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ホンダF1最終シーズン、山本雅史MDが新骨格パワーユニットについて語る リアウィングの「HONDA」ロゴはレッドブルとの信頼の証

ホンダF1 マネージングディレクター 山本雅史氏

 FIA F1世界選手権(以下、F1)は3月26日~28日、バーレーン国際サーキットにおいて2021年の開幕迎える予定だ。それに先立ち、3月12日から3日間は同サーキットにおいて公式テストが行なわれている。すでに、現地では午前中のセッションを終えており、アルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリー選手がトップと0.028秒差で2位、レッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手が0.042秒差で3位。ガスリー選手はほかの誰よりも多い74周の周回をこなすなど好調な滑り出しを見せている。午後(日本時間3月12日21時)から行なわれるセッションではアルファタウリ・ホンダからF1にデビューする角田裕毅選手も登場する予定。

 このテストに合わせる形で、ホンダ F1 マネージングディレクターの山本雅史氏が、オンライン共同会見を行なった。この中で山本MDは「レッドブル、アルファタウリのリアウィングの前後にHONDAのロゴが入っているのはレッドブルとホンダの良好な関係を象徴するものだ」と述べ、追加投資などはなく、レッドブル、アルファタウリの両チームがHONDAのロゴを入れてくれたことを明らかにした。

 また、ホンダが「新骨格」と呼んでいる新しい新パワーユニットに関しては「ICE(内燃機関)の燃焼効率を高めている、ほぼ完全に新設計と言ってよいが、まず信頼性を高め、それからパワーを上げていくアプローチで開発した」と述べ、新しいパワーユニットは、ほぼ新設計と言ってよいほど手が入ったものだと説明した。

リアウィング前後の「HONDA」ロゴは、レッドブルとホンダの信頼の証

──それでは冒頭に司会からいくつか質問する。1点目は冬の間に短い期間でどのような準備をして今回のテストに臨んでいるか? 2点目としてはホンダとしては最後のシーズンになるが、そこに賭ける思いなど抱負を語ってほしい。 3点目としてレッドブルから2022年以降にホンダの技術を利用したパワーユニットに関する発表があったが、ホンダとしてどのように関わっていくのか現時点で話せることを話してほしい。

山本MD:年末年始そして冬の間には、今年最後の年ということで一旦先送りしていた新骨格のパワーユニットの準備に明け暮れていた。

 新骨格にした以上、メルセデスに追い付け追い越せ、信頼性とパワーの両立を目指して開発してきた。

 昨年のようにメルセデスが、予想以上にパワーアップしてくることもあるけど、そういうことも考慮して最後の年として戦いきれるように、パワーも出てきているし、信頼性も、バーレーンテストや序盤で切り抜けられるように年末年始やってきた。

 2点目に関して、今シーズンはホンダとしては最後の年となる。第2期には16戦15勝を実現してみなさまにも語り継いでいただいているが、我々は第4期とは言っていないが、最後の年はすごかったねと言ってもらえるような記憶に残るシーズンにしたい。

 ドライバーも2人変わった。アルボン選手もいい選手だがペレス選手という力強いドライブをする選手が加わったことで、レッドブルがますますコンストラクター、ドライバーチャンピオンを含めて狙いやすくなった。

 アルファタウリは先ほどの走行でもガスリー選手がいい走りをしていたと思うが、角田選手が加わって7年ぶりの日本人ということで、4人のドライバーを世界に向けて盛り上げていきたいし、あとは角田選手の存在により大いに日本のモータースポーツ発展のために盛り上げていきたいと思っている。

 3点目に関しては、私がテストに参加することが遅れた理由の1つで、それに関するさまざまな調整を行なっていた。すでに発表があったとおり、レッドブルパワートレインズという会社を設立し、そこがホンダの知的財産を利用してパワーユニットを継続していくという方向性は決まっている。

 今詳細を詰めている段階で、まだ細かなことは決まっていないのでみなさまにお伝えすることができない。ただ、1つだけ言えるのはホンダとしては露出は今年一杯ということもあるので、レッドブルとも協力してホンダの露出を多くしていきたいと思っている。

 来年に向けては業務の引き継ぎもあるので、引き継ぎを今年から来年やりきれるまでしっかりやり、ホンダが前に出て行くことはなくレッドブル、アルファタウリのパワーユニットがうまく機能するように、できる限りの範囲で支援していきたいと協議をしている。

──今年のレッドブル、アルファタウリのマシンのリアウィングなどには大きな「HONDA」のロゴが入っている。昨年のマシンではなかったが、これが入った経緯について教えてほしい。

山本MD:なかなかね経緯が難しいのだが、実はもう去年の夏ぐらいからクリスチャン(クリスチャン・ホーナー氏、レッドブルのチーム代表)さんとか、フランツ(フランツ・トスト氏、アルファタウリのチーム代表)さんと個人的にサーキットで話していた。

 今年レッドブルにはそこのスペースが空いていた。そこで最後の年だからということで、4台ともに後ろから見たときに「HONDA」のロゴが見えるようにリアウィングの後ろだけという話だったのだけど、最終的には前側にも付けていただくことになった。

──ということは、ホンダの追加投資の必要はないという理解で正しいか?

