。今年はレギュレーションでフロアの後ろが100mm短くなっており、幅とかそういうとこにも影響している。
後ろは誰が見ても見た目で分かるぐらい絞り込めているのは事実だし、パワーユニットが新骨格になったことで彼らの空力にもいい影響がある。それに加えてエンジンパワーも上がっていて、相乗効果でフランツがちょっとリップサービスも含めて「70%はホンダのおかげだ」といってくれているのではないかと推測している。
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──以前に比べて欧州メディアのホンダを見る目も変わっているということか?
山本MD:もちろん変わってきている。今でもこんなにできているのになぜ止めてしまうんだといわれるし、もう1つにはアルファタウリが好調ということも影響していると思う。
レッドブル、メルセデスに次いで、マクラーレン、フェラーリときてアルファタウリという勢力図が欧州でも結構いわれており、フランツ(アルファタウリチーム代表)も確実にシリーズ5番手を狙っていくと私に断言していた。ホンダもチームの車体も総合的に成長していると見られている。
そしてもう1つは2000年生まれのルーキーである角田裕毅選手が、デビュー戦で9位、しかも子供のころから憧れていたフェルナンド・アロンソ選手、セバスチャン・ベッテル選手、キミ・ライコネン選手という元世界チャンピオンを何度もオーバーテイクしたということも含めてヨーロッパでは結構騒がれている。
ホンダのパワーユニットが進化し、チームの総合力も全体的に高くなり、最後に7年ぶりの日本人ドライバーである角田裕毅選手が活躍しそうだという兆しを開幕戦で見せてくれたことが大きな要因だと思う。
──その角田選手ですが、開幕戦の9位に本人は満足していないようだったが……。
山本MD:グリッドで彼と話したときに、角田選手が私の知る限りは初めて緊張してるっぽいように感じた。それぐらいF1というフィールドは全然世界が違うということを彼もいっている。スタッフの数もF2までなら数人だったのが、数十名という単位で違ってきていて、ドライバーに課せられた仕事量も多い。グリッドに並んでからもヘルメットを脱いでイベントセレモニーとかもあるのだが、その間にちょっと話しただけでも顔が若干緊張していたというのが正直なところで、初めてあんな顔を見た。
それでも、本人もしっかり完走してポイントゲットしようという思いでレースに臨んだようで、スタートでちょっと出遅れたのは慎重になりすぎて遅れたということを本人もコメントしていた。そこから挽回していくタイミング、そして戦略もミディアム、ハード、ハードでいくというややコンサバな戦略だった。その辺りも含めて本人的にはもっと行けたのではないかという意味でフラストレーションを感じていたようだ。
ただ、クルマのポテンシャルはまだまだ引き出せると本人が思っているので、まだまだ上を目指せると思いで言っているのだと思う。
レース後、彼はバーレーンに残り、自分はすぐ帰る予定だったのでメッセンジャーアプリで話をしたのだが、「最低限の仕事はきっちりやれたけど、悔しいレースだった。次はイモラで走り込んでいることも含めてもっと上位を目指していきたい」というように話をしていた。
──その角田選手を輩出したホンダの若手育成プログラムだが、ホンダが2021年末でF1から撤退したあとはどうなるのか?
山本MD:今後はホンダのモータースポーツ部が中心になって行なってくし、もちろん私もサポートしていく。鈴鹿サーキットとホンダがやっているSRS-FやSRS-Kなどのプログラムがベースになっていく。ホンダの育成はこのSRSが原点なので、そこからF1ドライバーを目指す子供たちの夢を現実にしていきたい。
確かに今シーズンをもってホンダとしてのF1活動は終了する。しかし、以前から申し上げているとおり、レッドブルとのパートナーシップは今後も継続していく。今シーズンからFIA F3(筆者注:F1直下のジュニアフォーミュラ、F1の下にF2、そのもう1つ下にF3という階層になっている。2019年に角田裕毅選手も参戦していたカテゴリ)に参戦する岩佐歩夢選手も、F3でしっかりがんばって結果を出してみなさんに認められれば角田選手のようなステップアップもホンダとしてもサポートしていきたいと思うし、レッドブルもそう言ってくれている。
今後もSRSをベースにして角田選手同様に世界に通じるドライバーが育ってくれるようにホンダとしてもしっかりサポートしていきたいし、岩佐選手も含めて角田選手に続けるドライバーがどんどん出てきてほしいと思っている。
──確かに角田選手を輩出した2016年のSRS-Fは、今振り返ればすごいメンバーがそろっていた。