山本MD:そのとおりだ。それは我々とレッドブル側の信頼関係で付けてもらった、そういうことだ理解してもらえるとうれしい。

 彼らも最後の年だから思いきりやりきりたいという思いがあると年末に言ってくれたので、前にも付けようとマルコ(ヘルムート・マルコ氏、レッドブルのアドバイザー)さんが言ってきてくれた。本当にマルコさんには感謝したい。その意味では2015年~17年にやっていたチームとは違う。

「新骨格」のパワーユニットは「ほぼ全部見直したと言ってよい」新しいパワーユニット、ICEの燃焼効率が向上し、エネルギー回生の効率が減らない工夫

Red Bull Racing RB16B Honda(C)Getty Images / Red Bull Content Pool

──パワーユニットは新骨格になったという表現があったが、新骨格の定義とはそもそも何か?

山本MD:MGU-Kについては大きく変えていない。しかし、MGU-HとICE(内燃機関)、特にICEの燃焼室の効率を高めてパワーアップを目指しているのが新骨格の定義となる。ICEではクランクケースとかシリンダーとかの作りの考え方から変えて、燃焼効率が向上しているのだ。

 MGU-HもICEとのバランスになるので(筆者注:ICEの燃焼効率を上げるとそのままではMGU-Hに回生するエネルギー量は減ることになる)、ICEのパワーを変えたことによりMGU-Hからもパワーを引き出すようなものとなっている。

 このため、新しいパワーユニットと言ってもおかしくないが、Sakura(HRD Sakura)では「新骨格」という表現を使っており、それを自分がどれだけ詳しく言っていいかは分からないが、材料から何から全部見直して作り方も変えていると聞いている。

 詳しいことは今後浅木(浅木泰昭氏、F1パワーユニット開発責任者)から説明があると思う。

──2021年用のパワーユニットは、2022年からレッドブルに渡すパワーユニットの前倒しということか?

山本MD:結果的にはそうなっているが、22年用に新骨格を投入しようと考えていたが、21年に昨年と同じ仕様で戦っても追いつけないだろうということで、ホンダ最終年としてはやりきって、それをレッドブルに渡したいというのが想いになる。

──ミルトンキーンズのホンダのファクトリーはレッドブルに譲渡されるのか?

山本MD:レッドブルには譲渡しない。年内を終えた後は閉鎖という形になる。片付けもあるので年内の業務を終えた後、来期中に整理して閉鎖という形になる。その後はレッドブルの敷地内に建てている建屋で業務を行なうことになる。

──日本人エンジニアがレッドブル側に移籍するということはあるのか?

山本MD:現時点ではない。ただ、ローカルスタッフはレッドブル側に移籍することはあるかもしれない、それは本人の選択次第だ。

──角田選手はこの公式テスト前にもテストするなどしていたが、その時のテストでの状況や、角田選手の登場により日本のモータースポーツをどう盛り上げていくか教えてほしい。

山本MD:角田選手に関してはフランツさん、マルコさんの計らいもあって、ホンダがパワーユニットを用意すればできるよということで、今までにはない開幕前のテストをしてもらえた。

 トストさんからは常に学んでいてフィードバックがいいと聞いている。テストの状況はメールなどでの報告を見ているが、今日からのテストで他のライバル達と一緒に走り始めてどうかということが大事になる。

 私が言うと角が立つかもしれないが、日本のモータースポーツに関してはレース村を大事にして、その中でメーカーがうまく立ち回って盛り上げて行きたい。その頂点にあるのがF1で、鈴鹿での日本GPも今年は多分開催されると思うし、角田選手が若い子に夢を与える存在になってほしいと思っている。

 その結果としては、我々が20代だったころのように、サーキットがお客さまで一杯という雰囲気を広げていけるように、ホンダとしても取り組んでいきたい。

──今シーズンに向けた準備をうかがっていると、パワーユニットの準備に関しては今までにないぐらい充実しているのでは?

山本MD:今後浅木からも話があるかもしれないが、パワーユニットの開発に関しては一旦やっていたのを止めて再開したのでタイムラグもあった。開幕前のフィルミングデーとこの3日間しっかりやりきって開幕に向けて準備できれば順調な滑り出しになると思う。

 ただ、競争なので他社も速くなってくる可能性がある。去年の反省は開幕3連戦でポイントを大量に取れなかったことで、今年はそれができるようにと思っている。

 今まで以上に攻めているのは事実で、パワーを上げて信頼性を上げるという相反する命題を同時に実現する必要がある。浅木はこれまでもやってきたが、信頼性を上げてからパワーを上げるというアプローチを得意としており、今回ICEの燃焼室でいいところを見つけたようでパワーも上がってきているので、あとは信頼性を開幕までに準備できるのかということが大事だ。

 いずれにせよ開幕してみないとどの程度のパフォーマンスでチームとして走れるかは分からないので、我々も楽しみにしている状況だ。

(C)Getty Images / Red Bull Content Pool