山本MD:あの年のスカラシップで主席だったのは大湯都史樹選手(筆者注:現在はスーパーフォーミュラとSUPER GTに参戦中、2020年スーパーフォーミュラで1勝し、2021年シーズンは開幕戦で2位獲得と活躍)と笹原右京選手(筆者注:2020年シーズンからスーパーフォーミュラとSUPER GTに参戦中)で、3番目が角田選手だった。通常は上位の2人が翌年のFIA-F4(SUPER GTに併催して行なわれている若手の登竜門)のホンダチームで戦う権利を得る。
すでに報道などもあったのでご存じだと思うが、中嶋悟校長(当時)が角田選手は面白いから乗せてみようと動いて、ホンダがフルサポートの2台と一部サポートの2台という4台ある枠のうち、一部サポートの方に入れることにした。そうしたらその17年シーズンに3、4回優勝して大湯選手や笹原選手を上回ってしまい、その勢いで翌年FIA-F4のチャンピオンを獲得したのだ。そういった意味で彼はギリギリに強いと言える。
言い換えると土壇場に強いというか、最後は何かいい意味で自分で整理してレースに集中するという枠組みを彼が作ることができると考えている。例えば、自分とマルコさんで、最初のバーレーンで(スーパーライセンスが余裕で獲得できる)3位が確定したら、次のバーレーンではFP1を走らせようかという話をしていた。
しかし、ご存じのとおり最初のバーレーンでは上手くいかず、もう土壇場崖っぷちになって、本当の最終戦勝負になってしまった。そのためにF2に集中させた方がいいと思いFP1の話はやめたのだが、皆さんがご存じのとおりの結果を出した。その意味で崖っぷちに強い選手だなと改めて思った次第だ。
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最後のシーズンはF1ファンの「記憶」に残るシーズンにしたい、イモラでもいいレースができると山本氏
──以前の会見では第2期の16戦15勝のようなみんなの記憶に残るシーズンにしたいというお話があった。23戦22勝はまだ可能か?
山本MD:あの16戦15勝というのはそういう文脈ではない。第2期の16戦15勝というのはみんなの記憶に残っている、そういうレースを、そういうシーズンを送りたいという意味だ。今のF1でルイス・ハミルトン選手の牙城を簡単には崩せないので、レッドブルがさらにアップデートしていってよくなったとしても、今残りの22戦、全部で23戦あるわけですけど、23戦22勝とか20勝っていうのは、物理的に僕は不可能だと思っている。
ただ、16戦15勝と言ったのは、第2期のセナプロ時代の16戦15勝ってホンダパワーがすごかったよねっていうフレーズが出てくるように記憶に残ってると思う。そういった意味でみなさんの記憶に残るレースをしたいということだ。「2015年から2021年までホンダがF1で戦った最後の年は凄かったね」って言ってもらえるレースを1年通してやりたいと思っている。
──その意味ではこの開幕戦、ホンダは2位だったが記憶に残るレースをしたと思う。
山本MD:そのとおりだ。自分もレースを見ていて、本当これは2人がすごいレースをしている。もちろんマックスもそこにいくまでに結構タイヤを使ってしまっていたが、最後の最後でチャンピオンとあれだけのバトルをして一瞬だけでも前に行ったことは事実なので。その意味で今シーズンは非常に楽しみだと考えている。今週末のイモラも楽しみだし、残り22戦が楽しみだ。
──レッドブルにパワートレーンの知的所有権(IP)を渡すというスキームの大枠が発表されました。
山本MD:マクラーレン時代にもマクラーレンに学ばせてもらったことも沢山あったが、ホンダにとっては苦しい時代だったことは否定できない。そうしたときに当時トロロッソだったアルファタウリのフランツ・トスト代表が「ホンダはもっとやれるはずだ」というように声を掛けてくれて、その後レッドブルグループとお互いに信頼できる関係を作ることができた。
ホンダは今年でホンダのカンバンを降ろすが、それをIPとして彼らが使うことにホンダとしては複雑な思いが残るが、彼らやF1のためを思えばホンダとしては最善の判断だったと思う。そしてもし今シーズンにチャンピオンを獲ることができれば、次の3年間はレギュレーションが凍結ということになるので、それで彼らがしっかり戦うことができるという意味でいいスキームができそうだなと思っている。
ホンダとしては彼らが我々を信頼してくれたということに対して、偉そうに言うわけではないが恩返しをしたいという思いもある。彼らに対してリスペクトもある。もちろんF1という特殊なパワーユニットにはいろいろな技術が入っているが、これは彼らしか使えないし、ほかのチームに貸してということは基本的にはないので、その意味で技術が外に流出するということもないと考えている。ただ、現時点ではまだ決着はついていないので、最終的に早く着地したいと思っている。
──メルセデスとレッドブル・ホンダの勢力図をどう見ているか?
山本MD:現時点でパワーユニット単体で見ると、メルセデスとホンダは「行って来い」(つまり均衡している)だと思っている。バーレーンGPを見ると、電気的にフィードバックするところではホンダがちょっと優位に立てた部分もある。総合的に見るとトルクなどいろいろなところで比較すると凸凹があって、メルセデスと本当にいい勝負できるねと胸を張っていえる状況にある。
あとは、サーキットの特性によって差が出てくるのではないかと思っている。ロングホイールベースなメルセデスが優位なコースも今後出てくるし、その逆にレッドブルのハイレーキが優位なコースも出てくる。あとは両方が持っている空力特性によっても違いは出てくるだろう。
現在のF1チームでこの2チームのストラテジストによる戦略はずば抜けているので、最終的にはトト(トト・ウルフ氏、メルセデスF1チーム代表)とクリスチャン(クリスチャン・ホーナー氏、レッドブル・レーシング チーム代表)というトップ2人の戦略を含めての総合力で決まると考えている。バーレーンのレースを見る限りは本当に五分五分だったと思う。
──次戦のイモラではどういう所に注目して見てほしいか?
山本MD:昨年のレースを振り返ってみると、イモラではレッドブル・ホンダが優位になる可能性が高いと考えている。なぜかというと、昨年はマックスがバルテリ・ボッタス選手を抜くのに相当時間がかかっていたからだ。
インフィールドではマックスが速かったが、最終コーナーを立ち上がってDRSを使って1コーナーで並ぶというときに、昨年はホンダの方がデプロイ(バッテリーからのパワー)が先に切れてしまうので、電池切れで抜きたいけど抜けないという状況があった。今シーズンはHRD Sakuraが一生懸命開発してくれたので、ホンダはそこを挽回している。
去年のイモラはそこが反省点だったが、今年はそこがクリアになっている。イモラは、レッドブルもアルファタウリも沢山走り込んでいてデータもあるので、いつも以上に期待できるのではないかと思っている。
──角田選手やフェルスタッペン選手だけでなく、ペレス選手やガスリー選手もかなり期待できるシーズンだと思うが。
山本MD:今シーズンのラインアップは本当に楽しみだと感じている。いいドライバーであるアルボン選手には本当に申し訳ないが、今年の4人のドライバーは個性が強くて、しかもレース自体に強さがあるドライバーばかりだ。
例えば開幕戦でペレス選手が持っているなと思ったのは、あのフォーメーションラップで電源が切れて真っ暗になったのに、冷静にステアリングをリセットしていろいろ触って無線をつなげるようにしピットに戻ることができた。ピットスタートにはなったけどレースには参加できた。指示がないのにそういうことができるのが経験豊富でキャリアが長いドライバーということだ。そこから5位まで上がったのは素晴らしいと思った。すでに速さ的にはメルセデスとレッドブルという4台の中に彼は入っている訳で、今後も期待できると思っている。
ガスリー選手に関しては、リスタート時にマクラーレンのリカルド選手と接触してしまった。それが大きな誤算でそれがなければトスト代表も言っていたように4位か5位でゴールできていたはずだ。バーレーンのレースではそう考えればホンダ4台すべてがポイントゲットできる可能性があった、4人のドライバーラインアップはホンダ最終年にとっては最高だと思っている。
──鈴鹿の日本GPに向けて、まだ大分先ではあるが、どういう取り組みを行なっていくのか? また対メルセデスではどんなレースになりそうか?
山本MD:鈴鹿までには車体のアップデートも入るし、大分先のレースになる。もちろん我々も鈴鹿にはとても期待しているので、浅木や田辺ともいろいろ話していこうとは思っている。ただ、昔のセナプロ時代のように鈴鹿スペシャルなんてものは作れないので、1シーズンで3基しか使えないエンジンをどうローテーションしていくかなども含めてチームをと話をしていきたい。
あくまで自分個人の予想では歴史的に見てメルセデスが有利なサーキットだとは思っているが、すでに述べたように今年はホンダもデプロイが改善されており、どうなるか見ていきたいと思っている。五分五分でよいレースができるのではないかと思っている。
──残りのシーズンをどのように戦って行くか?
山本MD:サーキットによってレッドブルに有利なサーキットもあれば、メルセデスに有利なサーキットがある。その中で、レッドブルに有利なサーキットでどれだけちゃんと結果を残すかが大事だと考えている。
例えばモナコGPは今年開催される予定なので、そこではぜひマックスに勝たせたいという思いもある。そういったところで、クリスチャンともよく話をして、エンジニアからも話を聞きながらメリハリを付けて戦って行きたい。その意味では、パワーユニットの使い方も大事になるので、田辺や本橋ともよく話をしながら、行けるところはバランスよく使って勝ちに行くことも大事だと思う。
開幕戦ではよい結果が出たためチームの雰囲気がよいが、何かトラブルが出たときにモチベーションが下がらないようにするのも大事だ。チームを一体となっていい雰囲気を作るのも自分の仕事だと思っているので、そうしたことに注意しながらシーズンを進めていきたい。
Touchdown in Italy 😍 It is GOOD to be back 💚🤍❤️#ImolaGP#PoweredByHondapic.twitter.com/iMlW5WBAex
— Honda Racing F1 (@HondaRacingF1)April 14, 2021